1995年8月、9月録音。待ちに待った伊福部先生が作曲した「特撮映画」の誰もが知るであろう音楽を網羅することができるディスクがきた。「伊福部昭の芸術」では他のディスクでも「SF交響ファンタジー」が収録されているようだが、私個人として聴き慣れた「SF交響ファンタジー」は当盤だ。目を閉じるだけで「ゴジラ」シリーズをはじめとする多くの怪獣たちが暴れ回る姿が容易に想像することができるのは一特撮ファンとして非常に喜ばしいと言えるだろう。
伊福部昭:SF交響ファンタジー第1番
・・・まずは演奏されている曲をみていこう。
1.ゴジラの動機
2.間奏部
3.「ゴジラ」タイトル・テーマ
4.「キングコング対ゴジラ」タイトル・テーマ
5.「宇宙大戦争」夜曲
6.「フランケンシュタイン対地底怪獣」バラゴンの恐怖
7. 「三大怪獣 地球最大の決戦」
8.「宇宙大戦争」タイトル・テーマ
9.「怪獣総進撃」マーチ
10.「宇宙大戦争」戦争シーン
が演奏される。これについては過去に取り上げた際にも記載しているが、特撮映画の中でも代表的かつ主要な作品が並んでいるのがよくわかるだろう。私自身「SF交響ファンタジー」の中でも一番繰り返し聴いている曲のため、よくトランペットパートだけを耳コピして大学時代に個人練習の時に吹いていた。トランペットとしてもオーケストラ全体からみても難易度は中々高いこの曲だが、歯切れの良さやメリハリを持って演奏されているのはまさに圧巻といえるだろう。特にマーチに関しては打楽器と金管楽器が筆頭となり演奏全体を先導しているようにも聴こえる。また、ダイナミック・レンジの幅広さもちょうど良く、個々が強すぎるということもない。それぞれの曲を聴いているだけで映画のシーンを思い浮かべることができる素晴らしい名演と言えるだろう。
SF交響ファンタジー第2番
・・・第1番では特撮映画の中でも主要な作品が揃っていたが第2番、第3番ではマニア向けな曲が集められていると言えるかもしれない。
1.「奇巌城の冒険」タイトル・テーマ
2.「三大怪獣 地球最大の決戦」キングギドラのテーマ
3.「キングコング対ゴジラ」格闘音楽
4.「モスラ対ゴジラ」聖なる泉
5.「大怪獣バラン」タイトル・テーマ
6.「三大怪獣 地球最大の決戦」山岳音楽
7.「キングコングの逆襲」逃走音楽
8.「キングコングの逆襲」エレメントX
9.「サンダ対ガイラ」自衛隊マーチ
10.「空の大怪獣ラドン」飛行音楽
11.「サンダ対ガイラ」自衛隊マーチ
曲的には第1番と比べると、「ゴジラ」シリーズ以外の作品も取り上げられている分内容もやや重めでなおかつ複雑な曲が多い。個々の技量が試される曲目と言ってもいいくらいの曲が収録されており、一曲一曲進んでいくごとにその難易度は上がっているように思える。ある意味この第2番に関しては玄人向けなのかもしれない。しかし、「サンダ対ガイラ」自衛隊マーチは他の作品でも度々取り上げられることが多いので聴いたことがあるかたは多いのではないかと私は考える。歯切れの良さやメリハリを持って演奏されているのは変わらないが、それに加えて重厚さが加わったことにより、怪獣の強大なる姿を連想しやすくなったようにも思える。
SF交響ファンタジー第3番
・・・番号付きの「SF交響ファンタジー」最後を飾る第3番、曲目を見てみるとマニアだからこそ聴いていて拍手をしたくなるような作品が収録されているのも注目すべき点と言えるだろうか。
1.「怪獣総進撃」タイトル・テーマ
2.「キングコングの逆襲」メカニコングのテーマ
3.「キングコングの逆襲」愛のテーマ
4.「海底軍艦」テーマ
5.「キングコング対ゴジラ」キングコングの輸送
6.「キングコング対ゴジラ」格闘音楽
7.「海底軍艦」マーチ
8.「地球防衛軍」マーチ
「キングコング」系の音楽が少々多めに使われている第3番だが、個人的なポイントとしては、「海底軍艦」マーチと「地球防衛軍」マーチの2曲で、「海底軍艦」マーチで勢いをつけてからの「地球防衛軍」マーチに切り替わった瞬間のインパクトは何回、何十回聴いても鳥肌が立ってしまうくらいの衝撃とかっこよさを秘めていると言えるだろう。同時にオーケストラ全体としてこれまでの第1番、第2番と比べても比にならないくらいの難易度となっている。やや現代的な要素も含めつつ演奏されていることもあり、映画音楽としてではなくクラシック音楽として楽しむことができるようになっている名演だ。
倭太鼓とオーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク
・・・原曲である「倭太鼓と吹奏楽のためのロンド・イン・ブーレスク」は幼い頃から良く聴いていたが、管弦楽版は今回初めて聴いた。幼い頃より聴いている曲のため聴いているだけで昔を思い出すかのような安心感で心が満たされる。倭太鼓自体もそれほど全体を掌握するかのようなボリュームでもなく、優しさを感じることができるような打撃をこの演奏では体感することができる。テンポも基本一定に進んでいく中でも抜群のスタミナを感じることができるのはもちろんのこと、オーケストラ全体のバランスも非常に良い演奏となっている。
「伊福部昭の芸術」シリーズDisc 4に収録されていた曲はどれも以前より繰り返し聴いていた曲ということもあって十二分に演奏を楽しむことができたと思う。さて、次回取り上げる時にはDisc 5に収録されているある曲を聴くことができる。これこそ我々が一番聴き馴染みのある曲の原曲であり、「原点にして頂点」と言ってもいいだろう。聴く前から楽しみで仕方ない。
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