2019年9月2〜7日録音。今日までにリヒャルト・シュトラウスやレスピーギ、コルンゴルトなどの曲集を高音質フォーマットであるSACDハイブリッド盤で発売しているジョン・ウィルソンとシンフォニア・オヴ・ロンドンだが、高音質と映画音楽並みのインパクトある演奏を楽しむことができるのが非常に良かったのですが、今回はラヴェルの主要な管弦楽作品を楽しむことができる。これは目が離せない。
ラヴェル:ラ・ヴァルス
・・・始まり方とダイナミック・レンジの幅広さはまさに映画音楽のそれである。細かいダイナミクス変化と音色や響きも充実しており全体的に非常に聴きやすい。色彩的な美しさの先にある神秘さであったりエレガントなサウンドをジョン・ウィルソン率いるシンフォニア・オヴ・ロンドンの演奏から随所感じ取ることができる。今回の作品集をこの曲から始めたことによって、聴き手がすぐにその世界観に浸ることができるようになっておりこの後に続くラヴェルの名曲たちを余すことなく堪能することができるような仕組みが構築されていると言えるだろう。
マ・メール・ロワ
・・・当盤の目玉一つ目としてあげられるであろう曲こそこの「マ・メール・ロワ」である。この曲に関しては組曲版やバレエ音楽版の2種類が存在しているが、今回の録音に関してはコンプリート・オリジナル・ヴァージョンという形での世界初録音という記載が紹介文にされている。演奏として、音質が良いということも重なって各曲が非常に煌びやかで聴きやすい「マ・メール・ロワ」となっている。色彩的な美しさはあまりないかもしれないが、音楽的な美しさを体感することができるのは間違いないだろう。
道化師の朝の歌
・・・これまでに聴いたことがないくらいにハツラツとし、軽快な演奏となっている今回の演奏。短い曲ながらテンポの緩急は十二分に備わっている演奏と言えるだろう。細部まで細かく行われているダイナミクス変化と個々の楽器が奏でる聴き手を魅了するようなサウンドには驚かされること間違いなしだ。ダイナミック・レンジの幅広さが素晴らしく、演奏全体が盛り上がった際の音の広がりはSACDハイブリッド盤だからこそ成せる技となっている。
亡き王女のためのパヴァーヌ
・・・まるで映画音楽を聴いているかのように美しい音の広がりには聴いているだけで言葉を失ってしまう素晴らしさがこの演奏にはある。ホルン、弦楽器などシンフォニア・オヴ・ロンドンの美しい音色はどこか寂しげではあるものの、幻想的ではかなさを連想させる演奏と言えるだろう。
高雅で感傷的なワルツ
・・・「緩→急」や「急→緩」と言ったような細かい変化に加えて、優雅なオーケストラのサウンドには聴いていて思わずうっとりさせられるような場面が連続する。他の曲でも言えることだが今回の録音では木管楽器と弦楽器それぞれの音色が損なわれることなく演奏されている。多少なりとも推進力を演奏から感じることができるようになっているのも普段聴いているこの曲とはまた違う面をみることができる良い部分と言えるだろう。
ボレロ
・・・先ほどの「マ・メール・ロワ」に続く当盤の目玉録音である2つ目こそこの「ボレロ」である。こちらもコンプリート・オリジナル・ヴァージョンという形での世界初録音とされており、これまで聴いてきた録音と多少なりとも違う点がいくつかある。まず演奏として、スネアドラムが2台交互に演奏しているという点である。その変化は左右で聴き分けることができるようになっているのですぐにわかると思う。また、徐々にオーケストラのテンションが上がっていくわけだが、その際のバランス良い安定感のある演奏から感じるに軸のしっかりとした演奏と言えるだろう。また、途中から加わるカスタネットの音も歯切れ良さが十二分に伝わってくる。最終的なボルテージとしてはオーケストラ全体が素晴らしい一体感を見せつけているわけだが、それがうるさすぎないというのもポイントだろうか。気になる点とすればトライアングル?のような金属音が何なのか気になる部分と言えるだろう。
今後の活躍が一番期待されているジョン・ウィルソンとシンフォニア・オヴ・ロンドンによるラヴェル管弦楽作品集をみてきたが、今回収録されていない曲も今後録音して発売してくれないかと少しの期待をしてしまうかのような素晴らしい出来栄えだったことは言うまでもない。今後録音されるのがラヴェルじゃないにしても現代における新時代の名盤となることは間違いないだろう。個人的には両コンビによるマーラーを聴いてみたいと思っていたりするが…
https://tower.jp/item/5298902/ラヴェル:-管弦楽作品集