快い疲れの後、ついまどろむという
ことはないだろうか。
浮世絵春画のなかでも、男と女のふ
たりが、ともに目を閉じ、微睡む姿
の春画がふたつある。
鳥居清長『袖の巻』
鳥居清長の『袖(そで)の巻』は色
摺柱絵で、十二枚組物の天明5(17
85)年作。
鳥居清長は役者絵が専門だが、八頭
身の美人画で知られている。
彼の浮世絵の『袖の巻』は縦12cm、
横67cmという横が縦の5倍以上あ
る横長の春画がある。
『袖の巻』
『袖の巻』の絵には詞書も書き入れ
もないが、裸のふたりはどちらもが
目を閉じ、たがいに満ち足りた後の、
からだの力がぬけた姿が描かれてい
る。
鳥居清長『袖の巻』
葛飾応為『つひの雛形』
葛飾応為が描いた絵本に「つひの雛
形」がある。
この冊子の表紙には「紫色鴈高作 女
性隠水書陰陽和合玉門栄」と(栄)
とある。屏風の絵がある左端には、
小文字で(紫色鴈高書)と隠し落款
があり、紫色鴈高(ししきがんこう)
はお栄のことをさす。
つまり北斎の娘のお栄こと葛飾応為
のことである。
北斎が描いたという説もあるようだ
が、それにしても絵が(北斎よりも)
綺麗で上手だ。
応為の父・北斎曰く、「美人画にか
けては応為にはかなわい」という。
北斎の娘・葛飾応為の「つひの雛形」(第3図)
『つひの雛形』
題の『つひの雛形』だが、「つひ」
は男女のつがいと女陰の「つび」と
懸けた言葉で、雛形(ひながた)は
見本のこと。
これを直訳すると「女陰の見本帖」
で、応為は「つひの雛形」で、男と
女がおりなさす営みを12枚描いてい
る。これがその内のひとつ。
葛飾北斎の娘・応為の「つひの雛形」(第4図)
葛飾応為の『つひの雛形』には、書
き入れがある。男女のそばではネズ
ミが交尾し、猫が枕元でこれを見て
いる。
(亭主・女房)
ゴウ 〱 〱 ム二ヤ 〱 〱
(猫)
猫が曰く むかしから 五八たま
ご 六ッ丸く 九ッハはりと お
れが目で ときを志るといふが
人げんの 目も やっぱり かわ
るやつさ
ここのやどろくが こう ここな
さ ちょっと おきさつせへ 〱
と揺り起こして おっかさんに
ゑてものを にぎらせると
かゝあが めをさまして 目を
まん丸く志やァがって
それから いれて 〱 二ッ ミ
ッつかれると
ホそめて たまごのやうになつて
なにが アア いゝわたしがいく
よ
あれさ 〱 と ぬかすときは
めをはりのように するやつさ
九ッやった 志るしかしらん
おれのひげだけぢゃねへ
にょうぼうの またぐらのけも
たいまつになると見へて
くらやみで けつの穴へ
かどぢげへもせずに 入るも
ふしぎざ アゝ おれもキがみょ
うになってきた
やどろくハおかあをとしからア
ねづみでもとらうかしらん
おや ねづみも はじめるやつさ
ここは みのがすところが
大通だろう
にやん おもしろくもねえ
ねづみのよがりごゑ
チウ 〱 〱 〱
快い疲れで、まどろんでいる
ふたり。その傍には団扇があり、
その団扇には川柳が書かれている。
弁慶と小町はバカだ なあかかァ
弁慶は女嫌い、小野小町は男嫌い
で、ふたりとも生涯、異性と交は
らなかったということが、この頃
に言い伝えられていという。
葛飾応為『つひの雛形』
葛飾応為は、葛飾北斎の娘で、名
を阿栄(おえい)と呼び、画号の
応為は、「おーい おやじ殿」と
いう俗謡の一節からとったという。
応為の『つひの雛形』の一枚の春
画のなかには、猫は、人の目に懸
けて、微睡(まどろ)む、目(ま)
どろむと、とうとうと語り、さら
に鼠や団扇の絵を添えて、男女の
浮世での愉しみを物語っている浮
世絵春画。
競艶春画
<競艶春画(竹原春潮斎信繁)>
<競艶春画『開註年中行誌』(仮名垣魯文著・歌川芳虎画)>
<競艶春画『色あそび』(石川豊信)>
<競艶春画『笑本春の曙』(北尾重政)>
<競艶春画(『色道十二番』鳥居清長)>
2022.11.14
競艶春画「炬燵開き」ー鳥居清長と奥村政信ー男と女の物語(267)