「ベイビー・ブローカー」('22)
是枝裕和監督が新生児の売買を題材に韓国で撮影した社会派ドラマ映画です。主演はソン・ガンホさん、共演はカン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさん、イ・ジウンさん、イ・ジュヨンさん他。
伝統的な形態ではない、「新しい家族の形」を描きつつも、安易なハッピーエンドでもなければ、絶望的でもない希望のあるエンディングが![]()
そして何と言ってもソン・ガンホさんの素晴らしさ!!
これまで演じてきた役と同様、人情味あふれる「普通の韓国のおじさん」なのだけれど、実際にやっていることは人身売買という犯罪。それでも、金儲けのためだけでなく、愛情を持って赤ん坊の世話をしたり、赤ん坊のためにならない相手には断固として売らなかったりと、どこか共感を覚えてしまうところのある役柄を説得力を持って演じています。
そして特に印象的なのが、「不思議な家族」の中で彼が醸し出す、伝統的な意味での「母親」感!! 昔ながらの「父親」の雰囲気ではない。伝統的な「父親」像のイメージがあるソン・ガンホさんが「母親」を演じているのがとてもとても新鮮。ここもまた「新しい家族の形」なのかなと。
ただ、その主人公が最後に取る行動は、果たして物語として適切だったのか疑問。もちろん、「絶対にあり得ない」とは思わないし、これはこれでアリだとは思うのですが、この部分だけは作り手の「作為」を感じてしまって違和感が拭えないのです。それが引っかかってしまい、観終わった後にもやもやしたものが残ってしまったのは残念。
「ロスト・シンボル」('21)
ベストセラー作家ダン・ブラウンによる「ロバート・ラングドン」シリーズで映画化されていなかった第3作を原作とし、若き日のラングドン教授が秘密結社フリーメイソンを巡る謎を追う姿を描いた全10話のテレビシリーズです。主演はアシュリー・ズーカーマン、共演はヴァロリー・カリー、ボー・ナップ、エディ・イザード、リック・ゴンザレス、スマリー・モンタノ他。
→ Wikipedia「ロスト・シンボル (2021年のドラマ)」
ダン・ブラウンらしい「陰謀論が大好きな人」向けの物語は、最終的にそれまでの話を全否定するような結末を含め、娯楽作品としてはそれなりに楽しめたので観て損したということはないです。
が、全10話はあまりに長すぎ。
各話に山場を無理やり盛り込んでいるせいでペースがおかしいし、水増し感でいっぱい。陳腐なボードゲームやテレビゲームみたいな展開も、それ自体は悪くないですが、あまりに何度も連続すると退屈なだけ。
エピローグは明らかに続編を想定していますが、本作の評判がイマイチだったのか、続編の計画は立ち消えに。仕方ないとは思いますが、キャストは悪くないだけにちょっと残念。
「ブレット・トレイン」('22)
伊坂幸太郎さんの小説「マリアビートル」を原作とし、日本の新幹線で世界の犯罪者たちがバトルを展開するさまを描いたコメディアクション映画です。主演はブラッド・ピット、共演はジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、マイケル・シャノン、サンドラ・ブロック、マシ・オカ他。日本からは真田広之さんが出演しています。
映画館で観るべきだった orz
伊坂幸太郎さんの小説は、昔はちょくちょく読んでいましたが、最近はすっかりご無沙汰。この原作も未読。
そもそも伊坂幸太郎さんの小説は日本を舞台にして登場人物のほとんどが日本人でも、どこか無国籍な雰囲気があるので、ハリウッドでの映画化に違和感はないだろうなと予想はしていましたが、その予想通りに違和感はなし。日本の描写は確かにかなり変ですが、「伊坂幸太郎ワールド」の描き方の1つとしてはアリだと思います。
そして何より登場人物たちが魅力的で、特に蜜柑と檸檬のコンビは、クレイジーな悪党ではありますが、その存在感と魅力は主人公を圧倒していて、この2人を同じ役者で主人公にしたスピンオフが観たくなるほど。
ただ、テンポが自分の呼吸と微妙にずれていて、それがストレスになって充分に楽しめなかったんですよね…。たぶん映画館で観ていれば、そのテンポに呼吸を合わせることができたように思えるので、それだけに映画館で観なかったことを激しく後悔…。
また、いつもなら強烈な悪役として化け物のような力強さを感じるマイケル・シャノンが、この映画では役の設定の「大物」感が全くなく、真田広之さんとの一騎打ちで真田さんを追い詰める展開に全く説得力を感じなかったのは本当に謎。いつものマイケル・シャノンなら、もっと説得力があったはずなのに…。
そんなわけで不満はいろいろあるのですが、それでも映画全体としては気軽に楽しめる「良い娯楽映画」でした (^^)v
「オフィサー・アンド・スパイ」('19)
19世紀末のフランスで実際に起きた冤罪事件「ドレフュス事件」をロマン・ポランスキー監督が映画化した歴史ドラマ映画です。主演はジャン・デュジャルダン、共演はルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー他。
物語としてのまとめ方が嫌い。
肝心の「冤罪が認められるまで」を敢えて描かずに、そこは文字で説明するだけというのはよくある構成ですし、それを良しとする映画人は多いのかもしれませんが、そういうまとめ方は本当に嫌い。「そこを描かなくてどうする?」と怒りの感情しか湧きません。主人公がドレフュスではないからだとしても、また、映像化してしまうと間延びしてしまうからとしても、このまとめ方は観客の感情を無視した作り手の自己満足としか思えず。せめて隠蔽を主導した将軍たちと真犯人のその後や世論の動きくらいは紹介してくれても良かったのではないかと。
それでも、「ドレフュス事件」を知らない人向けには充分にわかりやすくまとまっているので、この映画を撮った意味は間違いなくあると思います。
ただ、僕がこの映画で評価できるのは、衣裳や美術をはじめとするビジュアル面だけでした。
「ファイブ・デビルズ」('22)
特異な嗅覚を持つ少女がにおいをきっかけに過去へタイムリープし、若き日の母親の思いがけない秘密を知ることになるさまを描いたSFラブサスペンスです。主演はサリー・ドラメ、共演はアデル・エグザルコプロス、スワラ・エマティ、スタファ・ムベング、ダフネ・パタキア他。
母親の過去の秘密は早々にわかってしまうし、さほど意外な展開はなく、比較的予想通りの結末。
それでも、青緑色がかった色調の映像は美しくも不気味で雰囲気を盛り上げているし、何と言っても主人公の少女を演じたサリー・ドラメとミステリアスな叔母を演じたスワラ・エマティの目力の強さが強烈なインパクトで物語のファンタジー性に説得力を与えています。
ただ、母親の生き方にはちょっと疑問も。
ここから↓はネタバレ。
愛し合いながらも別れざるを得なかった恋人の兄、しかも友人の恋人である男性と結婚して子供を産むって、ありえなくはないけれど、かなりヒドい女 (^^;;;
「レッド・グラビティ」('20)
ロマン・キロット監督が2015年に制作し、数々の賞を受賞した17分の短編映画を監督自ら長編化し、「赤い月」と呼ばれる謎の惑星と地球の衝突の危機を描いたSF映画です。主演はヒューゴ・ベッカー、共演はジャン・レノ、ポール・アミ、リヤ・ウッサディ=レッセル、ブリュノ・ロシェ他。
何で長編映画にしちゃったんだろう?
元になった短編映画を観ていないので難ですが、この話は長編映画向きではないです。
物理学を完全に無視したファンタジーをSFとして描いたり、壮大な話を限られた登場人物と狭い世界で小さく描いたり、またストーリーに多少辻褄の合わないところがあったりしても、短編映画なら「そういう特殊な世界観」として受け入れることも可能ですが、そのまま長編映画にしてしまうと、そういう欠点が目立ってしまうので、そこはうまく補完するなり工夫すべきなのに、それを全くしていないんですから。
高く評価された短編映画が長編映画化されることはよくありますが、短編映画と長編映画の根本的な違いを考えずに、ただストーリーを水増しして長編化しても失敗するのは当たり前です。
「不都合な理想の夫婦」('20)
一見何不自由ない裕福な生活を送りながら、さらなる成功を追い求めて崩壊への道をたどる1組の野心家夫婦の姿を冷ややかに描いたサスペンス映画です。主演はジュード・ロウ、キャリー・クーン、共演はチャーリー・ショットウェル、ウーナ・ローシュ、アディール・アクタル他。
評価が高いのは納得。
実際に起きている事象だけを見ればドラマティックな展開はさほどないのに、心理描写だけでスリルを表現し、ドラマティックな展開満載のサスペンス映画のように見せる演出と演技は見事としか言いようがありません。
が、主人公夫婦のキャラクターがあまりに醜悪で観ていて苦痛しかなく、もう二度と観たいとは思えない映画でした。
もちろん、その感覚もまた作り手の意図通りなのでしょうし、その意味でも大いに成功している映画ではあります。
「KAPPEI カッペイ」('22)
若杉公徳さんのギャグ漫画「KAPPEI」を原作とし、終末の戦士として修業した末に東京に流れ着いた屈強な男たちが女子大学生をめぐって繰り広げるラブバトルを描いたアクションコメディです。主演は伊藤英明さん、共演は上白石萌歌さん、西畑大吾さん、大貫勇輔さん、古田新太さん、山本耕史さん、小澤征悦さん他。
伊藤英明さんをはじめ、キャストはノリノリで演じているし、作り手側が楽しんで撮った映画なんだろうなとは思います。実際、笑えるシーンはそれなりにありましたし、観て損したとまでは思いません。
が、原作未読なのでエラソーなことは言えないのですが、そもそもこの世界観は読者が自分のペースで読み進められる「漫画」だから成立する話で、実写はもちろんアニメーションであっても映像化すべきじゃないんじゃないかと。
笑えるシーンは確かにありますけど、映像として一方的に延々と同じテンションで見せられ続けるのはかなり厳しく、途中で飽きちゃう…。
原作の知名度アップ、売り上げアップのためのPR映像と割り切れば充分すぎる出来だとは思いますけどね。
「神々の深き欲望」('68)
神話的伝統を受けつぎ、現代文明と隔絶した南海の孤島を舞台に、因襲と近代化の狭間で葛藤する人々の姿を通して人間の根源的な生と性を描いた人間ドラマです。主演は三國連太郎さん、共演は河原崎長一郎さん、北村和夫さん、沖山秀子さん、松井康子さん、加藤嘉さん、小松方正さん、嵐寛寿郎さん他。
これは面白かった。
日本の神話はもちろん、ギリシャやローマ、エジプトなど世界各国に残る多神教の神話の世界を20世紀の日本に蘇らせたようなイメージ。
社会の近代化に伴って、神々が神としての力を失って「獣」と蔑まれ、民は信仰を捨てる…。つまり最終的に民による「神殺し」を描いた物語であり、そこで描かれる「神々」が極めて人間臭く、だらしなくて生々しいのがいい。
とにかく、多神教の神話が大好きなくせに、この映画の存在を今日まで知らなかった自分を説教したい気分。
3時間近い長尺ですが、全く飽きることなく観ることができました (^^)v
「さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について」('21)
児童文学で知られるドイツの作家エーリッヒ・ケストナーが大人向けの長編小説として発表した「ファビアン あるモラリストの物語」を原作とし、ナチスが台頭しつつあった1931年のベルリンを舞台に、作家志望の青年が不安と焦燥を抱えながら必死にもがく姿を描いた人間ドラマです。主演はトム・シリング、共演はザスキア・ローゼンダール、アルブレヒト・シュッフ、メレット・ベッカー、ペトラ・カルクチュケ他。
まさに「文芸」作品。
が、あまりに陳腐なストーリーで退屈。
冒頭の、現代のベルリンの地下鉄の駅からワンカット長回しで1931年のベルリンにそのまま繋がる演出には目を奪われましたし、1931年当時のベルリンの退廃的な風俗をはじめ、その時代の「空気」の表現は興味深く、映像化する意味はあったと思いますが、とにかく話がつまらないのです。主人公も魅力的なキャラクターではないし。
主人公が20代半ばくらいまでの本当の「若者」なら、まだ受け入れられたのですが、当時なら完全な「大人」であるはずの30代という設定が主人公のキャラクター造形として違和感ありまくりで最後までしっくり来なかったのです。演じるトム・シリング自体はギリギリ20代に見えなくもないルックスで、それもまた逆に違和感に繋がっていたように思います。彼が本当に20代の時に、20代の設定で、この物語の主人公を演じていれば、相当に印象は違っていたと思います。
そういう残念感しか残りませんでした。

