Hereditary(2018 アメリカ)

監督/脚本:アリ・アスター

製作:ケヴィン・フレイクス、ラース・クヌードセン、バディ・パトリック

製作総指揮:トニ・コレット、ライアン・クレストン、ガブリエル・バーン、ジョナサン・ガードナー

音楽:コリン・ステットソン

撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ

編集:ジェニファー・レイム、ルシアン・ジョンストン

出演:トニ・コレット、アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ、ガブリエル・バーン、アン・ダウド

 

①直球ストレートのホラー映画

ここのところ、実験的なホラー映画、変化球のホラー映画を観る機会が増えていたように思います。

怪異を直接描かず、雰囲気だけにとどめていたり。ホラーの体裁をまといつつ、アート映画的な着地をしたり。

「単なるホラー映画じゃない」とか、「ホラーの枠組みにとどまらない」みたいなキャッチコピーをよく聞いたような。

 

そんな中で、これは久々に直球ストレートの王道ホラー映画でした!

「エクソシスト」「ローズマリーの赤ちゃん」の系譜を継ぐ、正統派のオカルト映画。

「怪異はナントカのメタファー」とかじゃなく、正真正銘の怪奇現象。幽霊、悪魔。

逆に新鮮でした。

 

ゆっくりと家族の日常を描いていく序盤から、ショックな出来事を経て、徐々に家族が狂気じみた空気に呑まれていく中盤。

そして、いよいよ超常現象が本格化して、どんどんボルテージを上げていく終盤へ。

じわじわ、少しずつ恐怖を盛り上げていく。いまどき珍しいゆったりした作りなので、冗長、退屈に感じる部分もあるかもしれません。

でも、終盤は本当に容赦がない。観るものの予想の斜め上を行く、壮絶な着地に至ります。

 

非常に丹念に、真面目に作られた映画だなーという印象を受けました。

新しさは感じなかったし、正直あまり上手だとも感じなかったのですが。

でも本当に最近では貴重な、ギャグやビックリ演出に逃げない正統派オカルト映画だったと思います。一見の価値ありです。

 

②不気味な一家を見下ろす冷徹な視点

森に囲まれた家に住む、アニーと夫のスティーブ、17歳の息子ピーターと、13歳の娘チャーリー

アニーの母エレンが死んで、家族はやっと葬儀を済ませたところです。アニーは母親と確執を抱え、長く疎遠な状態にありましたが、どこか喪失感を抱えていました。

エレンは生前、奇妙な儀式に固執していました。アニーは母をピーターには近づけませんでしたが、かわりにチャーリーを差し出し、チャーリーはおばあちゃん子に育ちます。

そんなある夜、ピーターが起こした自動車事故によりチャーリーが死んでしまいます。アニーは悲嘆に暮れ、ピーターとの仲も険悪に。

アニーはセラピー集会で出会った老婦人ジョーンから、死者を呼び寄せる降霊術を教えられます。降霊術を行い、チャーリーを呼び寄せたアニーですが、しかしやってきたのは最悪な存在でした…。

 

アニーはミニチュアハウスの作家であり、家にはあちこちに精巧なミニチュアハウスが置かれています。

ミニチュアの家を見下ろす、冷徹な視点。それが映画全体を見下ろす視点と重なっていく。まるで人形の世界を見下ろすように、冷たく突き放した視点が全体を支配しています。

「聖なる鹿殺し」を思い出しました。あれも、悲劇に見舞われていく家族を、高みから冷たく見下ろす視点が貫かれていました。

「聖なる鹿殺し」と同様、「ヘレディタリー」でも罪のない家族に次々と理不尽な不幸が襲いかかり、最悪の運命へと突っ走っていきます。それでも、なぜかあまり「かわいそう」とは感じないのもよく似ていて、人形の家を見下ろす冷めた視点が必要以上の感情移入を妨げているんですね。

 

一家の面々も、みんなどこかヘンな人たち揃いで、一歩引いた見方を促すところがあります。

普段から神経質そうで、中盤以降はどんどんヒステリーの度合いを高めていくアニー。

なんだかぬぼーっとして頼りないピーター。「ライ麦畑で出会ったら」のアレックス・ウルフが演じていますが、好青年だったそちらとはまったく違って、ひどい目にあってもあんまり同情する気になれない感じです。

その顔立ちがとにかく不気味で、ハサミで鳥の首チョンパしてもまるで違和感のないチャーリー。演じているミリー・シャピロちゃんの写真見るとかわいらしいんだけど、映画の中ではとにかく不気味です。

この3人の、三者三様の顔面力が結構強くて。ある意味、既にホラーになってるんですよね。

ガブリエル・バーン演じるスティーブだけが普通のおじさんって感じなんですが、この一家の中に巻き込まれてる時点でもうどうにもならない感じです。

③破滅に導く罠としての「家族」

最近のホラー映画の多くがそうであるように、本作も「家族の映画」です。

「クワイエット・プレイス」「イット・カムズ・アット・ナイト」もそうでしたね。これからやる「来る」も家族の物語であるはず。

家族という「守るべきもの」があることで、それが狙われ付け込まれる弱さにもなり、同時にまたそのために戦う強さにもなる。そういう点で、ホラーと相性がいいのでしょう。

 

本作における家族は、非常にネガティブな存在です。

この映画における家族は、その構成員を破滅させるための罠。本当に、それ以上の何者でもない。

死んだ祖母がすべてを計画して、自分の子孫たちをはめる周到な罠を用意しているんですね。これは怖いです。だって、逃げられない。

生まれついた家族からは、そう簡単には逃げられないですからね。生まれた時に既に罠の中にいるようなものです。

 

Hereditary。遺伝性の、遺伝的な。世襲の、親譲りの、代々の。

非常に恐ろしいものが、先代から次の世代へと引き継がれていく。あまりにも迷惑な遺産。

それに対して、アニー以下の世代が互いへの家族愛によって対抗していく…のかと思えば、そんなこともまったくない

チャーリーの件で家族の絆はガタガタになり、物語が進むほどに修復不能になっていきます。辛い出来事を、家族の愛で乗り越える…なんてことは起こらない。ただ互いに憎しみあい、助け合うこともなく、ずるずると罠に引き込まれていくしかない。

 

なんだかんだ言いつつも、最後には家族の絆が勝つ…勝たないまでも、家族の中には当たり前のように愛情がある…という物語が多いですよね。まあ、当たり前だと思うけど。

でも本作では、そんな甘さは微塵もない

 

家族をここまで絶望的な存在としてとらえた作品は、結構まれなんじゃないかと思えます。

徹底して家族を暗黒として描く作品。そういう点でも、見応えがあります。

④ホラーとしては明快すぎる…?

気になるところも、いくつか。

地道な日常描写を積み重ねていく、丁寧な描き方は好感が持てるところではあるんですが、さすがに少々冗長にすぎる…と感じてしまうところはありました。

アニーとジョーンの交流シーンとか、ジョーンがエレンに関連する人で、何か裏を持ってアニーに近づいている…ということは、結構早いうちにわかりますよね。

それでもただ淡々と描いていくので、観ていて少々もどかしく感じてしまいます。

 

前半の雰囲気、特にチャーリーが醸し出す不気味なムードがとても良かっただけに、彼女が退場して以降は…退場シーンそのものはショッキングではあったけど…ややパワーダウンしてしまった感もあって。

チャーリーのあの「顔」が画面から消えてしまったのは、誠に残念な気がしました。

もっと怖い幽霊になって、チャーリーが帰ってくることを期待して観ていたんだけど、そういう出方もあんまりなくて。

彼女はもっと、有効な使い方ができた気がするなあ。もったいないと感じました。

 

ヒステリックで終始やかましいアニーをはじめとして、登場人物にはあまり好感が持てない…感情移入がしにくいように作ってあるのは、わざとではあるとは思うんですが。

しかし、やっぱり観ていて少々うんざりさせられるところはあります。早くヒドい目にあえばいいのに…なんて意地悪な目線に、ならなくもない。

主人公に感情移入して観ていく視点にならないので、ドキドキハラハラのスリルはやや弱い…ですね。

 

あと、これは欠点と言っていいかどうか微妙ですが…なんだか、明快すぎるんですよね。

映画の中で起こることがすごく明快で、わかりにくいところが何もない。謎として残る部分、意味のよくわからない部分が、まったくない。

そういう意味では、解釈を楽しむような余地はないんですよね。一通りの解釈しかできない。

ラストにしても、すごく細かく説明してくれます。悪魔ペイモンがどうこういうところなんて、もうちょっと曖昧にしておいた方が、怖い雰囲気は出たんじゃなかとも思えます。

まあ、これは好みだと思いますが。僕はもう少し、謎が残って解釈を楽しめる作品の方が好きですね。

⑤とはいえ、終盤の怒涛の展開は大満足

と、いろいろ気になる部分はあったんですが。

でも、それも終盤の畳み掛けるような怪異の連続が満足過ぎるので、十分おつりが来る感じです。

ピーターが最後に残されて、とことんヒドい目にあっていく。アニーも大活躍します。それまでの静かな展開をひっくり返すような、怒涛の展開です。

ここはもう、書かないでおきます。ぜひ劇場でご確認ください。

ウィキペディアのあらすじとか、最後まで書かれちゃってるので要注意です!

 

 

 

 

 

 

「500ページの夢の束」アニー役のトニ・コレットの前作。

ライ麦畑で出会ったら ピーター役のアレックス・ウルフの前作。

 

 

アレックス・ウルフがドウェイン・ジョンソンに変身するオタク青年に扮します。

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