☆ジョブコントロール低下で妊孕性が低下する!? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、ジョブコントロール(仕事の決定権、時間の自由度)と妊孕性の関連を調査したものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 497(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.022

要約:米国とカナダで2018~2022年に登録された21~45歳のこれから妊娠を目指す女性3,110名PRESTOスタディ)を対象に、2ヶ月に一度食事および生活習慣の調査を行い、最大1年間あるいは妊娠判明まで前方視的に追跡調査を行い、ジョブコントロール(仕事をいつどのように行うかについての決定権、勤務時間の自由度)とTTP(妊娠までの時間)との関連を検討しました。それぞれスコアから4つのグループに分けた結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

仕事の決定権  修正オッズ比(95%信頼区間)

1 最低      0.92(0.82〜1.04)

2         0.84(0.74〜0.95)

3         0.99(0.88〜1.11)

4 最高        1.00(対照)

 

時間の自由度  修正オッズ比(95%信頼区間)

1 最低      0.92(0.80〜1.05)

2         0.94(0.83〜1.07)

3         1.02(0.90〜1.14)

4 最高        1.00(対照)

 

解説:仕事は社会人にとって生活上のストレスの主な要因であり、ジョブコントロールの低下は、心血管疾患、高血圧、早期死亡など健康への悪影響との関連が明らかにされています。しかし、ジョブコントロールと妊孕性の関連を調査した研究はこれまでありませんでした。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、ジョブコントロールの低下はTTP延長のリスク因子となる可能性があることを示しています。職務管理は労働条件であるため、個人では変更できませんが、配置転換や組織での介入を通じて変更可能な部分でもあります。自己申告による調査であるため、正確性はやや欠けますが、妊活中の女性の労働条件の改善が重要であることを示した非常に興味深い論文です。

 

PRESTOスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2022.8.12「☆新型コロナウイルスワクチン接種と妊孕性について:PRESTOスタディ

2022.4.13「妊娠治療前の妊娠率予測因子

2021.8.23「☆歯周病により妊孕性が低下!?

2021.5.17 「携帯電話による男性の妊孕性への影響

2020.6.21「☆男性のアルコール摂取は妊孕性とは無関係?

2020.5.14「☆秋から冬が最も妊娠しやすい!?

2019.11.28「☆通院前の妊活に有効な排卵日推定法は?

2019.6.25「不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め

2017.1.12「☆妊娠前の鎮痛剤使用と妊娠成立の関係