こんにちは、リブラです。
今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第9章の解説です。
*排尿にチューブが必要だった男性
第二次世界大戦の徴兵があった時期、エリクソンは入隊審査の検査官を務めていました。
そこで、入隊希望の男性が深刻な悩みを打ち明けました。
彼は25cmほどの長さのチューブを装着しないと排尿できないというのです。
彼は子どものころ、近くのゴルフ場の木の塀にあった節穴からいつも放尿していました。
ところが排尿中にそれを見咎められ、ひどく罰を与えられました。
以来、その出来事がトラウマになり、自分で持参したチューブを使わないと排尿できなくなりました。
エリクソンは催眠後の暗示で「排尿用に、30cmの竹を見つけて目盛りを振るように」と勧め、その使い方を説明しました。
「1日か2日したら、あるいは1週間か2週間したら、竹はどのくらいの長さでなくちゃいけないのだろうかと思うかもしれませんし、1cmか2cm切り落とすことができるだろうかと思うかもしれません」
「全然急いてやる必要はありません。何曜日に竹を縮めることになるのだろうと思うだけでもいいのです」
「現時点では軍隊には入れないでしょう。
しかし、3か月したら、特別な精神鑑定を受けるための呼び出しが手配されています。
そのときはきっと軍隊に受け入れてもらえるはずです」と告げ、
このトランス体験(催眠)について、健忘の暗示を与えました。
3か月後、その男性は徴兵委員会からエリクソンのところに送られてきました。
そのときの彼の報告によれば、彼は自分が竹を(無意識に)買ったことにびっくりし、当惑したといいました。
それでも、不意にエリクソンの暗示を思い出し、問題を解決できるという希望が湧いてきたのです。
1週間後に竹を2cmほど切り落とし、その3日後さらに5cm切り落とし、1か月が過ぎるころには、2cmくらいの竹のリングになっていました。
そして、排尿時に竹リングを支えている指がチューブの役割を果たしていることに気づき、「以降、竹リングを捨てて、自由に心地良く用を足すことに大きな喜びを感じるようになった」と話しました。
エリクソンは、「多くの問題行動は行動の習慣パターンに過ぎず、元の目的はもはや失われている」と考えていました。
だから、問題行動を直接取り除こうとせず、行動の配列のなかごく小さな変化を徐々に取り入れていき、最終的にその完全崩壊に至らしめるテクニックを使ったのでした。
「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より
安心して排泄できる状態は、身体にとって、呼吸や食事や睡眠と同じくらい重要です。
排尿中に突然怒られ、罰を与えられる体験した子どもは、排尿するのが怖くなったことでしょう。
だから、誰にも怒られずに安全に用を足すため、チューブを持参するのが習慣になったのでしょう。
でも、今度はその習慣のために恥ずかしい思いをすることになり、軍隊に入りたいのに入れないという事態を招きました。
「多くの問題行動は行動の習慣パターンに過ぎない」とエリクソンがいうように、わたしたちが抱える問題のほとんどは、変えられない習慣のために「わかっちゃいるけどやめられない」状況を起こします。
早く寝たらいいのについ動画を観る習慣を手放せず、また夜更かししてしまう、とか。
前もって準備しておけば慌てないで済むのに、いつも出かける直前慌てるパターンを繰り返す、とか。
いつの間にか習慣の虜になり、その習慣に人生を操られるような形になってしまうのです。
こういうとき、わたしたちは「パターンを繰り返す自分」を責めがちですが、なぜか、その習慣を手放す気にはなりません。
エリクソンだったら、その行動パターンを利用して、パターン崩しを徐々に実行して、パターン行動の意味を失わせ、ついにはその習慣を手放す方へ誘導するでしょう。
今回の男性は、チューブを使って排尿する習慣が手放せなくなっていました。
エリクソンは、その男性が使っていたチューブよりも少しだけ長いサイズの竹を使うように勧める暗示をしました。
少しだけ長いサイズにしたのは、「もう少し短い方がいいのに」とその男性に自分から思わせるためです。
そう思うことで彼は自発的にサイズダウンの行動を取るようになりました。
自発性がレジリエンス(挫折や失敗から立ち上がる起動力)を育てるからです。
いつものとおりチューブを使い安心して排尿できるので、エゴ(生存本能由来の意識)も身体も抵抗しません。
でも、「チューブをサイズダウンしたい」動機が生まれたところが<いつもどおり>ではなく、既にパターン崩しが始まっているのです。
定着した習慣をいきなり手放そうとすると、エゴの抵抗に合い、そこにエネルギーを消耗してしまいます。
習慣を利用したこの方法なら、習慣どおりにする安心感はそのままにして、パターン崩しを徐々に実行できるのです。
きっとこの男性も、始めは元のサイズまで切って使いやすくしようとしたのでしょう。
そのうち、支障が出ないほど切り進める挑戦がおもしろくなったに違いありません。
そして、リングサイズになった竹をまだ使うほど習慣は定着したままでしたが、もう、竹リングでなく指で支えて排尿した方が楽なのではないか?と気づいたとき、習慣は意味を失い、崩壊しました。
傍から見たら、ただの排泄行為にこんなに苦労するなんて、と思うかもしれませんが、1度ついてしまった習慣を手放すのは、それだけ時間も努力も要するのです。
それでも、習慣の影響力は絶大なので、問題の行動につながる習慣を手放すときは、習慣がもたらす制限から自由になり、人生が変わります。
別の言い方をすると、習慣が変われば人生が変わるのです。
そして、その習慣を変えるために最も重要なのが「自分がそうしたいと思い、それができる自分を信じ、自発的に行動すること」です。
エリクソンが、パターン崩しの暗示を与えておきながら、それらを健忘する暗示まで与えたのは、この男性が自分から進んで竹を選び、目盛りを振り、短く切る形を取らせたかったからであり、結果に執着を持たせないためでした。
目的の達成を最も遠ざけるのが、結果に執着することです。
結果に執着すると、見える形で効果が現れないと不安になります。
不安に駆られると、目的の達成を疑いたくなります。
目的の達成を疑うようでは、自分の可能性を信じられません。
自分の可能性を信じられなければ、望んだことが具現化する流れには乗れません。
また、健忘暗示は、潜在意識に「この件は委ねた」というサインになります。
安心して忘れている状態で最も引き寄せの法則が働きやすいのは、委ねられた潜在意識が誰にも邪魔されずに集合意識にアクセスして、顕在意識の枠を超えるパワーを引き出すからです。
次回は「人生の扉を開く最強のマジック」の解説を予定しています。
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新メニュー(月の欲求・土星の制限の観念書き換えワーク、キローンの苦手意識を強味に変えるワーク)が加わりました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。