『ふるさと納税制度について』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』第18回 

 前回と前々回は、地方財政について説明し、そのなかで大都市圏と地方との間の税源偏在の問題等を取り上げました。その議論との関連で、今回は「ふるさと納税制度」について説明します。

● ふるさと納税の導入経緯

「ふるさと納税」導入に関する論議は、H19年5月1日の菅義偉総務大臣(当時)の以下のような内容の発言がきっかけで始まりました。すなわち、

「多くの国民が、地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税する。その結果、都会の地方団体は税収を得るが、彼らを育んだ「ふるさと」の地方団体には税収はない。
そこで、今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた「ふるさと」に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」

 
という問題提起でした。

この発言は大きな反響を呼びました。ふるさとを離れて都会に出て頑張っている方々の多くは、ふるさとを大切に大切に想っていると思います。そのような中、この制度は、「ふるさと」を応援したい、できれば恩返ししたいという人々の心の琴線に触れたのでしょう。これを機に、多くの人々から共感が寄せられ、メディアでも頻繁に報道されました。国民、特に地方出身の都会生活者にとって、「ふるさと納税」は少なからず大きな関心事になっています。

H19年6月にふるさと納税研究会(座長:島田晴雄・千葉商科大学学長)が設けられ、のべ9回の会合での検討を経て、寄附金税制の応用による「ふるさと納税」制度案が固まります。これを受けて、H20年度税制改正により、県や市町村の地方団体に対する寄附を「ふるさと納税」として、個人住民税から一定額を控除する「ふるさと納税制度」が創設され、H21年度分の個人住民税から実際の運用が開始されました。

● ふるさと納税の制度概要

 ふるさと納税の仕組みは以下のとおりです。

第一に、都道府県・市区町村に対して寄附(ふるさと納税)をすると、寄附金のうち2,000円を超える部分について、一定の上限まで、原則として所得税・個人住民税から全額が控除されます。例えば、年収700万円のサラリーマン(夫婦子なし)が、3万円を寄附すると、2,000円を除く2万8,000円が控除されます。控除の上限は住民税の約1割が目安です。

第二に、控除を受けるためには、寄附をした翌年に、確定申告をする必要があります。住所地の所管税務署へ、寄附をした自治体から得た受領書(寄附証明書)を添付した確定申告書類を提出します。すると、まず税務署から、寄附をした年の所得税額から一定額が還付されます。その後、住所地の市区町村で、寄附をした年の翌年の個人住民税が一定額減額されます。国税部分(所得税)の還付時期と地方税部分(個人住民税)の減額時期が別々ですが、合計すると必要額(先ほどの例では2万8,000円)が減額されたことが確認できます。

なお、ふるさと納税と呼ばれますが、自分の生まれ故郷だけでなく、応援したい自治体を自由に選べて、どの自治体に対する寄附でも対象となります。例えば、私の故郷である鳥取県西伯郡日吉津村や鳥取県への寄附も、そして、私の仕事の関係で縁ができた福岡県や山口県下関市、新潟県への寄附も対象となります。

● あらためて認識された「ふるさと」の大切さ

 ふるさと納税制度はH21年度の運用開始から5年経ちました。この間の利用実績を紹介しつつ、あらためてこの制度の意義を考えたいと思いますが、まず導入前の評価を振り返っておきましょう。

ふるさと納税研究会報告書によると、当時、ふるさと納税制度は以下の三点でとくに大きな意義があると評価されていました。

第一は、納税者の選択です。自分で納税先を選ぶ機会があると、納税者はあらためて税の意味と意義を考えます。この制度は、国民が納税の大切さを自覚する貴重な機会となるのです。

第二は、「ふるさと」の大切さ、豊かな自然や食の恵みのほか、家族等への感謝・恩返しを自覚するきっかけになることです。都会に食料を供給し、森林や河川など貴重な自然環境を守り、都会の繁栄を支えているのは地方なのです。にもかかわらず、都会生まれ、都会育ちの有識者達の一部は、相変わらず地方が果たしている役割を忘れがちな議論をしがちなのが残念なところです。

第三は、自治意識の進化です。ふるさと納税制度は、地域間・自治体間競争を誘発する効果があります。ふるさと納税で得た寄附がどのように使われるか、それによってどのような成果が期待されるかなど、しっかりと説明責任を果たしていく必要があるとともに、自らの地域の良さを見つめ直し、今後の自治のあり方を問う機会になるなど、一層の地域活性化を図る重要な契機になります。

当時の議論で注目すべき点は、ふるさと納税が都市と地方の税収格差の是正に資するとの期待もありましたが、上記の三点、とりわけ「ふるさと」の大切さを再認識することが非常に重要であったと考えます。

● これまでの利用実績と評価

 それでは、ふるさと納税制度の5年間の利用実績を確認しましょう。

総務省によると、制度導入当初のH21年度は、ふるさと納税をした人数は3万3,000人余りで、寄附金額合計は約70億円でした。その後、寄附に対するお礼の特産品等がテレビや雑誌で取り上げられたことにより関心が一層高まり、H25年度には10万人を突破し、金額も約130億円へ増加しました。

このような利用者数の拡大をみると、この制度が国民の納税の意義を自覚する貴重な機会として少しずつ定着しつつあるようにみえます。また、地方出身者のふるさとへの寄附という側面からみると、H25年度の利用者の4割強(約4万6,000人)が1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)、さらに大阪、愛知の府県を加えると6割弱(約6万1,000人)が大都市圏の住民で占められていることを勘案すると、都市住民にふるさとの大切さが少なからず伝わっていることが見て取れるかと思います。

● 大都市の税収減の問題について

 ところで、ふるさと納税制度の創設前、一部の大都市圏の首長は、同制度の導入は個人住民税収の大幅な減少をもたらすと危惧し、寄附の上限額をもっと低く抑えるよう主張していました。実際はどの程度の影響がみられたのでしょうか。例として、大都市圏である1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)の合計が全国に占める割合を比べてみます。

個人住民税の税収は、全国で約12兆円の水準が毎年度確保されており、1都3県は実にその中の約4割の4.5兆円も占めています。ざっくりいえば、1都3県の税収の1割である約4,500億円程度税額控除可能として、実際は、5年平均で約30億円の水準に止まっています。率にして約0.7%であり、1都3県にとってはほとんど影響のない水準ではないかと思われます。

●地域活性化を刺激する、ふるさと納税の効果

 ふるさと納税を獲得するための自治体間の競争は、寄付金額の増収という枠を超えて、いまや地域活性化のきっかけ(起爆剤)になっています。各地の自治体がみずからの地域をPRし、地元の特色づくりや特産品の開発等に汗を流して努力する姿、そして自治体が住民と直接向き合っていく姿は、大変好ましい姿だと思います。

例えば、鳥取県では、「ふるさと納税パートナー企業」に協力いただき、ふるさと納税で県へ1万円以上の寄附をされた方等にお礼の品を贈呈していますが、その贈呈品は県特産の米、野菜、牛肉、水産加工品、酒等、50余りのセットから選択できるようになっています。ふるさとへの応援者がいるということ自体が、農畜産物・水産物の生産者や食品メーカーの方々の生産意欲、販売意欲を刺激し、地元企業による新商品の企画・開発を後押しする、という心理的効果も見逃せません。私もそうですが、人は、男女・年齢を問わず、他者とつながり、心の交流をはかり、応援されると、やる気がどんどん湧いてくるものです。私は、こうした自治体の切磋琢磨をきっかけに、一次産業の従事者や地元企業によるやる気、創意工夫、挑戦が広がっていけば、地方の活力はかなり蘇ってくるものと期待しています。

私としては、住民税の地域社会の会費としての性格を踏まえつつも、都市と地方の財政力格差の是正や地域活性化の観点、さらには、住民の方の重税感の緩和の観点等から、例えば、現在の上限額の1割を2割に引き上げるなど、上限額の引き上げや手続きの一層の簡素化に向けて、一定の見直しを行う時期にきていると考えており、引き続き、関係者や国民のご意見をお聞きしながら、制度の改善に努めてまいります。