季節のない街 | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『季節のない街』(2024)テレビ東京系列(土曜0時42分〜/0406〜全10話)、Disney+配信(2023)

原作は山本周五郎の小説(1962)

1970年黒澤明によって映画化『どですかでん』

その他テレビ化、NET(テレビ朝日)1963年森繁久弥、西村晃で『たんばさん』、1963年フジテレビで多々良純、日高澄子、菅井きんで『季節のない街』。とのこと。

 

企画・脚本 宮藤官九郎(『GO』『ピンポン』『木更津キャッツアイ』シリーズ、『池袋ウエストゲートパーク』シリーズ、『タイガー&ドラゴン』『あまちゃん』『ごめんね青春』『土竜の唄』シリーズ、『ゆとりですがなにか』シリーズ、『いだてん』『俺の家の話』『不適切にもほどがある!』他)

監督 宮藤官九郎横浜聡子渡辺直樹

音楽 大友良英(『坊っちゃん』『きいろいゾウ』『タロウのバカ』『犬王』『花束みたいな恋をした』、『あまちゃん』『いだてん』『エルピス』『鈴木先生』シリーズ、他)

 

池松壮亮、濱田岳、仲野太賀、渡辺大知、佐津川愛美、鶴見慎吾、皆川猿時、坂井真紀、三浦透子、岩松了、片桐はいり、ベンガル、荒川良々、高橋メアリージュン、MEGUMI、LiLiCo、前田敦子、藤井隆、又吉直樹、大沢一菜、和田正弘、平原テツ、前野健太、広岡由里子、小田茜、YOUNG DAIS、小宮孝泰、塚地武雅、高松咲希、嶋田鉄太、戌井昭人、増子直純、日高ボブ美、伊勢志摩、橋本一郎、他。

 

大災害「ナニ」から12年後、いまだ仮設住宅の並ぶ「街」に半ば共同体で暮らす人々。月収12万円を超えると強制立ち退きになるので、みんなその枠を超えないよう生活している。そんな住民らの生活調査を三本木(鶴見慎吾)から請け負い、飼い猫トラ(擬人化トラ:皆川猿時)と移住してきた半助こと田中新助(池松壮亮)。同じく「ナニ」で家族を失い、無気力の半助だったが、仮設住宅に暮らす人々と触れあい調査報告を重ねるうちに情が芽生え考えに変化が出てくる。しかも自分が実はこの住民らを苦境に追いやる手助けをしていたことに気づく。だが、住民らも未来永劫現状維持ができるとは思っていなかった…。

 

①街へいく電車

「どですかでん」と電車の走る音を口ずさみ「街」を回る電車運転手のつもりの六ちゃん(濱田岳)。六ちゃんのお母さんクニ子(片桐はいり)はお惣菜屋「わんぱくデリカ」をやっている。六ちゃんは頭が足りないのだが、自身はクニ子の方が問題ありと思っている。そんな六ちゃんをみんなは意識することなく暖かく見守っている。六ちゃんの日常と起こる事件を中心にその他ざっくり住人の様子が描かれる。半助は早々に与田タツヤ(仲野太賀)と知り合い、青年部に誘われ、「街」によく出入りしているリカーショップのオカベ(三浦大知)とも親しくなる。

 

②親おもい

父親(前野健太)を「ナニ」で亡くしたタツヤ。母親しのぶ(坂井真紀)は優しいアキオさん(戌井昭人)と再婚するも、兄シンゴ(YOUNG DAIS)は生活に馴染めず出て行き、たまに帰ってきたかと思えば金の無心。妹アカネ(高松咲希)と弟リョウ(嶋田鉄太)ができてもシンゴばかり甘やかし借金が膨らむだけのしのぶに絶望するタツヤ。やがてアキオさんも出て行ってしまう。そんな家庭の事情、一緒にいるからこそわかりあえない気づかないこともあるという悲しさ、自分の視点が絶対であると信じ込む人の裁量の狭さが描かれる。その他ちょいちょいの癖のある住民紹介。

 

③半助と猫

半助が物書きになったいきさつ、実はナニの被災者で自分とトラだけが助かったことが語られる。「街」の中心にある校舎に吊るされてるのは漁師だった半助の父親の大漁旗。また、元から家のないホームレスは仮設に入れず「街」のすみに暮らしている、そんなホームレスの親(又吉直樹)子(大沢一菜)の実情と、トラとホームレスの子供との交流も描かれる。そして半助が三本木に報告書を送ったことでホームレス親子の住まいが撤去されてしまう。いつも将棋をしているたんばさん(ベンガル)の配慮で親子は廃車に住まうようになれたが…。住民感情と行政の相入れないところ。

 

④牧歌調

半助はマスオさん(益子直純)を通じて日雇いの仕事を得る。マスオさんハツさん(荒川良々)とは同僚、飲み仲間になる。ある日、マスオさんちの夫婦喧嘩をきっかけに、しかしふとした拍子に夫婦交換が起こる。マスオさんの嫁ミッチャン(高橋メアリージュン)のところへハツさんが帰り、ハツさんの嫁ヨッチャン(MEGUMI)のところにマスオさんが帰るというとんでもない事態に。でも、半助の計らいで、二人をもとに戻すことができた。他に、沢上家の家父良太郎(塚地武雅)には子供が五人いて、全員父親が違う。しかも子供らの父親はこの街の住人。嫁みさお(前田敦子)が昔ご当地アイドルべじっ娘のメンバーで慰問に訪れ、良太郎はボランティアで「街」に来ていたところ知り合ったのだった。まさに牧歌的な空気、家族愛が描かれる。

 

⑤僕のワイフ

半助の隣に越してきた島(藤井隆)は足に障害がある上、「ケケケフン」という疾患持ち(チック症)。詐欺師みたいなことを言う島にのせられてタツヤは島の会社「NO SEASON」で働くことに。実はカフェをやるのがタツヤの夢で、それが実現できそうなのだ。島には口の悪い態度も悪いワイフ(LiLiCo)がいるが、実は愛がいっぱい。表層しか舐めない他人にはわからない「人の真実」がそこにはあるということが描かれる。他にオカベがぞっこんのかつ子(三浦透子)の家庭事情。そして三本木と島が繋がっていることを知る半助…。

 

⑥プールのある家

ホームレス親子の夢の豪邸建築妄想と現実が描かれる。小難しい理想論ばかり講釈垂れる頭でっかちで世間と隔絶した社会不適合者の父親は、食あたりで子供=息子を死なせてしまう結果に。食べ物を調達してくるのはいつも息子だし基本的にお父さんの言うことは何でも肯定する息子がいなくなることで父親は困窮する。結局街を出て橋の下で野良犬相手に豪邸建築妄想を語りながら暮らし始める。人の生死の空虚さよ…。また、かつ子の叔父京太(岩松了)と叔母妙子(広岡由里子)との三人暮らしの家事情も。一方、タツヤのカフェの話も進んでいる中、シンゴが刺される事件が起きる。

 

⑦がんもどき前編

かつ子とオカベの話。がんもどきはかつ子の母親かなえ(小田茜)が久しぶりに会ったかつ子に対して放った印象。かつ子は母子家庭だったが、かなえが再婚して社長夫人となり出て行った。京太は屁理屈ばかり言う酒飲みで働かず、かつ子と妙子のマスク作りの内職とかなえの仕送りで三人は暮らしてる。妙子が3週間の入院となり、その間にかつ子は京太に性的虐待を受ける。一方、かつ子の誕生日プレゼントに洋服を贈りたいオカベは半助に買い物につきあってもらう。そこで半助は元カノ(佐津川愛美)と再会する。また、タツヤは親子喧嘩し、しのぶはアカネとリュウを連れて車椅子生活となるシンゴの退院に合わせて出て行ってしまう。

 

⑧がんもどき後編

半助の彼女は愛猫ビヨンセ(擬人化ビヨンセ:HARUKA)とよくやって来るようになったが、ひたすら愚痴とゲーム。二人は気が合うけど家族を亡くした半助が人生に前向きになれず別れてしまったのだった。でも、半助の変化に安心したのか彼女は現れなくなる。一方、京太の子の妊娠がわかったかつ子はなぜかオカベを刺してしまう。事件告訴こそしなかったが、性的虐待のことで警察に呼び出される京太は逃走の末、マスクの違法販売で捕まる。オカベが退院し、かつ子も拘留が解け戻ってくる。そこでオカベはなぜ刺したが聞き、(おそらく軽度知的障害で)不器用なかつ子の想い、オカベとかつ子の恋の成就が描かれる。また、タツヤのカフェ作りも具体的になっていく中、島の様子がおかしいことから、「街」の住民は復興住宅建設のため立ち退かされることを知る。

 

⑨たんばさん

たんばさんは何かにつけみんな話を聞いてもらいに来る、信頼のおける存在。ペットのハムスターが「わんぱくデリカ」の油に飛び込む自死で荒れる熊(奥野瑛太)をなだめ、泥棒(芹澤興人)にはこちらから金を渡す。そんなたんばさんに相談員の服部(伊勢志摩)が様子を見に来ている。六ちゃんはショベルカーの運転手になり(エアー)、オカベとかつ子はデートするようになる。半助が「街」へやって来た理由を知ることとなったタツヤは、いつの間にか自分も立ち退きプロジェクトに加担していた自責から、「街」を出ていくことを決め、自暴自棄になって勢い自殺を試みる。心配する半助には、半助が諜報員を辞めたから島が来て、自分が取り込まれることになったんだと嘆き、ここで半助とタツヤは本気でぶつかり合い友情が確固たるものになる。そうしてついに島たちが復興公営住宅への引越しを住民にすすめにくる。その一番に出て行くたんばさん。でも行き先はケアハウスだった…。

 

⑩とうちゃん

半助が来てから1年。「ナニ」から13年。本格的に立ち退きが進む中、月5万の復興住宅家賃が用意できない沢上家がごねる。みさおは新生児だけを連れて出ていくし、残された子供たちは離れ離れになるのが嫌で抵抗をする。血のつながった親子か、情と信頼でつながった親子か、が問われる。また、お別れ会でにぎやかに騒ぐ住民たちだったが、そのうち不平不満が爆発して喧嘩勃発、六ちゃんは本物のショベルカーを動かしたり、島の部屋が火事になるなどはちゃめちゃな展開になるも最後は大団円。

そうして各々新しい生活を始めた住民たちだったが、どこかですれ違っても暗黙のルールで声をかけない。ただ、半助とタツヤだけは大漁旗で繋がっていた…。

 

 

1話目を見た時、「ああ、やばいもの見ちゃった、怖い怖い」という感想が出た。これは深夜帯でないと放送できないんではないか。でもよくよく考えれば、大衆文学作家の作品が原作だ。それにあの黒澤明も映像化している。本当に近年は表現の制約が厳しくなったんだなぁと己の第一感想から思う。良くない。

 

キャストがとにかく個性的。全員が主役になれる構成がいっそう役者の魅力を引き出している。

印象に残ったのはやはり濱田岳の六ちゃんのキャラクター、藤井隆のチック症演技、LiLiCoのすっぴん、荒川良々と益子直純の酔っ払い演技(これは池松壮亮絶対素で笑ってた)、話は又吉と大沢一菜の親子の回、三浦透子の性虐待の回。

他に、「いいところだけどユートピアじゃないからね、まともな人間はみんな出ていくんだよ」という現実をつきつける島の台詞、かつ子が案外まともだったやられた感、母親の頭がよくなるようにお経を唱える六ちゃんの優しさ、半助の部屋に増えていく家電や雑貨は人の繋がりの証な点。

 

カテゴライズが起こす窮屈さ、ホームレスや外国人がすぐ住み着く問題、他人のことを独善の正義感からとやかくいいたい風潮、それに伴う批判、村社会の危うさなどヒシヒシと伝わってくる。

 

ラスト、半助が経験談を書いた小説を編集者(前原滉)に見てもらうのだけど、コンプライアンスで没るというシーンが入っていて、クドカン挑戦ありがとう、と思った。最高でした。

 

★★★★★

 

 

 

 

 

 


 

で、とても気になった作品だったので、今さらながら原作も読んでみた。

こちら山本周五郎「季節のない街」青空文庫で公開されています。

 

1960年前後というと、高度成長期に入ったあたりで、戦後の混乱も過ぎ、しかし貧富の差は居住区で仕切られていた…のかな(同和や部落問題もまだまだある時代)。それは現在でも変わりなくあることで、自然と住まう地域の色になってる。そんな、道や川を一本隔てるだけで住民のレベルが違うというのが見て取れる。

ドラマと違ってストーリーテラーがいるわけではなく、登場人物はもちろんドラマより多く、それだけに多彩で淡々と住民の日常生活がその人となりをもってして描かれていく。その居住区の人間だからとも思えるし、そうと限らず人間なんて多かれ少なかれこうしたもんだとも思える。

気づかなかったことも明確にされていて、六ちゃんが母親の頭がなおりますようにと祈願していた理由にはそこまでの気づきがなかった。クドカンはあえて明確化しなかったのだと思うけど。

かつ子の内外も具体的、ホームレス親子の描写もよりわかりやすい形に描かれていた。

タツヤの母親との親子関係はやはり切なかった。