「2と3の比」は,「2:3」と書きます。比の値は,2÷3=2/3( / は分数の横線)です。「3と2の比」は,「3:2」と書きます。比の値は,3÷2=3/2です。
「2の3に対する比」は,「2:3」と書きます。比の値は2/3 です。
したがって,「3に対する2の比」は,「2:3」と書きます。比の値は2/3 です。
しかし,「2の3に対する比」「3に対する2の比」という言い方は紛らわしいので,最近は,引掛け問題としても見かけないと思っていた(平成23年発行の教科書にはないようです)のですが,今年度発行の教科書には扱うものもあるようです。(現物未確認)
手元にあるもので確認できたのは,昭和61年(1986年)発行の東京書籍の「算数6上」(著作者:小平邦彦,中島健三,広中平祐ほか30名)の49頁。
「a:bの比の値は,bをもとにすると,aがその何倍にあたるかを表している数です。それで,a:bを「aの,bに対する比」ともいいます。」
なお,「○の□に対する比」という言い方は,以下に紹介する文章中にも出てきます。
さて,「比」と「比の値」をめぐる議論が錯綜するのは今に始まったことではありません。
明治時代の藤沢利喜太郎と寺尾寿の『算術』の教科書の比(比の値)の記述がそもそも違っています。その違いは,藤沢が依拠したイギリスの算術と寺尾が依拠したフランスの算術の違いに因るのであり,イギリスとフランスの違いは,ユークリッド第5巻の比例論に対するそれぞれの対し方の違いに由来している,ということが,大矢真一『比とその計算』(小学校算数科教材研究叢書7)新興出版社・啓林館,1959年にあります。
小倉金之助の弟子で,中公新書の隠れた名著『和算以前』の著者の大矢真一さんは,この叢書に『数と量』という名著も書かれていますが,『比とその計算』もそれに匹敵する名著で,「割合」や「比」について,後にも先にもこれだけきちんと調べて論じたものはないのではないでしょうか。(後続書の記述は,この書に依拠するようです。)
この書の問題意識は,昭和33年の算数指導要領が「割合」を重視したことを批判することにあったようです。当時の文部官僚・和田義信がリーダーシップを振るった割合重視は,遠山啓ら数教協からだけではなく,戦前の文部官僚・塩野直道(当時啓林館重役)からも批判され,昭和43年の指導要領改訂で撤回されます。
50数年前のこの書は,今では国会図書館以外では現物もなかなか見ることができず,「日本の古本屋」のホームページにあった1冊も私が入手してしまったので,この書の第2章「比と比例の問題点」の第2節「比」の「§1.比と比の値」を紹介します。