なぜ「0は2の倍数としない」と教えるのか? | メタメタの日

 算数の教科書が,「0は2の倍数としない」ことについて,教科書の考え方は次の通りです。
0を除く















(『算数「かけ算の順序」を中心に数学教育を考える掲示板』のスレッド「0は偶数でも奇数でもない?」35番投稿・鰹節猫吉さんからの孫引き
http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t71/l50 )

 さて,2×3=6 です。
 「2に整数をかけてできる数を2の倍数といいます。6は2の倍数です。」
と,小5の算数の教科書にあります。
 小3の教科書には,2×0=0,0×2=0,0×0=0 と,0のかけ算が載っています。
 したがって,「0は2の倍数である。0は0の倍数である。」
と言えるはずです。実際,中学ではそう教わります。
 ところが,小5の教科書には,
「ある整数の0倍や,0の倍数は考えないことにします。0は,倍数には入れないことにします。」とあります。
 つまり,「0は2の倍数ではなく,0は0の倍数ではない」ことになります。

 また,6÷2=3 です。
「6をわりきることのできる整数を6の約数といいます。2は6の約数です。」
と,小5の教科書にあります。
 小3の教科書で,0÷2=0 と0のわり算を習っています。
 したがって,「0をわりきることのできる整数は0の約数だから,2は0の約数である」
と言えるはずです。
 高校では,「すべての整数(0を含めて)は,0の約数である」と教わるようです。(2つ前のアーティクルのコメント欄14番・YHさん)

 つまり,2×3=6,6÷2=3,6÷3=2 だから,6は2の倍数でもあり3の倍数でもあり,2も3も6の約数であり,2×0=0,0×0=0,0÷2=0,0÷0=不定(2÷0=不能)だから,0は,2の倍数であり0の倍数でもあり,2は0の約数と言えます。しかし,0が0の約数と言えるかどうかは,約数の定義によって異なるようです。
 「2つの整数a,bについて,ある整数kを用いて,a=bk と書けるとき,bはaの約数であるといい,aはbの倍数であるといいます。」(『数学A』(数研出版,p110)YHさんのコメントから孫引き)という定義なら,0は0の約数です。しかし,b≠0で,a /b(a÷b)が整数(割り切られる)なら,bはaの約数である,という定義なら,0は0の約数ではない,ということになります。(2つ前のアーティクルのコメント欄7番おおくぼさんから紹介された数研出版のサイト
http://www.chart.co.jp/subject/sugaku/suken_tsushin/78/78-10.pdf 
や冒頭スレッド39番投稿・積分定数さんの発言などを参照。)

 ・・・・などというような,面倒くさい話になるので,分数の通分や約分などのために公倍数や公約数を学んでいる小5には,冒頭引用の学校図書のような考えから0の倍数や約数をスルーするということはあり得ると思う。
 つまり,「0は,すべての整数の倍数であり,すべての整数を約数としてもつ」ということは,「a,b,cが整数で,a=bcが成り立つとき,aはbやc の倍数,bやcはaの約数である」という定義が,a,b,cが0の場合も成り立つようにするという「形式不易」の考えから来ているのでしょう。
 しかし,こういう抽象思考は,小5にとってはそれまでの算数には出てこなかった考え方です。ここで算数観の転換をしてもらうこともありうるでしょうが,分数の四則計算も割合・百分率も,速さや比や比例・反比例も未習の段階で教えるべきこととはちょっと思えないのです。算数を意味のあるものとして理解しているときに,形式不易の原理で算数観を転換させることは,あまり良い結果をもたらさないのではないかと愚考するのです。
 ただ,0は偶数(2の倍数)ということを教えるのだから,0は2だけでなく,3でも4でも5でも,すべての整数(0も含む)の倍数ということは教えて,しかし最小公倍数を考えるときは0を除外するというように教えた方が良いと思う。
 「0はすべての整数を約数としてもつ」ことを認める形式不易の抽象思考は,小5の段階ではなじまないと思う。けれど,謎のように子供の頭のどこかにしまってもらうことは否定しません。実は私も,2つ前のアーティクルのコメント欄10番で積分定数さんから指摘されて,それが合理的と気付いたが,不惑をとっくに越えていながら最初は戸惑った(苦笑)。