風山漸 九三の易占 | 心の経営コンサルタント(中小企業診断士) 日本の心(古典)研究者 白倉信司

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日本で一番分かり易い易経講座


九三
九三。鴻漸于陸。夫征不復。婦孕不育。凶。利禦寇。
○九三。鴻(こう)、陸(くが)に漸(すす)む。夫(おっと)征きて復らず。婦(つま)孕(はら)みて育(いく)せず。凶。寇(あだ)を禦(ふせ)ぐに利(よろ)し。
大きな雁が大きな岩から小高い平原に飛んで来た。正応なく独断でどんどん進み、比する六四と不義に交わり帰って来ない。六四は九三の妻となり子供を産むが、不義の交わりなのでちゃんと育てることができない。何をやっても失敗する。不義の相手六四と交わることなく、自分の居場所に安んじているがよい。
象曰、夫征不復、離群醜也。婦孕不育、失其道也。利用禦寇、順相保也。
○夫征きて復らずとは、群醜(ぐんしゅう)を離るるなり。婦(つま)孕(はら)みて育せずとは、其道を失ふなり。用て寇を禦(ふせ)ぐに利しとは、順にして相保(あいたも)つなり。
六四と不義に交わり帰って来ない。下卦の仲間である初六と六二を見捨てたのである。六四は九三の子供を産むが、ちゃんと育てることができない。漸次(ぜんじ)に進む道に背いたのである。不義の相手と交わらず、自分の居場所に安んずるがよい。漸次の正しい道に順えば、自分も仲間も安らかさを保つことができるのである。
(占)自分の立身出世を急ぐあまり、朋友からの信頼を失う。だが、このような過去(犯した過失)を咎めてはならない。自らの身を修めて前に出ず、慎みの德をよく守り、周りの人々から非難されないように柔順であることを大切にすべき時である。
○賢人だが苦労が多い。凶運ゆえ、災難に遭遇して進退ままならない。自分と敵対する人物がいるが、その人物を憎むと、さらに苦労することになる。それゆえ「寇(あだ)を禦(ふせ)ぐに利(よろ)し。不義の相手六四と交わることなく、自分の居場所に安んじているがよい」と云う。凶運の中に居て、何事にも慎み深く対処すれば、やがては大きな利益が得られる時である。
○善良な友達を裏切って、功を貪(むさぶ)ろうとする時である。
○時流に乗って立身出世を急ぐ人物は、義理を捨て、愛を失い、孤立する。それゆえ、自分の身は更に危なくなる時である。
○夫婦が不和になる時である。
○流産の危険が在る時である。
(占例)わたしが牢獄に入っている時、吟味役の和田十一郎と云う名の人が居た。ある日突然わたしのところに来て、自分の身上を占ってほしいと頼まれた。そこで、筮したところ漸の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
爻辞の「夫(おっと)征きて復らず」とは、貴方が出世することを意味している。「婦(つま)孕(はら)みて育(いく)せず」とは、長官が退職することを意味している。それゆえ、小象伝に「夫征きて復らずとは、群醜(ぐんしゅう)を離るるなり。婦(つま)孕(はら)みて育せずとは、其道を失ふなり」とある。
以上のようであれば、ある日突然奉行が退職して、貴方が奉行に昇進する。しかし、その昇進は条件付きとなる。なぜならば、爻辞に「寇(あだ)を禦(ふせ)ぐに利(よろ)し。自分の居場所に安んじているがよい」と云い、小象伝に「用て寇を禦(ふせ)ぐに利しとは、順にして相保(あいたも)つなり。自分の居場所に安んずるがよい。漸次の正しい道に順えば、自分も仲間も安らかさを保つことができるのである」と云うからである。
つまり、貴方は奉行の代理的地位に昇進することになる。
和田氏は以上の易占を聞いて、「易占の意味は理解できるが、その易占は当たらないであろう。もし、その易占が的中したならば、わたしはあなたを赦免してもよい」と云った。
数ヶ月後、易占の通り奉行は退職した。その後を継いだのは清水奇太郎と云う人物で、和田氏は奉行並という奉行の代理的地位に付いた。
和田氏は清水氏に相談して、わたしの刑期は五十ヶ月から二十ヶ月に減刑された。「赦免してもよい」という約束を守ってくれたのである。