一昨年、長男が通う幼稚園のPTA会長を務めたとき、私は食の提供者という仕事を活かして、
という新しいイベントを立ち上げ、園で採れる野菜だけでなく、親、お爺ちゃん、お婆ちゃんの作った食材が集まり、それを園児と母親が一緒に調理して信じられないほど豪華な料理の数々が出来上がりました。園児たちも親たちも、そして園の先生方も大喜びのイベントとなりました。これは今の解釈で言えば『食育』ということになります。
私はこの経験がとても楽しく有意義であったことから、生産者も、いや生産者だからこそ食を伝える義務があるのだ、と感じ取りました。
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そして昨日、私は県南の中学校での食育講座に行きました。
それは私の知人である“野菜を伝える人”S様が学校の地元の野菜生産者と一緒に中学生たちに野菜のことを伝える講座とのこと。私はそのイベントを知人から聞き、すぐに「その講座、私も見学をしていいだろうか」と申し出ました。食を伝え慣れているS様達がどのように中学生に野菜を伝えるのか興味があったからです。そしてS様、学校側からの了解をうけ、現地に赴くことになったのです。
この日の講座に使う野菜は地元で採れた『とうもろこし』『えだまめ』『じゃがいも』でした。理科実験室を借りて、二十数名の受講する中学生に対し、生産者I様がメイン講師、アシスタントにS様、そのまたアシスタントが私、といった形で午前9時40分、食育講座が始まりました。
I様、S様お二人は畑から「トウモロコシの木」を一本抜いてきて、生徒にトウモロコシをもぎ取らせます。そしてトウモロコシという野菜の説明を挟み、朝にもいだ新鮮なトウモロコシ(ピュアホワイト)を生で生徒にかじらせます。つづいてトウモロコシの幹を切って渡して
『かじってごらん。これも甘いよ』
と生徒たちに、木がため込んだ糖分があることを教えます。正直どこまでその甘さに気付いたか分かりませんが、野菜の甘さを基点にした伝え方は、非常に考えられ、気合の入った内容で私は感心しました。
続いて持ち込んだ二種類の枝豆(栄錦、湯上り娘)を茹でさせ、味の違いを比べさせます。
さらにその枝豆をすりつぶして『ずんだ餅』を作らせます。「すりばち」を「すりこ木棒」を生徒に使わせましたが、その不慣れな様子に大きな世代の差を感じます。今の子供はゴマすらすったことがないのでしょう。
その「ずんだ」を餅の上に乗せて食べてもらいましたが、味に関しては実に不評でした(笑)。ところが不思議なものです。その餅にきな粉と蜜をかけさせると生徒は喜んで食べます。素朴な味わいのずんだは苦手でも、少しでもお菓子らしい味付けがされると評価が一変するのです。
きな粉が出てきたところで、話が私のほうに振られてきました。きな粉の原料はもちろん大豆です。そしてせっかくその大豆をもやしにしている人がいるのだから・・というS様、I様の配慮で簡単な「もやし話」をすることになりました。
私はごく簡単でありますが、中学生たちに
『在来大豆について』
『大豆もやしの簡単な作り方』
を話しました。強調したのはこの部分、
『自給率が5%といわれる国産大豆のなかで、なぜこういった埼玉県産在来大豆がいまだ残っているのか分かりますか。それは“美味しいから”なんです。農家が市場に出さなくても自分で食べるために残してきた豆、それが在来大豆なんです。みなさんも地元の豆、在来大豆の味に触れてみてください』
味がよいから農家が残してきた・・・・この部分が県産在来大豆一番の強みだと思います。『味』について追求する今回の講座、在来大豆の話にしても『味』を強調しました。
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最後は『じゃがいも』の味比べです。S様が予め蒸かしておいた二種類のじゃがいも、『きたあかり』と『インカのめざめ』。さらに野菜の熟成と味の変化を伝えるために、各品種の『新じゃが』と1年間保存しておいた『熟成物』を使い、4つの味を生徒たちに比べさせました。私も熟成物のじゃがいもを食べるのは初めてだったので、その味の凝縮感には驚かされました。
私はいつももやしの成長段階ごとに違う味の広がりを意識していますが、芋の場合は熟成によって味に奥行きが出てくるのです。しかしながら、生産者のI様が、『熟成物は市場価値が無い』とおっしゃったことが現実なのです。もしかしたらそのI様の言葉が、今回の食育講座で最も重い意味を持つものだったのかもしれません。
生徒たちの味の表現の少なさにも驚かされました。この講座に参加する生徒くらいですから多少は食について関心がある子たちだと思うのですが、味について聞かれても
「甘い」
が大半で、あとは
「さっぱり」
「あおくさい」
くらいでした。蒸かしたてのありのままのじゃがいもに慣れていないのか、『塩が欲しい』と言って来た生徒もいました。
後にS様が「(彼らだって)もっと味について聞いてあげれば」と話してましたが、これはもっと根の深い、学校教育と言うより家庭の問題ではないかと実感しました。蔓延している意識しない食、テレビを見ながら、携帯を触りながらの、いわゆる『ながら食い』。食から感動を得ようとせず、家族単位で食の時間を疎かにしている・・・・そんな背景が見えそうになりました。
しかし中学生たちにどこまで響いたか分かりませんが、この生産者I様、伝える人S様による
『野菜が持つ甘みから野菜の本質を伝える』
『鮮度・品種による味の違いを伝える』
といった食育講座は志の高い良質の内容だったと思います。
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生産者であるI様は立派に講師をこなしてました。私にはまだまだ中学生を相手では自信がありません。
講義後にI様に話しました。
「味は大事です。もやしの場合は“これまで味を強調しなかった”ために単純な価格競争に陥ってしまいました。多くの人に味を知ってもらうことは、私たち(生産者)を守ることになるはずですよ」
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志あるお二人には今後とも伝えることを頑張ってもらいたいです。そして私は今回の経験を活かして、もやし屋としてやれることをやりましょう。