オトナの時計

今秋に発表された新作は、ラグジュアリー・スポーツも目立ちましたが、一方で大人びた渋いモデルも出てきました。

機械式時計の大口顧客である新興富裕層の志向が分かりやすいモデルから玄人好みのモデルへとシフトしているのでしょうか。

The Longines Heritage Classic / LONGINES 

RefL2.828.4.73.0
ケース径:38.5mm
ケース厚:10.0mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:カーフレザー
バックル:ピンバックル
防水性:3気圧(30m)
価格:253,000円(税抜)

まずはロンジンです。今回もロンジンはヘリテージ・コレクションから素晴らしい作品を送り出してきましたね。

このデザインは時計好きなら一度は目にしたことがあると思いますが、1930年代に流行したセクターダイアルと呼ばれるスタイルです。

12、3、6、9のアラビアン・インデックスに、円と放射状のラインを組み合わせた、シンプル&クリーンなデザインは、その成立年代からも分かる通り、アール・デコを代表する意匠です。

かつて一斉を風靡した事もあり、セクターダイアル・デザインを採用する(したことのある)ブランドはかなり多いです。

現行ではジャガールクルト(JLC)マスターコントロールが代表例ですが、パテック・フィリップにもかつてセクターダイアルのモデルは存在しました。

このヘリテージ・クラシックもやはりロンジンが1934年に発表したモデルの現代解釈版という位置付けになります。


シンプルですが、コントラストが効いたメリハリのあるデザインです。針も細くスタイリッシュなので、印象としてはレトロというよりスマートです。

何よりノンデイトというのが個人的なポイントです。デイト不要論者Minority’s Choice としてはコレは結構嬉しい。

落ち着いたデザインに加えて、サイズも適切なのもこのモデルの良いところです。38.5 x 10.0mmというのは取り回しに優れた大きさですし、シャツの袖口にも難なく収まります。

本音を言えば、オリジナと同じく36mm径であればなお良しだったのですが、近年のデカ厚ブームから徐々にゆり戻しが来ているのは良い兆候です。

ケースは全体にサテン仕上げで、高級感はさほどありません。かといってカーキフィールド(ハミルトン)の様なミリタリー感もなく、キレイな時計です。


型番:L893.5
ベース:ETA A31.501
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.60mm
振動:25,200vph
石数:27石
機能:スモセコ3針
精度:-
PR:64時間

ムーブメントはETAがロンジン専用に開発した新型A31.501をベースとするL893.564時間のロングパワーリザーブに加え、シリコン製ヘアスプリングを持っています。

スウォッチ・グループのスケールメリットには常々驚かされます。よくもまあ次から次へと色んなレンジに向けた新型ムーブメントを投入するもんです。

これでは巨大資本をバックに持たない零細メーカーは太刀打ち出来ません。

まあそれは資本主義の現実ですから、しょうがないです。それに我々消費者にとっては良質な商品が安価に手に入るというのは歓迎すべき事です。

といいつつ、ETAにはハミルトン H10ティソ パワーマティック80のようにもっと高性能な機械もあるのでこのL893.5は中の上くらいのイメージでしょうか。

それでも汎用エボーシュとしては上位に位置するETA 2892-A2より上です。


このモデルはカラーバリエーションがグレーとブルーの2色展開となっています。個人的にはグレーが使いやすくて好みですが、ブルーも独特の中間色でオシャレです。

ストラップのステッチがポイントになっていてオシャレですね。全体にややカジュアルな時計ですが、スーツに合わせても程よくドレスダウン出来て良いのでは?

もちろんビジネスカジュアルなら完璧にフィットするでしょうし、冬場ならニットにも合いますね。このタイムレスなデザインは色んなシーンで重宝しそうです。

税抜25.3万円というのはロンジンの中では中価格帯です。3針ノンデイトというシンプルな構成を考えると安くはないですが、新型キャリバーにスタイリッシュなルックス、ロンジンのブランド力などを考えればフェアバリューといえるでしょう。

何度か探しに行ったのですが、未だ目にした事はなく、現物確認が待ち遠しい一本です。


Art Blakey Limited Edition / ORIS 
出典:www.oris.ch
Ref:01 733 7762 4081 Set
ケース径
:38.0mm
ケース厚:10.8mm
重量:-
ケース素材:ステンレス・スティール
風防:サファイア・クリスタル
裏蓋:ステンレス・スティール
ベルト素材:レザー
バックル:ピンバックル
防水性:3気圧
価格:260,000円(税抜)

お次はオリスから、アート・ブレイキー・リミテッド・エディションのご紹介です。

これまたシンプルなフェイスデザインですが、そのモチーフが面白い作品です。

アート・ブレイキーは20世紀を代表するジャズドラマーで、氏の生誕100周年を祝うのがこの限定モデルです。

そしてこのフェイスはバスドラムを、裏蓋はシンバルをモチーフにしています。

そう言われると、ダイアル内側にはツメの付いたバスドラムが浮かび上がってきますね。時計としては非常にユニークな8つのインデックスはドラムのツメだという事です。

出典:www.oris.ch
時計としての視認性は完全に無視されています。何せ8等分のインデックス(ツメ)なんて逆に紛らわしいだけですから。

しかしそれが良いんです。

ドラムをモチーフにでもしない限り通常はあり得ないデザインという所が面白い。譜面にとらわれないジャズの奔放さを表現しているようです。

独特の形状の針も良いです。これで針をドラムスティックにでもしようものなら途端に雑貨時計のようになるのですが、そこは時計としての佇まいを忘れていません。

38.0 x 10.8mmというサイズも収まりの良い大きさです。

オフホワイトの文字盤にブラウンのレザーストラップを合わせた色合からは、ジャズクラブの音色が聴こえてきそうな雰囲気です(全く知らんけど)


型番:Cal 733
ベース:SELLITA SW 200-1
巻上方式:自動巻
直径:25.6mm
厚さ:4.60mm
振動:28,800vph
石数:26石
機能:センター3針
精度:-
PR:38時間

搭載するCal 733はオリスが使う3針キャリバーで最もオーソドックスな部類の機械です。

ベースはセリタSW 200-1ですから、特筆すべき性能はありません。ベースとなるETA 2824-2も含めれば現在世界で最も広く普及している機械の一つです。

機械のメンテナンスに関しては何の心配もなく持っていられる時計ですね。

ソリッドバックなのでオリス独自のレッドローターが見れないのは残念ですが、その代わりにシンバルを模した装飾がなされており、これが何とも綺麗です。

裏蓋自体が膨らみのある形状なのもユニークですね。でもこれ装着感的にはどうなんでしょう?


限定1000本の本作は税抜26万円です。オリスの通常ラインと比較するとやや高めですかね。

価格帯としては上のロンジンとほぼ同じですが、機械の性能はロンジンが一段上なので、この特徴的なデザインやアート・ブレイキー・モデルという点に付加価値を見出せるかという所でしょう。

Minority’s Choice はジャズは全く知りませんが、一目みて惹かれるデザインであった事は間違いありません。

デザインやコンセプトはまさに洗練されたオトナの為のものという感じです。

ブラックスーツを着崩したジャズミュージシャンが着けていたらめっちゃ格好良さそうですが、私のような只の中年がしてたらどうかな?という疑問が笑

でも一回腕に乗せてみたいですね。


デザインといいサイズといい、マニア向けの2本ですが、どちらもいい味出してます。

1本目の時計に選ぶ感じではないですが、ロンジンにせよオリスにせよ機械式時計製造において歴史ある老舗です。そうしたブランドの分別というものが伝わる良作です。