この記事は、映画「ミッドサマー」の細かな部分の解説・解読を試みる記事です。あくまでも独自解釈なので、製作者の意図とは違う場合も多々あろうと思います。ご了承ください。また、最後までネタバレしていますので映画を未見の方はご注意ください。

この映画のレビューはこちら。

この記事は「ネタバレ解説1」の続きです。

ホルガへ(第1日)

目覚めたダニーは、クリスチャンに「もう明日になった?」と尋ねます。

クリスチャンは流しちゃいますが、これは「もう私の誕生日になった?」という意味でもあるんですよね。クリスチャン、完全に忘れてます。

 

ペレに先導され、一行は森の中の道を歩いていきます。本道から逸れて、狭い道へ。一行を導くのは黄色い花の道です。

「ミッドサマー」と「オズの魔法使い」を関連づける説があります。アリ・アスター監督は本作を「おとぎ話である」という言い方もしています。

黄色い花の道は、「オズの魔法使い」の黄色いレンガ道のようです。ダニーとクリスチャン、ジョシュ、マークという4人は、ドロシーとライオン、ブリキの木こり、かかしの4人と対応しています。

ダニーを傷つけることを恐れて別れられず、でも真心を注ぐこともできないクリスチャンは勇気が欲しい臆病なライオンです。

論文のことしか頭になく、他人への思いやりに欠けるジョシュは、心が欲しいブリキの木こり

アホのマークは脳みそが欲しいかかしですね。最終的に、マークは本当にかかしにされちゃうことになります。

4人は竜巻のようなマジックマッシュルームで魔法の国ホルガへ飛ばされ、冒険を繰り広げることになるわけです。

 

太陽のゲートをくぐった先に、ホルガの村があります。広々とした緑と花の野原に、小さな木の建物が点在するだけの、村とも呼べないくらいの小さなコミューンです。

ホルガのシーンは、実際にはスウェーデンではなく、ハンガリーのブダペストの郊外で撮影されています。

ペレは「静かで雄大なホルガ!」と紹介します。

 

ペレが挨拶するオッドという男性は、ダニーたちを紹介され、「ペレは人を選ぶセンスがいい」と言います。

これ、普通の社交辞令の挨拶みたいだけど、後から考えれば別の意味が見えますね。祭りに使うのにうってつけの人物を選んできた…という意味が。

 

オッドは巨人ユミルをリスペクトすると言います。

ユミル(Yumir)は北欧神話に出てくる原初の巨人。世界創造の前に存在していた巨大で空虚な裂け目「ギンヌンガガプ」の中で、熱い空気と冷たい空気のぶつかり合いから誕生し、原初の牛「アウズンブラ」の乳を飲んで育ちます。ユミルの汗から、巨人族が誕生します。巨人族は神々と敵対し、やがて最終戦争ラグナロクに至ることになります。

アウズンブラの舐めた氷から最初の神ブーリが生まれ、ブーリが息子ボルを産み、ボルが更に息子オーディンを産みます。

オーディンはユミルを殺し、その死骸を使って天地を創造します。ユミルの死体は大地になり、血は海や川に、骨は石に、脳は雲に、頭蓋骨は天空になります。

ユミルはすなわち、最高神オーディンよりも先に存在する、世界そのものよりも先にある原初の存在だと言えます。

夏至祭の始まり

年輩の人々10人が円形のステージに円環を成して座り、皆がその前に集まってきます。

女性のリーダー、シヴ(Siv)が皆を代表して、夏至祭の始まりを宣言します。

シヴは、北欧神話に登場する雷神トールの妻の名前です。雷神トールはマーベルの「マイティ・ソー」でもおなじみですね。ソーはトールの英語読みです。

暑い夏で祭りにうってつけであること、前回の祭りから90年であること、祭りは9日間続くことなどが示され、そして乾杯が告げられます。乾杯を意味する「スコール」"Skål"は割と知られたスウェーデン語ですね。

円形のステージには黄色いラインが引かれ、ここも太陽を形取っています。

 

ホルガの儀式というのは要するに何か? 何の宗教か?なんですが、Wikiなどでは「ペイガニズム」という語が使われています。

ペイガニズムというのは多神教、自然崇拝など、要はキリスト教の価値観から見ての「異教」のことです。ある一つの宗教を指す言葉ではなく、キリスト教から見ての区分なので、侮蔑語としての側面もあるようです。

ホルガの人々が信仰するのは決してカルト的な新宗教や悪魔教ではなく、キリスト教が浸透する以前の土着的な北欧の信仰をもとにして、映画のために創造されたものです。巨人ユミルや神オーディンを初めとする数多くの神を崇め(多神教)、木々や水や炎などの自然を崇めます(自然崇拝)。

現代にもつながる北欧の様々な伝統に基づきながら、古代に行われていた残酷な生贄の儀式も取り入れたものになっています。

北欧神話について

ホルガの人々の信仰の中心になってくるのが、北欧神話です。

北欧神話では、世界は巨大なトネリコの木である世界樹ユグドラシルの中にあるとされています。ユグドラシルには9つの世界が含まれ、神々の世界アースガルドや巨人の世界ヨーツンヘイム、炎の世界、氷の世界、冥界、そして人間の世界ミッドガルドなどがあります。

 

北欧神話では、9という数字が意味のあるものとされています。上記のように、世界樹ユグドラシルの中にある世界の数は9つです。

神話の中で、オーディンは世界樹のトネリコに自らを吊るし、腹に槍を突き刺して、自分自身を生贄とすることで、知恵を授かります。この時に、オーディンはルーン文字を獲得します。

この時にオーディンが吊るされた日数が、9日間

また、古代スウェーデンの王は伝統的に、9年ごとにウプサラの神殿に生贄を捧げる儀式を行ったとされています。

その生贄の人数が、9人

 

シヴは大祭(greatest feast)は90年ぶりだと言っています。一方で、ペレはメイクイーンを選ぶダンスコンテストは毎年行われると言っていますし、72歳で死ぬ儀式も90年おきでは計算が合わないことになります。

ホルガでは、1年おきに通常の夏至祭が行われ、90年おきに大祭が行われるのだろうと思います。ただ、その違いがどの部分なのかは、レビューにも書いた通りやや不可解です。

ホルガのメイポールの意味

野原にはメイポール(夏至柱)が立てられています。

スウェーデンでは、現在も夏至祭が盛んです。毎年6月19日から26日の間の、夏至にもっとも近い土曜日とその前日が祝日になります。

町の広場に夏至柱を立てて、人々はその周りを手を繋いで踊り、踊り疲れると宴になって、ニシンやジャガイモやサーモンを食べます。

 

メイポールという呼び名は英語によるもので、メイクイーンやメイポールは本来はその名の通り、五月祭のアイテムを意味します。スウェーデンの夏至祭にはメイクイーンを決める風習はないようです。

五月祭はヨーロッパで広く行われるお祭りで、1年を暖期と寒期に分け、5月1日を暖期の始まる日とする古代ケルトの風習に基づいています。4月30日から5月1日にかけての夜が、魔女がサバトを開くと伝えられるヴァルプルギスの夜で、五月祭はそれにも関連しています。寒期の始まりに位置するのがハロウィンです。

また、北欧の五月祭は「オーディンがルーン文字の知識を得るために死んだことを記念する祭り」でもあります。だからこれも、北欧神話と関連が深いんですね。

北欧の五月はまだ寒く、花が少ないので、五月祭の内容自体が夏至祭に移行していったという側面もあるようです。

 

 

通常のものと違って、ホルガのメイポールにはルーン文字が記されています。

左の文字「ᚠ」は"f"で、”fehu"。財産と家畜を意味します。

右の「ᚱ」は"r"で、"raidō"。騎乗、乗り物、旅を意味します。

メイポールは男性器の象徴で、その周りを乙女たちがぐるぐる踊って回るお祭りは意味深ですが、ホルガのメイポールにはさらにそこに家畜と乗り物の属性が与えられてる。

ホルガにとって大事なものである家畜や乗り物を、高いところに祀る意味合いでしょうか。あるいは、ホルガに子種をもたらす男性は、女性にとっての家畜であり乗り物程度の価値しかない、というような意味だったりして。

後にダニーがダンスコンテストに優勝してメイクイーンになるのですが、でも本来であれば、優勝してメイクイーンに選ばれていたのはマヤだったんじゃないかという気がします。

メイポールの象徴性を思えば、優勝したマヤが子種を授かる儀式を経て次の赤ん坊を宿す…という形になるのが、儀式の流れとして自然であるように思えます。

 

そう考えると、ダニーが来たのはやはり、当初の予定にはない出来事だったんじゃないでしょうか。

ペレが誘い、ホルガに連れて行こうとしたのは当初、クリスチャン、マーク、ジョシュの男3人だけでした。ダニーを誘ったのはクリスチャンで、これはもともとはペレが画策したことではありません。

(ニューヨークでのパーティーのシーンで、ペレがダニーにスウェーデン行きについて「口をすべらせる」シーンはあります。そこを見ると、クリスチャンがダニーを誘わざるを得ないように仕向けたのはペレ、という見方もできます)

 

ダニーがいなければ、男たちの中からホルガに子種をもたらすものが選ばれ、その後に生贄となるという手順だったのでしょう。しかし、ダニーに個人的な執着を持つペレは彼女が儀式に参加することにこだわり、予定は変化していくことになりました。

愚か者の皮剥ぎ

ホルガの若者たちが、手を繋いで一列になって踊っています。その時演奏される音楽を、「愚か者の皮剥ぎ」(Skin The Fool)だとペレは説明します。

後に、冒頭の絵でも示された通り愚か者(Fool)であるマークが、その言葉通りに顔と下半身の皮を剥がれることになります。

 

マヤが、踊りのついでにクリスチャンを軽く蹴ってちょっかいを出していきます。最初から、マヤはクリスチャンを自分の相手だと決めていました。これはコミュニティによってあらかじめ決められていたことだったのでしょう。

 

ペレはダニーの誕生日プレゼントとして、彼女の絵を贈ります。これも、冒頭の絵にあった通りです。

イングマールとサイモン、コニー

コニーがダニーたちにいつから付き合っているか聞き、クリスチャンは「3年半」と答えます。

しかし、ダニーはすぐさま「4年と2週間」と訂正します。

 

クリスチャンがイングマールにサイモンらと知り合ったきっかけについて尋ね、イングマールは同じ農場で働いていたのだと答えます。

イングマールは「サイモンと会う前に、コニーとデートをしていた」と言いますが、コニーは「あれはデートじゃなかった」と否定します。

イングマールの勝手に先走って思い込むところは、ペレのダニーへの思いによく似ているようです。ホルガ出身の男たちの、世間ずれしたところでしょうか。

ペレがクリスチャンたちを(儀式のために)連れてきたのと同様に、イングマールもサイモンたちを連れてきたのでしょう。それは、大祭のための彼らの役割です。

 

イングマールが皆を宿舎へ連れて行く時に、サイモンが檻に入ったクマに興味を示しますが、イングマールは説明してくれません。

「クマは無視かい?」「ああ、クマだ」

このクマは最後の儀式に使われることになるわけですが、なんとこのクマのマスコットが公式なグッズとしてA24のショップで発売されています。

42ドル。残念ながら売り切れみたいです。なんか狂ってます。

 

最高に狂ってる”Bear in a Cage"のプロモーション・ビデオ。

ラブストーリー

イングマールが「ラブストーリー」であるという、一組のタペストリーが意味ありげに映し出されます。

金髪の少女が自分の陰毛を切って食べ物に混ぜ、経血を飲み物に混ぜて、それを男に食べさせると、男の目がぐるぐるとなって、二人は恋に落ちる…というヘタウマ漫画みたいなイラストストーリー。

これ、この後に出てくるマヤのクリスチャンへの企てそのままです。あらかじめ、しっかりと絵で説明してある親切さ。この開けっぴろげなところが、アリ・アスター監督の持ち味の一つなんですよね。

人生の4つの季節

宿舎に案内された一行は、その内装に描かれた無数の絵に驚きます。

ペレによれば、この宿舎で寝泊まりするのは若者だけです。36歳になると、「労働者の家」に移動することになります。

 

ペレは、ホルガの人生観について説明します。

ホルガの人々は、人生を季節のように考えています。

産まれてから18歳までは。子供時代です。

18歳から36歳は。巡礼に出る時代です。

36歳から54歳は。労働する時代です。

54歳から72歳は。人々の師になります。

72歳になったらどうするの?と聞いたダニーに、ペレは「首切りポーズ」で答えます。ダニーは冗談と受け取りましたが、これはまるっきりの真実だったことが後でわかります。

 

人生を季節に例えるのは中国の故事にありますね。青春、朱夏、白秋、玄冬というやつです。

 

ペレとイングマールは巡礼に出る年齢です。彼らが外国の大学に行っているのもあくまでも「巡礼」であって、二人ともホルガに帰属していることがわかります。

また、72歳の次の周回は(あるとしたら)90歳です。90年に1度というサイクルと符合します。72歳の死の後、18年間の死後の季節を経て、90年目に人は再生する…というような考えもあるのかもしれません。

 

「18年」の根拠ですが、9の倍数という以外に、サロス周期というのがあります。太陽と月と地球の相対位置が同じ配置になる周期が、18年と10日(もしくは11日)だそうです。

これは、ある日食から、次に同じような日食が起こるまでの周期。古代バビロニアで既に知られていました。

あとは…土星の衛星、その名も「ユミル」の直径が18km。関係ないかな…。

宿舎

宿舎の板壁には、無数の絵が描かれています。

「メイポールの周りを踊る女」「ナイフで手を切る男」「女たちが見守る前に性交する男女」など、この後の展開の中で出てくる絵もたくさん含まれています。

 

夜の子供達のお楽しみとして、「オースティン・パワーズ」の上映会があるようです。こういう世俗的なところもあるのが、ホルガの油断させるところなんですよね。

 

クリスチャンがダニーを呼び出し、ハッピーバースデーを歌ってケーキを贈ります。

ダニーはあんまり嬉しそうじゃないですね。「とりあえず、忘れてはなかっただろ!」とでも言うような、クリスチャンの取ってつけたようなプレゼント。ダニーじゃなくても、なんだかなあ…と感じてしまいます。

 

ペレは明日は大きなイベントがあると言い、それは「アッテストゥパン」だと言います。

北欧の歴史を勉強しているジョシュは、その言葉の意味を知っているので、驚きます。クリスチャンはさっさと自分だけグーグルで調べますが、その意味をダニーに教えてはくれません。

その内容をペレは説明しませんが、「怖い?」と聞いたダニーには微笑みます。

 

その3へ続きます!

 

「ミッドサマー」レビューはこちら。

「ミッドサマー」ネタバレ解説1はこちら。

「ミッドサマー」ネタバレ解説3はこちら。

「ミッドサマー」ネタバレ解説4はこちら。

「ミッドサマー」ネタバレ解説5はこちら。

「ミッドサマー」ネタバレ解説6はこちら。

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