
「アネット」('21)
スタンダップコメディアンとオペラ歌手のカップルがたどる破滅的な愛を、兄弟バンド「スパークス」の原案・音楽をもとにレオス・カラックス監督が作り上げたロックオペラミュージカルです。主演はアダム・ドライヴァー、マリオン・コティヤール、共演はサイモン・ヘルバーグ、デヴィン・マクダウェル、ラッセル・メイル、ロン・メイル他。日本から福島リラさん、水原希子さん、古舘寛治さんが出演しています。
意外に良かった (^^)v
ロサンゼルスを舞台にしているし、セリフのほとんどが英語なので、ハリウッド映画のように見えますが、実際にはフランス、ドイツ、ベルギー、日本、メキシコの合作映画。ミュージカル映画と言えば、どうしてもハリウッドかイギリスのほうが信頼性が高いですし、しかも「ロックオペラミュージカル」という時点で「うわぁ、つまんなそう…」と思ったのですが、期待値が低かったこともあり、予想外に楽しめました。ただ、音楽が全く趣味に合わず、1曲たりとも心に響いたり、印象に残ったりするものがなかったのは残念ですけど (^^;;;
かなり残酷な大人向けのサスペンスをファンタジックにミュージカルで描いた映画で、その「サスペンスとミュージカル」の組み合わせが(これが史上初というわけではないですが)新鮮だし、しかも、それがうまく融合しているのが![]()
特に、主人公の操り人形にされる娘アネットを、文字通り、操り人形に演じさせる演出は、わかりやす過ぎるけれども、ミュージカルという表現手法だからこそ成立するものですし、ラストシーンからも明らかなように「主人公にはそう見えていた」ということを端的に示していて面白いアイデア。
とにかく、繰り返しになりますが、ストーリーをはじめとする世界観は好みだっただけに、音楽がもうちょっと趣味に合うものだったら良かったのになぁと、それだけが残念でなりません。
「ブラッド・チェイサー 沈黙の儀式」('23)
イタリアと米国南部を舞台に、ムーティと呼ばれる古代の邪神を崇拝する人物による連続殺人事件を描いたハードなサイコサスペンスです。主演はコール・ハウザー、共演はモーガン・フリーマン、ピーター・ストーメア、ミュリエル・ヒラリー他。
頭の中が「???」でいっぱいになる映画。
ストーリー自体は単純だし、難しい内容ではない。
でも、
イタリアのシーンは本当に必要? ストーリーとしてはアメリカ国内の別の場所という設定で充分で、単にイタリアの美しい景色を撮りたかっただけ?
残酷で冷酷な「プロ」の殺人犯が、主人公をはじめ、物語の都合上、生き続けていないと困るキャラクターだけは殺そうとしないというご都合主義。
そんな犯人が簡単に本名を明かしたり、素性がバレたりする迂闊さ。
そして何より、なんでこんなトンデモB級映画に名優モーガン・フリーマンが出演することになったのか?
とにかく「何故そうなる?」と言いたくなるシーンの連続で、この映画の脚本家の頭は大丈夫か? と心配になるレベル。
主演のコール・ハウザーのいかにもアメリカ南部の中年刑事といった風貌はピッタリで、役柄に説得力があっただけに残念。
「ジャネット」('17) /「ジャンヌ」('19)
15世紀フランスの救国の聖女ジャンヌ・ダルクの生涯をジャネットと呼ばれていた幼少期から描いた歴史劇2部作です。主演はリーズ・ルプラ・プリュドム、共演はジャンヌ・ヴォワザン、リュシル・グーティエ、アリーヌ・シャルル、エリーズ・シャルル、ジュスティーヌ・エルベ、ジュリアン・マニエ、ファブリス・ルキーニ他。
2作目が良い出来だったので全体を通して観た感想は悪くないのですが、1作目は耐えられないレベルでダサく、視聴自体が苦痛だったので、続編を観るのはやめようと思ったくらい。とにかく、諦めずに続編を観て良かった (^^)v
1作目については、ジャンヌ・ダルクの物語をロックミュージカルとして描くアイデア自体は悪くないと思います。
が、脚本、演出、演技、音楽のどれもが信じられないレベルでダサい。
フランスの田舎の敬虔なカトリックの村で宗教行事の一環として行われている、村人たちによる素人演劇をそのまま屋外で撮っただけという感じ。
全てを台詞で説明するだけの説教くさくて退屈なストーリー。
膨大なセリフをただ読んでいるだけの棒読みの演技。
ダサ過ぎて聴いていて恥ずかしくなるだけの音楽。
大してうまくもなければ心にも響かない歌声。
笑わせようとしているとしか思えないダサいダンス。
それらを「ただ撮ってるだけ」の素人レベルの演出。
これらの全てが「鬼才」ブリュノ・デュモン監督の作風なのはわかりますが、どこをとっても自分とは合いませんでした。
が、2作目になると上記のダメなところがことごとく改善。
まずミュージカル要素は控えめで、ほぼ音楽劇のレベルになり、ダサすぎて観るに耐えなかったダンスは一切なし。また担当が変わったこともあって、音楽自体が前作とは比較にならないくらいにレベルアップ。
役者も大幅にレベルアップし、演技も視聴に耐えられるレベルに。
また、説教くさく、映画というよりも舞台劇調であることに変わりはありませんが、壮麗な教会を舞台にしているだけでなく、聖職者たちの衣装が見事で視覚的な効果が高いおかげで、飽きることなく観ることができたのも![]()
1作目の終盤でハイティーンとなったジャンヌを別の女優が演じていたにもかかわらず、2作目では1作目で幼少期を演じた子役をそのままハイティーンのジャンヌ役に起用しているのはかなり変ではありますが、ジャンヌ・ダルクの清純さや無垢さ、少女性を強調する意図がわかりやすいので、すぐに違和感はなくなりました。
とにかく、2作目が良かっただけに、1作目が何故あんなトンチンカンな出来だったのか謎。また、あれだけ酷い出来だったのに2作目の制作が中止にならずに済んだのも謎ですが、フランスでは1作目の評価もさほど悪くないみたいなので、このあたりは自分との感覚の違いを大きく感じました。
「戦争と女の顔」('19)
2015年のノーベル文学賞を受賞したスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが、第2次世界大戦中の独ソ戦に従軍した元兵士の女性たちに取材したノンフィクション「戦争は女の顔をしていない」を原案とし、1945年の終戦直後のレニングラード(現サンクトペテルブルク)を舞台に、心身ともに深い傷を抱えながら生きる元女性兵士の2人が織り成すさまざまな人間模様を描いた歴史ドラマ映画です。主演はヴィクトリア・ミロシニチェンコ、ヴァシリサ・ペレリギナ、共演はアンドレイ・ブコフ、クセニヤ・クテポヴァ、イーゴル・シュロコフ他。
原案となった「戦争は女の顔をしていない」はちゃんと読んだことがなく、それを原作とした連載漫画をちょっと読んだことがあるだけなので、偉そうなことは言えませんが、さまざまな女性たちの実体験のうち、この話をピックアップして映画化した理由や意図はなんだろうか? という観点で観ていました。
戦場の場面は一切なく、元兵士たちの戦後の姿だけで戦場の過酷さを描いているのは秀逸。
平和な時代に生きている人間にとっては、理解を超えた言動をとる主人公たちに共感することは決して容易ではないけれども、そんな言動を取ってしまうほどに、彼女たちが過酷な経験をしており、それを周囲の人々に理解してもらえていないどころか、そもそも全く知られていないということなのでしょう。それを思うと、ただただ胸が痛む話でした。
決してハッピーエンドとは言えないけれど、救いの全くない絶望的な結末でなかったのだけは良かったと言いたいです。もちろん、主人公たちのその後は決して安穏なものではなかったでしょうけれど。
「NOPE/ノープ」('22)
謎の飛行物体が上空に飛来したカリフォルニアの小さな牧場を経営するアフリカ系の兄妹を描いた、ジョーダン・ピール監督によるSFスリラーです。主演はダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、共演はスティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレア他。
ジョーダン・ピール監督は「ゲット・アウト」('17)、「アス」('19) と立て続けに斬新なスリラー映画を撮ってきましたが、監督3作目となる本作もかなり斬新。
予告編を観ると、「謎の飛行物体に乗ってやってきた異星人との戦い」を描いたSFスリラーを予想すると思うのですが、そこはジョーダン・ピール監督。そんな「誰もが予想できる」話を撮るわけがありません (^^)v
過去の2作品を観た時も思いましたが、「よくこんな話を思いつくなぁ」と感心するばかり。
スリラー映画ではありますが、過去の2作品に比べると、ホラー要素は少なめですし、コメディアン出身のジョーダン・ピール監督らしい間の抜けたユーモアもあるので、比較的「観やすい」娯楽映画だと思います。
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「ソングバード」('20)
致死率が高いウイルスを原因にロックダウンが続く世界を描いたSFサスペンスです。主演はK・J・アパ、共演はソフィア・カーソン、クレイグ・ロビンソン、ブラッドリー・ウィットフォード、ピーター・ストーメア、デミ・ムーア他。2020年春に企画され、同年夏にロックダウン中のロサンゼルスで初めて撮影された映画です。
ほとんどの映画が撮影休止になる中で制作された映画として当時話題になりつつも、実際に公開されると、その出来に酷評の嵐で、これまた話題になった作品。
実際に観てみると、確かに酷い出来 (^^;;;
キャストは比較的充実しているし、タイムリーな舞台設定ではありますが、ご都合主義満載のツッコミどころしかないストーリー展開にしろ、陳腐なメロドラマにしろ、いくらなんでも「これはないでしょ?」と言いたくなります。
2020年当時「このまま世界はどうなってしまうのか?」という不安が世界中に満ちている中で、不安を煽るだけでメッセージ性も何もない、こんなくだらない映画が公開されたら、それは怒りたくなりますよ (^^;;;
パンデミックが終わった今となって観れば、単なる「バカバカしいB級映画」と笑って済ますこともできるかもしれませんけどね。
ホント、何故こんな映画を撮ろうと思ったのか謎。
「ヘレーネ&トーマス〜バディ潜入捜査〜」('21)
美しいビーチリゾートで起きたサーファー殺害事件の解決のために、夫婦を装って潜入捜査をすることになった男女2人の捜査官を描いたデンマークの全8話のラブサスペンスドラマです。主演はマリー・バッハ・ハンセン、カーステン・ビィヤーンルン、共演はボディル・ヨルゲンセン、イェスパ・アスホルト、カミーラ・ベンディックス、アマンダ・フリース・ユアゲンセン他。
面白くなくはなかった。
ミステリとしては、全8話も引っ張った割に真犯人の動機に説得力がなく、ありえなくはないけれど、ちょっと無理があって![]()
舞台を現代にせず、1960年代くらいに設定して、子や孫の世代ではなく、当事者本人の話で完結していれば、納得はいくんですけどね…。
そんなわけで、ミステリではなく、主人公の男女の「ラブコメ」と思って観た方が楽しめるかも (^^)
はじめのうちは「もっとルックスのいい役者を起用できなかったの?」と思えた2人が、観ていくうちにどんどん魅力的に見えてくるし、シリアスなミステリの合間に挟まれるラブコメ要素がいい息抜きにもなっていますし。
ただ、主人公2人が抱えている心の傷がちょっと安易だったかなという気も。確かに思春期の若者ではない、充分に成熟した大人の2人にそういう部分を設定することで物語に深みを与えようとした作り手の意図はわかりますし、ダメではないんですけど、あまりに「よくある」設定で陳腐に見えちゃったんです。これは単にこの手の映画やドラマを観過ぎているせいかもしれませんけどね (^o^)
それにしても、デンマーク人ってドイツ人にバカにされているという被害妄想と言うか、劣等感みたいなものがあるんですかね (^^;;;
「靴ひものロンド」('20)
夫の浮気の告白をきっかけにいったんは崩壊し、辛うじて元のさやに収まった一家4人の行く末をユーモアを交えて描いたイタリアのドラマ映画です。主演はアルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、共演はラウラ・モランテ、シルヴィオ・オルランド、ジョヴァンナ・メッツォジョルノ、アドリアーノ・ジャンニーニ他。
ストーリーそのものはドロドロした愛憎劇なのに、ヨーロッパ映画らしい皮肉たっぷりのユーモアとイタリア映画らしいカラッとした空気感で描いていて、本質的な問題は何一つ解決していないのに後味は悪くない。
同じ題材、同じ脚本を日本で映画化したら、もっとドロドロしちゃって後味もすっきりはしないんじゃないかなぁと思ったり。
夫婦のどちらの言い分もとてもとても理解はできるのですが、どうしても共感はできず、それよりも、そんな両親に翻弄され、傷つきながら育った2人の子どもの方にがっつり共感。
30年を経ても、心の傷が癒えていないことに変わりはないものの、姉と弟で過去の捉え方も違えば、両親への接し方も違う。割り切り方も違う。そのあたりがとてもリアルで、同じような心の傷を抱えたまま大人になった人たちにとって、この映画は一種のセラピー効果があるようにも感じました。
「ランユー」('01)
民主化運動が高まっていた1980年代末から1990年代末までの中国・北京を舞台に、バイセクシャルのプレイボーイと苦学生の男性の愛を苦悩と葛藤とともに描いた恋愛映画です。主演はフー・ジュン、共演はリウ・イエ、スー・ジン、リー・ホァディアオ、ルー・ファン他。
王道のメロドラマ。
主人公の「運命の恋人」が同性である点を除けば、昔ながらの「身分違いの恋」を描いた定番の物語。しかも、2人の関係を友人はもちろん、妹夫婦も承知していて、誰もその関係を否定も非難もしないのがいい。
ただ、20世紀の中国が舞台で、しかもこの映画が公開されたのが2001年だから仕方ないとは言え、この結末は「もういいよ」という感じ。そういう結末の物語は世の中に溢れていて食傷気味。少なくとも2020年代の今の感覚からすると相当に「古臭い」。
それでも、北京を舞台に大陸の役者を起用してこういう映画を作ることができたのは製作が香港だからですし、そして今の香港ではもはやこういう映画を作ることがほぼ不可能になったことに深い悲しみを感じます…。
「セイント・フランシス」('19)
人生に迷う34歳の女性が、ナニー(子守り)の仕事で出会った6歳の少女と心を通わすさまをユーモラスに描いたドラマ映画です。脚本・主演はケリー・オサリヴァン、共演はラモナ・エディス=ウィリアムズ、チャリン・アルバレス、リリー・モジェク、マックス・リプヒツ、ジム・トゥルー=フロスト他。
とにかくビックリ (@o@)
一般的にどんなに親しい関係にあっても男性にはまず見せることもなければ話すこともないであろう、女性の体のデリケートの話を赤裸々に描いていて、この映画を観た男性の多くがかなりショックを受けるんじゃないかと思います。
そして何より、アメリカでこの映画が作られ、一般公開されたことにビックリ。
個人の自由を第一に尊重するとしながら、キリスト教的価値観に基づく差別や迫害を平気でするキリスト教原理主義者が非常に多いアメリカで、おそらく保守的な州では上映すらできなかっただろうなと思いつつも、この映画が作られて上映されただけでも驚き。脚本・主演のケリー・オサリヴァンはもちろん、彼女のパートナーで監督のアレックス・トンプソンの「勇気」には感服するばかり。
あまりに赤裸々に描きすぎているので、おそらく日本でも、男性だけでなく女性でも、この映画に対して嫌悪感を抱く人も少なくないとは思いますが、それでも男女問わず、大人なら誰もが1度は観るべき映画だと思います。


