『平成28年度農林水産関係予算の概算要求(その3)』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』第49回 

 今回は、林業の概算要求等について説明します。

● 林業関係予算の概算要求は2,461億円

 H28年度の林業関係予算の概算要求は、H27当初予算より約498億円増の2,461億円です。森林整備事業や治山事業などの公共事業費が約312億円増の2,131億円と、概算要求の8割以上を占めていますが、そのなかでも森林整備事業は概算要求基準の枠一杯の対前年度比17.5%増の1,414億円が要求されています。

 森林整備事業では、施業の集約化を図り、間伐、路網整備等を推進するほか、森林吸収量の確保にむけた条件不利地域等における間伐や森林整備の低コスト化を推進します。とくに以下の施策の推進を要求しています。

・間伐や森林作業道の継続利用による効率的な間伐の推進
・伐採と造林の一貫作業システムの導入による森林整備の低コスト化の推進
・林業専用道の整備による防災機能の強化の推進


 森林吸収源の確保は、わが国が地球温暖化防止目標を達成するうえで欠かせない目標です。その目標値は、必要とされる森林吸収量を間伐実施面積に換算すると、年間52万ha(H25~32年度までの8年間の年平均)になります。そのうち、47万ha分の間伐等の予算が、森林整備事業と「次世代林業基盤づくり交付金」200億円で要求されています。

 次世代林業基盤づくり交付金とは、非公共事業の予算項目ですが、間伐・路網整備や木材による高層建築を可能とするCLT(直交集成板)等を製造する木材加工流通施設、木質バイオマス関連施設、苗木生産施設等の整備など地域の実情に応じた川上から川下までの取組を総合的に支援するものです。間伐材の供給力強化や路網整備、伐倒・搬出の支援を重点的に芽出しし、H27当初の27億円から大きく増額しているのが今回の特徴といえます。

 これまで森林吸収源対策の財源確保は、農林水産省の他部門とのバランスや概算要求の枠に縛られ、当初予算では十分に対応することができず、H21年度補正で“森林整備加速化・林業再生基金”が造成されて以降、補正予算を頼りになんとか地球温暖化対策にかかる日本の目標値を満たす水準の間伐をやってきました。しかし、毎回補正予算があるとは限らず、万一補正予算による財源手当がなされない場合、日本に課せられた、期待された地球温暖化対策の目標を達成することができなくなり、国際社会からの信用も失われます。いつまでも補正頼みでは不確実のため、今回の要求は、非公共の「次世代林業基盤づくり交付金」という項目ではありますが、間伐等を当初予算にしっかりと位置づけるという意味で画期的です。

 それでもなお、地球温暖化対策の目標を達成するためには、まだ5万ha分の間伐事業等の予算が足りず、新たな財源が必要な状況です。林野庁は昨年に引き続き、H28年度税制改正要望で「森林環境税」創設の要求を提出しているほか、排出源対策の財源となっている石油石炭税の一部を森林吸収源対策に充当すること等を要望しています。

 なお、再確認しますが、本年6月の骨太方針には、H27年度自民党税制改正大綱と同じ内容が以下のとおり引用されています。

「森林吸収源対策及び地方の地球温暖化対策に関する財源の確保について、財政面での対応、森林整備等に要する費用を国民全体で負担する措置等、新たな仕組みの導入に関し、森林整備等に係る受益と負担の関係に配意しつつ、COP21に向けた2020年以降の温室効果ガス削減目標の設定までに具体的な姿について結論を得る。」
 
 本年は、COP21で2020年以降の温室効果ガス削減目標が設定されるところ、上記に明記されたとおり、森林吸収源対策の安定的な財源確保に一定の決着をつける必要があります。財源確保にあたっては、新税の創設や石油石炭税の一部移譲や増税等が検討されていますが、石油石炭税の新たな増税や新税創設には、国民・企業負担の増が伴うだけに、相当難航することが予想されます。

 そこで、林野庁によれば、森林吸収源対策の目標達成に必要な追加財源は、単年度あたり当初予算ベースで1千億円程度ということですので、できる限り国民・企業負担に配慮しつつ、排出源・吸収源対策ともに責任ある取組の実行を可能とする財源対策を私なりに考えてみました。その概要は、以下のとおりです。

◎1千億円の財源確保の内訳
(1)石油石炭税の一般会計留保分から200~500億円程度
(2)エネルギー対策特別会計のうちのエネルギー需給勘定から500~800億円程度

 石油石炭税(石石税)を森林吸収源対策の財源とすることは、排出源対策として増税された石油業界等から抵抗が多いものの、現行以上の石石税の増税を行うのではなく、現行の石石税の財源の一部を活用しつつ、排出源対策を行っている国のエネルギー需給勘定全体として、大幅な財源不足に陥っている森林吸収源対策に活用するものです。

 ここで、エネルギー需給勘定の余剰金をみてみると、近年㉓約2,900億円㉔約3,700億円、㉕約4,900億円と、毎年度800~1200億円程度増加しています。主な内訳は、①排出源対策の不用額、②雑収入(石油公団承継株式配当金収入等)、③独法納付金収入(JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの一定サイクルに基づく納付金)です。

 排出源対策の毎年度の予算執行状況は、決算ベースで相当程度不用額が生じているため、毎年度一般会計で留保されている財源(300~900億円程度)のうち、200~500億円程度森林吸収源対策に回すことは可能と考えます。

 また、エネルギー需給勘定から500~800億円程度、毎年度の森林吸収源対策として充当したとしても、同勘定は、それらと同等額が毎年度増加する会計構造になっているため、適切な予算編成・決算管理を行っていけば、恒久的な活用が期待できます。

 仮に、エネルギー需給勘定の余剰金が、毎年度一定程度(数百億円程度?)減少することになるとしても、現在の余剰金の規模(㉕決算:約4,900億円。)を考慮すると、数十年はこの仕組みで実行可能ですし、実行状況を見極めつつ、5年毎に見直しを検討し、必要に応じて見直しを図ることで十分対応可能と考えます。

 いずれにしても、森林吸収源対策の財源確保を巡り、どのような方策が理想的なのか、現実的に実行可能な方策は何か等をよく考えながら、年末に向けて適切に対応して参りたいと思います。

● 花粉症対策と林業の低コスト化の推進

 次世代林業基盤づくり交付金以外の非公共では、次の施策で拡充が図られています。

* 花粉発生源対策の推進 5億5,300万円(H27当初、1億1,700万円)
 スギの花粉症対策苗木の供給量はH17年度の9万本からH25年度には201万本と約22倍に増加していますが、スギ苗木供給量全体に占める割合はまだ約1割という状況です。そこで、以下の3つの事業が新規で盛り込まれています。
・花粉症対策苗木への植替えの促進 1億円(新規)
・次世代苗木生産システムの構築 2億8,900万円(新規)
・種子の生産拡大及び流通促進 3,300万円(新規)

* シカによる森林被害緊急対策事業 5億円(1億5,000万円)
 シカ被害が深刻な地域において、林業関係者が主体となって行う広域的な囲いわな等による捕獲や防護柵設置等の防除活動等をモデル的に実施。

* 施業集約化の加速化 4億8,700万円(3億2,400万円)
 施業集約化にむけて、森林所有者・境界の明確化の取組を支援するとともに、航空レーザーの活用等による森林情報の収集のモデルを構築。

* 持続的な森林・林業経営対策 15億3,000万円(11億5,100万円)
 以下の2つの事業が新規で盛り込まれています。
・地域林業・木材産業機械設備リース導入支援事業 2億3,400万円(新規)
高性能林業機械、木材加工設備、小型林業機械等のリースによる導入を支援。
・多様な木材需要に応える新たな再造林樹種等の導入実証事業 1千万円(新規)
林業収益性の高い早期成長が可能な樹種について、国有林内への試験植栽による施業体系の構築など造林技術の開発等を実施。