江戸の艶本は庶民に人気があり、

挿絵の春画は当時よく知られた浮

世絵師が描いている。

 

滝沢馬琴「艶本多歌羅久良」

朝ドラ「らんまん」にもよく登場

する長編『里見八犬伝』の馬琴先

生も艶本を書いている。

「多歌羅久良(たからぐら)」は、

馬琴82歳の生涯の只ひとつの艶本

で、寛政12(1800)年正月刊行

され、挿絵は喜多川歌麿が描く。

 

「艶本多歌羅久良」の序文

序文の末尾に「今上品と意気と不

卑の色情を、天地人の三冊に画わ

け、たしなみ薄きやからに、かの

東坡先生の云いのごとく、男女の

淫楽は互いに、醜骸をいただく神

を出さしめんと、春雨の眠気ざま

しに禿筆を走らす而巳。申の睦月

曲取主人題」とあり、曲取主人

は滝沢馬琴の隠号。

 

 

滝沢馬琴(曲取主人)の「多歌羅久良(たからぐら)」

 

浅草寺(艶本多歌羅久良)

作蔵は浅草寺の鐘の音に驚き家に

帰る。

このとき向こうより十七八の大振

袖の娘があり、絶世の美人。

作蔵傍へ寄り聴くと娘は供のもの

と離れ「途方にくれております」

という。

作蔵

「橋場なら川向う。ちょっと私の

庵(別荘)にお休みなされ」と連

れ込む。

作蔵の庵

作蔵の庵の隣は遠くにあり、庵に

はひとは居ず。

「是はむたいな。なにをなされます」

「アレ、およしなさい。むたいな」

「モシ、こふなるからは、かくしは

せぬが、わたしゃ初めてでござりま

す。しずかになされて下されませ」

といわれて作蔵、可愛さまさり、唾

とろりとあんばいして、左手で弱腰

を抱きしめ押し込めば、「アゝ、も

ふどうも」と足を七の隋までからみ

つけてくる。

「アゝもう、よくて〱、いっそ息が

はずみます。どうも〱」

 

 

 

 

はじめての女にしては至極巧者

の大よがりし、作蔵はついにだ

く〱と末期の水を吐き出す。

娘は帯しめるその所へ供の者が

探し当て、娘は何くわぬ顔して

礼を述べて帰っていく。

この娘の名をおいくという。

 

のち娘・おいくは、ひと夜おき

に作蔵の別荘にたずねにくる。

この間本宅の作蔵の妻の楓(か

えで)は従兄の幾太郎と不義を

かさねている。

 

物語の終末(稲荷)

物語の終末。

幾太郎は狐に変じ、「我、作

蔵の妾となり、楓の密夫となる。

双方差し引き出入りなし。さら

ばさらば」といい、消えていく。

作蔵の屋敷の稲荷。姿を変じて

現れ、夫婦が邪淫を戒めたまひ

しと聞こへし。

 

 

滝沢馬琴「らんまん」

「らんまん」の主人公寿恵子は

物語が好きで、なかでも『南総

里見八犬伝』が大好きで、滝沢

馬琴のファンだった。

滝沢馬琴(本名:倉蔵。1767

-1848)は『南総里見八犬伝』

の執筆に28年を費やし完結させ

た。世界一の長編小説である。

馬琴は失明後も82歳のとき『傾

城水滸伝』を口述で筆記させる

なか嘉永元(1848)年11月6日

に没する。


歌川国貞は、滝沢馬琴が中国の

小説をもとに書いた『新編金

瓶梅』(1841-1844)をもと

に、絵にしたて『金瓶梅』を描く。

 

 

滝沢馬琴の小説をもとに描いた歌川国貞の『金瓶梅』

 

 

浅草寺「山東京伝机塚」(1817年)

2022.7.20

浅草寺(宿屋飯盛「恋の戯れ歌(歌麿)」)ー新東京物語(22)

 

 

山東京伝(1761-1816) 北尾政寅

太田南畝(1749-1823) 四方赤良・蜀山

蔦屋重三郎(1750-1797)筆綾丸(吉原連)

喜多川歌麿(1753-1806)蔦唐丸(吉原連)

石川雅望(1754-1830) 宿屋飯盛(号:六樹園)  

 

天明元(1781)年  歌麿「身貌大通人略縁起」(版元蔦屋)

天明5(1785)年  京伝「艶本枕言葉」・「江戸生艶気椛焼」

天明6(1786)年  「吾妻曲狂歌文庫」(政寅画・宿屋撰)

天明7(1787)年  歌麿「三保の松原道中」

天明8(1788)年  「画本虫撰」(歌麿画)歌麿「歌まくら」

寛政1(1789)年

寛政2(1790)年  「百千鳥狂歌合」

寛政3(1791)年  京伝50日・蔦屋筆禍

寛政4(1792)年  南畝・大坂銅座赴任

寛政5(1793)年  京伝・京伝店開店(銀座)

寛政9(1797)年  蔦屋没

寛政11(1799)年  歌麿「ねがひの糸口」

文化3(1808)年  歌麿没

文化8(1811)年  南畝「住吉紀行」

文化13(1816)年  京伝没・雅望没

文化14(1817)年  浅草寺「山東京伝机塚」建立

文政6(1823)年    南畝没

 

 

 

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競艶春画

<競艶春画(竹原春潮斎信繁)>

競演春画<燃える青春「公家と姫」>)

竹原春潮斎信繁(燃ゆる青春「七草開」)

春潮斎春画(盂蘭盆会「僧と後家」)

浮世絵春画(天神祭「競艶」)

 

<競艶春画『開註年中行誌』(仮名垣魯文著・歌川芳虎画)>

浮世絵春画「雷(鳴神)」

浮世絵春画(霜月「顔見世と雪見」)

 

<競艶春画『色あそび』(石川豊信)>

浮世絵春画(石川豊信『色あそび』)

 

<競艶春画『笑本春の曙』(北尾重政)>

浮世絵春画(北尾重政・磯田湖龍斎)

 

<競艶春画(『色道十二番』鳥居清長)>

鳥居清長「色道十二番」(昼夜区別なく)

競艶春画「美人・湯上り」ー鳥居清長と喜多川歌麿

競艶春画「炬燵開き」ー鳥居清長と奥村政信