『九十歳。何がめでたい』(2024)
原作は佐藤愛子のエッセイ。
監督 前田哲(『こんな夜更けにバナナかよ』『老後の資金がありません!』『水は海に向かって流れる』他)
脚本 大島里美(『サヨナラまでの30分』『漁港の肉子ちゃん』『水は海に向かって流れる』、『わたしに運命の恋なんてありえないと思ってた』『凪のお暇』『おカネの切れ目が恋のはじまり』他)
音楽 富貴晴美(『君が落とした青空』『こんな夜更けにバナナかよ』『そして、バトンは渡された』『総理の夫』『老後の資金がありません!』『不能犯』『今日のキラ君』他)
草笛光子、唐沢寿明、真矢ミキ、藤間爽子、木村多江、オダギリジョー、三谷幸喜、片岡千之助、中島瑠菜、石田ひかり、LiLiCo、清水ミチコ、他。
断筆宣言をした90歳の佐藤愛子(草笛光子)は日々だらだらと何をするわけでもなく過ごしていた。娘響子(真矢ミキ)と孫娘桃子(藤間爽子)と同居ではあったが、居住空間は一階と二階に分かれていて、一から十まで面倒をみてもらってるわけではない。孤独な毎日だった。
ある日、大手出版社に勤める吉川真也(唐沢寿明)はその古い体質が災いし異動が下り、後輩倉田(宮野真守)の下につくことになる。そこでたった一回のオファーが叶わず流れることになった若手編集水野(片岡千之助)の企画、「佐藤愛子のエッセイ連載」に魅力を感じ引き継ぐことに。吉川は持ち前の昭和魂で何度もしつこく通い、ようやくOKをもらう。90歳の佐藤愛子が何を見て何を考え思うのか、連載は人気を呼び、ついに単行本にまとまりベストセラーになる…。
エッセイ本「九十歳。何がめでたい」の出版を通して佐藤愛子自身の90歳の日常と、吉川の崩壊した家庭問題も並行して描かれる。
コメディながらほろっともさせる。
端役に三谷幸喜、オダギリジョー、石田ひかりという贅沢さ。キャスト陣が確かな人ばかりなので悪くなりようがない。これまで唐沢寿明の演技に魅力を感じたことがなかったのだが、渋みも出てきたこともあってか、初めて良いと思えた。テレビドラマと映画とでは演技が違って見えた…という感じ。
おおかたの人が経験するであろう加齢による支障。わがままに好きなことを押し通せばいいのよと言う。若い人から見たら「老害」でしかないことも、実は当人にとっては残りの人生いかに生きるかQOLに関わる大切なものであるということ。おそらくその歳にならないと理解できないだろう。
エンディングロールでは佐藤愛子本人のスナップショットが流れる。年賀状のコスプレは事実かと笑えた(原作未読)。面白がる気持ちが人を人生を周りを豊かにするのだなと思った。
観客の年齢層がびっくりするほど高かった。ほぼ後期高齢者。そういう年齢の方たちが佐藤愛子の著書を読み、草笛光子を観に、映画館までやって来る、これだけでずいぶん高齢者の意気が上がっていると感じる。
幹がしっかりあり、頭とお尻のまとめ上げもきれいで良かった。
★★★
制作 スタジオブルー
配給 松竹