両角 和人(生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療専門医の立場から不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術について説明します。また最新の生殖医療の話題や情報を、文献を元に提供します。銀座のレストランやハワイ情報も書いてます。

私は東京都中央区銀座にある両角レディースクリニックの院長です。


産婦人科専門医であり、また生殖医療専門医でもあります。


専門は不妊治療、体外受精、腹腔鏡手術です。


毎日、不妊治療、体外受精、顕微授精に携わっております。


専門医の立場から生殖医療に関する正確な情報をお伝えして、出来るだけ多くの方に早く妊娠して頂けたらと思いブログを始めました。
ブログには生殖医療に関係する最近の話題を、わかりやすく書きたいと思っております。可能な限り書籍、文献に基づき記載していく予定です。


また国内外の学会や論文で発表された最新の治療等についても書いていきたいと思います。


できるだけわかりやすく説明したいと思いますが、もし難しい内容があれば気軽にコメントを頂けたらと思います。


2012年7月~中央区銀座で生殖医療専門のクリニックを開業しました。


詳細はクリニックのホームページ
を見て下さい。


個人のホームページ
も良ければ見て下さい。


ハワイダイヤモンド・ヘッドに数年間留学していたので、息抜きにハワイハワイ諸島の事も書きたいと思いますハイビスカスプルメリア


どうぞよろしくお願いいたしますニコニコ


以下はこれまで掲載した記事の主なテーマになります。


不妊ドックのすすめ
不妊のスクリーニング検査について

不妊の治療について


胚盤胞(グレード、妊娠率)

精子関連の話題

顕微授精のまとめ

体外受精のリスクについて

卵管造影検査について

凍結胚移植について

人工授精について

卵巣予備能低下症例の取り扱い

胚培養について(工夫、疑問)

子宮筋腫と不妊症

子宮内膜症について

腹腔鏡手術について

不妊治療とストレスについて

マイハワイベスト

ハワイ出産

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免責事項

体外受精を行っていると、「胚盤胞にならなかったのは染色体異常だったからですか?」という質問を受けることがあります。確かに染色体異常は胚発育停止の重要な原因の一つです。しかし本当にそれだけなのでしょうか。今回ご紹介する論文は、この疑問に対して非常に興味深い視点を提供してくれます。

今回の研究では、実に25,974個の受精卵を対象として、胚発育停止率と染色体異常率の関係が調べられました。これまでにも胚発育停止に関する研究は数多くありましたが、これほど大規模な解析は珍しく、非常に注目される内容です。

まず注目したいのは、年齢とともに胚発育停止率が明らかに増加していたことです。35歳未満では発育停止率の中央値は33%でしたが、41歳以上では44%まで上昇していました。年齢が上がるほど胚が胚盤胞まで到達しにくくなることを改めて示した結果と言えます。


Figure 1では年齢別の胚発育停止率が示されています。若年群では発育停止率が低い一方で、高齢群になるにつれて停止率が徐々に上昇していることが分かります。興味深いのは、同じ年齢群の中で染色体異常率が高い群と低い群を比較しても、発育停止率に大きな差が認められなかった点です。もし胚発育停止の原因が主として染色体異常であるならば、異常率が高い群ほど停止率も高くなるはずですが、そのような結果は得られませんでした

さらに著者らは、発育停止率と染色体異常率の相関を詳細に解析しています。



Figure 2では各年齢群における発育停止率と染色体異常率の関係が示されています。全体としてわずかな相関は認められたものの、年齢の影響を補正するとその関連は消失しました。各年齢群ごとに見ると、発育停止率と染色体異常率との間にはほとんど相関が認められず、著者らは両者は独立した現象である可能性が高いと結論づけています。

この研究で最も重要なのは、「高齢になると胚は止まりやすくなるが、その理由は染色体異常だけでは説明できない」という点です。多くの医療者は、胚盤胞にならなかった理由を染色体異常で説明することがあります。しかし本研究は、高齢による胚発育停止の背景には別の要因も存在する可能性を示しています。

著者らは考察の中で、母性効果遺伝子やミトコンドリア機能の低下に注目しています。卵子には受精後しばらくの間、胚発生を支えるためのRNAやタンパク質が蓄えられています。これらは母性効果因子と呼ばれ、初期胚発生に極めて重要な役割を果たしています。また胚発育に必要なエネルギーはミトコンドリアによって供給されます。加齢に伴いこれらの機能が低下すると、たとえ染色体が正常であっても胚が十分に発育できなくなる可能性があります。



Table 1を見ると、各年齢群の中で染色体異常率が異なっていても、発育停止率は大きく変化していません。例えば41~42歳群や42歳超群では染色体異常率が高くても低くても発育停止率はほぼ同程度でした。この結果もまた、胚発育停止を単純に染色体異常だけで説明できないことを裏付けています。

もちろん、この研究は「染色体異常は関係ない」と主張しているわけではありません。染色体異常が胚発育停止の原因となることは数多くの研究で示されています。しかし今回の研究は、それだけでは説明できない部分が確実に存在することを教えてくれます。
私はこの論文から、高齢卵子や高齢胚は単に染色体異常が増えるだけではなく、卵子そのものの生命力や環境への適応能力も低下している可能性を感じました。体外培養という環境の中で、若い卵子なら乗り越えられるストレスを、高齢卵子では乗り越えられなくなることもあるのかもしれません。
近年はPGT-Aによって染色体を調べる機会が増えました。しかし染色体が正常であることと、胚が持つ発育能力のすべてが正常であることは同義ではありません。染色体だけでは見えない卵子や胚の力が存在することを、この研究は改めて示しているように思います。

Reig A, Seli E.
Developmental arrest rate of an embryo cohort correlates with advancing reproductive age, but not with the aneuploidy rate of the resulting blastocysts in good prognosis patients: a study of 25,974 embryos
AGING. 2025;17(10):2552-2560.
 

ハワイにいた際に柳町先生は、自然の力の素晴らしさをいつも教えてくださいました。胚は本来、母体の中で環境と対話しながら育っていくものです。一方で柳町先生は、現在の培養液は胚にとって過保護すぎる面もあり異常な胚も胚盤胞になる。将来的には単に胚を育てるだけでなく、正常な胚を正しく選び出すセレクションメディウムが必要になるとも話されていました。

しかし、そのような理想的な培養環境が完成するには、まだかなりの時間がかかると思います。少なくとも現時点では、体外で長く培養することがすべての胚にとって最善とは限りません。特に高齢の卵子や胚では、染色体以外の弱さもあるため、体外培養そのものが発育の負担になる可能性があります。
だからこそ、胚盤胞培養だけを絶対視するのではなく、初期胚の段階で母体に戻し、子宮内という本来の環境の中で育てるという考え方も、もう一度見直すべきだと思います。

7/18開催のセミナーは「着床不全と免疫異常〜Th1/Th2とタクロリムス治療を考える〜」がテーマです。


現在、着床不全に対する治療としてタクロリムスが注目されています。
「良好胚を繰り返し移植しても妊娠しない」 「原因が分からないまま治療が続いている」
そのような患者さんの一部では、免疫学的な要因が関与している可能性が指摘されています。


次回のオンラインセミナーでは、
・Th1/Th2とは何か

・なぜ着床に影響すると考えられているのか

・タクロリムス治療の理論的背景

・どのような患者さんが対象となるのか

・実際の治療方法 ・期待できる効果と限界

・当院の考え方
について、最新の知見や論文を交えながら分かりやすく解説いたします。

《オンライン説明会日時》

2026年7月18日(土) 17:00-17:30(30分間)

 

お申し込みはこちらから

 

 



体外受精を行っていると、ときどき3PN(3前核)受精を認めることがあります。
正常受精では卵子と精子それぞれの核が1つずつ現れ、2PN(2前核)となります。しかし3PNは異常受精と考えられ、通常は移植の対象になりません。
では、3PNは単に「その卵子だけの問題」なのでしょうか。それとも、その周期全体の卵子の状態を反映しているのでしょうか。2025年にFrontiers in Reproductive Healthに興味深い論文が報告されました。本研究は35歳以下の予後良好な患者のみを対象とし、さらに精子因子の影響を排除するため、ドナー精子を用いた通常媒精(IVF)症例のみを解析しています。
最終的に1,250周期が解析され、3PNを全く認めなかった群と、少なくとも1個以上の3PNを認めた群で比較が行われました。

まず注目すべきは、3PNが発生しやすい条件です。

解析の結果、採卵数が多い症例ほど3PNが増加し、さらにhCG投与日のE2値が高い症例ほど3PN発生率が高くなっていました。多変量解析では、採卵数、hCG投与日のE2値この2つが独立した3PN発生因子として抽出されています。
著者らは、卵巣刺激に強く反応する症例では未熟卵や過熟卵が混在しやすくなり、その結果として多精子受精が増加する可能性を指摘しています。
つまり3PNは単なる偶然の出来事ではなく、卵子成熟の質と関係している可能性があるのです。

次に最も重要な結果を見てみます。

3PNを認めなかった群では、継続妊娠率68.5%、生児獲得率66.9%でした。
一方、3PNを認めた群では、継続妊娠率62.8%、生児獲得率59.8%でした。


さらに流産率は、3PNなし群7.8%、3PNあり群12.3%であり、3PNを認めた群で有意に高くなっていました。
興味深いことに、移植された胚はすべて正常受精した2PN胚です。つまり3PN胚を移植したわけではありません。それにもかかわらず、同じ周期内に3PNが存在しただけで、その後の妊娠率や生児獲得率が低下していたのです。

統計学的有意差には達していないものの、3PN数が増えるにつれて妊娠率、継続妊娠率、生児獲得率が低下する傾向が認められています。


著者らは考察の中で非常に興味深い仮説を述べています。
たとえ移植した胚が正常受精した2PN胚であっても、同じ周期に3PNが存在すること自体が、卵子全体の質の低下を反映している可能性があるというのです。
論文中では、染色体異常、ミトコンドリア機能異常、エピジェネティックな異常などが背景に存在する可能性が議論されています。
つまり3PNは単なる受精異常ではなく、「その周期の卵子集団全体から発せられる警告サイン」である可能性があります。
私は以前から、多精子受精や3PNが頻発する症例では、単に受精方法をICSIへ変更するだけでは本質的な解決にならない場合があると考えてきました。
今回の論文は、その考え方を支持する興味深いデータといえるかもしれません。
もちろん3PNが出たからといって妊娠できないわけではありません。
しかし3PNの存在は、その周期の卵子の質を評価する一つの重要な指標になる可能性があります。
今後は単に受精率だけではなく、なぜ3PNが発生したのか、その背景にどのような卵子因子が存在しているのかを考えることが重要になりそうです。

Influencing factors of three pronuclei incidence and their impact on pregnancy outcomes in women with good prognosis undergoing conventional in vitro fertilization with donor sperm: a retrospective cohort study
Sun J, Liu X, Shi S, Li M.
Frontiers in Reproductive Health. 2025;7:1509710.
Frontiers in Reproductive Health, Volume 7, 2025, Article 1509710.

 

この論文の興味深い点ですが「3PNが出たので次回はICSIにしましょう」「多精子受精は精子が入りすぎただけです」という単純な説明ではなく、「3PNは卵子側の受精制御や成熟の問題を反映している可能性があります」「ICSIで3PNを防げても、卵子の発生能までは改善できません」、このように医師は理解して治療を進めていくことの重要性を投げかけています。



PGT-A(着床前遺伝学的検査)が普及し、染色体異常のない正常胚(正倍数性胚)を選択できるようになりました。そのため、「正常胚さえ見つかれば年齢の影響はなくなるのではないか」と考える方も少なくありません。実際、加齢による妊娠率低下や流産率上昇の大きな原因は胚の染色体異常であることが知られています。

今回ご紹介する2025年の論文は、その疑問に真正面から取り組んだ研究です。正常胚を1個だけ移植した1037周期を対象に、35歳未満、35〜37歳、38歳以上の3群で妊娠成績を比較しています。全例が正常胚であり、さらに単一胚移植で検討されているため、「染色体異常の影響をできるだけ除いた状態で年齢そのものの影響を評価した研究」といえます。

結果は非常に興味深いものでした。Figure 1をご覧いただくと分かるように、38歳以上では生児獲得率が41.7%であったのに対し、35歳未満では54.5%、35〜37歳では54.0%でした。一方で流産率は38歳以上で22.6%と高く、若い年齢群の約13%を上回っていました。つまり正常胚を移植しても、高年齢になると出産まで到達する確率は低くなり、流産のリスクは高くなることが示されたのです。

さらに重要なのがTable 2です。この解析ではBMIや流産歴、PGTの適応、子宮内膜の状態など様々な因子を補正しています。その結果、38歳以上では若年群と比較して生児獲得率が有意に低く、流産率が有意に高いことが確認されました。単純に患者背景の違いによる結果ではなく、年齢そのものが妊娠予後に影響している可能性が示されたわけです。

またFigure 2では、年齢が上昇するにつれて生児獲得率が低下し、流産率が上昇する傾向が示されています。年齢の影響は「ある年齢を超えたら突然悪くなる」というよりも、徐々に積み重なっていくことが分かります。

著者らは、この現象は染色体異常だけでは説明できないと考察しています。加齢に伴う代謝異常や炎症、血管機能の変化、胎盤形成への影響、さらには子宮内膜受容能の低下などが関与している可能性があると述べています。つまりPGT-Aによって正常胚を選択することはできても、妊娠を維持し出産まで到達するために必要なすべての要素を改善できるわけではないということです。

この論文はPGT-Aを否定するものではありません。むしろ高齢になるほど正常胚を選択する意義は大きくなります。しかし一方で、「正常胚だから安心」「正常胚なら若い人と同じ成績になる」というわけではないことも示しています。

PGT-Aは年齢を若返らせる検査ではありません。正常胚を選ぶことで大きな壁である染色体異常を乗り越えることはできますが、それでもなお年齢の影響は残ります。この論文はその事実を改めて示した重要な報告といえるでしょう。

Maternal age-related declines in live birth rate following single euploid embryo transfer: a retrospective cohort study
Journal of Ovarian Research. 2025;18:24.

 

 

著者らは、正常胚を移植しても高年齢女性で流産率が高く、生児獲得率が低い理由は、染色体異常以外の加齢変化にあると考察しています。

加齢に伴い代謝異常や慢性的な炎症、血液凝固異常が起こりやすくなり、妊娠維持に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの合併症も増加します。さらに、子宮内膜の受容能低下や胎盤形成の異常なども関与している可能性があります。

つまりPGT-Aによって胚の染色体異常は除外できても、妊娠を維持するために必要な母体側の加齢変化までは改善できず、それが妊娠成績の低下につながっている可能性が示唆されています。
 

6月1日より、40〜42歳の患者様を対象とした「凍結胚移植支援パック」を開始しました。

現在の保険制度では、39歳までに治療を開始した方は移植6回まで保険適用ですが、40歳以上43歳未満で開始した方は3回までとなっています。

しかし実際には、40代前半は若い方以上に回数が必要になる年代です。年齢とともに妊娠率は低下し、流産率は上昇します。だからこそ回数を重ねながら結果を目指す必要があります。

それにもかかわらず、最も回数が必要な年代で移植回数が半分になってしまう。この点に私は以前から強い違和感を感じていました。

実際に、「あと数回移植できていれば結果に至ったのではないか」と思う方を何人も見てきました。しかし保険終了後は自費移植となり、経済的な理由から治療を断念される方も少なくありません。

40代前半の方に本来必要と考えられる回数を確保し、「保険が終わったから諦める」という状況を少しでも減らしたい。その思いから作った制度です。

正しい戦略を立て、必要な回数を確保し、最後までやり切る。そのために医療側も責任を持って支える。それが今回の制度に込めた思いです。
 

 

 

診察・採血費用等も含むパック料金1周期66,000円(税込)

43歳未満で保険移植制限3回終了してしまった方へ適用可能です。
保険治療開始が40歳未満の方は対象外です。(現行保険制度で6回移植可能なため)
転院の方は紹介状で保険移植回数が確認できる場合のみ制度利用可能です。
4回目~6回目までの移植で適用できます。
凍結胚移植のみ適用です。(新鮮胚は対象外)
自費診療になりますが診察回数3回までなど基本的なルールは保険診療のルールに従います。
追加検査を希望される場合は自費診療と同額で実施可能です。
妊娠した場合、それ以降の処方薬や診察料も全て自費の費用がかかります。
 


体外受精の世界では、近年顕微授精(ICSI)の使用頻度が急速に増加しています。もともと顕微授精は重度男性不妊に対する画期的な治療法として開発されましたが、現在では男性因子がほとんど認められない症例にも広く行われています。
しかし、本当に顕微授精は通常の体外受精(IVF)より優れているのでしょうか。
この疑問に対して、2025年にNature Medicineに掲載された大規模ランダム化比較試験が重要な答えを示しました。


この研究はデンマークの6施設で実施された前向きランダム化比較試験です。重度男性不妊ではない824症例を対象に、IVF群とICSI群へ無作為に割り付けて比較しています。現在までに報告されているIVFとICSIの比較研究の中でも最も質の高い研究の一つであり、今後の生殖医療に大きな影響を与える論文と考えられます。

Figure 1では研究デザインが示されています。824例がICSI群414例、IVF群408例に割り付けられ、その後の妊娠・出産まで追跡されています。研究対象数が非常に多く、実際の臨床現場に近い条件で行われたことが本研究の大きな特徴です。

本研究で最も重要な評価項目は累積生児獲得率でした。
Table 2を見ると、累積生児獲得率はIVF群47.3%、ICSI群43.2%でした。統計学的な有意差は認められなかったものの、少なくともICSIがIVFを上回る結果ではありませんでした。

さらに初回胚移植後の生児獲得率を見ると、IVF群31.6%、ICSI群26.6%でした。妊娠率、着床率、継続妊娠率についても両群間に差は認められませんでした。
つまり男性因子が重度ではない症例において、顕微授精を行うことで妊娠率や出産率が改善するという証拠は得られなかったのです。

次に注目したいのが受精率です。

一般的には顕微授精の方が確実に受精すると考えられています。しかし本研究では受精率はICSI群53.5%に対しIVF群58.1%であり、むしろIVF群が有意に高い結果でした。

さらに胚利用率もIVF群56.0%、ICSI群50.7%であり、高品質胚盤胞数もIVF群が多い傾向を示しました。この結果は非常に興味深いものです。
顕微授精は受精を人工的に成立させる技術ですが、受精後の胚発育や最終的な生児獲得率まで改善するわけではないことが改めて示されたからです。
 

この論文で私が最も興味深いと感じたのは考察部分です。著者らは若年女性や卵巣反応が良好な症例において、ICSIがむしろ不利になる可能性について議論しています。

この図では32歳以下の若年女性においてIVFの方が良好な結果を示していることが分かります。著者らは、この群ではICSIを行うことでむしろ生児獲得率が低下する可能性を指摘しています。


こちらでは採卵数が10~15個程度得られる良好反応群でIVFの優位性が示されています。

なぜこのような結果になったのでしょうか。
著者らは一つの仮説として「natural selection process」、すなわち自然選択の存在を挙げています。IVFでは精子が卵丘細胞を通過し、透明帯へ結合し、最終的に卵子へ侵入するという一連の過程を経て受精が成立します。その過程では、運動性や形態だけではなく、透明帯結合能や受精能力など様々な要素による選別が行われています。
言い換えれば、受精とは卵子と精子がお互いを選び合う過程でもあります。

一方でICSIでは、培養士が選択した1匹の精子を卵子へ直接注入します。そのため、本来存在する自然な選別機構を大きく省略することになります。もちろん重度男性不妊においてICSIは不可欠な技術です。しかし正常な精子が十分存在する症例では、この自然な受精過程そのものに意味がある可能性が示唆されたのです。
著者らはさらに、ICSI操作そのものが卵子へ微細なダメージを与えている可能性についても考察しています。卵子の細胞骨格や細胞内構造への影響、あるいは本来の受精活性化過程との違いなどが関与している可能性があると述べています。

またTable 5では周産期予後についても比較されています。

早産率、出生体重、先天異常率などに有意差は認められず、安全性の面では両群に大きな違いはありませんでした。
つまり本研究から見えてくるのは、「ICSIは危険な技術である」ということではありません。
むしろ「男性因子がない症例でICSIを積極的に選択する理由が見当たらない」ということです。

私は以前から、良い精子でIVFを行うことの価値を患者さんへお伝えしてきました。
受精とは単に精子を卵子へ入れ込む作業ではありません。
卵子と精子がお互いを見極め、最も適した組み合わせが選ばれる瞬間です。

人類だけでなく生殖を行う生物の長い進化の中で作られてきたこの神秘的な生理現象には、私たちがまだ十分理解できていない重要な意味が含まれているのだと。

今回のNature Medicineの論文は、顕微授精の有用性を否定する研究ではありません。
本当に必要な症例にICSIを用い、それ以外では本来の受精という生理現象を最大限活用するべきではないか。そのことを改めて考えさせてくれる非常に重要な研究だと思います。

IVF versus ICSI in patients without severe male factor infertility: a randomized clinical trial
Berntsen S, Zedeler A, Nøhr B, Petersen MR, Grøndahl ML, Andersen LF, et al.
Nature Medicine. 2025;31:1939-1948.
Nature Medicine, Volume 31, June 2025, Pages 1939-1948.

 

 

Nature Medicineは2024年のインパクトファクターが58前後とされる世界最高峰の総合臨床医学誌の一つです。掲載される論文は、通常は新薬、がん治療、遺伝子治療、感染症など、人命や医療の方向性を変える可能性のある研究が掲載され医療全体の方向性や診療方針に影響を与える可能性があるものが選ばれます。そのような雑誌に「IVFとICSIの比較」というテーマの論文が掲載されたこと自体に大きな意味があります。
現在、世界では体外受精周期の約3分の2でICSIが用いられています。しかし、その多くは本来の適応である重度男性不妊ではなく、十分な科学的根拠がないまま実施されているのが現状です。この論文は824例を対象とした大規模ランダム化比較試験という最も信頼性の高い研究手法を用いて、男性因子が重度でない症例ではICSIがIVFを上回らないことを示しました。さらに受精率や若年女性における成績では、むしろIVFの優位性を示唆する結果も得られています。
つまりNature は、この研究を通じて「より高度な技術が必ずしもより良い医療ではない」という重要なメッセージを発信したかったのだと思います。本来の受精という生理現象に価値があり、それを安易に置き換えるべきではない可能性を示した点で、この論文は生殖医療の根本を問い直す極めて意義深い研究といえるでしょう。



不妊治療の現場では、「少しでも妊娠率を上げたい」という患者の願いと、「何かできることはないか」という医療者の思いから、さまざまな追加検査や追加治療が行われています。

これらは一般に「アドオン(add-on)」と呼ばれ、通常の体外受精に加えて行われる検査や治療です。例えば子宮内膜着床能検査、免疫検査、NK細胞検査、PGT-A、タイムラプス、PRP療法、子宮内膜スクラッチなどが代表的です。

しかし2023年に欧州生殖医学会(ESHRE)は、「Good practice recommendations on add-ons in reproductive medicine」を発表し、現在世界中で行われている27種類のアドオンについて、その有効性と安全性を徹底的に検証しました。

まず注目すべきは、この論文で検討された42項目の推奨のうち、高品質なエビデンスに基づいて推奨できたものは一つもなかったという事実です。さらに95%以上の推奨は低品質の研究や専門家の合意に基づいていました。

Table 2では、各検査の推奨度が一覧化されています。この表はぜひ掲載したい図表です。なぜなら現在多くの施設で実施されている検査の多くが「推奨しない」「日常診療では推奨しない」と評価されているからです。表を見ると、着床能検査(ERAなど)、NK細胞検査、KIR・HLA検査、免疫学的検査はいずれも推奨されていません。

着床能検査については、多施設共同RCTを含む大規模研究で生児獲得率の改善は認められず、ESHREは「現在利用可能な着床能検査は推奨しない」と結論付けています。

さらに免疫学的検査についても非常に厳しい評価がなされています。

論文ではNK細胞やTh1/Th2比、サイトカイン測定などについて、「明確な生物学的根拠がない」とまで記載されています。血液中の免疫細胞の状態が子宮内の環境を反映するとは限らず、現時点では治療方針決定に役立つ情報は得られないとされています。

この部分は、免疫検査に対する世界的な見解を理解するうえで非常に重要であり、NK細胞やTh1/Th2比を routine に測定することへの慎重な姿勢が示されています。

一方で培養室関連のアドオンについても厳しい評価が続きます。

Table 4は本論文の中でも特に重要な表の一つです。この表では培養室で行われるアドオン技術の推奨度が一覧化されています。タイムラプス培養、PGT-A、アシステッドハッチング、IMSI、MACSなど、現在広く行われている技術の位置付けが理解できます。

例えばタイムラプス培養については、「胚観察には有用だが、生児獲得率改善の証拠はない」と結論されています。

PGT-Aについても意外な結果です。

Table 3はPGT-Aに関する主要RCTをまとめた極めて重要な表です。この表はぜひ掲載したい図表です。過去10年以上にわたる主要ランダム化比較試験が一覧化されており、多くの研究で生児獲得率の有意な向上が示されていないことが分かります。

ESHREは最終的に「PGT-Aを日常診療として推奨しない」と結論しています。

また臨床治療の分野でも興味深い結果が続きます。

Table 5は患者が最も関心を持つ表かもしれません。PRP療法、Duostim、成長ホルモン、DHEA、子宮内膜スクラッチ、子宮内G-CSF投与、hCG注入などの推奨度がまとめられています。

近年注目されているPRP療法についても、現時点では推奨できるだけの十分な根拠がないとされています。

また長年議論されてきた子宮内膜スクラッチについても、大規模RCTやメタアナリシスの結果を踏まえ、「日常診療として推奨しない」という結論になっています。

その一方で、この論文で数少ない肯定的な評価を受けたものもあります。

その代表が胚移植時のヒアルロン酸含有移植液です。

Table 5を見ると、ヒアルロン酸添加移植液は生児獲得率向上のエビデンスが比較的しっかりしており、「推奨」と評価されています。

また完全受精障害に対する卵子活性化(AOA)も限定的な適応で推奨されています。

本論文の最も重要なメッセージは、「新しい治療だから良い治療ではない」ということです。

患者が強く希望するから、あるいは他院が行っているからという理由だけで治療を追加しても、本当に妊娠率が上がるとは限りません。むしろ追加費用や身体的負担だけが増える可能性もあります。医療者に求められるのは、「できることを全部やる」ことではなく、「本当に意味があることを選ぶ」ことです。

卵子や胚にとって必要のない介入を増やすのではなく、科学的根拠に基づいて治療を組み立てることこそが、最終的に患者の利益につながるのだと思います。

Lundin K, Bentzen JG, Bozdag G, Ebner T, Harper J, Le Clef N, Moffett A, Norcross S, Polyzos NP, Rautakallio-Hokkanen S, et al.
Human Reproduction. 2023;38(11):2062–2104.

昨日はオンラインセミナーを開催しました。

多くの方にご参加いただき誠にありがとうございました。

参加いただいた方から以下の感想をいただきました。

頂いたご意見や感想をもとに引き続き皆様のためになるセミナーになるように努力したいと思います。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました。  高齢であることを理由に、いろいろ追加しなければと思ってましたが、年齢だけで判断して何でも足すのではなく、一人ひとりの状況に合わせて必要な医療を選択することが大切だと理解できました。今後の治療を考える上で参考にさせていただきます。  ありがとうございました。

 

最新の論文をもとに、卵を中心に考えた生殖医療がいかに大切かがよくわかりました。ありがとうございました。

 

顕微授精を安易に選ぶことについて、高齢で卵が少ない採卵時取れないから体外受精は全滅、顕微が受精する確率が高かったので今は顕微一択にしていました。考え改めようと思いました。

 

高齢、低AMHの、胚盤胞になりにくいタイプの不妊治療においての考え方を知ることができた

 

高齢のたまごの特徴がわかった

 

 

これまでのセミナー動画は全てYouTubeで公開しております

 

第1回:PGT-Aについて

第2回:腹腔鏡手術(ラパロ)について

第3回:良好胚をつくるための刺激方法

第4回:着床障害に対する検査と治療法

第5回:不妊治療の費用と流れ

第6回:不妊治療の基本から

第7回:男性不妊

第8回:良い卵子を作るためには

第9回:着床率向上の工夫

第10回:着床前診断:最新の情報

第11回:FTと腹腔鏡下手術について

第12回:胚培養

第13回:高齢の方の治療戦略

第14回:高齢の方の治療戦略 続編

第15回:40歳代前半に焦点を当てた高齢不妊治療の成功例:ここを改善したら出産できた

第16回:高齢、低AMHで結果を出す治療戦略:成功例をもとに

第17回:高齢で結果を出す方法:ここが他院とのちがい

第18回:高齢で結果を出す秘訣

第19回:PFC-FD:最新技術で妊娠させる!

第20回:保険診療で結果が出なかった場合の治療戦略

第21回:高齢で結果を出している方の共通点

第22回:高齢の方への治療戦略:排卵誘発編

第23回:不妊治療大質問会

第24回:着床不全に対しての対策

第25回:結果が出た方の不妊治療中の運動習慣および生活習慣 医学の観点から

第26回:培養技術の疑問 その技術はエビデンスがあるか?

第27回:保険診療での課題:どうしたら妊娠できるか、具体的な戦略は

第28回:培養の疑問 その技術はエビデンスがあるか?<続編>

第29回:採卵:当院の工夫を紹介します

第30回:移植:当院の工夫を紹介します

第31回:受精:当院の工夫を紹介します

第32回:AMH0.1未満で結果を出した方の治療法~具体的な症例をもとに紹介します~

第33回:腹腔鏡手術で授かる:腹腔鏡手術の詳細を説明します

第34回:夫として妻のために、父親とし子どものためにどう考え何をすべきなのか

第35回:妊娠に好ましい食生活

第36回:妊娠に好ましいライフスタイル

第37回:当院における体外受精の治療方法

第38回:当院における体外受精の治療方法

第39回:高齢不妊治療:仕事と両立をするために

第40回:海外・遠方からの不妊治療

第41回:不妊治療何でも質問会

第42回:諦めない!40代、限られた時間で成果を出すための治療選択

第43回:不妊治療大質問会

第44回:25年最新!『40代前半に焦点を当てた高齢不妊治療の成功例:ここを改善したら出産できた』

第45回:PFC-FD投与~高齢症例に対して当院の工夫~

第46回:妊娠しやすい身体づくりのための生活習慣の見直し

第47回:胚盤胞まで育てるべき?それとも早く戻すべき? 初期胚vs胚盤胞~最新データで読み解く妊娠戦略~

第48回:45歳以上で生まれた方に共通する刺激方法、治療戦略

第49回:皆様からの質問にお答えする会

第50回:2人目不妊

第51回:未来の妊娠を守るために今できること

第52回:メンタルをいかに保つか

第53回:AMHが低い場合の結果を出す戦略

第54回:40歳からの不妊治療

私は鳩サブレーが大好きです。


子どもの頃から好きで、今でも自宅やクリニックに置いてあると、つい手が伸びてしまいます。

鎌倉に行くたびに本店に行きますが色々なグッズを販売しておりついつい買ってしまします。

いつ初めて食べたのかは覚えていません。それほど昔から私の人生の中にあるお菓子です。

そんな鳩サブレーにまつわる思い出で、今でも鮮明に覚えていることがあります。

中学生の頃、私は職員室の掃除当番をしていました。仲の良い友人3人と一緒に掃除をしていたのですが、掃除の後に鳩サブレーを1枚ずついただくのが楽しみでした。

毎日「今日も1枚だけ」と言いながら食べていたのですが、気が付けば缶が空になっていました。

今思うと、鳩サブレーには人を笑顔にする力があるのかもしれません。

どちらから食べるとか、鳩の可愛さなど。

鳩サブレーの原材料はとてもシンプルです。小麦粉、砂糖、バター、卵。余計なものを加えず、長年変わらない味を守り続けています。



サクッとした食感と、口の中に広がるバターの香り。何十年経っても変わらないおいしさです。

医療の世界は日々進歩し、新しい技術や治療法が次々と登場します。一方で、長い年月を経ても変わらない価値というものもあります。

私にとって鳩サブレーは、そんな存在のひとつです。

一枚食べるたびに、中学生の頃の記憶がふとよみがえります。