「0は2の倍数ではない」と教科書に書いてあるのか? | メタメタの日
 算数の教科書に,「0は偶数だが,2の倍数ではない(2の倍数とはしない)」と書いてあることを取り上げた直前のアーティクルへのアクセスが2日間で1万6000を超えたので,議論の典拠の資料を紹介します。
 Twitterで,紙つぶてさん@nomisukebotも指摘されているように,「0は倍数ではない」と「0は倍数とはしない」は違います。教科書にある文言は,以下に紹介するように,後者です。
 「ではない」という客観的事実の陳述と「しない」という主体的選択の陳述は違います。(そもそも,なぜ算数では「0は倍数としない」ことにしたのかという問題がありますが……)
 ところが,教科書では「しない」と「ルール」を決めると,「ではない」という「事実」になって,それを確認する問題が載っています。教科書執筆者は,「しない」と「ではない」の違いにこだわったのでしょうが,そんな違いは無視されて,学校の先生やドリル出版社が,数学にこだわるネット住人の目を剥くような問題を作ってはネットに曝されています。そもそも無視されるような「違い」にこだわった教科書の記述が問題だし,こだわった結果も,「0は偶数とする(である)が,2の倍数とはしない」という判じ物みたいな教科書にしかなっていません。
 実物を見てみましょう。

 学習指導要領はだいたい10年ごとに改訂され,それに合わせて教科書も10年ごとに変わりますが,途中でも小さく改訂されます。(算数だと,例題が変わったり,問題の数値が変わったり等。)以下に紹介するのは2011年度から4年間使用されたものなので,今年度から4年間使用されるものとは記述が違っている可能性はあります。
 頁の画像そのものは,啓林館を前アーティクルで,学校図書をtwitterで紹介したので,今回は東京書籍を紹介します。
 採択状況(占有率)は次の通りです。(出典は『内外教育』2010.12.17と2015.1.16。)
         2011年度  2015年度 
 東京書籍      38.3       41.6
 啓林館        34.3      32.1
 学校図書       11.5     10.0
 教育出版       5.6     8.4
 日本文教出版     5.6     2.9
 大日本図書       4.7      4.9     
偶数
倍数




東京書籍
「2でわりきれる整数を,偶数といいます。また,2でわりきれない整数を,奇数といいます。0は偶数とします。」74頁
 「3に整数をかけてできる数を,3の倍数といいます。0は,倍数には入れないことにします。」76頁

啓林館
「整数は,下のように考えて,2つの組に分けることができます。
     2でわり切れる数      2でわり切れない数
     0 → 0÷2=0       (2でわると1余る数)
     2 → 2÷2=1        1 → 1÷2=0余り1
     4 → 4÷4=2        3 → 3÷2=1余り1
                      5 → 5÷2=2余り1
      ・・・ ・・・
 2でわり切れる整数を偶数,2でわり切れない整数を奇数といいます。」87頁
 「3に整数をかけてできる数を,3の倍数といいます。3の倍数は,3でわり切れます。(略)3の倍数は,3,6,9,……といくらでもあります。倍数というときには,0の倍数やある整数の0倍は考えないことにします。」88頁

学校図書
「3×1,3×2,3×3,…のように,3を整数倍してできる数を,3の倍数といいます。0はのぞいて考えます。」102頁
 「0から20までの整数を,0から小さい順に上,下,上,下,…のように,2つに分けます。上と下にはどんな数が集まるでしょうか。上と下に集まった数を,それぞれ2でわってみましょう。(略)整数のうち,2でわり切れる数を偶数,2でわり切れない数を奇数といいます。」114頁

教育出版
「2でわったとき,わりきれる整数を偶数といい,わりきれないで1あまる整数を奇数といいます。0も偶数です。(0÷2=0だね。)どんな整数でも,偶数か奇数のどちらかになっています。」64頁
 「ある整数を整数倍してできる数を,もとの整数の倍数といいます。4の倍数は,4,8,12,……と,いくつもあります。0は倍数には入れないことにします。」66頁

日本文教出版
「2でわったとき,わりきれる整数を偶数といい,あまりが 1になる整数を奇数といいます。(略)下の数直線上で,偶数と奇数はどんなならび方になっていますか。0は偶数です。(略)すべての整数は,偶数と奇数の2つの仲間に分けることができます。」30頁
 「3,6,9,…のように,3に整数をかけてできる数を3の倍数といいます。0は,倍数に入れないで考えます。」32頁

大日本図書
「整数を2でわったとき,わりきれる数を偶数といい,あまりが 1になる数を奇数といいます。(略)数直線の上で,偶数と奇数はどんなならび方をしているでしょう。0は偶数とします。整数は偶数と奇数の2つのなかまに分けられます。」92頁
 「3,6,9,…のように,3に整数をかけてできた数を3の倍数といいます。
3の倍数は,3でわりきれて商が整数になる数です。0は倍数に入れないこ とにします。」94頁