「ゴスフォード・パーク」('01)
- ゴスフォードパーク [DVD]/クリスティン・スコット=トーマス,マギー・スミス,エミリー・ワトソン
- ¥3,990
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1930年代の英国貴族の屋敷を舞台にした、ロバート・アルトマン監督による群像ミステリーです。アラン・ベイツやマギー・スミス、ヘレン・ミレンをはじめ、イギリスの名優が数多く出演しています。
→ Wikipedia「ゴスフォード・パーク」
面白かったです (^^)v
これまでもイギリス貴族の生態を赤裸々に描いた映画は数多くありますが、その「裏舞台」を並行して描いているのが新鮮で興味深く観ることができました。お屋敷の召使いはともかく、泊まりがけでやってくるゲストの従者がパーティの裏舞台でどんな働きをしているのか、実は以前から興味があったので、それをつぶさに見せてくれただけでも充分満足 (^^)
ただ、これを「ミステリー」として観ると、かなりショボイ出来です。殺人事件が起きるのは中盤以降ですし、その後もはっきり言ってしまえば「どーでもいい」扱い。これは予告編のコミカルな雰囲気が示すように、シリアスなミステリー映画ではなく、アガサ・クリスティ的英国ミステリーの「パロディ」と思って観るべき映画なのでしょう。そういうつもりで観れば、英国的シニカルでブラックな笑いが満載です。
また、この映画はとにかく登場人物が多いので、人間関係を把握するのにかなり苦労しますが、実際には、そのほとんどを把握しなくてもストーリー自体は問題なく理解できてしまう作りになっています。
とにかく、「超」階級社会であるイギリス社会の縮図がありありと描かれており、「イギリス人というもの」を理解するには最適な「教科書」かもしれません。もちろん描かれているのは20世紀初頭の話であり、現代とは大きく違っている部分もありますが、イギリス社会の根底にある「階級」というものを理解するには充分だと思います。
そして何と言っても、この映画で僕が学ぶことが出来たのは、イギリス人のゴシップ好きが階級社会においてちゃんと意味をなしていたこと。
まず、セレブは腹の内を絶対に当事者相手には明かしません。一方、召使いたちは普段の仕事の中でセレブたちの「秘密」をつぶさに見ています。召使い同士の井戸端会議はそのような秘密に関する情報交換。そして、召使いはそこでまとめて得られた情報を主人に知らせ、主人はその情報を元に、激しい駆け引きのある上流社会を生き抜いて行くというわけです。言ってみれば、召使いはセレブにとっての「情報屋」ってことなんですね。
さて、この映画で僕が注目したのは、イギリスの名優が数多く出演している中で数少ないアメリカ人俳優、しかも当時まだ売り出し中の若手だったライアン・フィリップ。
→ Wikipedia「ライアン・フィリップ」
'74年生まれの彼は、最近では「父親たちの星条旗」('06) などで見せたように、渋め (ちょっと地味目?) の二枚目俳優のイメージですが、この映画ではクラシックな美少年ぶりを見せています。当時、既に 20代半ばだったはずですが、ハリウッド俳優にしては小柄 (175cm?) な上、童顔なのでとても幼く見え、更にちょっと野暮ったさのあるところが、この映画での役柄に説得力を与えています。何となくイギリス人好みの古風な美少年顔というイメージでしょうか。
ライアン・フィリップ演じるヘンリー・デントンは一癖も二癖もある謎めいた青年。
ハリウッドの映画プロデューサーであるハゲの中年男ワイズマン (ボブ・バラバン) の従者として屋敷にやって来たが、とても従者とは思えないふてぶてしい態度。スコットランド出身と称し、スコットランドなまりでしゃべっているが、なまりも言動も不自然なところが目につく…。
(以降ネタバレ部分は白字で)
そんな、誰もがいぶかしむヘンリーの正体はワイズマンの「愛人」であるアメリカ人俳優。
また、その若さと美貌で、欲求不満の奥様に誘惑される一方で若いメイドにも積極的に手を出す女好き。
ライアン・フィリップの、美形だけれど、ちょっとあか抜けない顔立ちが「成り上がり者」である素性を示し、気の強そうな面差しが目的のためなら誰とでも寝る強かさを感じさせます。常に自信満々のふてぶてしさで、男であろうと女であろうと自分に魅了されない人間は世の中にいないと思い込んでいる勘違いっぷりをライアン・フィリップが巧みに演じています。
この映画には、1930年代に実在したイギリスの歌手兼映画俳優であるアイヴァー・ノヴェロが実名で登場しており、ワイズマンは友人のノヴェロの誘いで屋敷にやって来たという設定。一方、実際のノヴェロは同性愛者として有名で、当時も数多くの男性と浮き名を流していたそうです。これもヘンリーが金持ち男をたぶらかし、利用して生きているという設定に現実味を与えています。明確な描写はありませんでしたが、恐らくヘンリーはワイズマンだけでなく、ノヴェロとも「関係」があるという設定なのかもしれません。
→ Wikipedia「アイヴァー・ノヴェロ」
それにしてもライアン・フィリップはこの映画の前年に主演したバイオレンスアクション映画「誘拐犯」('00) でもW主演のベニチオ・デル・トロとの間に (裏設定で) 同性愛関係がある役を演じていましたが、当時の彼の「幼さの残った甘いルックス」にはそういう役が似合っていたんでしょうね。「父親たちの星条旗」('06) ではすっかり渋い大人になってしまっていましたが (^^)
因みに彼のデビュー作 (当時18歳) である昼メロ「One Life to Live」で演じた役は、アメリカの昼メロ史上、初となる「ゲイのティーンエイジャー」だったこともあって、かなり話題になったそうです。
こんな風にいろいろと裏設定がありそうな本作。興味が湧いたので DVD の特典映像にあるコメンタリーを観てみました。コメンタリーは、監督らによるものと脚本を担当したジュリアン・フェロウズによるものが 2種類収録されています。正直な感想を言えば、監督のコメンタリーはつまらなかったです。ありきたりの撮影裏話がちょろちょろあるだけで、沈黙してしまっていることが多いので本当に退屈。それに対し、ジュリアン・フェロウズのコメンタリーは非常に面白かったです (^^)
ジュリアン・フェロウズはもともと貴族階級の出身で、彼の大叔母にあたる人がまさにこの映画で描かれるような貴族生活を送っていたのだそうで、その大叔母の価値観やライフスタイルといったものが脚本にかなり活かされているとのこと。この映画がリアルなのも納得です。
また 2時間以上ある映画の最初から最後まで、各々のシーンの実際の映像だけでは分かりにくい裏設定や現代のイギリス人でも分からないような昔の貴族の習慣やお屋敷の使用人の仕事といったものを丁寧に解説してくれています。これは本当に「へぇ」となることばかり。このような解説なしに本編を観た後に、この解説を聴くと、再度じっくり本編を観たくなること請け合いです。
他にも DVD には特典映像として編集でカットされてしまった未公開映像も収録されていました。確かにカットしてもストーリー展開上さほど困らないシーンが多かったんですが、ライアン・フィリップ扮するヘンリーのカットシーンはヘンリーが「特殊な存在」であることをより明確に示すシーンが多かったように感じました。
単純に「面白い」というタイプの映画ではありませんが、2, 3回観ることで初めて面白さが分かるような、そんな「噛み締めるほどに味が出る」映画です (^^)v
因みに僕はコメンタリーを含め、5回観ましたが、観るたびに新たな発見がありました (^^)