いよいよ「伊福部昭の芸術」シリーズも大詰めとなってきた。単体では発売されることのなかった貴重なライヴ録音などをこうしてSHM-CDの高音質盤で聴くことができるというのはクラシックファンのみならず特撮ファン、伊福部昭ファンの方々も非常に嬉しいのではないだろうか?今回の《祭》では2007年3月4日にサントリーホールにて行われた「伊福部昭音楽祭」での演奏を聴くことができる。これは記念すべき第1回のライヴ録音で、収録されている演奏は第2部「映画の世界」、第3部「管弦楽の響」でのものだ。
伊福部昭:SF交響ファンタジー第1番
・・・今回の録音で本名さんと日本フィルというコンビでは2回目の、「伊福部昭の芸術」としては3種類目の録音として「伊福部昭音楽祭」のライヴ録音が収録されている。「ゴジラ」などの音楽が選曲されているメドレーなだけあって頻繁に演奏されることに関しては何の違和感もわかない。むしろ「この曲を聴きたかった」という考えすら生まれてくる。今回の演奏では、弦楽器群のスケールや柔軟性もありつつややパリッとした映画本編内の再現に近しい金管楽器群のサウンドが個人的には好みに思える。ダイナミクスや音圧、統一感のある音色も申し分ない。演奏が始まった瞬間特撮ファンの方々が思わず拍手をしたり、ガッツポーズを取るような姿が目を閉じるだけで浮かぶこと間違いなしの演奏だ。個人的には8:20あたりの盛り上がりがそのまま進んでいく曲の変化に思わず鳥肌が立ってしまった。
銀嶺の果て、座頭市物語、ビルマの竪琴
・・・「銀嶺の果て」は東宝、「座頭市物語」は大映、「ビルマの竪琴」は日活といずれも昭和の日本を代表する映画の数々が今回演奏されている。どの曲もオープニングタイトル、タイトルテーマがそれぞれ演奏されている。残念ながら私はどの映画も見たことがないが、上記3本の映画を見たことがある方にとっては非常に懐かしいものとなっているのではないだろうか?2004年の演奏当時、映像上映とのコラボレーションとセットで演奏が行われていたようだ。いずれも伊福部先生の作品らしいモチーフやリズムが使われており、はじめて聴く方でも楽しめるような工夫が行われている。そして今回なによりも音質が非常に良い。それが功を奏しているため、現代的な要素を含まれた演奏などはより明瞭で細部までこだわった演奏を堪能することができるようになっている。
「わんぱく王子の大蛇退治」よりアメノウズメの舞
・・・7《幻》にも収録されていた「わんぱく王子の大蛇退治」、今回は「アメノウズメの舞」だけが収録されている。民族的なリズムや和音など伊福部先生の作品らしい特徴が多く盛り込まれた親しみやすい曲である。今回の演奏ではテンポの緩急がより明確に付けられており、追い込みや細かい溜め、打楽器の迫力ある打撃、響きなど抜粋されていたとしても十二分に楽しめる演奏となっている。
オーケストラのための特撮大行進曲
・・・元々は吹奏楽曲であるバンドのための「ゴジラ」マーチをオーケストラ編曲版とした曲がこのオーケストラのための特撮大行進曲である。原曲の吹奏楽版と比べてみると調性に変化がみられており、金管楽器にスタミナの要求と同じモチーフの繰り返しに加えて音域もやや高いため難易度は上がっているようにも思える。しかし、トロンボーンの突き抜けるような音色には聴いていて非常に清々しさを覚えるし、チューバなどの低音楽器の存在感がハンパない演奏となっている。弦楽器群はその分安定感のある土台を作り上げているので、全体としてもバランスの取れた演奏として聴くことができる。気になるところとすれば少々トランペットにパワー不足を感じる点くらいだろうか。
管弦楽のための「日本組曲」
・・・2《響》にも収録されていた管弦楽のための「日本組曲」、今回の演奏では全体的にどっしりと低めの重心がとられており、日フィルが奏でるサウンドには重さが備わっている。その中でテンポの緩急がより明確なものとなっており、躍動的で推進力のあるエネルギッシュな面も垣間見ることができる曲もある。全体のダイナミクスはバランスが整われており、個々の楽器が飛び抜けるような場面もそれほどない。個人的にはもう少しばかりダイナミック・レンジの幅広さがあればより大迫力で楽しめたようにも思っている。
シンフォニア・タプカーラ
・・・前回の《頌》ではアンコールだったため第3楽章のみの収録だったが、今回は全曲収録されている。サウンドは若干金管楽器が荒れているものの、テンポの緩急における振り幅は凄まじいもので、機動力や推進力を感じることのできるエネルギッシュな速さや重厚的でたっぷりとした重みを感じることができる変化が演奏には備わっているので最初から最後まで驚かされる点が非常に多いように思える。そして、金管楽器のサウンドが若干荒れているとも先ほど述べたが、聴いているうちにそのくらいの荒さがよりダイナミックでエネルギーに満ち溢れたこの曲にはピッタリにも思えてくる。
今回はDisc 10,11に収録された記念すべき第1回の「伊福部昭音楽祭」ライヴをみてきた。この《祭》では貴重なライヴ録音では管弦楽作品だけではなく、映画音楽も楽しむことができるようになっているので非常に重要なDiscだったということは言うまでもないだろう。今後も「伊福部昭音楽祭」でのライヴ録音などその他演奏会での貴重なライヴをこの「伊福部昭の芸術」には多数収録されているので、今後もたっぷりと楽しみながら一つ一つ聴いていきたいと思う。
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