『まいたち昇治の活動報告』第17回
今回は、前回に続き、H26年度の地方財政対策等について説明します。
● H26年度の地方一般歳出は約67.8兆円
H26年度の地方全体の一般歳出は、約67兆7,400億円(対前年度比約1兆3,200億円増)となっています。歳出では、社会保障費を中心とする一般行政経費が約33兆2,200億円(対前年度比1兆4,000億円増)と大幅に増えています。主な理由のひとつは、消費税・地方消費税の引上げによる増収分を活用して社会保障の充実に向けた措置を講ずるにあたり、それに伴う地方負担の増額分等が約3,500億円盛り込まれているためです。もうひとつの主な理由は、各地方団体が地域経済の活性化に取り組むための財政需要として「地域の元気創造事業費」が約3,500億円計上されているためです。なお、地域の元気創造事業費は、人口を基本に各団体の行革努力や経済活性化の成果指標(例:人件費削減率や製造品出荷額等)を反映して算定することとなっており、各地方団体の伸び率と全国の平均伸び率の差に応じて、需要額の割り増し等が行われます。
また、投資的経費についても、単独事業分も、国の公共事業費の増額と歩調を合わせ、約5兆2,300億円(対前年度比2,200億円増)に増加しています。なかでも、喫緊の課題である防災・減災対策として防災施設建設などに充てる「緊急防災・減災事業費」が、投資的経費の区分に位置づけられ、5,000億円(対前年度比約500億円増)計上されています。
次に、歳入ですが、地方団体にとって最も重要である地方税や地方交付税等の一般財源総額は約60兆3,600億円(対前年度比約6,000億円増)が確保されました。アベノミクスによる地方税・譲与税の増収額が約1兆4,000億円にのぼる一方で、地方交付税は、法律で決められたルールによる配分のほか、最終的な財源不足対策による増額分を反映した結果、約16兆8,900億円(対前年度比1,800億円減)となっています。
また、地方債は、建設地方債の発行は微増となったものの、地方交付税の先食いである臨時財政対策債の抑制(対前年度比約6,200億円減)の効果により、総額10兆5,600億円(対前年度比5,900億円減)に減少しています。
これらを俯瞰しますと、平成26年度の地方財政は、景気回復に必要な予算を確保することと、財政健全化も図るといった、相反する課題に一定程度応えたものになっているとの評価ができると思われます。いずれにしても、地方全体の景気回復は未だ道半ばの状況であるため、引き続き経済情勢等を見極めつつ、追加の経済対策の実施を含め、適切に対応してまいりたいと思います。
最後に、H26年度の地方財政を編成するにあたり主なトピックスとなった、①歳出特別枠と交付税の別枠加算、②地方法人税の交付税原資化、③公共施設等の老朽化対策について取り上げます。
● 歳出特別枠と別枠加算
「H26年度予算編成の基本方針」(H25年12月12日、閣議決定)の地方財政の分野では、歳出特別枠と別枠加算の扱いについて、「経済再生に合わせ、リーマンショック後の危機対応モードから平時モードへの切替えを進めていく必要がある。このため、歳出特別枠や地方交付税の別枠加算を見直すなど、歳入面・歳出面における改革を進めていく」とされていました。
歳出特別枠については、「地域経済基盤強化・雇用等対策費」として1兆1,950億円(対前年度比3,000億円減)が計上され、一般行政経費の中の「地域の元気創造事業」への振替分3,000億円を含めると、実質的に前年度の水準が維持されたかたちとなっています。
そもそも歳出特別枠は、リーマンショックにともなう著しい景気後退を受け、臨時異例の対応として実施された経緯があり、景気回復とともに縮減すべきとの主張が財務省からなされていました。しかし、多くの地方団体は、税収もリーマン以前の水準まで未だ回復していない状況の中、臨時的措置である歳出特別枠により、雇用対策や地域経済の基盤強化のみならず、老朽化する社会資本の維持管理、空き家対策などの新しい行政需要も含め、未だ地域活性化を図る必要に迫られています。
こうした状況の中で、現行の歳出特別枠を廃止・縮小することになれば、地方の景気回復に水を差す恐れが高いため、何とか前年度と同水準が確保されることになりました。
一方、別枠加算については、地方税の増収状況を踏まえ、3,800億円縮減され、6,100億円になりました。本来、財源不足に対しては、法定率の引上げで交付税原資を確保すべきところですが、国の財政事情も厳しく、法定率の引上げで対応できないために、「別枠加算」という便法が講じられてきました。
歳出特別枠の削減圧力と同様、別枠加算を巡っても、景気回復基調を踏まえて財務省が大幅な縮減を要求してきましたが、結局のところ、別枠加算で対処するか、臨時財政対策債の増額により対処するかの問題ではありますが、最終的には、一部を縮小しつつ、必要額が確保された格好となり、地方財政に悪影響が生じないよう配慮されています。
● 地方税財源の偏在問題
「H26年度予算編成の基本方針」(H25年12月12日、閣議決定)の中で、地方法人課税については、「地方法人課税のあり方を見直し、地方公共団体の財政運営に配慮しつつ、地域間の税源偏在の是正の方策を講じる」と記述されていました。
地域間の税源の偏在性を是正し、財政力格差の縮小を図るため、地方税である法人住民税法人税割について、以下の内容の改正が決まりました。なお、これまで国税として臨時的に措置されていた地方法人特別税は、その規模を1/3に縮小して地方の法人事業税へ同時並行で復元がなされています。
1) 法人住民税法人税割の税率の引下げ
都道府県分の税率は、5.0%から3.2%へ1.8%引下げられ、市町村分の税率も、12.3%から9.7%へ2.6%引下げられます。
2) 地方法人税(国税)の創設
法人関係税は、地域間で最も偏在性が大きく、東京への税源の集中の主な要因となっています。この偏在性を是正し、各地方団体の財政力格差の縮小を図るため、法人住民税法人税割の税率を引下げ、その分に相当する、課税標準を法人税額とする地方法人税(国税)を創設することになりました。この税収全額を地方団体全体の固有財源である交付税特別会計に直接繰り入れ、地方交付税の原資にすることとなっています。(実質的に交付税の法定率の引上げの効果があります)。なお、今回の偏在是正の効果により生じる財源(交付税の不交付団体の減収分)を活用し、地方財政計画に見合いで歳出を計上することとされた点は、特に、交付税の交付団体にとっては、これまでよりも地域活性化に取り組みやすい環境が整備されることに繋がるため、大いに評価できます。
なお、改正後の税率はH26年10月1日以後に適用されることになります。H26年度の地方法人税の税収は、企業の事業期間の関係もあって僅少ですが、H27年度以降、本格的な是正効果が現れてきます。なお、28年度以降平年度化されたときの税収規模は0.5兆円程度見込まれているところです。
ところで、こうした地方法人課税の偏在是正に関する見直しに対し、地方法人税の収入が多い東京都等の大都市選出の国会議員が強く反発したのは記憶に新しいところです。昨年12月の自民党税制調査会の議論の場では、そうした大都市圏選出の国会議員から反対意見が次々に述べられました。とりわけ、交付税の不交付団体で、減収見込み額が最も多い東京都選出の国会議員は人数も多く、彼らが反対意見を繰り返し表明すると、議論の流れが変わってしまいそうなほどの勢いでした。こと地元の利害が直接絡むと、反対に終始するのは政治家の宿命なのでしょうか。標準的な行政サービスの提供能力をはるかに上回る財政力を持っている東京の財源・税源の偏在を是正することは悪いことなのでしょうか。日本という国は、大都市だけで成り立っているのではなく、中小規模の多くの地方の発展なくして、東京の持続的な発展もなく、東京の一極集中を是正することなくして、日本全体の活力再生はあり得ません。
今回、政治家の側から税制改正議論に加わることで、少なくとも東京は、国直轄にするか、より国からの関与を強めなければ、本当に中山間地域を抱える地方は衰退、消滅の一途をたどってしまうという危機感を感じました。
誰が今日の東京の繁栄を生みだし持続させてきたか、そのことを熟知している地方出身の国会議員のひとりとして、どうすれば東京一極集中を是正し、真の地域活性化を図れるのか等について、今後も真正面から向き合い、しっかり取り組んでまいります。
● 公共施設等の老朽化対策
各地方団体においては、過去に建設された大量の公共施設等が更新時期を迎えていましたが、その除却に対しては、基本的に地方債を発行できないため、除却する必要性・緊急性のある施設についても必要な現金が確保できないような状況が生じていました。
参考までに、これまでの地方財政の考え方として、国と同様、公共インフラ等の資産形成に結びつくものは建設地方債で整備し、資産形成に結びつかないものは赤字地方債として対処するといったように整理されてきました。また、赤字地方債については、法律で定めるもの以外を除き、基本的に認められるものではありませんでした。
しかしながら、現状においては、このような整理は限界に達しつつあります。特に税収の少ない過疎地域の地方団体においては、特に振興を図る必要があると整理され、近年、資産形成に結びつかないものでも、その地域の活性化につながるものであれば、一定の基準の範囲内で、特別の地方債の発行が認められるようになってきています。
繰り返しになりますが、現在、過疎地域に限らず、過去に建設された大量の公共施設等の更新に対応する緊急性、必要性が高まっています。この点、少し脱線してアメリカの例を挙げて説明します。アメリカでは、1929年の金融恐慌、それを発端とする不景気に対処するため、ニューディール政策により公共事業を推進し、多くの公共施設(いわゆるコンクリート)が建設されました。しかし、その公共施設が耐用年数を迎える1980年代に入り、橋桁落下等の痛ましい事故があちこちで起こりました。コンクリートは、50年もすれば基本的に何もしなくても崩壊する危険性があるのです。日本ではどうでしょう。1960年代、70年代の高度経済成長期に多くの公共施設が建設されました。最近の中央道の天井板落下事故のように、まさに50年が経過してきた今、危険な公共施設が大幅に増えつつあります。アメリカのような痛ましい事故が起こらないよう、しっかりと対策を推進していくのはまさに「今でしょ!」と思いませんか。このように、公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進を要請する声が高まってきた中、政府として、必要な更新・維持管理計画を作成するための財政支援とともに、その計画の実施に基づく公共施設等の除却について、従来は資産形成もないので地方債の発行は認められませんでしたが(一部の公営企業を除く)、これについても地方債の発行を認めることとされたことは、大いに評価できると思います。
一部には、地方債の発行対象を拡大すれば、その分、キャッシュである交付税等が圧縮されるとの意見も根強くあるところです。これについては、地方債で対処すべき事業の洗い出しをはじめ、そもそもこれまでキャッシュがないためにできなくて財政需要に反映されていないものが存在するなど、様々な検証が必要と考えています。しかも、地方には、国にはない財政健全化法が既にあり、その範囲内において、地方団体の財政運営はもっと弾力的であっていいと思います。
引き続き、必要な一般財源総額の確保をはじめ、地方団体が円滑に財政運営を行えるよう微力を尽くしてまいります。