本論文は、コロナのロックダウンにより生体内の環境ホルモン濃度(フタル酸)が変化したことを示しています。
F&S Sci 2022; 3: 237(インド)DOI:https://doi.org/10.1016/j.xfss.2022.06.001
要約:新型コロナウイルス感染のロックダウン前後で、採卵の際に卵胞液を採取し、6種類のフタル酸濃度を測定しました(MBP、MEP、MEOHP、MEHHP、MiNP、MiDP)。2019年1月〜2020年3月中旬に採卵した96名(ロックダウン前)と2020年10月〜2021年6月に採卵した80名(ロックダウン後)の比較を実施しました(インドのロックダウンは、2020年3月25日から)。また、パーソナルケア製品(石鹸や化粧品など)の使用に関する質問票調査も行いました。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
フタル酸 ロックダウン前 ロックダウン後 P値
MBP 1.64 ng/mL > 0.93 ng/mL <0.001
MEP 5.25 ng/mL > 3.24 ng/mL <0.001
MEOHP 0.13 ng/mL < 0.14 ng/mL 0.023
MEHHP 0.16 ng/mL = 0.17 ng/mL NS*
MiNP 0.11 ng/mL < 0.13 ng/mL <0.001
MiDP 0.11 ng/mL < 0.14 ng/mL <0.001
*NS=有意差なし
毎日使用 ロックダウン前 ロックダウン後 P値
口紅 49.0% > 13.8% <0.001
香水 64.6% > 43.8% 0.006
マニキュア 17.7% > 6.2% 0.02
解説:新型コロナウイルス感染は、世界中で日常生活の仕組みに様々な変化をもたらしました。本論文は、インドのロックダウン政策の前後で卵胞液中のフタル酸濃度を測定したところ、MBPとMEPが有意に低下し、MEOHP、MiNP、MiDPが有意に増加したことを示しています。MBPとMEPは化粧品などのパーソナルケア製品に含まれるため、その使用頻度の低下がそのままフタル酸濃度低下に反映しています。また、MEOHP、MiNP、MiDPはプラスチック容器に用いられており、食材やオンラインショップでの購買などディスポのプラスチック製品の使用頻度の増加を反映しています。環境ホルモンはまさしく環境中に存在し、生活習慣の変化でいかようにも変化しうることを改めて考えさせます。
本論文の問題点として本論文の著者は、症例数が少ないこと、パーソナルケア製品として3つしか調査していないこと、不妊症症患者さんでの検討であるため一般集団に当てはまるかどうかは不明であることを挙げています。
フタル酸については、下記の記事を参照してください。
2019.2.27「環境ホルモンと妊娠高血圧症候群の関連は?」
2019.1.30「フタル酸と筋腫の関連 その2」
2017.5.11「フタル酸と子宮筋腫の関連」
2017.1.13「フタル酸暴露と女性の妊孕性低下」
2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響」
2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下」
2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係」
2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」