映画「ヘレディタリー/継承」のレビューはこちら。

 

 

大判のA4サイズ「イット・カムズ・アット・ナイト」の2倍の大きさ。

その分ページは少なめで、24ページ。ただしオールカラーです。700円。

情報はまあまあ充実…してはいますが、いわゆる謎解き的な興味は薄いです。

というのはこの映画、映画を観終わった後で謎として残るものがほとんどないので、パンフレットの解説で補完する必要がほぼないんですよね。

だから、パンフレットとしての興味はやや薄め。でも、映画としては、追加情報が必要ないくらい、作品内できれいに完結しているとも言えます。

 

アリ・アスター監督のインタビュー。

本作は、監督自身の「家族を失った不幸とトラウマ」を構想の元にしているそうです。

ここは、「イット・カムズ・アット・ナイト」と似ていますね。トレイ・エドワード・シュルツ監督も、自身の父親の死を看取った経験から映画の着想を得ていました。

 

「不幸によって家族の絆が強まるという映画が近年は大半を占めており、それも嘘ではないと思いますが、不幸が起こりそこから立ち直れない人たちがいるのも真実です。私は後者についての映画を作りたいと思いました」

 

「そしてホラー・ジャンルにすることで、物語に悲惨さを加え、より多くの観客に観てもらえる可能性を得ることができます。何より、ホラーはカタルシスを必要とします。それがいかに恐ろしいものだったとしても、ホラー映画ではそれが喜びになりますから」

 

「私がこの映画を作っている時に意識していたのはマイク・リー監督ニコラス・ローグ監督です。映画で言えば『ローズマリーの赤ちゃん』『エクソシスト』は大好きな作品ですが、本作を作るにあたって特に意識はしませんでした。それから『サイコ』についても沢山考えていました。この映画の開始30分で起こる事件は、『サイコ』のシャワールームでのシーンに似ています」

 

プロダクション・ノートでは、本作の印象的な美術や音楽を支えたスタッフの名前が挙げられていて、注目すべき人たちなんじゃないかと思わされます。

ミニチュアの世界と現実世界を自在に行き来する、撮影監督のパヴェウ・ポゴジェルスキ

精巧なミニチュアを作り上げたスティーブ・ニューバーン

不安を掻き立てる音楽を担当した、アーケード・ファイアやボン・イヴェールとツアーをした経験もある「アヴァンギャルドなサックス奏者」のコリン・ステットソン

 

ここでも、監督の発言がいろいろと示唆的です。

「これは家族がテーマの映画です。自分の家族はどんなもので、何を受け継いでいるかなんて、自分では選ぶことができません」

自分が関与できない状況の中から生まれる恐怖について描いています。自分には何もできないと気づくことほど、気が動転することはないと思います」

 

(アニーについて)「彼女は現実の場所や自分が置かれた状況を完璧な小さなレプリカとしてミニチュアで作っています。それによって自分の人生や経験、そして記憶をコントロールしているような気分になっていたのです。でもそれは幻想でした」

 

シャワーを浴びるジャネット・リーを僕の解釈で描きたかったのです」

 

これは要するに、映画の中盤で訪れる意外な展開、ってことですよね。主役に近いと思っていた、主要な登場人物が突然死んでしまう。

チャーリーの事故死は確かに意外な展開でした。それまで、チャーリーがおばあさんの存在を思わせる異常性を発揮して、家族を脅かす…という展開になりそうに見えていたので。

ただ、思うのは、「サイコ」ではジャネット・リーの殺害を境に、物語は「解決編」に入るんですよね。

前半がホラー編。後半が解決編。

でも本作では、チャーリーの死による転調の後、あらためてその後の物語を始めから語り直す…という印象があります。それまでの流れと別の物語(ジョーンが登場し、チャーリーを降霊する方向へ…)が始まる。だから、少々まだるっこしいんですよね。

 

映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏のコラム。

タイトルは「突然変異の正統派ホラーの傑作、『ヘレディタリー/継承』が生まれた理由」

映画が正統派なのでコラムも正統派というか。なんか、非常に普通のことが書かれてるコラムになってます。

すごく怖くて、本格的で、それは「エクソシスト」「ローズマリーの赤ちゃん」「オーメン」などと同様に家族の中の恐怖と宗教的な恐怖を描いていて、だからホラー・クラシックに連なる作品になり得ている…ということ。

まあそうなんですけど。普通ですね。

 

小林真里氏による『ヘレディタリー/継承』完全解析

ここが、映画の謎解きページですが。それほどの新発見はないんですよね。

「タイトルの意味」「チャーリーが鳴らすクリッカー音」「なぜ父親ではいけないのか?」など、映画を観ていれば大方伝わることに思えます。

悪魔ペイモンに関しては、映画の終盤で急に語られるので、それがまとめてあるのは親切ではあります。

唯一意外に感じたのは、「ペイモンとチャーリー」の項目ですね。監督の発言によれば、「チャーリーが生まれた時から、ペイモンは彼女の中に存在した」そうです。

彼女の事故死は、ペイモンの魂をチャーリーの肉体から解放するためだったんですね。その上でアニーに儀式をさせてペイモンを降霊し、ピーターの肉体にあらためて憑依させる…。

あれ? なんかちょっとまどろっこしい気が。ペイモンが既にチャーリーの中に存在するのなら、チャーリーを生かしたままにしておいて、儀式か何かでピーターの肉体を奪えばいいような気がします。

ていうか、その方が映画としても盛り上がった気がするんだけどな…。悪魔ペイモンを宿した不気味な少女チャーリーが、家族をじわじわと追い詰めていき、やがて悪魔の正体を現してピーターの肉体を奪い取る…。

チャーリーを演じたミリー・シャピロの顔面力が素晴らしいだけに。そこはなんだかちょっと残念でした。

「サイコ的ビックリ展開」を入れることにこだわりすぎたのかな…。

 

このミリー・シャピロ。ブロードウェイのミュージカルで主演して、10歳でトニー賞を受賞したという天才少女です。

驚いたのは彼女は歌手でもあって、姉のアビゲイル・シャピロとともに多くのCDをリリースしているということ。なんかいろんな面ですごい人ですね。

 

シャピロ・シスターズのステージです。