こんにちは、リブラです。
今回は「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンスを育てる>」の第9章の解説です。
*自分の病室に鍵をかけてほしいと要求する男性
エリクソンが勤務する州立病院で、ある男性患者が自分の病室に鍵をかけてほしいと要求しました。
彼は自室の窓の柵にグルグルとヒモを巻き付け、「いつか敵がやって来て自分を殺す」と怯えて過ごしていました。
窓が唯一の開口部でした。窓の柵は分厚い鉄でしたが、彼にはそれが頼りなく見え、ヒモを巻き付けて強化していたのです。
エリクソンはその患者の部屋に入り、鉄柵をヒモで強化するのを手伝いました。
そうする間にエリクソンは、床にいくつか割れ目があるのに気づき、
「敵に捕まらないようにするためには、これらの割れ目も新聞紙で塞ぐべきだ」と提案しました。
さらにエリクソンは、ドアの周辺にも新聞紙で塞ぐべき割れ目を見つけ、ここがこの病棟の数ある部屋の1つに過ぎないこと、敵から身を守る方法の1つとして、看護人を受け入れるべきことであることをその患者に少しずつ理解してもらうことに努めました。
それに続いて、病院自体が敵から彼を守るものであること、さらには、州の精神衛生委員会も、警察も、州知事もそうであることを少しずつ理解させていきました。
やがて、エリクソンはそれを隣接する州に広げ、最終的にはアメリカ合衆国まで防御システムの一部になるところまで理解を進めました。
これだけ多くの防衛線があることを理解したその患者は、鍵のかかる病室を要求しなくなりました。
「ミルトン・エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」より
今回の男性患者のケースは、「いつか敵がやって来て自分を殺す」という思い込みから、「いつ敵が襲ってきてもそれを防御するシステムがあるから安全」という思い込みに変え、信じるまでのプロセスが描かれています。
エリクソンが心がけたのは「少しずつ理解させる」ことでした。
最初は患者が鉄柵にヒモを巻き付けるのを手伝い、患者も気づかなかった床やドアの周辺の割れ目を新聞紙で塞ぐことを提案して、「敵」の存在を肯定し、それを防ぐ協力をして患者との間に信頼構築をしました。
信頼が築かれると、患者もエリクソンの話に耳を傾け、「理解する」ようになります。
「理解すること」には、意識を拡げるパワーが秘められています。
患者の頭は敵に襲われる恐怖でいっぱいでしたから、唯一の窓の鉄柵にヒモを巻き付け、鍵付きの病室を要求することぐらいしか思いつきません。狭い視野でしか考えられなかったのです。
そこに信頼構築をしたエリクソンが看護人に守ってもらうことを提案し、患者はそれを「理解すること」で意識が拡大し、看護人たちが常に巡回している病院は安全な所なのだという理解につながりました。
なぜ、「少しずつ理解すること」が大事なのかといえば、それは患者の自発性を引き出すためでした。
恐怖の思い込みですっかり意識が狭まってしまった人は、自分のペースで1つ1つ理解して落とし込み、それを信じるまでの時間が必要です。
でも、「理解すること」も「信じること」も本人が自分の意思で望まないと定着しません。
自分から理解し信じることを欲するように仕向けるため、エリクソンは少しずつ理解させ、意識の拡大を促したのです。
このやり方は、ネガティブな「思い込み」を手放す対策として非常に有効です。
わたしたちは無意識のうちに、「思い込み」によって思考や行動や選択の制限をかなり受けています。
エゴ(生存本能由来の意識)が安全を確保しようと「思い込み(思考回路)」を作り、そこから外れないように画策するからです。
困ったことにエゴは「怖れの動機」で「思い込み(思考回路)」を作ることが多いので視野が狭くなり、思考や行動や選択の制限をかけることになります。
すると、益々、視野が狭まり、目の前に立ちふさがる問題しか目に入らなくなるのです。
目の前窓の柵さえ塞がっていれば、病室に鍵さえ掛かっていれば安全と思い込み、部屋の中から1歩も出られなくなる事態を招いたこの男性患者のように。
ですから、エリクソンがしたように「少しずつ理解」させ意識を拡大して、広い視野で考えるようにエゴに促すことはとても重要です。
この世は「思考や信じたことが現実化」します。意識のフォーカスを当てたものが具現化するしくみがあります。
エゴが「怖れの動機」で作った「思い込み」ばかりを現実化させるのでは、制限の世界から1歩も出られず、「選択の自由」は絵に描いた餅になってしまいます。
生きづらさや制限を感じたら、「怖れの動機」で作った「思い込み」で「選択の自由」が損なわれていないか、振り返ってみるとよいでしょう。
「○○しないと、△△になってしまう」という動機で判断していることがあったら、それはエゴの作った「思い込み」なので、エリクソン式に、「一緒にその問題を改善しましょう」という気持ちで歩み寄って信頼関係を結び、エゴの危機感を解くことから始めます。
エゴの危機感とは「生存に直結する危機かどうか」なので、そこを自問自答しながら確認してあげるのです。
たとえば、エゴが「地味な色にしないと、目立ってしまう」と服の選択で囁いたなら、「それは生存危機と関係あるかな?生存の危機と関係ないなら、たまには色で冒険してみるのもいいんじゃない?」と返してみるのです。
そう言われれば、エゴの方も「生存の危機でないなら、自分の管轄外だ」と制限をかけるのを止めるでしょう。
こんなやり取りをしているうちに、エゴも理解が進み、意識が拡大し、広い視野で自由に選択することに口を挟まなくなってきます。
エゴが何かと保守的に制限をかけてくるのは、身体の生存を守る役割があるからです。
でも、現代社会では、直接生存の危機に関わるような出来事は滅多にありません。
だから、エゴは自分から仕事を見つけようと、あらゆる危機を探し回って知らせる活動をしてしまうのです。
大昔、寄生虫は人間の命を脅かす敵でした。
そのため、わたしたちの免疫グロブリンの中には、寄生虫を撃退するIgE抗体があります。
しかし、現代では寄生虫に遭遇すること自体がほとんどなくなり、IgE抗体の出番はなくなりました。
すると、IgE抗体は、花粉などの無害なものを仮想敵に仕立て、攻撃するようになりました。
IgE抗体は身体を守っているつもりなのですが、要らない、迷惑な攻撃です。
言ってみればエゴは、生存の危機が少ない現代では、花粉症を起こして嫌がられるIgE抗体のような存在になっているわけです。
だから、「○○しないと、△△になってしまう」という動機でエゴが何かの危機を知らせたら、一応聞いてあげて、「生存に直結する危機かどうか」を一緒に考えてみて、生存の危機に関わればエゴにバトンタッチし、そうでなければ「生存の危機じゃないよ」と安心させるのが得策です。
思考を通してエゴとは対話が可能なので、対話が不可能で暴走してしまうIgE抗体よりも、話がわかり生き残りに強い頼れる相棒になり得るのです。
次回は「エリクソン心理療法<レジリエンス>を育てる」の解説を予定しています。
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