1992年6月17,22〜25日録音。ロシアのウクライナ侵攻によってロシア人作曲家の曲が演奏されづらくなっている今日、曲自体には罪はないし聴きたい時に聴くのが一番であると私は個人的に考えている。そういう点でいえばチャイコフスキーの交響曲は先月取り上げているが、管弦楽曲は最近取り上げていなかった気がするのでタイムリーではあるが今ここで久しぶりに試聴した上で取り上げていきたいと思う。
チャイコフスキー:イタリア奇想曲
・・・ロシアの特徴的な金管楽器及びトランペットの音色に圧倒されると同時に弦楽器群の壮大なスケールはまさにSACDハイブリッド仕様だからこそ楽しめる代物であると私は考えている。やや重心低めとなっていることにより、オーケストラ全体から奏でられるサウンドには一音一音ずっしりとした重みがある。ダイナミック・レンジの幅広さが功を奏しているため金管楽器と打楽器の一体感や弦楽器のスケール、木管楽器の軽快さなど当盤のはじまりにふさわしい一曲であると聴き始めた瞬間に感じるだろう。終結部の追い込みに関しては明確なダイナミクスも備わっているので素晴らしい終わりを迎えている。
スラヴ行進曲
・・・「暗→明」というシンプルで親しみやすい構成のもと曲は進んでいくが、今回の演奏としてはやや速めのテンポで進んでいくアプローチがとられているためオーケストラ全体からはエネルギーとメリハリのあるサウンドを聴くことができる。特に金管楽器からは凄まじい音圧を、弦楽器と木管楽器からはダイナミック・レンジの生かされた統一感あるスケールを味わうことができる。
序曲「1812年」
・・・やや重心低めで最初ははじまるが、演奏が進んでいくたびに目まぐるしく変わるテンポにはロシア国立響もついていけていないくらいの緩急がこの演奏には備わっている。特に「緩→急」になった瞬間のテンポの違うもそうだが、ダイナミクスやアーティキレーションなどの細かい変化は申し分ない。また、重心が低めであることによる壮大なスケールはもちろんのこと金管楽器が奏でる音圧、大砲(バスドラム)のインパクトは全てのものを圧倒するだろう。終結部における鐘のダイナミクスは常に一定で変わることなく演奏されているのも素晴らしいし、テンポが遅いことによって他の同曲録音よりも重さが増している。ラストのクレッシェンドはダイナミック・レンジの幅広さが生かされた破壊力のある音圧を楽しめるので鳥肌が立つことは間違いないだろう。
弦楽セレナード
・・・スヴェトラーノフ率いるロシア国立響の強靭的でスケールのある弦楽器を楽しむことができる「弦楽セレナード」、各楽章での「緩→急」、「急→緩」の変化はもちろんのこと演奏時の柔軟性あるしなやかな弦楽器群にはただただ圧倒させられる。個人的にはもう少しダイナミック・レンジの幅広さがあってもよかったかもしれないと思っているが、ロシア国立響だからこそ奏でることができるやや引き締まって尖った印象に近い中で美しい音色をしている弦楽器を余すことなく堪能することができる録音はこの演奏しかないと私は考えている。
スヴェトラーノフが「Exton」に残した名曲の数々は今では手に入れづらいものもあるものの、どの曲も名盤揃いであることは間違いない。今回はチャイコフスキーを取り上げたが、まだ聴いていないものとしてラフマニノフの交響曲全集がある。後日それを聴いたらまた取り上げたいと思っている。そして「Exton」でスヴェトラーノフの名盤をSACDハイブリッド仕様で復刻してくれればなお嬉しいのだが…実際に実現するかもわからないので現在所有しているものを大切にしていきたい。今回のチャイコフスキーは曲の魅力を存分に引き出していた他、スヴェトラーノフとロシア国立響による息ぴったりの名演を楽しめるCDだった。
https://tower.jp/item/3503896/チャイコフスキー名曲集