『平成28年度農林水産関係予算の概算要求(その2)』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』第48回

今回は、畜産・酪農、水産、林業の概算要求を説明します。

● 畜産・酪農予算の概算要求は2,260億円

 畜産・酪農分野の概算要求は、H27当初よりも約334億円増の約2,260億円です。畜産・酪農で緊急性が高いのは、日豪経済連携協定(EPA)の発効、さらに大筋合意に達したTPP(環太平洋経済連携協定)の将来の発効を見据えた、畜産・酪農家の経営安定化と国際競争力の強化です。近年、輸入飼料の高騰や多額の設備更新投資負担などを背景に、わが国の畜産・酪農家数は減少傾向にありますが、ここ数年、TPP交渉等の成り行きが不透明だったことから、将来に希望を持てず、とくに北海道では若い世代でも、畜産・酪農から離れる農家が目立ってきました。

 そこで概算要求は、①「畜産・酪農経営安定対策」1,708億円(H27当初1,708億円)により、離農を抑え、意欲ある生産者が経営を継続できる環境を整備するとともに、②「畜産・酪農の収益性向上」354億円(同、76億円)により、昨年度からの畜産クラスター構築事業を一段と推進し、地域ぐるみで高収益な畜産への転換、生産性の向上等を支援する、といった考え方で組み立てられています。

新規事業などの注目すべき事業は以下のとおりです。

[畜産・酪農の収益性向上]
・畜産収益力強化対策 350億円(H27当初、75億円)
要求金額が4倍を超える規模になっており、農林水産省は非常に意欲的です。畜産クラスター計画に位置付けられた中心的な経営体が導入する、①搾乳ロボット(複数導入も可)、えさ寄せロボット、飼料収穫機械など収益性向上に必要な機械のリース補助や②牛舎や畜産環境対策施設等の整備を支援する。なお、「家畜の導入」が②の対象に新しく盛り込まれています。
・国産畜産物の新たな市場獲得のための技術開発促進事業 3億円(新規)
国産畜産物を活用した新商品(例:生ハム、ソーセージ、鶏肉・鶏卵加工品、チーズ)の開発を可能とする生産加工技術の開発等を支援する

[畜産・酪農の生産力強化]
・畜産・酪農生産力強化対策事業 20億円(新規)
受精卵移植・性判別技術等を活用し、①肉が高値で売れる和牛の子牛の生産拡大、②優良な乳用種後継雌牛の効率的な確保を図る取組を支援。また、繁殖雌牛の歩数や体温等から人工授精の適期等を判断する機器(発情発見装置)の導入などICTを活用した繁殖性の向上を図るための取組を支援。

[自給飼料の生産拡大]
・草地難防除雑草駆除対策 6億円(新規)
飼料増産総合対策の一環として、従来の草地改良では防除が難しい難防除雑草の駆除を集中的に実施するため、高位生産草地への転換を図る取組を支援。

● 人口減少社会のもとで変化する補助金の交付条件

 ところで、上述の「畜産収益力強化対策」で言及した、畜産クラスター計画に位置付けられた中心的な経営体とは、どのような生産者のことでしょうか。それは地域の畜産農家、新規参入者、飼料生産組織など畜産関係者のいずれでもよいのですが、地域ぐるみで畜産クラスター(高収益型畜産体制)を構築する推進役でなければなりません。その地域を担う複数の畜産農家が結集して新しい経営体が組織されるのがこれまで理想的、あるいは望ましい姿と考えられてきました。

 しかし、畜産農家の戸数減少に伴い、複数の生産者の集約化・グループ化を交付の条件とする考え方は地域の実情と合わず、今では一つの経営体でも交付対象とするように変わっています。これは非常に大きな補助金交付に関する考え方の変化と言えるでしょう。というのは、従来財政当局は、補助金が個人財産の増加に資することがないよう、補助金の交付要件の厳格化を求め、農林水産省は交付要件にグループ化や集約化・集落経営を加えることによって、その要求に応えてきました。今後、農林水産業のあらゆる分野で補助金の交付要件の考え方を抜本的に考え直す必要があるかもしれません。その際には、グループ化や集約化よりもむしろ、一つの経営体の経営持続可能性の評価が重視されていくことが予想されます。

● 水産予算の概算要求は1,543億円

 水産予算の概算要求は、H27当初を266億円上回る1,543億円です。構成は、水産基盤整備などの公共事業が120億円増の841億円で、それ以外の非公共が146億円増の702億円となっています。水産日本の復活のためには、担い手、船、資源(漁場)の3つの充実が不可欠で、さらに輸出の促進も強化しないと国際市場で存在感を示せません。今回の概算要求では、この問題意識が目玉政策や新規事業に適切に反映されています。

 一つ目の目玉は、資源管理・資源調査の強化(概算要求46億円;H27当初37億円)です。自民党水産部会では、“資源管理は、漁業及び関連産業や浜の活力再生にとり、魚を持続的に獲るための基本となる役割を担うもの”との基本的考え方の下、浜田靖一衆議院議員を座長とする「資源管理WT」を立ち上げ、H26年11月からH27年5月まで7回にわたって会合を開き、水産庁、専門家並びに現場の生産者から現状ヒアリングを実施し、議論をとりまとめました。そのなかで重要な論点は以下のとおりです。

1)資源調査・研究の充実
①資源の水準や動向、海洋環境と魚群分布との関係、未成魚や成魚など異なる成長段階における漁獲が資源へ与えるインパクト等について、更なるデータの蓄積と精細な解析を行い、資源評価の精度向上が不可欠。
②資源調査の結果をもとに、資源状況や必要な管理措置について、漁業者や国民の納得が不可欠。
③国、都道府県、試験研究機関等の能力向上、調査・研究の充実を図るべき。

2)TAC(漁獲可能量)制度等による管理の充実
①強度の資源管理措置を講じた場合の経営面の影響への激変緩和について、資源管理・収入安定対策の加入促進を図るとともに、必要に応じて、その他の支援策を検討すべき。
②外国漁船も利用する国際資源については、科学的根拠に基づく適切な管理を推進するため、関係国との資源状況の認識の共有を図るとともに、地域漁業管理機関において、わが国がさらにリーダーシップを発揮することにより、適切な資源管理を進めるべき。

 「資源管理・資源調査の強化」の内訳をみると主な事業は以下のとおりで、とりまとめの内容がよく反映されています。

〔資源調査・研究の充実〕
*わが国周辺水産資源調査・評価推進事業 20億5,000万円(新規)
主要魚種について、新たに漁船を活用したデータ収集体制を構築し、資源調査・評価を強化するとともに、より的確な漁場形成・漁況予測を行う。また、資源評価の精度向上を図るための資源変動要因解析及び情報収集の取組を支援する
*国際資源調査・評価推進事業 14億5,000万円(新規)
まぐろ類等や新たにNPFC条約(北太平洋漁業資源保護条約)で管理されるサンマ等の主要な国際資源について、二国間交渉や国際会議に対応するための資源調査・評価等を実施。また、太平洋クロマグロの親魚量や加入量の早期把握等により、評価精度を向上させる

〔適切な資源管理の推進〕
*広域資源管理強化推進事業 1億6,000万円(拡充)
漁獲可能量(TAC)制度の的確な運用や個別割当(IQ)方式等への対応を図るため、漁獲情報をリアルタイムで収集・分析を行うためのシステムを整備する。また、わが国排他的経済水域で操業する外国漁船に係る漁獲情報の管理の強化等を実施。
*包括的な国際資源管理体制構築事業 4億4,000万円(拡充)
国際的に厳しく資源管理されているかつお・まぐろ類、サンマ等について、(i)漁獲報告の電子化等によるわが国漁船の漁獲管理、(ii)科学データ収集のための体制強化、(iii)DNA検査の強化等による輸入水産物の適正化、等を包括的に実施。

● 浜の担い手漁船リースモデル事業

 もうひとつの目玉は、漁船リース支援事業です。担い手と船に対する対策の充実に該当します。浜の担い手・地域活性化対策(概算要求15億円;H27当初、10億円)のなかで、「浜の担い手漁船リースモデル事業」として新規で始まる事業です。3億円の要求が盛り込まれ、事業実施期間は3年間(H28~30年度)のモデル事業です。

 全国の漁村地域では、水産業の成長産業化を目指し、浜ごとの創意工夫により、所得向上にむけた「浜の活力再生プラン」を作成し、それぞれの地域の活性化を推進しています。一方、漁業者の高齢化や漁業者数の減少が進むなか、生産設備である漁船の高船齢化・老朽化も同時に進行しています。そのため、漁村の将来の中核的な担い手に対して漁船をスムーズに継承させ、水産業・漁村の持続的発展を図る必要があります。そこで、モデル事業として、リース方式での中古漁船等の継承を支援するものです。

 リース対象となる船は、中古船でなく新船でもよいのですが、年間3億円の予算制約を考えると、中古船にならざるを得ず、隻数は年20隻程度が限度と思われます。もっとも、全漁連の調査によると、漁船リースを希望する担い手漁船は全国で最大5,000隻に上ると見られ、年間20隻程度ではモデル事業とはいえ桁が違いすぎます。私としては、早急にモデル事業から本事業化を図り、予算も必要額を確保して計画的に進めていかなければ、中核的な担い手がいなくなり、水産日本の復活も覚束ないことを強く主張してまいりたいと思います。

● 新規事業

浜の担い手漁船リースモデル事業のほかに、新しく次の事業が盛り込まれています。

[漁業構造改革の推進]
・漁業経営基盤強化金融支援事業 8,400万円
認定漁業者が漁船の建造や養殖施設の取得等のために漁業近代化資金、日本政策金融公庫資金等を借り入れる際に利子助成(最大2%)を行うことにより、これら借入金の実質無利子化を図る。総額66億円の融資枠を設定。
・漁業者保証円滑化対策事業 4億1,600万円(保証枠 251億円)
i)積極的な設備投資の促進を図るため、保証人を不要とし、担保は漁業関係資産に限る融資を支援。
ii)保証業務を安定的かつ持続的に実施し得る体制を整備するため、漁業信用基金協会の広域合併の取組を支援。

[水産物の加工・流通・輸出対策]
・水産物流通改革モデル事業 7,900万円
水産物のトレーサビリティの導入にむけ、産地市場等における調査や、履歴情報システムの構築に必要なマニュアルの作成・普及啓発等を実施。
・輸出証明書発行電子化事業 4,100万円
水産物輸出に必要な証明書の発効の迅速化や偽造防止を図るため、国が申請から発行までの業務を電子化。

[外国漁船操業対策等]
・韓国・中国等外国漁船操業対策事業 25億円
漁業協同組合等が漁船を用いて行う、(1)漁業者による外国漁船の投棄漁具等の回収・処分、(2)外国漁船の操業状況の調査・監視等、(3)外国漁船による被害漁具等の復旧支援、に要する経費(用船料、燃油、処分費等)を支援。

 次回は林業関係を取り上げたいと思います。