両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

私は東京都中央区銀座にある両角レディースクリニックの院長です。


産婦人科専門医であり、また生殖医療専門医でもあります。


専門は不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術です。


毎日、不妊治療、体外受精、顕微授精に携わっております。


専門医の立場から生殖医療に関する正確な情報をお伝えして、出来るだけ多くの方に早く妊娠して頂けたらと思いブログを始めました。
ブログには生殖医療に関係する最近の話題を、わかりやすく書きたいと思っております。可能な限り書籍、文献に基づき記載していく予定です。


また国内外の学会や論文で発表された最新の治療等についても書いていきたいと思います。


できるだけわかりやすく説明したいと思いますが、もし難しい内容があれば気軽にコメントを頂けたらと思います。


2012年7月~中央区銀座で生殖医療専門のクリニックを開業しました。


詳細はクリニックのホームページ
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ハワイダイヤモンド・ヘッドに数年間留学していたので、息抜きにハワイハワイ諸島の事も書きたいと思いますハイビスカスプルメリア


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体外受精において精子の凍結保存は日常的に行われています。特に精子提供を受ける治療では、感染症検査やドナー管理のため、すべての精子が凍結保存された状態で使用されます。

現在、精子の保存方法として広く行われているのが「緩慢凍結(slow freezing)」です。一方、卵子や胚で広く普及している「ガラス化凍結(vitrification)」を精子にも応用する試みが近年進んでいます。

ガラス化凍結は超急速に凍結することで氷晶形成を防ぎ、細胞へのダメージを軽減できる可能性があります。しかし、実際に体外受精の成績へどの程度影響するのかについては十分なデータがありませんでした。

今回Fertility and Sterilityに掲載された論文は、この疑問に答える非常に興味深い研究です。2023年から2024年に実施された604周期の体外受精周期を対象に、ガラス化凍結された提供精子396周期と、従来の緩慢凍結精子208周期を比較しています。

Table 1では両群の背景因子が比較されています。女性年齢、不妊治療方法、ICSIの割合、卵子提供の割合などに大きな差がなく、比較的均質な集団であることが分かります。そのため凍結方法そのものの影響を評価しやすい研究デザインになっています。

研究全体でみると、受精率はガラス化凍結群77.0%、緩慢凍結群75.6%で大きな差は認められませんでした。ところが受精方法ごとに解析すると興味深い結果が得られました。

ICSIでは両群に差は認められませんでした。ガラス化凍結群76.8%、緩慢凍結群79.7%で統計学的有意差はありませんでした。

一方、通常の体外受精(conventional IVF)では明らかな差が認められました。ガラス化凍結精子の受精率は76.4%であったのに対し、緩慢凍結精子では65.9%でした。多変量解析後もオッズ比1.95で有意差が維持されていました。

Figure 1は本論文の中で最も重要な図です。通常体外受精とICSIに分けて受精率を比較しており、通常体外受精でのみガラス化凍結精子の優位性が視覚的に示されています。

著者らは、この結果について興味深い考察をしています。
通常体外受精では精子が卵子の透明帯へ結合し、先体反応を起こし、卵子膜と融合しなければなりません。しかしICSIではこれらの過程をすべて飛ばして直接卵子内へ精子を注入します。そのため、もし凍結によるダメージが精子膜や先体に生じるのであれば、その影響は通常体外受精でのみ現れ、ICSIでは現れないことになります。今回の結果はまさにその仮説と一致していました。

さらに重要なのは、その後の胚発育です。
受精卵から利用可能胚盤胞へ発育する割合は49.4%対47.3%で有意差は認められませんでした。またTable 2を見ると、胚盤胞到達率の調整オッズ比も1.18で有意差はありませんでした。つまり受精後の胚発育能力には差がなかったことになります。

この表には受精率、胚盤胞到達率、妊娠率に対する多変量解析結果がまとめられています。通常体外受精における受精率向上が唯一の有意差であり、その後の成績には差がないことが一目で理解できます。

実際の妊娠成績も両群でほぼ同じでした。
初回胚移植後の臨床妊娠率は51.2%対50.4%、流産率は18.9%対11.9%、継続妊娠率も有意差を認めませんでした。多変量解析でもガラス化凍結の優位性は認められませんでした。

Table 3には移植周期の背景因子が示されており、両群の比較が公平に行われていることが確認できます。

今回の研究から見えてきたのは、ガラス化凍結精子は緩慢凍結精子と比較して、通常体外受精では受精率を改善する可能性があるということです。しかし、その後の胚発育や妊娠率には差が認められませんでした。

現在のところ、臨床成績を大きく変えるほどの差があるとは言えません。しかし、通常体外受精を行う症例では、より多くの受精卵を得られる可能性があり、結果として利用できる胚数が増える可能性があります。

精子凍結技術は卵子や胚の凍結技術ほど注目されることは多くありません。しかし今回の研究は、精子保存方法の違いが受精率に影響を与える可能性を示した興味深い報告と言えるでしょう。

Fertility and Sterility. 2026;125(5):824-832.
Lluc Coll, Laura Bogunyà, Marta Ballester, Maria Carme Pons, Ignacio Rodríguez, Montserrat Boada, Nikolaos P. Polyzos, Monica Parriego



この論文を読んで非常に興味深いと感じました。
これまで精子凍結といえば緩慢凍結法が標準であり、多くの施設で長年使用されてきました。一方で、卵子や胚についてはガラス化法が普及し、生存率や妊娠率の向上に大きく貢献してきました。しかし精子については「緩慢凍結で十分」と考えられてきたため、ガラス化法の有用性についてはあまり議論されてこなかった印象があります。

今回の研究では、通常の体外受精においてガラス化凍結精子の受精率が76.4%であったのに対し、緩慢凍結精子では65.9%と有意な差が認められました。一方でICSIでは差がなく、胚盤胞到達率や妊娠率にも差は認められませんでした。この結果から著者らは、ガラス化法が精子膜や先体機能をより良好に保護している可能性を考察しています。

ただ、私はこの解釈には少し慎重であるべきだと思います。実際に私自身も以前ハワイ大学留学中に精子の先体反応に関する研究を行いましたが、その際には必ずしも先体が保たれていることが受精能の向上につながるわけではなく、むしろ先体反応が適切に起こることの方が重要であるという結果を論文にしました。そのため今回の受精率向上が単純に「先体が保護されたから」と説明できるかどうかはまだ分からないと思います。

むしろ、ガラス化法によって精子膜障害、ミトコンドリア障害、酸化ストレス、DNA損傷などが軽減された結果として受精率が改善した可能性も十分考えられます。今回の論文ではそのメカニズムまでは明らかになっておらず、今後さらなる研究が必要でしょう。

一方で、臨床的には非常に興味深い結果です。特に通常IVFでは受精率の差が約10%あり、結果として得られる胚数に影響する可能性があります。最終的な妊娠率に差がなくても、利用できる胚数が増えれば患者さんにとっての選択肢は広がります。

卵子や胚がすでにガラス化法へ移行したことを考えると、今後は精子についても同様の流れが起こる可能性があります。少なくとも「精子は従来法で十分」と考えていた私たちに対して、新たな視点を与えてくれる興味深い論文であったと思います。
 

海外から保険で体外受精を受けたいです。夫は外国人で保険は無く私は国保です。可能でしょうか?また夫は何日くらい日本にいれば良いでしょうか?またいついればよいでしょうか?

 

この様なご質問がありましたのでお答えします。

 

数年前から海外からの通院が増えています。その理由として以下の点があります。

①日本の保険が使える

②円安

③日本の方が技術が高い

④母国語で治療が受けられる

⑤体質や体格や倫理観が母国のため合う

⑥実家に帰ったり諸々用事も済ませられる

⑦不妊治療でとても大切なカウセリングやメンタルへの配慮が高い

 

他にも多数ありますが大体はこの様な理由で一時帰国して治療を受けています。

私自身32歳の時ハワイに2年半住んでおり海外での医療を受けることの大変さを身を持って感じており気持ちは本当によく分かります。

 

奥様が保険がある場合ご主人が保険がなくても保険で治療を受けることは可能です。

ただ条件があり採卵日に来院するか持ち込みで精子を採取する必要があります。

凍結精子は使用できません。

採卵は生理の14日目前後のため生理が開始したらご主人の航空券を決められるとよいと思います。

大切なこととしてご主人は事前に感染症の検査をしてくる必要があります。項目は以下の4項目です。(HIV、HCV、HBV、梅毒)。

またご自身の住まわれているところで主治医を決めておくことも大切です。その場合体外受精をしている施設が好ましいです。事前にしっかりと引き継ぎをしてくれるようにお願いをしておくと良いです。

 

 


良好な胚を何度移植しても妊娠に至らない。生殖医療に携わっていると、このような患者さんに数多く出会います。
近年、胚の評価技術は大きく進歩し、PGT-Aによって染色体正常胚を選択することも可能になりました。しかし、染色体正常胚を移植しても妊娠しない患者さんが存在することも事実です。
このような反復着床不全(Repeated Implantation Failure:RIF)の原因として、近年注目されているのが「免疫」です。

妊娠は免疫学的には非常に特殊な現象です。胎児は母親由来だけでなく父親由来の遺伝情報も持っています。そのため、母体から見ると完全な自己ではありません。それにもかかわらず妊娠が成立するのは、母体の免疫が適切に調整され、胎児を受け入れる状態が作られているためです。

この免疫バランスの指標の一つがTh1/Th2比です。
一部の反復着床不全症例では、免疫が攻撃的な方向へ傾き、胚を受け入れにくい状態になっている可能性が指摘されています。

今回、国立成育医療研究センターを中心とした研究グループにより、免疫抑制薬であるタクロリムスを用いた臨床研究の結果が報告されました。
対象となったのは、良好胚を3回以上、合計4個以上移植しても妊娠に至らず、Th1/Th2比などから免疫異常が疑われる重症不妊症患者さんです。
治療は、胚移植2日前からタクロリムスを開始し、合計16日間内服する方法で行われました。
その結果、臨床的妊娠率は55〜67%と報告され、厚生労働省の先進医療技術審査部会においても「安全性が高く有効な治療」と評価されました。

もちろん、この治療がすべての患者さんに有効なわけではありません。
また、現時点では保険診療として標準化された治療でもありません。
しかし、これまで治療に難渋してきた反復着床不全の患者さんにとって、新たな選択肢となる可能性があります。

当院でも、この研究結果を踏まえ、Th1/Th2免疫検査およびタクロリムス治療を開始しました。
対象となるのは、良好胚を複数回移植しても妊娠しない、他に明らかな原因がない、免疫異常が疑われる患者さんです。
実際に使用を開始してみると、Th1/Th2比が高値で、これまで良好胚を移植しても妊娠に至らなかった患者さんの中に、治療後に着床が確認できる症例を経験しています。
もちろん、まだ症例数は限られており、これをもって治療効果を断定することはできません。しかし、これまで治療に難渋してきた患者さんの中に、免疫という視点から改善の可能性がある方が存在することを、臨床の現場でも実感し始めています。

当院では、安全性を重視し、先進医療で用いられた16日間プロトコールに準じた方法のみを採用しています。妊娠後に長期的に内服を継続する方法は、現時点では当院の標準運用としては行っていません。

反復着床不全の原因は一つではありません。胚の問題、子宮の問題、ホルモンの問題、そして免疫の問題。その中で「免疫」という視点は、これまで治療に難渋してきた患者さんに新たな可能性をもたらすかもしれません。一方で、必要以上に期待を煽るべき領域ではないとも考えています。
当院では今後も、エビデンスを慎重に確認しながら、本当に必要な患者さんに対して、安全性を重視した医療を提供していきたいと思います。


Hisano M, Nakagawa K, Ono M, Yoshino O, Saito T, Hirota Y, Inoue E, Imai S, Kikuchi K, Nakamura H, Yamaguchi K.
Efficacy of tacrolimus treatment in two-dose single-group controlled trial for patients with refractory infertility
Journal of Reproductive Immunology, 2026.

 

 

治療方針を相談してから転院を決めたい
セカンドオピニオンを聞きたい
近隣の病院では難しいと言われたが諦められない
遠方からのため通院出来ないが相談だけでもしたい
近くに不妊治療ができる病院がないので遠方でも診てもらえるか相談したい
どんな治療ができるか相談したい
卵子凍結の具体的なことを直接聞いてみたい
腹腔鏡手術に関して具体的に聞いてみたい

当クリニックでは、近くに不妊治療ができる病院がない等でお悩みの遠方の方にもオンライン診療を活用しながら、通院、採卵・移植に対応しております。東京駅からタクシーで5分の立地にあり、遠方からでも通院しやすい環境となっております。

なお初回のオンライン診療は日曜日にご自宅からお二人で診察を受けられ、院長が対応します。ご予約はこちらから

 

 

 

非常によく受ける質問の一つに、「今度凍結胚移植をします。自然周期とホルモン補充周期のどちらが良いのでしょうか?」というものがあります。

結論から言うと、排卵がある方であれば、原則として自然周期または修正自然周期を第一選択として考えています。ただし、ホルモン補充周期にも大きなメリットがあり、すべての方に自然周期が最適というわけではありません。

まず自然周期の最大の特徴は、自分自身の排卵によって黄体が形成されることです。黄体からはプロゲステロンだけでなく、リラキシンや血管作動性物質など様々な因子が分泌されます。これらは妊娠初期の血流調節や胎盤形成に重要な役割を果たしています。

一方、ホルモン補充周期では排卵を起こさず、エストロゲンとプロゲステロンの投与によって子宮内膜を整えます。そのため黄体は形成されません。

これまで長い間、妊娠率や出生率に大きな差はないと考えられてきました。しかし近年になり、ホルモン補充周期では妊娠高血圧症候群、前置胎盤、癒着胎盤、産後出血などのリスクが増加する可能性が次々と報告されるようになりました。さらに2026年6月には非常に重要なランダム化比較試験が報告されました。

この研究では、PGT-Aによって染色体正常と確認された胚盤胞のみを対象とし、自然周期とホルモン補充周期を無作為に比較しています。流産の多くは胎児側の染色体異常が原因であるため、euploid胚だけを対象にすることで子宮内膜環境そのものの影響を評価した研究です。

その結果、流産率は自然周期群で6.7%、ホルモン補充周期群で14.2%でした。妊娠判定陽性例だけで比較しても9.0%対21.6%と、ホルモン補充周期で約2倍高い流産率が認められました。さらに出生率は自然周期群67.4%に対し、ホルモン補充周期群47.2%でした。

もちろん、この研究だけで全てが決まるわけではありません。予定症例数に達する前に試験が終了しているため慎重な解釈が必要です。しかし、これまでの観察研究で指摘されてきたホルモン補充周期のリスクを裏付ける重要な結果と考えられます。

では、すべての患者様が自然周期を選ぶべきなのでしょうか。実際にはそう単純ではありません。自然周期のメリットは、より生理的な環境で移植できること、黄体が存在すること、近年の研究で妊娠合併症や流産率の低下が示唆されていることです。

一方でデメリットとして、排卵日の予測が必要であり、通院回数が増えることがあります。また排卵が不安定な方では周期キャンセルの可能性があります。

ホルモン補充周期のメリットは、スケジュール管理がしやすいことです。仕事の都合や遠方からの通院にも対応しやすく、排卵障害がある方でも安定して移植を行うことができます。

一方で近年は妊娠高血圧症候群や胎盤異常、流産率増加との関連が指摘されており、安易に第一選択とすることについては再検討が進んでいます。

そのため現在考えとしては、排卵が規則的にある患者様では自然周期あるいは修正自然周期を第一選択とし、無排卵症例や卵巣機能低下症例など自然周期が難しい患者様ではホルモン補充周期を選択するのが合理的だと考えています。

最も大切なのは、状況に合わせて最適な方法を選択することです。どちらか一方が絶対に優れているという話ではなく、それぞれのメリットとデメリットを理解した上で治療方針を決めることが重要だと思います。

1.The impact of endometrial preparation on pregnancy loss in vitrified-warmed euploid blastocyst transfer cycles: a randomized controlled trial
Human Reproduction. 2026;41(6):910-917.

2.Placental biomarkers in pregnancies conceived after natural cycle versus hormone replacement therapy frozen embryo transfer
Human Reproduction. 2026.
この論文ではホルモン補充周期で成立した妊娠では、胎盤形成に重要なPAPP-AやIGF-1が妊娠初期から低値であることが報告されており、胎盤形成の違いが妊娠高血圧症候群や流産リスク増加に関与している可能性が示唆されています。
 

不妊治療セミナーを開催いたします。
今回のセミナーは「卵がしてほしい治療はなにか」がテーマです。

 

2026年6月20日(土) 17:00-17:30(30分間)

 

高齢の治療では、治療の主語を卵子に置いて考えることが極めて重要です。

顕微授精、胚盤胞培養、PGT-Aなどの高度技術は有用ですが、すべての症例に最適とは限りません。

セミナーでは、卵子への負担という視点から治療戦略を見直し、卵が本来持つ力を最大限に引き出すために何を選択すべきか、わかりやすく解説します

 

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不妊治療では長年、「採精前は数日禁欲した方が良い」と考えられてきました。WHOでも2〜7日の禁欲期間が推奨されています。しかし近年、この常識を見直す研究が次々と報告されています。今回ご紹介する2つの論文は、「長くためた精子は本当に質が良いのか」という非常に重要なテーマを扱っています。

まず2019年のAndrologyの論文では、818人の男性と483周期のICSI症例を解析しています。禁欲期間が長くなるほど、精液量、精子濃度、総精子数は増加していました。つまり、「長く禁欲すると精子数が増える」という従来の考え方自体は、この研究でも確認されています。しかし、この論文で最も重要なのはその先です。同じ解析では、禁欲期間が長くなるほど精子DNA fragmentation index(DFI)が増加していました。つまり、精子数は増えても、DNA損傷も増えていたのです。

さらに、禁欲期間が長いほど、受精率、胚盤胞到達率、着床率、妊娠率が低下していました。特に4日以下の群では、精子DNA損傷率が低く、着床率や妊娠率が良好でした。さらに1日禁欲群では、最も高い着床率を示していました。著者らは、「精子が長く精巣上体内に留まることで、活性酸素による酸化ストレスを受け、DNA損傷が増える可能性」を考察しています。

一方、2024年のFrontiers in Endocrinologyの論文では、さらに一歩踏み込んだ解析が行われています。この研究では、「最後の禁欲期間」だけではなく、「その前の射精がいつだったか」まで評価しています。これを「PEA(penultimate ejaculatory abstinence)」と呼んでいます。つまり、“最後の射精前に、どれくらい長く射精していなかったか”という概念です。

この研究では1,503人の男性を解析しています。その結果、PEAが長くなるほど、DFI上昇、精子運動率低下、精子生存率低下が認められていました。特に9日超群では、DFI平均18.4%まで上昇していました。さらに、PEAが長いほど、DFI >15%、DFI >30%、精子無力症、精子死滅症のリスクが上昇していました。特に9日超群では、DFI >30%のリスクが4倍以上に増加していました。

非常に興味深いのは、「精子数」は増えているのに、「質」は低下している点です。つまり、ためれば増える一方で、ためすぎると老化する可能性があるということです。著者らは、「定期的な射精によって、より新鮮な精子を維持できる可能性」を示唆しています。

特に、排卵日に合わせて長期間禁欲し、その後だけ性交を集中させる夫婦では、実は精子DNA損傷が増えている可能性があるということです。これは非常に重要な視点です。従来は、「排卵日まで精子をためた方が良い」と考える方も多くいました。しかし、この2つの論文は、“長期間ため込んだ精子は、数は多くてもDNA損傷が増えている可能性がある”という新しい考え方を示しています。

もちろん、これだけで「全員が毎日射精すべき」と結論づけることはできません。ただし、高DFI、反復流産、男性因子不妊、ICSI反復不成功などでは、「短めの禁欲期間」や「定期的な射精」が有利になる可能性があります。特に、排卵日前から定期的に射精することで、より新鮮な精子を維持できる可能性があるという点は、今後の男性不妊診療において非常に重要な考え方になるかもしれません。

これまで「精子はためた方が良い」と考えられてきましたが、今後は「どれだけ新鮮な精子を使うか」という視点が、さらに重要になっていく可能性があります。

出典
Andrology
Revisiting the impact of ejaculatory abstinence on semen quality and intracytoplasmic sperm injection outcomes
2019; Vol.7: 213–219
doi:10.1111/andr.12572

Frontiers in Endocrinology
Association between penultimate ejaculatory abstinence and sperm quality: a cross-sectional study
2024; Vol.15:1490399
doi:10.3389/fendo.2024.1490399


近年、凍結胚移植において自然周期とホルモン補充周期のどちらを選択するべきかという議論が世界的に活発になっています。以前は妊娠率や出生率に大きな差はないと考えられていましたが、近年になってホルモン補充周期では妊娠高血圧症候群や胎盤異常が増える可能性が指摘されるようになりました。

今回Human Reproductionに掲載された研究は、この問題を考える上で非常に興味深い内容です。対象となったのは卵子提供による治療を受けた女性で、解析された移植周期は実に6万7048周期に及びます。

この研究が重要なのは、卵子提供という特殊なモデルを用いている点です。通常、高齢女性では卵子の老化が妊娠率や流産率に大きく影響します。しかし卵子提供では若年ドナーの卵子を使用するため、卵子年齢という大きな要因をほぼ除外することができます。そのため、子宮内膜環境そのものの影響をより純粋に評価できるのです。

まず掲載したいのはFigure 1です。この図には17万件以上の胚移植から最終的に6万7048周期が解析対象となった過程が示されています。人工周期6万0126周期、自然周期6922周期という極めて大規模な研究であることが一目で分かります。

結果は非常に興味深いものでした。調整後解析では自然周期群の出生率が有意に高く、オッズ比は1.38でした。一方、流産率は自然周期群で有意に低く、オッズ比は0.68でした。つまり自然周期では出生率が高く、流産率が低かったのです。

Table 2の表には出生率、流産率、妊娠率がまとめられています。研究の中心となる結果が最も分かりやすく示されている表です。自然周期の出生率向上と流産率低下が明確に示されています。

さらに興味深いのは、プロゲステロン値を測定し、不足例には追加補充を行った最適化ホルモン補充周期だけを取り出して解析しても、自然周期の優位性が維持されたことです。つまり単純な黄体ホルモン不足だけでは説明できない可能性があります。著者らは黄体の存在そのものが重要なのではないかと考察しています。

また妊娠高血圧症候群のリスクは自然周期で28%低く、帝王切開率も低く、大きめの赤ちゃんが生まれるリスクも低い結果でした。

Figure 2では妊娠高血圧症候群や帝王切開率の違いが視覚的に示されており、非常に理解しやすい内容になっています。

さらに本研究では、受卵女性の年齢によって自然周期の効果が変わるかどうかも検討されています。しかし年齢と移植方法の間に有意な交互作用は認められませんでした。つまり40代であっても自然周期のメリットは失われない可能性が示されたのです。

もちろん本研究は後ろ向き研究であり、ランダム化比較試験ではありません。しかし症例数の圧倒的な多さ、そして卵子年齢の影響を排除できる卵子提供モデルであることを考えると、非常に重要なデータと考えられます。

近年発表されたeuploid胚を用いたランダム化比較試験では、自然周期群で流産率が低く出生率が高い結果が報告されています。今回の研究は、その結果を大規模データで支持する内容とも解釈できます。自然周期移植の重要性を再評価する流れは今後さらに強まるかもしれません。

Live birth rates after natural cycle versus artificial cycle in women receiving donated oocytes and the impact of female age
Human Reproduction. 2026;41(6):918-928.
 


不妊治療の現場では、「もっと早く妊娠を考えればよかった」という声を聞くことがあります。しかし実際には、その妊孕性の重要性を最も理解しているはずの産婦人科医自身も、出産を先延ばしにしている現実があります。今回紹介する論文は、米国の産婦人科(OBGYN)研修医を対象に、「妊娠・出産計画」と「妊孕性温存」に関する不安や実態を調査した非常に興味深い研究です。

この研究では、米国のOBGYN研修プログラムを対象に全国調査が行われ、114名の研修医が回答しています。そのうち41%がフェローシップ進学希望でした。

ページ1のResultsでまず非常に印象的なのは、「研修医の約7割が、医療トレーニングのために出産を遅らせている、または遅らせる予定だった」という点です。

しかも、その多くは1〜3年、あるいは3〜5年の延期を想定していました。

さらに重要なのは、多くの研修医が「その遅れが将来の妊娠に影響するかもしれない」と感じていたことです。

ページ2のTable 1では、より具体的な内容が示されています。

フェローシップ志望群では、実際に子どもがいる割合が4.3%しかありませんでした。一方、フェローシップを希望しない群では24%でした。

つまり、「さらに長い研修を目指す女性医師ほど、出産を後回しにしている」ということです。

また、「将来子どもを持ちたい」と考えている割合自体は非常に高く、多くの研修医が「本当は子どもを望んでいる」ことがわかります。

つまり、「子どもが欲しくないから遅らせている」のではなく、「仕事との両立が難しいため遅らせざるを得ない」という構造が見えてきます。

ページ1では、出産延期の理由も解析されています。

最も多かったのは、「時間やスケジュールの柔軟性がない」でした。

さらに、
ストレス
経済的不安
同僚へ負担をかける罪悪感
サポート不足
なども大きな理由でした。

これは非常に現実的です。

特に、「同僚へ迷惑をかけたくない」という回答は非常に重いと思います。

また、この論文で非常に興味深いのは、「キャリアを守るために何を諦めるか」まで聞いている点です。

ページ1では、多くの研修医が、
勤務時間短縮
長期休職
キャリア昇進機会を諦める
勤務形態変更
場合によっては専門変更や医師を辞める可能性
まで考えていることが示されています。

つまり、「出産」は個人の問題ではなく、キャリア全体に影響する問題として捉えられているのです。

ページ3のTable 2では、卵子凍結・胚凍結についても解析されています。

半数以上の研修医が、妊孕性温存を「考えたことがある」と回答していました。

しかし実際に凍結を行った、あるいは予定している割合はかなり低く、多くが実施していませんでした。

その最大の理由は「費用」です。

約7割が、「費用は非常に大きな障壁」と回答しています。

さらに重要なのは、「もし保険適用されるなら利用したい」と考える研修医が非常に多かった点です。

つまり、「知識不足」ではなく、「制度と経済」が最大の壁になっているということです。

ページ4のConclusionでは、著者らはかなり強いメッセージを出しています。

「生殖医療を専門とするOBGYN研修医自身が、妊娠・出産を困難に感じている」

これは非常に象徴的です。

つまり、「妊孕性教育を知っているかどうか」だけでは問題は解決しないということです。

制度、労働環境、育児支援、休暇文化など、社会構造そのものが影響しているということです。

著者らは、
妊孕性温存への保険支援
標準化された育休制度
妊娠を特別扱いしない文化形成
などの必要性を強調しています。

これは医療界全体への大きな問いかけだと思います。

我々は患者さんへ「年齢と妊孕性」について説明します。しかし同時に、医療者自身が「わかっていても実行できない環境」に置かれている現実があります。

この論文は、「妊孕性問題は個人の自己責任だけでは語れない」ということを示した非常に重要な研究だと思います。

出典
Fertility and Sterility
Fertility planning and delayed childbearing among obstetrics and gynecology (OBGYN) residents: a national cross-sectional survey
2026; Vol.125 No.5: 922–925
doi:10.1016/j.fertnstert.2025.11.016