大谷選手MVPインタビュー・水原通訳にみる好感度を高める英語スパイス | 石渡誠 Language Teaching for a Better World

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日本時間の今朝10時に、全米野球記者協会が選出する最優秀選手(MVP)が発表されましたね。下馬評通り、大谷選手は惜しくも圧倒的な2位でした。

 

多くのファンと同じく、私も個人的には色々と意見はありますが、大谷選手自身が昨年以上の活躍をしたことは誰もが認めるところです。そして何より「言葉の壁を超えて」ファンや選手達からも愛され続けていることも凄いことです。

 

さて「言葉の壁を超えて」と書いたものの、通訳の水原 一平さんが大きな役割を果たしていることは、ご承知の方も多いと思います。水原さん自身も、米国ファンに多く知られ愛されているのですが、その理由の一旦が、今日の会見でも見られた気がします。

 

この前のイチローのスピーチに続いて、また野球ネタで恐縮ですが、英語のお話を少ししますね。

 

最終発表直前、7分間のインタビューがありました。スポーツキャスターや元メジャーリーガー解説者からの質問に、誠実に少しユーモアも交えて答える大谷選手。水原さんも、いつも通り上手く通訳されていました。たとえば、一番最後に出た質問に対しての英訳は、このブログを読んでいる皆さんにも役にたつことがあるかと思います。(動画も観られますからご参考にしてください。)
 


 

(ハロルド・レイノルズ元野球選手からの)質問:

「5年前に米国来た時、世界のベスト選手達の中に入って、こんな(MVPを競う)活躍ができると想像していましたか。」

 

大谷選手の答え:

「そうですね。そういう風になりたいなと思っていましたし、そういう風なことを想像をして、毎日練習を頑張ってたので、(まぁ、)まずここに呼ばれていること自体特別なことですし、(まぁ)来年以降も、また数多くここにこれるように頑張りたいなと思います。」

 

水原さんの通訳:

"Yes, definitely something I was shooting for. (And I was having uh) That's one of my dreams to compete against the best and be invited to something like this.  So I'm honored to be interviewed with you guys right now.  So hopefully I'll be able to have more interviews down the road with you guys."

 

水原さんのこの英訳は大谷選手の発言そのものなので、また敢えてここで全文和訳はしませんが、ちょっと「人を好きにさせる」英語スパイスも効いているのです。

 

こちらを比較してみてください。

 

「まずここに呼ばれていること自体特別なこと」の英訳が、"So I'm honored to be interviewed with you guys right now"です。

 

「ここに呼ばれている」を単純に直訳して 、"So I'm honored to be here right now" としても通じます。でも何故?

 

ここで英語のレッスンポイント1としてあげるなら、『英語は具体性を好む』ことがあります。大谷選手が「ここ」と言っているのは、各リーグのMVP候補から上位3名のみが生出演してインタビューを受けていることを示しています。なので、be interviewed と訳しています。

 

そして英語のレッスンポイント2としてあげるなら、『You を上手く使う』ことです。"So I'm honored to be interviewed right now"だけでもいいのですが、with youと一言添えただけで、全く相手に与える印象が変わるわけです。日本語では You や I などは省略しがちなのですが、英語を話す時は、このような言葉を嫌味なく、上手く使うことができます。

 

さらに英語のレッスンポイント3としてあげるなら、『英語は水平関係を好む』ことです。水原通訳の英語には、with you guys と guysが入ることで一気に親近感を高めているのです。そして "So hopefully I'll be able to have more interviews down the road with you guys."と interviews with you guys と2回言われて、さらに親近感と嬉しさが聞き手には増したのです。

 

日本語なら先輩メジャーリーガーや司会者に対して、とても出てこない言葉かもしれませんが、それが違うのです。実は丁寧に言葉を選んでいるつもりでも、日本語的な感覚で英語を話すと意図せず、関係性に壁を作っている可能性もあるのです。

 

なので、下線部分の"shooting for”や"down the road" というカジュアルな口語表現にも注目です。それぞれ "aiming for" や"in the future"と言っても良いのですが、フォーマルな表現ばかりだと全体的に固い印象を与えてしまうかもしれません。『水平関係』を構築するのに、カジュアルな口語表現は役立ちます。

 

ということで、『You を上手く使う』『英語は水平関係を好む』ことなどが自然にできているのも、水原さんの「人を好きにさせる」英語スパイスではないでしょうか。

 

こちらが、その7分間のインタビューです。