精液所見に及ぼす身体的特徴は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、精液所見に及ぼす身体的特徴についての横断研究です。

 

Fertil Steril 2023; 120: 586(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.040

要約:米国とカナダで2020〜2021年に登録された21〜45歳のこれから妊娠を目指す女性(PRESTOスタディ)のパートナーの男性659名(21歳以上)を対象に、Trak システムを使用して自宅で精液検査を行っていただきました。オンラインアンケートにより、身体的特徴(身長、腹囲、17歳時の体重と現在の体重)やライフスタイルと病歴を調査し、精液所見に及ぼす身体的特徴について、交絡因子を排除した横断研究を行いました。結果は下記の通り(比較対象からの差を95%信頼区間とともに表示、有意差のみられた項目を赤字表示)。

     

現在のBMI     精液量       精子濃度       総精子数

<25         〜         〜          〜

>35     -6.3(-15.8〜4.3) -6.4(-24.6〜16.2) -12.2(-31.1〜11.8)

ウエスト周囲径

<31インチ      〜          〜          〜

>42インチ  -4.2(15.0〜8.0)  -6.4(27.6〜21.0) -10.4(31.9〜17.9) 

17歳〜現在の体重増加

<5kg        〜          〜          〜

>25kg    -9.7(-18.4〜0.1)     NS          NS

NS=有意差なし

 

解説:男性不妊はおよそ半数を占めるにもかかわらず、男性不妊に関する疫学研究は不足しており、リスク因子については明らかにされていません。一方、米国成人男性の2/3以上が過体重または肥満であり、肥満による代謝変化は生殖能力に悪影響である可能性がありますが、男性肥満と生殖能力との関連を示すデータは不足しています。そもそもライフスタイル要因と精液所見に関する研究は不妊治療を行っているカップルを対象に実施されており、元来選択バイアスがかかっています。本論文は、これから妊娠を目指すカップルを対象とした横断研究であり、BMI、ウエスト周囲径、17歳以降の体重増加は、精液所見の低下と有意に関連することを示しています。

 

PRESTOスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2022.8.12「☆新型コロナウイルスワクチン接種と妊孕性について:PRESTOスタディ

2022.4.13「妊娠治療前の妊娠率予測因子

2021.8.23「☆歯周病により妊孕性が低下!?

2021.5.17 「携帯電話による男性の妊孕性への影響

2020.6.21「☆男性のアルコール摂取は妊孕性とは無関係?

2020.5.14「☆秋から冬が最も妊娠しやすい!?

2019.11.28「☆通院前の妊活に有効な排卵日推定法は?

2019.6.25「不眠と不妊:女性の睡眠障害は良くない

2018.4.12「男性は毎日8時間睡眠がお勧め

2017.1.12「☆妊娠前の鎮痛剤使用と妊娠成立の関係