浮世絵が描かれていたとき。

一年の各月行事を仮名垣魯文は艶噺を書き、

これに歌川芳虎が絵を添えた、いわゆる浮

世絵春画と呼ばれるものである。

 

<『開註年中行事』(「顔見世」)>

『開註年中行事』のなかの「11月之噺」。

顔見世は12月が恒例だが、江戸時代には11月

霜月に開幕、絵には芝居小屋の桟敷の情景が

描かれている。

物語は、男が女房と一緒に供の女中と馴染の芸

者を連れて顔見世見物にきて、桟敷で酒肴を取

り寄せて楽しんでいる内に女房が腹痛をおこし

て女中に付き添われ芝居茶屋に引き下がること

になる。芸者とふたりきりになった男が観客席

の薄暗さをいいことに、芝居をみながら芸者に

爲掛けるところ。

一方、舞台では、美しい女房がのゐる男がお気

に入りの芸者を口説いてゐるという濡れ場を

演じている。(以下図の書き入れによる)

(男)

おい、ちょっと ぶてへ(舞台)をみな

ちくしょうめ うまく やるなう

エゝ 気のわりい こいつア たまらねへと

うしろから入れかける

(女・芸者)

アレサ旦那へ どうもモウ なりたやが

アレ 〱 よくって 〱 モウ 〱

いっそ 焦(じ)れツたいねへ

 

 

濡れ場が演じられている舞台、これを観る男と芸者

 

 

<『開註年中行事』(「雪見」)>

同じく陰暦の11月・霜月。

冬も深まり雨が雪に変はる頃になり、降り出

した雪が見る間に積もりだした。そんな雪の

日。息子(男)が炬燵にあたって艶本を見て

ゐるところへ、近所の馴染の娘がやってきて

鍋を手に、居間の障子を開けて入ってくる。

家の者は用事で出てしまったことを聞くと、

これをお前にあげようと思ってもってきたと、

鴨鍋を差し出す。

男はお礼にと縮緬の頭かけや襦袢の袖口を娘

にやり、酒の燗(かん)を頼んで鴨鍋を肴に

雪見酒と洒落こむ。炬燵でふたりは杯をかわ

し、(挿絵のような)やり取りにおよぶ。

 

 

雪の日に炬燵で男と娘が酒を交わす。

 

(娘)

アレサ マア 人がくるとわるいよう

交(かう)さん

(男)

なんの 雪のふるのに だれがくるものか

マアじっとしてゐな 何もそんなにこわが

らずともいい ソレかうやると 今にだん

〱 よくなるヨ それどうだ いてえか

いてへかつたら いひなヨ

(娘)

イゝ エ いたかないがね

なんだか モウ 

どうも  アゝ フン 〱 〱

 

 

<競艶春画(竹原春潮斎信繁)>

競演春画<燃える青春「公家と姫」>ー男と女の物語(255)

竹原春潮斎信繁(燃ゆる青春「七草開」)ー男と女の物語(256)

春潮斎春画(盂蘭盆会「僧と後家」)ー男と女の物語(257)

浮世絵春画(天神祭「競艶」)ー男と女の物語(258)

 

<競艶春画『開註年中行誌』(仮名垣魯文著・歌川芳虎画)>

2022.11.5

浮世絵春画「雷(鳴神)」ー男と女の物語(259)