㊻千葉県の公教育はオワコン?

 

参考記事

高2が東京都知事選で考えた 「投票しなければ、何も変わらない」 柏・東葛飾高で

 主権者教育 東京新聞 2024.7.6

 制服が無く、リベラルアーツといったユニークな授業で知られる同校での試みは、ヨーロッパからすれば何一つ新しさを感じないレベルのものだが、古臭い教育がはびこる千葉県では極めて先進的に映る。私自身、同校のリベラルアーツの授業に幾度か参加してきたが、20年近く前からのこうした試みが他の公立高校に広がることはほとんど見られなかった。子どもの権利条約を知ろうともしない管理職や年配の教師たちが生徒たちに主権者教育などできるわけがない。

 まずは千葉県の公教育の体質を変えなければ「何も変わらない」のだ。

「忙しいはありがたい」? 新採用教員にブラック職場「肯定」冊子 千葉県総合

 教育センター 東京新聞 2023年3月20日

 千葉県の学校教育と教育行政がいかにダメなものかをこれだけ堂々と発信してしまって良いのだろうか?通常はタダで済まされないような暴言に等しい内容であろう。これからの千葉県の学校の大躍進を願うばかりである。

教員未配置が深刻、過去最多の449人 過重勤務・自習授業増

   朝日新聞社 によるストーリー 2024.3.30

 千葉県の公教育の土台が予想通りに崩れつつあるようだ。

千葉県公立高の入試採点ミス 7月にも改善策提示 教育長「人為的ミス防止が第一

     の視点」  千葉日報社 によるストーリー 2023.5.20

「デジタル採点導入を」 千葉・公立高入試で有識者会議が提言 

  産経新聞 2023.6.14

【高校受験】千葉県公立高、デジタル採点導入など…採点ミス改善策で提言

  リシード 2023.6.19

 2022年度の千葉県における公立高校での入試採点ミスが98校、933件にも達してしまった件に関して県の教育長は「…各県立高へのアンケートで不注意や解答用紙の様式などが採点ミスの原因として挙げられた」との認識を示し、専門家からなる改善検討会議を設置してその提言に基づく改善を検討していくとのこと。しかしながら直近まで高校入試の現場にいた自分としてはなぜもっと早くから改善策がとられなかったのか、不思議でならない。そもそも「解答用紙の様式」と「模範解答の様式」が異なることが採点時のミスを招く、との指摘はかなり昔から存在していたし、アンケートでも繰り返し指摘されてきたはず。ところがこれまでまったく改善されることは無かった。

 加えて入試の前後は3年生の追試、成績処理、卒業式の準備、就職指導などと重なり、3学年に関わる多くの職員は極めて忙しい。殺人的な忙しさに振り回される中での不注意を一体、誰が咎められるのだろう。「入試」は別格の重要な仕事であることなぞ、とっくの昔に承知している。別格の仕事ならばその時期に他の仕事を集中させてはならぬはず。採点ミスの責任の一端は教員の多忙化を加速させ、アンケートの結果、すなわち現場からの提言を黙殺してきた県教委にあることは明白だろう。これこそが「人為的ミス」の最たるものなのに、相変わらず自らは反省せず、ミスの責任を現場に転嫁する無責任な弱いもの叩き…いかにも千葉県らしい対応ではある。入試という重大な場面でのこれだけの大失態を招いた責任を本来、真っ先に負うべきは教育長以下、県教委であるはず。ならば教育長が率先して引責辞任をしてみせてから現場への指導を行うのがスジではないのか。

 とはいえ高校入試の受験者数が年々、減少の一途をたどり、採点すべき答案の枚数は以前よりかなり減ってきているはず。しかも千葉県では年2回の入試が1回に軽減されたばかりの段階であるにも拘わらず、ミスがこれだけ多いとなると、この件がはらむ問題は意外に根深く、相当に深刻なのでは。

 おそらく採点ミスの件数は実際には数千件に達しているものと考えてよい。近年、生徒や保護者から自分の入試答案の開示請求が多くなり、開示請求で採点ミスが発覚してしまうという悩ましい案件が生じてきていた。こうした事態にようやく重い腰をあげた県教委が本格的に抽出答案(実際の答案枚数のほぼ1割に相当する答案で、毎回、各高校から県教委に提出されている)のチェックを行ってみたところ、今回の件が不覚にも「発見」された…というのが推測される、事件発覚の経緯である。つまり県教委側も抽出答案のチェックがこれまで不十分だった可能性は指摘できよう。

 とすればもはやミス多発の原因を単なる教員の過労や県教委の怠慢…といった分かりやすい要因だけでは十全に説明できないようにさえ感じられるのだ。少なくともそう思えるほどに千葉県の高校教育現場の疲弊ぶり、破綻ぶりは今や切迫してしまっているのではあるまいか。

 では現今の入試採点ミス多発が意味することとは一体何だろう。もしかしたらこれは学校運営の中核たる40代後半から50代前半の教員の異常なまでの少なさと校務全体の複雑化、多忙化などによって千葉県公立高校全体が徐々に自らを教育機関としてまともに運営する力を失い、まさに今、地滑り的崩壊が始まろうとしている…すなわちこれは公教育としての破局的な局面に移行しつつある一つの兆しなのかもしれない。

 現に大学生は「沈もうとする船に乗りたくない」と言わんばかりに教職を忌避するようになっている。教師不足が叫ばれる一方で今や再任用を断る退職予定の教師だって少なくない。一番悲惨なのは職場から長期離脱したり、早期離職に追い込まれる働き盛りの教師が増えていること。加えて生徒たちもまた学校への忌避感が増大し、不登校児童生徒数は増える一方である。これらの問題ばかりは「人為的ミス」という表現でアッサリと説明してしまうことは許されないだろう。

 従って私としてはせっかくの有識者の提言もおそらく時すでに遅し、入試を含めたあらゆる事態の悪化が容赦なく加速度的に同時進行し、視野の狭い部分的改善など現時点に至っては近い将来、何の意味もなさなくなる…と考えるが、いかがか。

異例の196人処分・指導措置 千葉県教委、入試で採点ミス相次ぎ

 毎日新聞 によるストーリー 2023.7.20

 結局はトカゲの尻尾切りである。これで教師の意欲はさらに低下し、千葉県の公立高校における機能不全はさらに進行するだろう。マークシート方式の導入など、採点業務に絞られたミクロな観点からの改善策だけでは高校現場の働きやすさの向上には何一つ、つながるまい。採点ミスが減ったとしても教員採用試験の倍率が上がるわけではない。県の対応は対症療法でただのモグラたたきに過ぎず、今度は別の事件事故が頻発するだけ。

教員の魅力を動画でPR 千葉県教委作成、来月にも公開

  東京新聞 2023年9月10日

 教員採用試験の倍率低下、教員不足に危機感を抱いた文科省と各地の教育委員会は恥も外聞もはばかるこ となく、「青田買い」どころか教職のバーゲンセールまがいの詐欺的商法にまで手を伸ばし始めている。ずいぶんと落ちぶれたものだ。

 さしずめ千葉県の場合はこう言った塩梅ではなかろうか。これまで堅調に売り上げが出ていた人気商品がこのところ何だか少しずつ、売り上げが落ちている。宣伝広告にもっと力を入れればきっと売り上げは回復するに違いあるまい。だって商品の質にはそれなりの自信があるし、老舗としての伝統の力もある、問題は宣伝不足…そこで思い切った新機軸を打ち出そう。そうだ、若者に訴求力のある動画作成を業者に依頼し、商品の魅力を分かりやすく、かつガッツリとアピールしてもらおうではないか…

 しかし本当に商品の品質は保たれてきたのだろうか。肝心のお味の方は時代の流れに取り残されていないだろうか。今どきパッケージだけ飾り立てても胡散臭いだけ…箱の中身は実際、いかがなものだろうか。とっくの昔に賞味期限が切れていないだろうか。どうみても強烈な腐臭が漂っているはずなのだが、なぜ、売り場の誰一人としてそれに気づかないのだろうか。そもそも商品が劣化していないか、誰か定期的にきちんとチェックしてきたのだろうか。腐り切った商品を30年以上の歳月と交換に若者へ売り渡し、彼らをたちまち過労死や精神障害に追い込む…こんなブラック企業のような悪徳商法を国と千葉県はいつまで続けるつもりなのだろうか。

 完全なブラックボックスと化している学校の中身は意外なほど闇が深い。箱の中身が見えにくかったからこそ売れてきただけのインチキ商品に未来ある若者が騙されて手を出してはなるまい。

飲酒、わいせつ、セクハラ…千葉の先生のモラルはどこへ? 懲戒処分、最悪のペー

 ス 産経新聞 2023.12.20

令和5年度の教職員の懲戒、過去最多の52件 千葉県教委 

 産経新聞 2024.3.21

 案の定、千葉県での教員の不祥事が多発してきている。明らかに千葉県の教育界は機能不全に陥っているのであり、その原因は多岐にわたるだろう。しかし最大のポイントは県の教育界の頂点にいるはずの教育長に責任を問う論調がマスコミにおいて皆無であること。指導的立場にいる人物が部下たちの不祥事の責任を一切、とろうとしないような組織に自浄能力は期待できない、と考えるのが世間の常識であろう。マスコミの機能不全は今に始まったことではないが、やはりマスゴミには今後も一切、期待してはなるまい。

25歳の女性、県立高の教育実習で教員から暴言・暴力を受け「今でもつらい」と

 県を提訴…抑うつ状態で働けず 読売新聞 によるストーリー 2023.11.6

 鍛錬と協調を旨とする抑圧的な精神主義がいまだにはびこる学校ではありがちな事件。また本格的な教員養成教育を受けなくとも高校教師に採用されてしまうシステム上の問題も背後にはあるかもしれない。それに加えて学校現場のブラック化による慢性的なストレスで精神的に追い詰められた教師による感情の暴発、といった要素も十分考えられる。ただ県としてはこうした事件によって教員志望者数がさらに減ってしまうことこそ、避けなければならない事態なのだろうが、いずれにせよ、千葉県の公立高校が抱える問題の深刻さを予感させる事件の一つとして捉えたい。

教員の精神疾患による休職・病休は依然として多く、20代30代で増加:背景になに

 がある? 妹尾 昌俊教育研究家、学校・行政向けアドバイザー

 YAHOO!ニュース JAPAN 2021/12/22(水) 15:00

教員免許の授与数、20万件割れ 「過労死ライン」の労働環境影響か

  朝日新聞社 2022/08/01 06:00

 高校での教員免許授与数が特に激減していることの背景を問いただしたい。文科省は教員免許取得条件の緩和による取得免許数の増大を検討しているようだが、ただの数合わせ、泥縄式の発想に過ぎず、かえって学校現場の混乱を深めるだけであろう。このような短絡的発想しか出来ない教育行政の側こそが最早オワコンなのだとつくづく思う。

「業務断れず限界まで」「眠るのが怖い」20代教員に心の病増加…過重業務で適

 応障害、自殺も 読売新聞 2022/10/24 05:00

千葉の中学3年の過半数は公立高校志望、でも「学費が同程度なら私立」選ぶが7

 6% 読売新聞 によるストーリー  2023.11.24

 確かに公立高校の改革はすでに手遅れであり、もはや多くの公立高校が時代の急速な進展にまったくついていけなくなっていることは明白だろう。とりわけ千葉県の場合、公教育における制度的、組織的欠陥、束縛の多さや頑迷な保守的体質、予算の圧倒的少なさが教育の改革、改善の足を引っ張る…そうした現象があまりにも目立ち過ぎてはいないだろうか。

 今後は東京都や大阪府のように高校改革の多くを私立校の努力に委ねる方向に動いていくのが多くの民意に沿い、現実的であるように思えるが、いかがだろう。すなわち公教育の民営化を進め、市場原理を導入して高校間での競争を煽ることで時代の変化に即応できる高校教育の実現を目指した方が現在の高校教育の、残念なまでの行き詰まり、閉塞状況を打開するにはどう見ても手っ取り早いように思えるのだ。

 中学生の4分の3以上が私立進学希望であるならば、今後は中学生の進路希望に応えて私立高校の数を増やすとともに私立高校の入学定員を大幅に拡大していくべきだろう。私立における保護者の学費の減免はある程度必要になってくるだろうが、公立高校の予算を削った分をまわすことで相当程度、家計負担の軽減は可能となるはず。そのためには当然、公立高校の職員数の大幅な削減も進める必要はあるだろうが、現今の教員不足がむしろ追い風となっており、文科省や県教委の管理主義的妨害さえ排除できれば公教育の縮小は思いのほか順調に進むのではないか。 

 公教育の大幅な民営化こそ、保護者、児童、生徒の要望にこたえる方途であり、文科省は学習指導要領や学校設置基準等による下らない縛りを緩めてより自由で多様性に満ちた高校教育の実現を推進するためにまずは徹底的な自己変革を行うべきであろう。

 1980年代以降、鉄道や郵政など多くの分野で民営化が進み、その都度、様々な議論を呼んできた。もちろん民営化に大きな犠牲が付きまとってきたのは事実であろう。教育の民営化に反発する人は少なくあるまい。しかし日本の公教育は既に日本の経済力、政治力を酷く毀損させてきているほどに深刻な機能不全に陥っているのではあるまいか。今後、「公」の力に期待できないとすれば民活導入は不可避であろう。それほどに文科省以下、千葉県教委、公立高校の弱体化は深刻であり、公立高校が自身の力だけで悲惨な現状を打破できる可能性は決定的に低いと言わざるをえないほど、厳しい現状があると私は考える。

 したがって千葉県教委はこれまでの公立高校の入学定員を今後は大幅に削減させていき、私立高校に高校教育の主導権を委譲する決断をすべき段階にきていると思うが、いかがだろう。

    昨今のパーティー券販売による裏金問題では関係する自民党所属の閣僚が相次いで辞任している。当然、岸田首相もまた任命責任を厳しく問われることになろう。相変わらず腐敗を極める政界ですら、多少のケジメはとろうとしている。ところが千葉県の教育界では令和4年度の高校入試における採点等のミスが千件近くも発覚するという、未曾有の不祥事を引き起こしてもなお、教育長は自ら責任をとることを一切せず、末端の教員ばかりを処罰するにとどまっていた。そしてたちまち令和5年度の教員による不祥事多発である。

 残念ながら教育次長は何と学校現場に綱紀粛正を求める通達を出すだけで事足れりと考えているようだ。しかも教育委員会として他に出来ることは無い、というみっともないほどの言い訳がましいセリフを残しているという。あまりにも無責任であり、恥知らずであり、無能すぎるのではないのか。この発言は教育困難校で授業中に騒ぎ出した生徒たちに対して「静かにしろ」と切れてみせるしか能の無い問題教師とまったく等しいレベルではないのか。真っ当な教師ならば自分の授業のつまらなさ、分かりにくさを反省して授業をより魅力的にするための努力を重ねていくはずであろう。

 仮に教師が授業中の騒がしさをひたすら学習意欲に欠ける無作法な生徒たちの責任であるとして自身の授業改善に一切取り組まないようなら、校長はその教師を厳しく指導するのが管理職としての当然の責務である。同様に部下の不祥事多発に対して教育長らが綱紀粛正を口先だけで求めても何らの意味が無いどころか、それはむしろ職務放棄に近い愚挙なのである。教育長、教育次長らが率先垂範、示してしまったこうした自浄能力の欠片も感じさせない無気力な姿勢はただでさえ問題の山積する千葉県教育界の隅々まで行き渡り、次年度以降のさらなる不祥事多発を呼び込むに違いない。

 一体、県の教育長は何のために存在しているのだろう。よくありがちな文科省の官僚が天下る高給取りの名誉職という、ただの肩書だけの役職に過ぎないならばいっそのこと無くしてしまった方が良いに決まっている。いよいよ兵庫県などに追いつき、追い越せとばかりに学校不祥事多発の県としての悪名を全国に轟かせようと勢いづいてきた千葉県の教育界からは今後、片時も目を離してはなるまい。

副校長・教頭の時間外勤務の多さ浮き彫りに…千葉県調査 リシード 2024.3.22

 これはかなり以前から指摘されてきた事態である。何をいまさら…という感は否めないが、学校の危機的状況の一端ではあり、世間にも周知された方が良いのは確か。

千葉県の7年度教員選考 志願者数と倍率ともに過去最低 見えぬ妙案

 産経新聞 2024/6/26 18:34

 「令和7年度採用の教員選考試験の志願者は計4560人と2年連続で減少し、平成以降で過去最低を更新した。志願倍率も2・4倍で最低」だったらしい。当然の報いであろう。いよいよ千葉県の学校教育は自ら破滅に向かってまっしぐら…傍から見れば誰もが分かるほどに危機的な状況がこれまでも続いてきたのに県教委の対応は相変わらずトンチンカンそのもの。

 …県教委は今後、志願者増のため、「教員免許を持つが、民間企業に勤めるなど教職には就かない『ペーパーティーチャー(先生)』にアプローチしたい」(担当者)として、教職の仕事の魅力発信に力を入れる…というのだから驚き呆れるほかあるまい。教員志望者の減少を「教職の魅力」のアピール不足とする、陳腐な発想があまりにも情けなさすぎる。

 商品の品質が悪いのに誇大広告で買わせようとするが如き詐欺まがいの対策は直ちに辞めた方が良いだろう。時間の無駄であるばかりか、それ自体、若者に対する犯罪行為である。進めるべきは見せかけの、偽りだらけの「働き方改革」ではなく、真の意味での「働き方改革」であり、教師が本来の職務の中心におくべき授業準備に専念できるだけの時間的余裕の確保なのだ。すなわち授業準備を除く大幅な職務の削減を抜きにして、一切の対応は意味をなさない。一体、いつまでこの不毛な茶番劇を千葉県教委は続けるつもりなのだろうか。厚顔無恥も甚だしい。

千葉で教員志願者減少 その背景は? 教育現場に余裕なく、ほど遠い理想像

 産経新聞 2024.6.26

 …管理職の男性は、教員志願者が減少する要因を「『ブラック』という現場のイメージが先行し過ぎている。確かに現場の負担は増えているが、『子供たちのために頑張る』という前向きな声があるのも事実だ…という。こうした現実離れした幼稚なレベルの分析しかできない管理職のいる学校に勤めたいと思う若者ははたしてどのくらいいるのだろうか…この管理職にとっては「ブラック」はあくまでマスコミが勝手に作り出した悪しき印象であり、一部の怠け者の教師たちの被害妄想に過ぎないらしい。この程度の貧弱な認識しか持てない管理職が千葉県には沢山存在している。だからこそ千葉県での教員志願者が減少し続けているのだが、こういう人たちはそれに気付こうとしない。あるいは気付かないふりをしている。

 …北総地域の小学校の40代女性教員は、現状について「児童のために何かしてあげたいと思っても、働き方改革で『早く帰れ』と言われ、報告書作成や保護者対応など最低限の仕事をこなす毎日」と、時間的な余裕のなさを嘆く…と記事にあるように、現状では表面を取り繕うだけの管理職による強制的な「働き方改革」が一層、現場の教師たちを圧迫している側面にも注目すべきだろう。一刻も早くブラックな学校の現状を変えていかない限り、教員不足による学校のさらなるブラック化は不可避である。しかしそのことへの認識を欠く管理職の存在が学校をさらなるブラックな世界に陥れている…それこそが千葉県教育界の大きな不幸の源なのだと思うが、いかがか。

若者に「教員になること」勧めたい日本人19%ワースト2位

  リセマム オピニオン 2023.9.22

まじめな教師を休職に追い込む4つの深刻問題 心の不調を抱えながら勤務する先生

 も多い 諸富 祥彦 : 心理カウンセラー    2020/06/16  東洋経済オンライン

文化部もブラック化「本末転倒」な部活動の実態 文化とは、教員とは忘れ去られ

 るその「本分」 2022.3/29(火) 8:02配信 東洋経済education×ICT

「82歳の講師」が教壇に立つ深刻すぎる教員不足 教員の自己犠牲で成り立つ公立学校

 は崩壊寸前 井艸 恵美,野中 大樹 2022/07/19 07:30 東洋経済オンライン

1年目の非正規教員が「自己流」で教壇に立つ異常 初任者研修すら受けられず担任を

 持つ教員たち  佐藤明彦 2022/07/30 08:00 東洋経済オンライン

生徒の動画を撮る"問題教師"もクビにならぬ背景 深刻化する「教員不足」の影響が各

 所に 東洋経済オンライン 小林 美希 によるストーリー 2023.9.29

公立校教員の採用試験、数カ月前倒しを検討 成り手不足が深刻

 毎日新聞 2022/10/19 20:15

 こんな小手先の改善では教師のなり手不足の解消など不可能。教員不足への対応があまりにもその場しのぎの「泥縄式」。中には教員免許状も不要とする採用まで登場してきた。まるで教職の大安売り、たたき売りのような状況が各都道府県で一斉に始まったかのようだ。こんな対応で教師の社会的地位は向上するわけもなく、むしろ不祥事の多発を招くに違いない。そしてその尻ぬぐいはまたもや現場の教師に丸投げされるだろう。しかしパンドラの箱は開けられてしまった。この悪循環を誰がいつ、どのようにして止められるのか…絶望感だけが募ってくる。もはや公立学校のメルトダウンはまじかに迫っているのか…

㊺男女共学化と女子枠入試、性教育

※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。

 

・男女別学問題と女子枠入試

埼玉県立高校の共学化論争、中学生の56%が「どちらでもよい」…高校生は別学

   維持が過半数 読売新聞 によるストーリー 2024.7.12

   高校生の別学維持の理由では「両方を選べるのがよい」「共学化すると伝統の尊重や校風の維持ができなくなる」「学校生活を安心して過ごせる友人ができる」といった意見が多かったらしい。

 また別学高の共学化について…中学生の56・2%が「どちらでもよい」とした。「共学化した方がよい」18・7%、「しない方がよい」19・3%と、別学維持の声が僅差で多かった。共学化に賛成する理由(複数回答)としては「性別によって入学できない高校があるのは公平ではない」、別学維持の理由では「(共学、別学の)両方を選べるのがよい」が最も多かった…という。

 日本の性教育の遅れがこんなアンケート結果となって表面化しているのかもしれない。いずれにせよ、生徒たちや保護者がそれぞれ対立する意見をどうすり合わせてお互いに納得感のある方向性を見出すのか、が問われる。議論の場を設けないまま、意見の多寡によって結論を急ぐことだけは避けるべきだろう。

高校の共学化加速、男女別学はピーク時の3分の1に…埼玉県では卒業生ら反対で

   存続議論 読売新聞 によるストーリー 2024.6.29

   授業で利用可能な事例やデータが紹介されており、男女共学化を巡る流れが分かりやすい。討論型の授業をするなら、この記事を最初に紹介してしまうとあまりにも早く同じ結論に誘導してしまう惧れがあるので、様々な意見が生徒たちから出尽くした段階で紹介すべきだろう。

「別学か共学か」 公立高校の男女共学化問題でジェンダー教育はどうなる

 AERA dot. 小長光哲郎 によるストーリー 2024.6.15

 論拠の一部とされるべきデータをほとんど示さないこの手の不毛な議論がまだ続いているのかと思うと、個人的には絶望的な気分に陥る。授業では一見もっともらしいこの記事の論調に漂う奇妙な違和感にハッキリと気付けるような資料と併せて具体的なデータを提示すると、刺激的な議論が展開できるかもしれない。

 ポイントの一つとして見逃せないのは、たとえ男女別学校の授業で十分なジェンダー教育が行われていたとしても、物言わぬ場の力学、環境の差異、「女子高・男子校」というフレームワークが果たす影響力を決して甘く見てはいけない…という常識的なこと。所詮、現状の授業程度では場の与える無言の影響力を上回ることが極めて難しい…違うだろうか。

「埼玉の県立高共学化」論争再燃、卒業生や保護者が反対署名…県は108万人対

 象にアンケート実施 読売新聞 によるストーリー 2024.6.10

 論点の整理に利用できる。

娘を通わせるべきは「女子校」か「共学」か?1000人のアンケートで判明した「女

 子校育ち」のある特徴

 ダイヤモンド・オンライン 城山ちょこ によるストーリー 2024.6.27

 女子高の数が戦前と比べて激減したのはアメリカの占領政策の影響が大きい。したがって女子高激減が男女共学化を推進する理由とはなるまい。女子高を巡る論点を列挙する上では役立つ記事。

共学校にも実社会にも潜む「男子校の亡霊」とは 男子校を潰しても男女平等にはなら

 ないワケ 東洋経済オンライン おおたとしまさ の意見 2024.6.7

 男子校を潰しても男女平等にはならない、というのは当たり前のことであろう。したがって男子校の存在を目の敵にしても男女平等には近づくまい。ただ、埼玉県のケースでは男子校の存在が男性優位の現状を創り出す要因の一つとなっている可能性を否定できないかもしれない。

男子校は女子差別? 共学化論争に欠けた「機会の平等」議論と「東大至上主義」へ

 の疑問 おおたとしまささん

 弁護士ドットコムニュース によるストーリー 2024.6.30

東大至上主義的教育競争が和らいで『どこの学校もいい学校だよね』となれば、多分男子校の人気も下がるんです。そうすればいずれ自然に男子進学校はなくなるでしょう。本当に変えていかなければいけない点は、東大至上主義的な教育観です。いま県民の支持を得ている学校をむりやり潰して遺恨を残すことは、優れた民主的判断とはいえないと思います。」というのがポイントとなる論拠だろう。

 「東大至上主義的教育競争が和らいで『どこの学校もいい学校だよね』となれば、多分男子校の人気もさがるんです。」などという趣旨の指摘は何十年も前から繰り返されてきた陳腐なものだが、日本の進学競争は残念ながら学力上位層においては相変わらず激しい。中高一貫校の人気を見れば一目瞭然だろう。したがって当分の間は「自然に男子進学校はなくなる」とは思えないし、「東大至上主義的な教育観」が日本からなくなるとも思えない。

 これをなくすには学歴や学校歴、学習歴などと対等に技能をも重視するヨーロッパ風の職業観が日本でもしっかりと根付いてこなければならないだろう。労働者の採用条件では学歴と並んで技能重視の側面がこれまで以上に強まってこなければならないだろうし、中等教育における職業教育だって今以上に社会的に重視されていく必要がある。以上の変化が社会全体で進まない限り、「東大至上主義的な教育観」が変わる可能性などほとんどあるまい。

 当然、この変化には時間と労力が相当かかる。つまり今、何を変えるべきかだけではなく、今、何を変えられるのか、問う必要がある。当面の行程を念頭に置かない議論は現実味を欠くがゆえに不毛に見えるのだ。

 確かにフィンランドなどは日本と比べて名門高校や名門大学などはほぼ存在せず、世界的に見てもフィンランドのどの高校、どの大学もレベルが高いし、それぞれの教師は小学校も含めてほぼ全員が優秀と言える。日本と違ってフィンランドでは教師が最も尊敬される、憧れの存在になっているのだ。教師の力量の高さも手伝って、フィンランドでは学校間格差がほとんど存在しない。

 他方で職業教育も充実し、高校段階での職業実習では生徒に賃金まで支払われている。もちろん、フィンランドでは学費、通学費、文房具代まで原則、無料であり、進学を目指しても就職をめざしても、それだけでは将来的な収入の格差拡大につながらない。当然の事、学力低位層や職業高校を下に見るような偏見、差別はフィンランド社会にはほとんど無い。

 だとすれば、日本は本当にフィンランドのようになれるのだろうか、あるいは本当にフィンランドのようになりたいと願っているのだろうか…自問自答してみれば良かろう。20年ほど前に日本のPISAにおける順位が急落した際、教育関係者や文科省の役人たちが大勢、フィンランド(当時はトップクラスの成績を続けていた)に視察に行っているはずだ。20年経って何か、日本の教育界は変われたのだろうか。

 今、日本の官僚たちはPISAの順位を少しばかり上げただけで得意になっているだけだろう。つまり政府は本音では決して「東大至上主義的競争」を悪い事とは捉えていない。そもそもこの国には福祉国家フィンランドをお手本とするような、未来の設計図は一切存在しないのだ。

 「東大至上主義的教育競争が和らいで『どこの学校もいい学校だよね』となれば、多分男子校の人気も下がるんです。そうすればいずれ自然に男子進学校はなくなるでしょう」という、根拠の無い、無責任で非現実的楽観論に依拠して男女別学の存続を説く…何と甚だしくトンチンカンで滑稽な意見であろう。

 加えて…共学だろうが男女別学だろうが、性差別解消に必要なのは学校において異性に対する知識や理解を深める努力がなされているか、否か、である…?これってどういうこと?性差別に関してどんなに優れた教育が行われていようと、性差別が存続している限り、その教育は無意味ではないか。第一、男女別学を公教育として許容することと学校での授業の質とはまったく別次元の問題であろう。論点を少しずつずらしていきながら、持論を展開するこの手の論評に流されてはなるまい。

 仮に白人社会で黒人差別に対するそれなりの教育が行われていたとしても相変わらず アパルトヘイトが続いているのならば、黒人差別が十分に改善されたとは言い難い。アパルトヘイト自体が差別の主要な要素だからである。私たちは男女別学によってもたらされる無意識的な影響力を決して甘く見てはなるまい。

 東大の学生に占める女子学生の割合が2割程度に過ぎないのは中高一貫を問わず、男子校出身者が東大合格に占める割合の多さにも、その要因を求められるのではあるまいか。仮にその可能性を排除できないのならば、せめて公立校での男女別学程度は辞めるべきだと考えるが、いかがか。

埼玉県立高校共学化問題の動き活発に ネット上では反対署名

   産経新聞 2024.1.23

埼玉県立高校共学化問題大詰め 別学は差別的か、意見聴取ではほぼ「反対」

   産経新聞 2024.3.21

共学化勧告受け、埼玉県立浦和高生が意見表明 「別学通いたい 多様性無視」 約 

   85%の生徒が反対 東京新聞 2024.3.22

男女別学県立高の共学化を 市民団体が改めて早期実現訴え

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.4.11

 この話題、議論のテーマにうってつけ。ぜひ、授業に取り上げていただきたい。

   私としては男女別学が「アパルトヘイト」と同種の効果をもって性差別を助長するおそれをはらむと思い、あまり好ましくないものと考えるが、いかがだろう。特にこれを公立学校で認めていること自体、間違っていないのだろうか。

 一見すると共学化反対の意見に合理性があるように思えるが、戦後教育の流れを考えた場合、共学化反対意見にはかなりモヤモヤする側面がある。GHQが打ち出した戦後の高校教育三原則(男女共学・小学区制・総合制)の中で日本が辛うじて実現できたのは男女共学のみ、とこれまでよく言われてきた。しかし実際には北関東などでGHQ内の組織の違いによって男女共学原則すら、まともに実現できなかったという過去があるのだ。このため茨城などでは上辺だけ男女共学の体裁をとっておきながら、学校内部では男女別の学級を編成する、といった男女共学方針への姑息な抵抗が長く続いていた。これは明らかに「男女七歳にして席を同じうすべからず」といった封建的で性差別的な考えが北関東では頑強に残り続けたからである。

 もちろん、私立高校ならば多様性を重んじ、学校独自の教育方針を打ち出す中で男子高、女子高の存在があっても問題は無い。しかし公立高校、しかも男女共学に頑強な抵抗を続けてきた北関東地区、という歴史的条件を考えると共学化反対意見には素直に従えなくなってくるだろう。そもそも、日本の男女平等度は極めて低く、先進国では最低の位置にあり、諸外国からも強く批判されている現状がある。

 たしかに公立高校であっても一部は男女別学を認めるケースが他の県では広く見られるので、男子校5校、女子校7校程度ならば数的に問題無いと思える。しかし男子校では浦和、春日部、川越、女子高では浦和第一女子高、川越女子といった県内トップレベルの進学校、伝統校が公立別学校12校中5校も含まれる点には強い疑念が生じるだろう。私立でも進学校で有名な明の星女子が存在することを考えると、どうやらこの状態はもはや確信犯的であるとさえ言えるのではあるまいか。

 実は東京都では男女とも四年制大学の進学率が7割を超えているというのに、東京の大学に自宅から通え、首都圏に所在する中高一貫校にも通学範囲内である埼玉県での女性の大学進学率がなぜか半数にも満たない、という驚きの統計(→文科省の学校基本調査参照)もあるのだ。

 2022年度の実績では全国平均が男54%、女49%に対して進学率トップの東京都はそれぞれ72%と73%であり、何と東京では女の進学率が男を上回っている。対して埼玉ではそれぞれ59%、48%であり、男は全国平均を5%も上回っているが、女は全国平均を1%下回ってしまっている。いわゆる「埼玉都民」が大勢、居住しているはずの埼玉において、この数字が意味することは極めて重大ではなかろうか。特に進学率の男女間格差は全国平均が5%ほどなのに対して埼玉では何と倍以上の11%も開いてしまっているのだ。

 これは首都圏においても突出した数字であり、北関東ですら、栃木県(男女比52:46)、群馬県(49:43)、茨城県(55:49)に比べても男女間格差が大きいという恐ろしい状況、もはや異常レベルの値なのだ。しかも埼玉同様に東京への依存度が高く大勢の「千葉都民」を抱えている、アノ、学校不祥事多発の千葉県における男58%と女49%の格差9%よりも埼玉は2%ほど上回ってしまっている。つまり昨年度の埼玉県での四年制大学進学率には男女格差の解消が叫ばれている現代において、全国レベルでも後ろ指をさされかねないほどの露骨な性差が浮上してしまっているのだ。

 まず授業では一般論として公立における男女別学のメリット、デメリットを挙げさせたい。次に埼玉県の問題としてはどうなのか、進学率のデータの背景にある埼玉県の問題点をじっくりと考えさせると有益で面白い議論が展開できるだろう。

県内エリート男子高で“性教育”の名の下セクハラにあった図書館司書46歳女性、教

   職員カーストで圧された声とは 女子SPA! の意見 2024.2.13

 学校での性差別問題の諸側面を垣間見ることの出来る、貴重な事例が紹介されている。エリート男子校、女子高の存在を学校の多様性、個性として擁護する意見があるが、事はそんなに単純ではない…等々、多くのことを考えるきっかけを与えてくれるだろう。

 

<くらしの中から考える>女子枠 東京新聞 2023.5.3

 他国と比べて日本の理工系大学への進学者に女性の割合が極めて少ない、その理由をアンケートなどで問いたい。また女性進学者を増やすための「女子枠」について賛否を問いたい。いずれも討論の題材にうってつけのテーマだろう。

東大にはなぜ女性が少ないのか。入学式で総長が問いかけた「構造的差別」とは

 【式辞全文】 ハフポスト日本版 の意見 2024.4.16

 …特定の属性を持つひとが、等しい機会を得られずに排除され、あるいは人一倍の努力をせざるをえない状況を「構造的差別」といいます。この構造的差別から脱却すべく、経団連は、2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にする目標を掲げました。東京大学も、2020年に30% Club Japanのメンバーとなり、UTokyo Compassにおいても、学生における女性比率を30%とすることや、新たに採用する研究者の女性の割合を30%以上とし、教員における女性比率を向上させるという目標を明記しています。

 なぜ30%という数値目標なのかということですが、ハーバードビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授は、ビジネスの場に関する研究において、女性が15%に満たない組織では、女性一人ひとりの能力や技能が、女性という集団的な属性に関係づけられる傾向があること、そして女性の比率が30%を超えるとそうした傾向が変わりうることを指摘しました。すなわち、女性個人としての能力や技能に応じた貢献が可能になり、意思決定プロセスに影響をあたえ、組織のさまざまな変革を推進できるようになるということです。

 であればこそ、その状況ゆえに活躍できない少数派の女性の割合を30%にまで上げることが、公正な社会実現に向けた最初の目標となるでしょう。…

 以上、藤井輝夫東京大学総長の入学式での式辞の一部を抜粋してみた。理系の大学や学部の入学試験において女性の合格枠を予め定めておく動きが近年、目立ってきている。そうした動きに対して「逆差別」との批判もあるが、それへの反論としてこうした考え方があることは知っておくべきだろう。

運動会の“ジェンダーレス徒競走”が物議 1位はほとんど男子「ジェンダーレスの

 履き違え」ENCOUNT の意見 2023.5.22

 どこの小学校のことなのだろうか?ジェンダーレスを「性差が無いこと」ときわめて単純に捉えてしまう、この浅はかさに仰天してしまう。しかし討論の題材としては刺激的で議論噴出、活気のある討論が期待できよう。

中学体育の「男女共習」から3年目 7割の学校が「全種目で実施」

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.1.15

 身近なテーマなので性差別問題の導入部で使えそうな記事。高校体育での「男女共修」はどうなのか、ぜひ考えさせたい。

京都大学が入試で「女子枠」新設へ 理学部と工学部で26年度から

   朝日新聞デジタル 2024.3.21

 わざわざ女子枠を設けて女性を優遇する受験制度は果たして性差別と言えるのか、議論させると面白いだろう。もちろん高校段階までで性による進学格差がほぼ解消されている状況であるならばこれは女子優遇、男子冷遇の性差別であることは間違いない。しかし高校までの学校教育において性による格差が色濃く残存している…つまり女子生徒が学習や進路選択に際して不利な状況が続いているのならば、多少はやむを得ない、合理的措置とも判断できるだろう。したがって最も問われるべきは初等中等教育段階での性による格差問題解消の進み具合の確認なのではあるまいか。

 これについてはとりわけ高等教育の前段階である中等教育での性による格差残存の実態把握が必要不可欠だろう。しかし信頼できるようなきちんとした学校教育の実態把握は学校のブラック化、ブラックボックス化などによってどうせ困難を極めるに違いない。そうなれば勢い、「多様性の尊重」という美名に隠れて特定の偏ったプロパガンダに煽られた性差別を助長する政治的風潮に世論は根こそぎ押し流されてしまうかもしれない。実際、埼玉県の公立高校における男女共学化に反対する意見が某高校で大勢を占めてしまっているように…

 

奨学金受給が与える、高等教育卒業後「結婚人生の落差」 女性だけが負の影響が大

   きいナゾ...慶応大学が驚きの研究   J-CASTニュース の意見  2024.3.11

   女性の貧困問題、少子化進展の背景に何があるのか、考えさせられるポイントに奨学金問題が挙げられるだろう。社会科学的なものの見方の一例として取り上げても役立つに違いない。特に上の記事(埼玉での公立高校における男女別学の残存)と併せて授業のネタにすると、学校教育と性差別の問題との複雑な絡みが見えてくるはず。

 

・日本の性教育の遅れ

参考記事

中学体育の「男女共習」から3年目 7割の学校が「全種目で実施」

   朝日新聞社 によるストーリー 2024.1.15

 身近なテーマなので性差別問題の導入部で使えそうな記事。高校体育での「男女共修」はどうなのか、ぜひ考えさせたい。

性別に基づく「アンコンシャス・バイアス」解消へ、教育現場で取り組み広がる

 読売新聞 によるストーリー 2024.6.6

「生理」の教員研修、男性に知ってほしいのに5% 産経新聞 2022.9.8

 なぜ日本の性教育が遅れているのか、その理由の一端が見えてくるだろう。

「教育が児童を同性愛へ誘導しかねない」 自民党区議、台東区議会で発言 当事者

 「差別や偏見に基づく非科学的な発言」東京新聞 2023.9.24

 性教育を否定的に評価する保守政治家の典型的な意見と思われ、議論のたたき台には有効だろう。

参考動画

【性教育ドラマ】ユースクリニックへようこそ - ここは、あなたのための病院です

  - 第一話「取り戻せるの?私の人生」

 【性教育YouTuber】シオリーヌ  2021/09/29 11:28

 実際には授業で視聴させていいのか、非常に判断に迷う内容。ただし教師必見の動画。この動画を授業で視聴しにくい現状こそが日本の学校における性教育の遅れを表しているだろう。しかし、高校生たちにとっては深刻な問題に発展しかねないことであり、できることなら視聴させたい。ドラマ仕立てなので理解しやすく、生徒たちの集中力はかなり高まることが期待できるだけに、見せないのはもったいないのだが…

【性教育】なぜ家庭や学校で教えない?小中学生が使う言葉で性を考える「性=秘

 めごと」は正しい?ひろゆき&紗倉まなと考える性教育|

 2021/11/29 ABEMA 変わる報道番組#アベプラ【公式】 14:41

【特集】セックスのこと話せますか?気になるイマドキの性教育 京都の中学数学

 教師が挑む新しい教育とは【報道ランナー】

 関西テレビNEWS  2023/02/15  12:22

 「臭い物に蓋をする」学習指導要領の大きな問題点が性教育における歯止め規定にあからさまに露呈してきている。SNS、ネットの普及によってとっくの昔に「臭いものに蓋」が出来なくなっている現状は無視できないだろう。勇気ある取り組み。

【17.3 about a sex1話フル】「私きめた。セックスのコト勉強する」女子高生の

 リアルな葛藤を描く話題作!彼を想う優しい気持ちが悲劇に?皆みたいにオトナに

 なれるはずだった。でもアベマ配信中

 2021/03/05 ABEMA ドラマ【公式】 30:15

 日本の性教育の遅れを正面からあぶり出したドラマ。やや長いが、もし視聴させれば生徒達の集中力をかなり高められるはず。本来ならばこの分野の導入としてイチオシの動画。視聴後、アンケートをとって男女別に集計してみたい。討論のテーマにもってこいの内容。しかし、実際、授業で使えるかどうかは微妙…

【性体験が早いことのリスク】童貞の卒業は遅い方が良い!?

 2021/05/22 夏山x瀧本の性知識アカデミー 13:56

 瀧本氏の観点は非常に重要だろう。高校生必見の動画。童貞や処女に対するイメージ調査をクラスで行っておくと授業で展開しやすくなるのでは。ただしこれも本当に授業で使えるかどうかは微妙な内容。自己責任でどうぞ。

【いくらか知ってる?】避妊にまつわる金額 何にどのくらいかかる?

 2022/07/20 夏山x瀧本の性知識アカデミー 2:23

 避妊、堕胎、出産に関わる費用の概算は知っておくにこしたことはない。こちらは授業でも視聴可能だろう。

【セックスとは?】性行為に罪悪感を抱かなくなるには?【性嫌悪】

 2021/12/11 夏山x瀧本の性知識アカデミー 7:40

 これほど性行為の意味を正面からズバリ、指摘できている動画は珍しい。こちらもできるなら授業で是非、視聴させたい。もちろん倫理や道徳でも使用できる内容。ただし自己責任でどうぞ。

【性知識を普及する人】改めまして!瀧本いち華です

 2022/07/01 夏山x瀧本の性知識アカデミー 17:15

 この分野を扱う際には教師として予め視聴しておきたい動画の一つ。

【大人の性教育】子供の作り方_妊娠編

 2022/07/08 夏山x瀧本の性知識アカデミー 22:41

 子供の作り方シリーズは教師必見の動画。日本が男女平等度の低い国である原因が学校での性教育の遅れにも由来する事がよく分かる貴重な動画。日本では長らく大人や青少年の性知識の不足や偏り、AVの悪影響が様々な悲劇を引き起してきた事に疑いはない。このテーマは保健体育や家庭科の授業だけではなく、社会科でも積極的に取り上げていくべきだろう。でなければこの分野における日本の圧倒的後進性は改善できないだろうし、性にまつわる悲劇を減らしていくことも不可能。

 特に性交編は本来ならば是非、社会科の授業で視聴させたいイチオシの動画。もちろん、自己責任の覚悟は必要。

【国際女性デー】成田悠輔「権力者が恥ずかしくなるような"見える化"を」企業の

 改革がカギに?日本の"男女格差"縮める方法とは|#アベヒル《アベマで放送中》 

 2022/03/10 ABEMAニュース【公式】 4:54

好意と性愛、男女の友情は成立するか?

   精神科医がこころの病気を解説する 2023/06/10 18:17

 視聴時間がやや長いが、参考となる点は多く、「男女の友情は成立するか」は議論のテーマとしても非常に面白いのではないか。保守的、慎重派の論理がよく分かる。

精神科医目線でメンタルによい職場とは?

 精神科医がこころの病気を解説する 2024.1.26 19:27

 女性が働きやすい職場こそ、メンタルに良い職場である、という指摘に納得。企業などの職場における女性の立場の弱さが男性をも含めたメンタルの問題を生み出している、とすれば性差別の問題をしっかりと考える必要性は自殺やうつ病、引きこもりの多い日本では極めて大きいだろう。

参考記事

トランスジェンダー当事者・サリー楓さんと考える 広がる学校でのジェンダーフリ

 ー 多様性を浸透させるために「大切」なこと【news23】

 TBS NEWS DIG の意見 2022.12.14

 学校の制服をめぐるジェンダーフリーの動きは生徒達にとっては身近なテーマであり、討論の材料として相応しいだろう。性の多様性を「善意で受け入れる」方向に民意を持って行くには何が必要なのか、議論させたい。

【ココがおかしい日本の性教育②】望まない妊娠や性暴力から子どもたちを守

 る FNNプライムオンライン フジテレビ解説委員 鈴木款 2022.11.25

 人権教育の一環としての性教育という捉え方が日本ではイマイチ根付いていないようだ。北欧の先進的な取り組みに学ぶことは多いだろう。

参考記事

性教育「10代の実態に合わず」 NPOが文科省に見直し求める署名

 毎日新聞 国本愛-2022.12.3

 中学校の学習指導要領にある「歯止め規定」によって避妊や性行為については授業で触れない事とされているが、2020年度の十代における人工妊娠中絶数は1万件を超えているという。しかも例の通り、「歯止め規定」が設けられた際の議事録が文科省に残されておらず、規定の意図が不明瞭。どう見ても問題だらけの学習指導要領であり、性教育の遅れが日本の男女平等度の低さを招いている原因の一部である事は最早疑いようがあるまい。上記の動画と合わせる形で配布資料にして生徒の討論に持ち込みたい。

「緊急避妊薬を薬局で買いたい」日本はなぜ世界で普通のことが叶わないのか 緊急

 避妊薬と日本 前編 現代ビジネス 福田 和子 の意見 2023.5.11

緊急避妊薬検討会議をリアタイで聞いて絶望した声…なぜ日本は前に進まないのか

  パブコメで97%が賛成なのに…現代ビジネス 福田 和子  2023.5.14

 2022年12月27日から2023年1月末日まで、「緊急避妊薬の薬局販売に関するパブリックコメント」が募集され、97%の人が緊急避妊薬の薬局販売に賛成したという。これだけ圧倒的多数が賛成しているにも関わらず、なぜ、緊急避妊薬の薬局販売が実現できないのだろう?

 ぜひ、生徒たちに討議させてみたい。

性の知識を具体的に教えずに子どもを性暴力から守れるか 「生命の安全教育」の実

 効性に疑問の声 東京新聞 2023.6.6

 日本の学校における性教育の遅れで一体誰が得をするのか?性差別、性加害に加担する、あるいは黙認する男性、それも中高年の男性であろう。それはすなわち国会議員の多くであり、特に政権与党のメンバーである…そう思いたくなるほどに、今の日本は学校での性教育に後ろ向きではないのか。

 他方で体育の授業や学校行事、部活動中の事故、事件が多発していても、一向に改善を見ない。一体、「生命の安全教育」というきれいごとは何の役に立っているのかすら疑問であろう。グランドの釘すら無関心な学校に安全だとか、衛生だとか、教育的だとかのきれいごとを並べる資格はあるのか…実に不思議である。

触って学べる性教育。「ポケット避妊教室」って知ってる?

 2022/10/04染矢 明日香 NPO法人ピルコン間野 麗

 避妊に対する知識不足が目立つ日本の現状を知っておきたい。

セクハラ・性加害の背景に不十分な性教育 中学校で「性交」を教えることができな

 い理由 AERAdot. 古田真梨子 2022.11.20

 日本の学習指導要領に「性交」を教えてはならないとしている理由とそうした規定の弊害について考えさせたい。活発な意見のやり取りが期待できるテーマだろう。 「学習指導要領」の意義、存在価値についても触れておきたい。

 

 

㊹旭川市中学生凍死事件をめぐって

※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。

 

・旭川イジメ事件

参考記事

旭川女子中学生凍死は「イジメではなく、性犯罪」…脅迫、強制わいせつ、殺人未

 遂など、小川泰平氏が罪名を想定 

 2021.8/21(土) YAHOO!ニュース16:32配信

旭川の女子中学生イジメ凍死事件、元校長の被害者への信じられない反応とは?小

 川泰平氏が直撃 2021.8/20(金) YAHOO!ニュース 20:30配信

加害・生徒と「親しい」と認識、いじめと認めず 中2死亡で旭川市教委

 朝日新聞社 2022/04/22 08:13

【速報】「子どもたちの"勇気ある声"無視した」旭川中学生いじめ 死亡の広瀬さん

 に校内でもいじめ疑い 6/21(火) 10:17配信 北海道ニュースUHB

「正直何も思ってなかった」自慰行為強要、わいせつ画像拡散のイジメ加害生徒ら

 を直撃【旭川14歳女子凍死】《遺族が手記を公開》

 2021年8月19日 11時0分 文春オンライン

加害者「学校立ち入り制限」でいじめは根絶できるか 危惧される教師の隠蔽体質

 とネット空間 日刊ゲンダイDIGITAL 2022.5.19

旭川中2女子凍死事件、ようやく「いじめ」認定「組織の隠ぺい体質に特効薬な

 し」 弁護士ドットコム 2022.04.27

旭川中2凍死 「市長直属で再調査」表明 市教委調査では不十分

 毎日新聞 2022.9.20

 今の今となってもいじめと死亡の因果関係については「いじめ事件がどの程度の割合で関与していたかまでは不明」として責任を回避しようとする旭川市教育委員会の頑なな姿勢にはもはや絶望的なものしか感じられない。そもそも黒蕨氏ら重い責任を負うべき人々がいまだに学校教育の世界に止まっていること自体、異常というほかあるまい。自浄能力の欠片すら感じられない。

 なお、2022.9.24、黒蕨氏はようやく本件の責任を感じて教育長を辞職することとなった。凍死事件から1年半も経ってからの辞職であった。この異常なまでの無恥厚顔さ、鈍感さ・・・今後は旭川市における学校や教育委員会側の硬直化しきった無責任極まる体制が一体何によって成立してきたのかを厳しく問うべきだろう。

「イジメはなかった。彼女の中には以前から死にたいって気持ちがあったんだと思

 います」旭川14歳女子凍死 中学校長を直撃《被害者母が悲痛告白》

 「文春オンライン」特集班 2022/09/24 18:33

《旭川14歳少女凍死》「ゆがんだ性知識を持つ生徒が野放しに」「彼女には希

 死念慮があった」ようやく開いた保護者会で学校と市教委が見せた当事者意識ゼ

 ロ”【音声データ入手】 「文春オンライン」特集班 2022.11.20

 廣瀬さんの自殺から1年半をとっくに過ぎた段階でようやくこの事件に関する2度目の説明会としての保護者会が当該中学校で開かれた。しかし教育委員会や学校側は第三者委員会の報告を楯にして自殺の原因とイジメとの関係性を不明とし、いまだに責任逃れを続けている。黒蕨氏一人が教育長を辞したものの、その隠蔽体質と無責任体質に変化はまったく見られない。

 実際、説明の仕方や内容には学校側の厚顔無恥な姿勢ばかりが突出していて誠実さや反省の色の欠片も見られないのだ。資料棒読みの国会答弁と同じで、これでは説明責任をまっとうに果たしたとは言えまい。自己保身の程度にも限度があろう。ほとんど呆れてものが言えない、というのが素直な感想である。

旭川いじめ 「加害生徒にも未来」発言教頭が否定

 テレ朝news -2022.11.22

 

参考動画

ドキュメンタリー「告白~旭川中2女子いじめ問題~」(43分)2022年3月26日

 放送 2022/03/28 HBCニュース 北海道放送 44:15

徹底検証・旭川いじめ①学校はなぜ?【報道特集】

 TBS NEWS 2021/12/05 31:09

 旭川いじめ事件の全体像が見えてくる。

徹底検証・旭川いじめ②広がる衝撃【報道特集】

 TBS NEWS 2021/12/05 12:20

 ・・・繰り返されるイジメと隠蔽

【全音声3】「あのおぞましいものを見て涙が出た」「児童ポルノだ」Y中学校は保

 護者の声に本当に向き合ったのか?《旭川14歳少女イジメ凍死》

 文春オンライン2021/05/21

【旭川女子中学生いじめ凍死事件】ー文春も報じない旭川市立北星中学校 教職員

 の腐敗についてーYASU先生の学び場 2021/08/21

旭川中2女子凍死 市教委が緊急会見 真相解明どこまで?  

 HBCニュース 2021/08/30

旭川市の女子中学生いじめ疑いで遺族が「名誉棄損」を訴え SNS投稿を開示

 請求 HBCニュース 2021/09/16

旭川中2女子凍死 爽彩さん“肉声”が語るいじめの苦悩 2021年10月1日放送 

 HBCニュース 2021/10/01

旭川中2凍死 市長が“異例”言及「いじめと認識」(2021年10月29日)

 ANNnewsCH 2021/10/29

旭川・凍死の女子中学生 学校に「死にたい」と電話(2021年11月5日)

 ANNnewsCH 2021/11/05

川で見た娘の姿…母が語る胸中 旭川中2"いじめ疑い" 「何されたら」認められるの

 か 進まぬ調査に疑問 (21/11/05 19:45) 北海道ニュースUHB2021/11/05

【教育】いじめ防止法はなぜ機能不全に?隠ぺい&責任逃れの学校や教育委員会の

 課題は?子どもたちを守るために今必要なことを考える【EXIT】【いじめ探偵】|

 #アベプラ 2021/05/08

 

参考動画

【特集】旭川中2凍死 母親語る「何があったのか知りたい」

  2021年11月12日HBCニュース 11:09 

 ・・・これまでの経緯がまとめられている

旭川中2凍死 調査対象生徒と〝接触〟第三者委メンバー2人調査から除外(もう

 ひとホリ)2021年11月26日 HBC放送 2021/11/26 9:32

旭川いじめ凍死問題/学校教育委員会の隠蔽 事件の再調査求め100万人署名活動も

 妨害され…街録chあなたの人生、教えて下さい2021/11/28 36:20

旭川中2女子凍死…調査10か月 第三者委員会「いじめ」を認める (もうひとホ

 リ)2022年3月28日放送 HBCニュース 北海道放送 8:13

ドキュメンタリー「告白~旭川中2女子いじめ問題~」(43分)2022年3月26日

 放送 2022/03/28 HBCニュース 北海道放送 44:15

ギャラクシー賞受賞『空白~旭川いじめ問題 問われる社会~』2022年4月30日放

 送 2022/05/01 HBCニュース 北海道放送 47:03

旭川中2女子凍死 学校内でもいじめか アンケート調査に複数の生徒が回答 遺族

 側が市教委に説明求める 2022/06/21 HTB北海道ニュース 0:31 

【いじめ】田村淳「どう解決したかを評価基準に」なぜ隠ぺい体質?子どもの責任

 は親に?学校に?2022/08/17 ABEMA 変わる報道番組【公式】16:51

【旭川いじめ問題】SOSはなぜ届かなったのか 最終報告書を公表 自殺の背景

 は不明 STVニュース北海道 2022/09/20 11:44

 学校内でのイジメが認定されなかった点は大問題であろう。これこそが自殺とイジメとの因果関係を特定できなかった最大のポイントである。つまりこの結論は中学校側が校内でのイジメを見逃してきた事に加え、隠蔽してきたことの問題を第三者委員会が十分に追求できなかったという事だろう。

 そもそもこの事件が世論を賑わすまでに多くの時間が経過していた。しかも警察の

ような強制的捜査権のない委員会が調べられる事には最初から限界があったはず。裏を返すと闇の奥まで知っている学校内部の職員の情報提供がこれまでほとんど無かったということであり、強力な同調圧力を用いた組織ぐるみの隠蔽工作が行われていた可能性が高い。この地域の学校組織が持つ異様なまでの閉鎖性がうかがわれよう。

なぜ防げなかった?旭川いじめ問題…再三の訴えを放置 上司と部下の関係、そん

 たく、隠蔽は? HBCニュース 北海道放送 2022/10/05 9:09

 六稜会(北海道教育大学旭川分校の卒業生からなる団体で旭川市内の小中学校教師の多くが所属している)のメンバー同士による忖度、なれ合いといった旭川独特の教育村の風土が隠蔽体質の背景にあるようだ。しかしこうした特定大学卒業生からなる団体が教員人事をこれまで一定程度左右してきたことは多かれ少なかれ全国各地で見られた現象である。それだけでは旭川特有というほどのものではないだろうが、わずか一つの大学が教員の供給をほぼ独占しているという過激な状態は確かに珍しいケースかもしれない。

 いずれにせよ大学における教員養成や教育委員会による教員採用の在り方においては旭川に限らず大きな問題があるといえよう。なお、第三者委員会の報告書に不十分さを感じた旭川市長が新たな第三者委員会の設置を決めている。中心となるのは大津

のイジメ事件でも活躍した「尾木ママ」こと尾木直樹氏とされるようで、今回はかなり期待できそうだ。

参考記事

旭川いじめ加害者扱い、投稿者に賠償命令

 共同通信社 によるストーリー 2023.6.7

 ネット上での公開処刑のような投稿が相次いでしまった原因の一つに当該中学校と旭川市教育委員会の隠蔽、対応の遅さ等の問題があったと考えられる。それが無関係な生徒への被害拡大を招いたとするならば、中学校側と教育委員会の責任が厳しく問われるべきだろう。

旭川いじめ防止条例を可決 中2凍死巡り、即日施行へ

 共同通信社 によるストーリー 2023.6.30

“女子中学生凍死”を受け 旭川市がいじめ相談ダイヤルを開設 いじめ防止条例案も公

 表 HTB北海道ニュース によるストーリー 2023.6.9

 学校側の隠蔽を明確に禁止し、隠蔽への罰則規定を設ける条文は条例案の中にあるのだろうか。いつものように表面的な対症療法に終始し、きれいごとの努力義務ばかりが並んでいるとしたら効果は期待薄。そもそもあれだけ全国に衝撃を与えた大津イジメ事件の反省すら周知されず、せっかく制定されたいじめ防止対策推進法などをまったく指導に生かすことが出来なかった日本の学校現場の深刻なゆがみ、本質的問題点をあまりにも甘く見過ぎてはいないか。その暗部の多くを見逃してはいないか。

 本質的な問題は上意下達に走る教育行政や教育委員会の在り方、学校管理職の人事や資質、ブラック化した職場、旧態依然の学校風土、穴だらけの教員養成と無駄だらけの教員研修などに求められるはず。それらの改革を棚上げしておいて、このような形で行政府による教育への政治介入ばかりが強まってしまえば今後、取り返しのつかない事態をも招きかねないだろう。

 本来、改革の主体はあくまでも教育行政でなければなるまい。しかし残念ながら肝心の教育行政本体が機能不全に陥っており、自浄能力までも失ってきている。従って徹底的に攻め込むべき本丸は現状維持ばかりを目指す日本の教育行政、教育法制全体である。これは政府と国会が責任を負うべき国政レベルの課題。地方行政で何とかなるレベルの問題ではない。もちろん旭川の取り組みは地方行政レベルでできる努力として旭川市民の立場からは一定程度、評価すべきであるが、国民としては真の敵を見失うことがあってはならない。

旭川中2自殺は「いじめが主原因の可能性高い」 市の再調査委員会

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.6.30

旭川の中2、自殺直前まで「こわい」「死」投稿4000件…市再調査委が解

 析 読売新聞 によるストーリー 2024.7.1

旭川いじめ再調査 自殺との関係認定 異例の公表、背景に黒塗り流出

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.7.1

 ようやくまともな報告書が出てきそうである。一体、ここまで来るのにどのくらいの歳月を費やしてしまったのか、考えるだけでも辛くなる。第三者委員会の報告書等の二度に及ぶ流出など、さんざん事態をこじらせ、隠蔽と責任逃れを目論んできた教育委員会や教師たちへの厳しい対応が待たれる。

 注目すべきは中学校1年生の段階でのクラスにおけるイジメがしっかりと確認されたことだろう。その結果としてクラスに居辛くなった廣瀬さんが、居場所を求めて他のクラスや他校の生徒たちとつながるようになり、その新たな人間関係の中でさらに激しいイジメを受けるようになったという経緯が確認されたことは大きい。すなわち廣瀬さんへのイジメに対する認識をまったく欠いていた当時のクラス担任、学年主任、教頭、校長、市教委の責任の重さが明確となったわけである。

 報告書等の流出が相次ぐという異常事態を受けて再調査委員会が報告書を旭川市に提出することをためらった点も大いに注目すべきだろう。かつての第三者委員会の資料が二度も流出するという、ありえないレベルの歴史的大失態を演じ続けた旭川市および市教委への信頼はもはや完全に地に堕ちてしまった。再調査委員会の今回の措置はむしろ歴史的「英断」と評すべきだろう。

 記者会見で尾木委員長がこうした事案を詳細に調べれば調べるほど、同様の事態がいつどこで発生してもおかしくはない、と述べていた事も強く印象に残る。この件に関しても日本の学校教育のあり方が根本的に問われていると見て良い。なお会見での尾木氏の発言に関して不満があるとすれば、学校や教育行政のあり方への批判がイマイチ鋭さに欠けていた点であろうか。一般教師たちの委縮を恐れるあまり、やや当時の教師たちを庇い過ぎている傾向を感じたのは私だけではあるまい。

 今に始まったことではないが、日本の学校ではそもそも教師間でイジメが横行し、管理職によるパワハラ、セクハラも決して珍しい事ではない。ある学校では発達障害を持つ特定の教師を集団でイジメていたし、管理職もイジメ行為に絡んでいた。このような無様な状況が蔓延している多くの学校では生徒たちのイジメ問題に対して有効な対応は到底、期待できないであろう。尾木氏はどうやら近年の学校が置かれている悲惨な状況への理解がイマイチ不足しているように感じられたが、いかがだろう。

 事件の再発を防ぐために取り組むべき対策が広く検討され、報告書の最後に詳述されているらしい。早く報告書の全体を確認したい。また旭川市、市教委側の情報漏洩に対するしっかりとした対策が今度こそ、間違いなく施されるのを期待したい。どう見ても三度目の失態は決して許されない。

 ※参考記事

  “任意”のいじめ調査には限界も。学校関係者も含まれる「調査委員会」の問題点と事実認定の3

   原則を元調査委員が解説 FNNプライムオンライン によるストーリー  2023.10.26

   刑事事件として警察が捜査に乗り出した場合にはその捜査には強制力が働き、ある程度までは証

   言や証拠を集める事が出来る。しかし「イジメ」の重大事態として調査委員会(教育関係者が加

   わる可能性あり)や第三者委員会が調査に乗り出したとしてもその調査に協力するか否かはあく

   までも任意とされる。このため証言や証拠を提出することを拒否されてしまうケースでは調査が

   先に進まなくなることも起こりうる。

    こうした場合には被害者側が刑事・民事事件として警察及び裁判所に訴え出ないと埒が明かな

   い。加害者の特定やイジメの事実確認自体が困難なケースは少なくあるまい。「教育的配慮」の

   名のもとに加害者側の人権だけが守られ、被害者側が泣き寝入りする印象がこの問題には常にま

   といつく。しかしその背景に教師や教育委員会の調査がどうしても不十分になってしまう、法的

   な限界があることは予め知っておかねばなるまい。

旭川いじめ 「やっと答えがでた」再調査委の結果受け母が思い語る

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.7.2

 ようやく遺族の気持ちとしては一段落したようだが、事件としては決して終わっていない。イジメ問題に対してまともな対応ができずに廣瀬さんをみすみす死なせてしまった当時の校長や教頭、担任、教育長たちへの処分はこれからである。また第三委員会の報告書を流出させた張本人が特定できていない。こちらは明らかに刑事罰の対象であり、犯人を特定して裁く必要がある。

 本件は大津のイジメ事件とほぼ同じレベルで世間を震撼させた大事件であり、大津の事件が新しい法律を生み出したように、旭川の事件もまたSNSや性加害、秘密漏洩への対応を巡る新しい制度や規制を生み出すはずである。イジメ問題対策を一層、充実させるための新しい工夫、改革が全国的に必要とされている今、今回の教訓を教育行政がどのように生かしていけるのか、期待薄ながら注目していきたい。

 

・報告書流出問題

旭川いじめ「黒塗りない報告書」流出疑惑 小川泰平氏が懸念「指紋など証拠の採取

 は行っているのか?」 デイリースポーツ によるストーリー 2023.10.13

 この件に関しては早くから繰り返し発言してきた小川氏が指摘するように故人への尊厳を踏みにじるような、極めて悪質な人権侵害が事件後も旭川で続発してきた流れの中で捉えるべき事案であろう。特に今回の漏洩事件は断じて許されないレベルの悪質さを感じるとともにこの事件の底知れぬ闇の深さを痛感させるものとなっている。

 この犯罪的行為が実行できるのは被害者の関係者以外では、政府、北海道教育委員会、旧第三者委員会、旭川市教育委員会しか考えられないという。被害者の関係者が黒塗りしていないプライベートにかかわる極秘資料を自ら旭川市議宅に投函する可能性は極めて低いだろう。肝心の動機が見当たらない。政府や北海道教育委員会もわざわざそんなことをする動機はほぼ無いと見てよい。そもそも守秘義務違反にあたる危険な行為を敢えて行う動機がこれらの関係者にあるとはどうしても思えない。

 したがってこれまでのこの事件の極めて残念な経緯からすればこれは尾木直樹氏が主導する再調査委員会の報告が出る前に、事件の責任者たちへの追及をかく乱し、イメージ操作しようと画策した旭川市内の者の犯罪的行為と必然的に推理されるだろう。すなわち旧第三者委員会か旭川教育委員会に属する者の犯行の可能性が極めて高いということだ。これらの組織はこれまでも事件の誤魔化し、隠蔽に深く関わってきた張本人たちと深いつながりのある人たちが含まれているとハナから疑ってかかった方が正しいだろう。つまりこの一連の行為は被害者遺族への脅迫的意図を持って行われている可能性があると推察する。

 さらに特定の旭川市議宅に投函した動機が疑われる。この市議がさらなる資料の漏洩に関わっていないか、捜査する必要も当然、あるだろう。市議に何を期待して投函したかが疑われるからである。

 以上のようなことから小川氏は今回の犯人を探し出す上で欠かせない証拠となる流出書類の指紋採取を行ったかどうか、警察に確認すべきだと指摘されているのだと思われる。

旭川いじめ、報告書流出か 遺族側要望で市教委調査

 共同通信社 によるストーリー 2023.10.6

 第三者委員会の資料が流出したものと思われる。驚愕の人権侵害が放置されてきたこの事件の闇は深い。

旭川いじめ、告発見送り 報告書流出、証拠得られず

 共同通信社 によるストーリー  2023.11.24

 事件の隠蔽に加担してきた市教委が報告書の流出に関して証拠が発見できず、告発を取りやめるらしい。常識的に考えれば限りなく犯人に近い市教委から自らの犯罪を証明するような物証が快く提出されるわけはあるまい。

 この組織がいつから信頼されるに足る組織として再生したのか、ほとんど知る由もない市民はこの報道に対して一体、どのような反応ができるというのか。私たちはまず、公教育の闇の深さを知るべきなのである。

旭川市教育委員会「いじめなし」 市長にずさんな報告

   共同通信 によるストーリー 2024.2.11

 学校と市教委がグルになって事件を隠蔽しようとしていたことがこれで一層明白になった。イジメグループ以上に厳罰に処すべき人々は隠蔽に関与したすべての教師たちであることも明白だろう。

旭川いじめ 中2女子死亡 黒塗りなし最終報告書がネット上に流出か

 日テレNEWS NNN によるストーリー 2024.6.26

 いよいよ旭川市の学校教育界の闇深さが露呈してきている。旧第三者委員会がまとめた最終報告書とみられる文書がインターネット上に流出し、黒塗りされていたはずの部分が閲覧できる状態になっている件である。この事態に対してサイトの運営者は、公開の目的について「「爽彩さんが、何に悲しみ、苦しんでいたのかを、社会に、正しく理解して貰(もら)うため」…「黒塗りだらけの報告書によって、謂(いわ)れのない誹謗(ひぼう)中傷(いじめ)を受け続けている方々(主に教師たち)の汚名を少しでも晴らすこと」などと主張しているらしい。

 どういう内容の文書がネット上にさらされてしまったのかは私自身、確認できていない。しかし教育委員会が結成させた第三者委員会がかつてイジメと自殺との因果関係を確定できないとの結論を出しているように、かなり怪しいメンバーから構成されていたことは既に明らかである。このためもう一度、まったく新しいメンバーで市長が中心となって再調査委員会が編成され、尾木直樹氏を中心に再び調査が行われるに至った経緯を考えると、「晒し」サイトの運営者がどういう立場の人物なのか、おおよその察しはつくだろう。

 黒塗りの箇所を世間に公開し、イジメ被害者とその遺族のプライバシーを違法にも晒すことでもっぱら傷つくのは明らかに遺族の側であり、「謂れのない誹謗中傷を受け続けている方々」=名指しで批判された当時のクラス担任、教頭、校長、旭川市の教育長、教育委員会ではあるまい。これらの皆様方は報告書の「晒し」が自己保身と名誉回復にはつながるものの、一切、自分たちが傷つくことは無い内容なのだとあらかじめ分かっていたに違いあるまい。

 そもそも旧第三者員会のメンバーはそういう立場の方々であり、その報告書もそうした方向性を持って作成されていたのだろう。そして亡くなってしまった被害者の尊厳はこの「晒し」行為によってもはや回復不能なほどまで深く傷つけられたと推察できる。まさに「死人に口無し」であり、今回の晒しは「死者に鞭打つ」行為であり、決して許せるレベルのものではあるまい。

 私としてはこれまでの経緯から再調査委員会の報告書が提出される前に、世論を自分たちの都合の良い方向に誘導すべく、今回の「晒し」が行われたものと推測するが、いかがか。しかし仮にそうだとしたらこの行為はおそらくヤバイほどの墓穴を掘ってしまっている。黒塗りされていない報告書を持つ者は限られているからであり、犯人の特定はさほど難しくあるまい。かつて同様の報告書が市会議員に流出した件があった。そのあたりからも今回は犯人を特定できる可能性がある。

 「謂れの無い誹謗中傷を受けている方々の汚名を晴らす」という大義名分を掲げていかにも公益通報を装った今回の晒し行為は、明らかに守秘義務違反であり、プライバシーの深刻な侵害でもある。遺族及びその支援者側は犯人の逮捕のためにぜひ、立ち上がってほしい。旭川警察もまた二度に及ぶ悪質な情報漏洩とプライバシーの侵害に対してさらに真剣に向き合うべきだろう。誰がどう見てもこんなことが繰り返されるような町で、治安がまともに守れるとは思えまい。

旭川いじめ ネット上の「調査報告書」はたたき台か、流出元調査へ

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.6.26

 どうやら流出元は旧第三者委員会のメンバーが疑わしいようだ。実際にネットに晒したのはイジメ撲滅を謳う、ある「市民」団体だという。流出元に遺族を疑う、とする妙にうがった見方もあるというから実に驚きだ。

 遺族の意向で非公表とされた内容なのに、敢えて遺族がネット上に自らのプライバシーを公開すると考える側の神経こそ、きわめて疑わしくも嘆かわしい。またイジメ撲滅を謳う「市民」団体が遺族をさらに苦しめるはずのネットでのこうした「晒し」行為を行う…一体、旭川「市民」はどこまで錯乱しているのだろう。

 いまだに当時の中学校関係者からは公益通報としての内部告発がまったく見られない一方で、公益通報を騙るネット上の晒し行為が平然と行われてしまう旭川市という町の現状に慄然とする。「市民」ではない外部の人間からすれば旭川市の学校教育はもはや「完全に終わってしまっている」ように見えるのだが、いかがだろう。こんなテイタラクでは一度失われてしまった教育行政への「市民」の信頼回復は限りなく不可能に近いと言って良いのではあるまいか。

旭川いじめ 黒塗りない「報告書」流出、市教委が刑事訴追に向け調整

 朝日新聞社 によるストーリー 2024.7.3

 ネット上での晒し行為などで被害者や遺族のプライバシーがこれほど酷く、かつ執拗に脅かされ続けたイジメ事件は過去、一度も無かったと思うが、いかがだろう。

 もちろん今回も加害者とされた生徒たちのプライバシーが他方で暴かれてはいる。しかしそちらは大津イジメ事件での加害者たちへのネット民による晒し行為と同じく、匿名性が高くて私的リンチに近い点で報告書流出問題とは全く性質が異なる案件である。

 一方、報告書の流出は第三者委員会のメンバーか、報告書の管理に当たっていた教育委員会、もしくは旭川市役所の人間の関与が明らかに濃厚であり、ふてぶてしいほどにその匿名性は低い。つまり、こちらは明白に組織的で計画的である。結果的にではあるかもしれないが二人の市議までが関わる、公的な権力、影響力を悪用した、遺族に対するあからさまな脅迫行為というほかあるまい。つまり前代未聞の、悪質で卑劣極まる犯罪行為そのものだと捉えられる。

 したがって元来、信用できそうもない市教委が刑事訴追の主体となるのは、あまり好ましくはないだろう。これまでの経緯から見て流出の犯人が教育長以下、市教委のメンバーであることも十分考えられるからだ。ここはもう市や教育委員会に一切忖度せずに遺族が主体となって裁判に持っていく方が、事件の全容解明により近づけるのではあるまいか。

 

参考動画

「旭川女子中学生いじめ凍死」問題 調査報告書の非公表部分がネットに流出か 

 サイト運営者が取材に答える HTB北海道ニュース  2024/06/26  4:51

旭川中2女子凍死 「いじめ被害なければ自殺起きなかった」再調査委が因果関係認

 める FNNプライムオンライン 2024/06/30 1:34

旭川いじめ凍死 黒塗りなしで文書公開した問題 遺族側が流出元の団体と代表者

 を刑事告訴するよう求める HTB北海道ニュース  2024/06/28  0:52

 いよいよ事態は急転し始めた。旭川市教委は神奈川のサイト運営者を刑事告発するかもしれない。さらにこのサイトに黒塗りしていない報告書を送った人物も、分かり次第、刑事告発すべきだろう。ただし、例の通り、市教委が必ずしも信用できるとは限らない。むしろ告発する、という大義名分のもと、改ざん、隠蔽すべき資料を探し出し、証拠隠滅を図る可能性の方がはるかに高いのではあるまいか。

 いざとなったら遺族、および支援者が主体となって彼らを刑事告発、さらに民事訴訟に訴える事態も予想される。報告書の流出という前代未聞の不祥事を引き起こした旧第三者委員会の組織としてのあり方、報告書の所在の確認、保管状況に不備が無かったのかも、改めて厳しく検証されるべきであろう。

 ここまで事態をこじらせてしまった当時の学校の管理職、教育委員会の責任もまた極めて重大であり、追って何らかの重い処罰が課されるべきだと考える。

131.石造物の読解について

 少なくとも市原市内の石造物に関しては漢詩文や短歌、俳句の類を除けばさほど崩し字の知識がなくとも何とか読める場合が多いのですが、稀に何が書いてあるのかほとんど見当がつかない石造物に出会います。上の文字、皆さんはスラスラと読めるでしょうか。

 市原市郡本の多聞寺にある石造物で角柱塔の四面に大きな文字が刻まれています。大きくクッキリと刻まれているのですが、14年ほど前の私には崩し字の基礎知識すら無かったのでこれにはショックを受けてしまいました。崩し字の習得には時間がかかるため、仕事で忙しかった私は崩し字の習得をハナから諦めていたのです。しかも市原の場合、崩し字が少しくらい読めなくとも、お経や石造物に刻まれがちな文言さえ知っていれば(この石造物に出くわす前までは)大抵の石造物は解読可能でした。

 

 左側は「南無遍照金剛」とあるのですが、いかがでしょう。「南」の崩しはまだ原型をとどめていて読解できますが、難敵は「無」と「剛」。「南無遍照金剛」「南無大師遍照金剛」という言葉を知っていれば何とか察しがつくのですが、知らないとかなり厳しいでしょう。

 右側はもっと苦戦しました。「六」は読めるので新四国八十八か所の「六番札所」であること示している…そこまでは推察できたのですが、思わず「む」と読んでしまいがちな変体仮名「者」の崩しは要注意。ここでは「は」の変体仮名「者」が使用されていて濁点は省略されている…つまり「ば」であることに気付く必要があるのです。

 一層、厄介なのが次の文字たち。この寺が「多聞寺」であることはあらかじめ知っていたので、どこかに「多聞寺」と刻んであるのかもしれない…などと察しはついていたにも関わらず、あまりにも原型をとどめていない文字たちにしばし、呆然としてしまいました。

 「多」は崩した字の方が複雑に見えてしまうケースが多いので要注意。「聞」は二つの部首に分けて捉える必要があります。門構えの崩しはまったく原型をとどめないほどに崩され、ほとんどウカンムリかナベブタのように見えてしまいます。もうこれは形に慣れるしかありません。「耳」は崩されるとほぼ「夕」に見えます。「寺」も要注意ですが、かろうじて原型が伝わってはくるでしょうか。当時、この面の文字たちの分からなさ加減は自分にとって衝撃的な辛さでした。

 

 上の二枚も意味不明に見えるでしょう。左側は「阿波安楽寺移」とあります。「新四国八十八か所」札所塔の銘文のパターンが分かっていれば何とか推理できるかもしれませんが、知っていないと崩し字の知識抜きではまず読解できないでしょう。

 右側は「天明五年乙巳三月二十一日」とあります。元号、年号などが刻まれていること自体は見当がつくものの、やはりこの程度ですら苦戦いたしました。

 古文書には頻出の「天」、「明」、「五」の崩しが分かっていれば何てことはなかったのですが…

 当時は古文書の読解をしようなどという大それた野心など一片も持ち合わせていなかったのですが、漢詩文を除けば比較的容易なはずの碑文の読解すらまともに出来ないもどかしさ、悔しさが私の崩し字学習最大の動機となった、というわけです。

 歴史散歩を究めたいのならば、やはり崩し字の知識を多少なりとも持っているに越したことはないようです。  

§6市原の郷土史.130.岩崎開村300周年資料④

~岩崎の近現代史~

 

「磯のさざ波」(中村憲四郎 昭和35年)より

 岩崎では毎年八月に一家の一年の収入を左右しかねない、大切なノリ篊(ひび)の「場割」のためにクジ引きが行われていた。以下はその時の様子である。

 

 ・・・組合当局から抽選日が部落内に回覧せらるると、自分たちの日ごろ信仰している神社仏閣に、とるものもとりあえず、われ先と同志を同道して参詣するのであります。行く先を申すと、成田山が第一位のようで、次に君津郡亀山の三石観音がその第二位として近年賑々しく参詣する。

 ・・・当日となりますと、未明より斎戒沐浴して神仏に灯明を点じて、清々しく隣保相供に組合事務所へ急ぐ。・・・

 常日ごろの荒くれ男たちも、この日ばかりは、神妙不可思議、水も打ったるごとく抽選終われば家路へサッサと帰り神仏に御灯明を上げ、御神酒を供えるもまたゆえなりと思はるる。・・・

 

 明治の末から市原に導入されたノリの養殖は岩崎だけではなく、市原の沿岸部に貴重な現金収入をもたらした。ただしノリの収穫が冬であったため、ノリ船に乗っての収穫作業は寒さも手伝って非常に辛いものであった。

写真は故渡辺善雄氏提供

 

岩崎小学校の歩み

 明治5年(1872)に「国民皆学」(小学校の義務教育化)を目指してフランスをモデルとした学制が導入され、寺子屋にかわって全国に小学校が設置されるようになる。これを受けて市原では翌年の明治6年、総社、分目、宮原、深城、廿五里、五所、飯沼、島野、椎津、姉崎、田中(今津朝山)、松崎、川在、牛久、皆吉、山小川、佐是、上高根、馬立、朝生原、大久保、月出、西飯給、田淵(…以上はすべて寺院を校舎とする)、高砂(江古田)、鶴舞西、石川、外部田、古敷屋(…以上は民家を校舎とする)、鶴舞東(旧庁舎を校舎とする)の30校が設けられている。翌明治7年は22校、明治8年に6校というハイペースで小学校は設置されていった。

 学校設立は各村の負担とされたため、かなりの数の学校は当初、寺院の本堂を校舎としてあてがわれた。特に市原はその割合が圧倒的に多い。

 明治7年(1874)、玉前阿弥陀堂に玉崎小学校創設。明治16年(1883)、岩崎小学校と改称し、岩崎大御堂に移る。さらに明治17年(1884)、校舎新築なり、現在地(現在の岩崎公民館)に移る。明治23年(1890)、五井尋常小学校分校とされる。明治28年(1895)、五井尋常小学校から分離し、岩崎尋常小学校と称す。校舎は明治29年と45年に増築されている。

 岩崎小学校はその後も児童の数が少なく、たびたび統廃合の対象とされかけたが、地域住民の嘆願もあって戦後しばらくまでは学校の存続をみた。しかしついに昭和42年(1967)、玉前、出津小学校と合併して京葉小学校に吸収され、その役割を終える事となった。岩崎小学校の跡地は今、岩崎公民館に利用されて現在に至る。

 

・川岸の「海軍道路」と飛行基地建設計画

 昭和15年(1940)、海軍は帝都防衛のため川岸沖に飛行場の建設に着手し、埋め立て工事を行っている。工事車両の便宜を図るべく、直線的で当時としては幅の広い道路を敷設した。地元ではこれを「海軍道路」と呼んでいる。埋め立てがほぼ終わり、飛行場の造成に取り掛かる寸前、太平洋戦争が始まったために基地建設は行われず、埋め立て地だけが戦後も残っていた。1960年代、海岸部の埋め立てが行われ、工場地帯が造成されていくが、既に埋め立てが完了していたここだけはいち早くコスモ石油などの企業が進出している。

 仮に飛行場が完成していてここに計画通り戦闘機が配備されていればどうなっていただろう。1945年5月8日、アメリカ軍は蘇我の埋め立て地帯にあった日立の飛行機工場をターゲットとした空襲を行った。P51マスタングの機銃掃射により浜野の本行寺は焼け落ち、五井では4人(一人は岩崎の人)が亡くなっている。帝都防衛の拠点とあらば飛行場周辺はきっと繰り返し、激しい空襲に見舞われたであろう。当然、川を挟んで位置する岩崎が無傷でいられるはずはない。無論、五井の町も焼け野原となっていたはず。

 

・埋め立てと工場地帯の形成

写真は故渡辺善雄氏提供

 ※記念碑は岩崎稲荷神社境内にある

 揮毫はなぜか嶋田繁太郎(1883~1976)。嶋田は東條内閣では海軍大臣などを歴任し、敗戦後はA級戦犯となるも東京裁判では死刑を免れて無期懲役の判決を受け、1955年には釈放されている。どうみても漁協とは無縁の人物。実際、五井の大宮神社には五井漁業組合解散記念碑(千葉県知事柴田等揮毫 昭和27年=1952)と農地解放記念の碑(柴田等揮毫 昭和26年=1951)があり、海浜部の漁業組合解散記念碑の多くは当時の県知事か国会議員などが揮毫している。東京出身の嶋田が岩崎の漁場解放記念碑を揮毫するのはどうみても不可解というほかあるまい。

 しかしこの謎は嶋田繁太郎の娘を妻としている始関伊平(今津朝山出身の国会議員で、当時、市原沿岸部の埋め立てに反対する漁業組合の説得と補償金の交渉のために千葉県と漁協との仲介役をはたしていた)の存在によって説明がつきそうである。

 そういえば近くの出津にある八雲神社の忠魂碑の揮毫も嶋田が手掛けている。忠魂碑の揮毫をした人物といえば戦前は乃木希典、大山巌、戦後は鈴木孝雄を代表とする陸軍関係者、靖国神社の宮司、ないしは岸信介、鳩山一郎といった政治家が多い。基本的に海軍関係者は少ないのだが、こちらも始関伊平の影響が考えられよう。

※柴田等(1899~1974):宮崎県出身の農林官僚(京都大学卒)。1947年、旧知の間柄であった川口

 為之助が千葉県知事となると農業再建を掲げた川口に招かれ、副知事となる。1950年、川口の辞任に

 伴う選挙で知事に当選。以後三期務める。農業再生とともに川崎製鉄の誘致を実現させ、京葉工業地

 域の基礎を築く。後に知事となる友納武人を副知事に招く。やがて工業化を急ぐ川島正二郎、水田三

 喜男らが農林官僚出身の柴田を農業派と断じて批判し、対立を深める。柴田が漁民の生活を案じて東

 京湾埋め立ての推進にブレーキをかけると川島らは強く反発。このため1962年、柴田は自由民主党か

 ら除名され、次の知事選には公認されなかった。

  川島らは上総一宮藩の最後の藩主の子加納久朗(彼の先祖久通は8代将軍吉宗の側近として五井の領

 主となった有馬氏倫とともに享保の改革時に重用され、上総一ノ宮に領地を賜っている)を推し、知

 事事に当選させた。しかし加納は1963年2月、任期110日にして急死し、後任は川上紀一となる。

§6市原の郷土史.129.岩崎開村300周年資料③

 

岩崎村~苦闘の歴史~

 岩崎新田は開村後、たびたび水害に遭っている。まず養老川の決壊、それに高潮…まさに東西から挟み撃ちにあい、幾度も水害の往復ビンタを食らい続けた挙句、幕末には江戸湾沿岸の警備体制強化に伴う新たな負担や戊辰戦争の余波をも食らってかなり困窮していた様子が窺える。なお、寛政の改革で知られる松平定信は1800年代に入ると江戸湾防備の任で白河藩士を引き連れて何度も市原郡を訪れ、風の神を祀る嶋穴神社に繰り返し参拝している。

 当時の岩崎の窮状を知るために以下の資料を見てみよう。

 

「乍恐以書付奉願上候」:元治元子年(1864)九月

 御領分市原郡岩崎新田役人共一同奉申上候・・・「去年(1863)の八月、大風雨高潮の際、石垣堤は村人の努力によって辛うじて大破せずに済みました。しかし潮風が田地に吹き付けたため、収穫できない箇所が多く、なおまた川が先月(7月)、二度も洪水となり、中稲、晩稲は水腐れ、その他も「白穂」となってしまいました。お年貢はもちろん、種籾すら無い有様です。村人達が揃って困窮を訴えるので、藩の検分をお願いし、「御用捨て」に預かりたく願書を大庄屋などに差し上げました。数回お願い申し上げたところ、ご理解いただき、願書差し戻しになったことを村人にしっかりと申し聞かせたのですが、年貢米が上納できないため一同困り果て、もう一度嘆願するよう村人に迫られました。村役人も困り果てしかたなく年貢の免除を申し出ることになりました。

 以下、略(「鶴牧藩大庄屋御用留文久二戊年三月ヨリ元治元年四月」千葉精春家文書・・・市原市史資料集近世編4所収 下の資料も同じ出典)

 

「乍恐以書付奉願上候」:慶応四年(1868)四月・・・五井戦争直前

 ・・・御代官江川太郎左衛門様、神奈川宿旅籠より官軍兵食御賄い御用金、高百石につき金一両ずつ相納め候よう仰せつけらる。そのほか助合(=助郷)人足高百石につき一人半勤、日数二十日の間賃銭一日一貫文づつ。相納めるべき旨仰せ付けらる。その後品川宿総督府会計方より官軍兵食御用高百石につき白米三俵、金三両づつ、早々に相納むべく仰せつけらる。そのうえ江川太郎左衛門ほか御一人より加助(=加助郷)差し村御免仰せつけられ候趣お達しこれあり。右は重ね重ね仰せいださるもこれあり、村々一同当惑の折柄、義軍府方数千人ご通行御継ぎ立てについては右人馬差し出しかたがた、もって必至と難渋つかまつり候。前書き二手御用向きおいおいこれあり。以後、何様のご沙汰これあるもはかりがたし。一同心痛つかまつり候。この段、御賢慮なしくだされおき、なにとぞ身元献金の儀は当十二月より三カ年上納。なお高役上納の儀はいずれも身薄かつ出作の者どもに御座候間、年延べ仰せつけられ下し置かれ候様、格別のご憐愍をもってお聞き届けのほど偏に願い上げ候。 以上

  慶応四辰年四月

※岩崎新田の村役人:百姓代 半右衛門  組頭 長助  名主 惣助

 

「五井漁業史」(昭和63年)より

 1889年までは岩崎新田。1727年、江戸の大坂九兵衛、大黒屋市兵衛、下村清兵衛らが町人請負新田として開墾に乗り出し、草刈村の多左衛門らに出資して開墾させ、4年後にほぼ終了。当初、開墾に加わったのは時田、田中、高沢、霜崎、下村、斎賀、鎗田、中村、石川など13人の百姓だと言われる。1727年に領主有馬氏倫が中村次郎右衛門に土地、宅地を下し置かれ、監督のため会所を設けたという。今も小字地名として「会所下」が残っている。中村家が名主職を世襲。

 当初は「清兵衛新田」と呼ばれていた。

 寛政5年(1793)での村高449石余り、家数72軒

 ※玉前は代官見立新田

「上総国町村誌(上巻)」(明治22年)より

 明治22年(1889)に行われる町村の大合併を前にしてまとめられた貴重な統計資料。岩崎新田は戸数93、人口512人で馬5匹、荷舟漁船61隻となっている。

明治24年(1891)には戸数93軒、人口539人、厩4、船72艘

 

 他村との違いをデータから浮かび上がらせてみよう。

 隣の玉前新田は宝暦9年(1759)に代官吉田源之助が付け寄洲を開拓させて成立。当初は「見立新田」(学問的には代官見立新田)と称していた。以下「上総国町村誌」(M.22)によると戸数55軒、人口は310人、荷車2台に荷舟漁船9隻である。岩崎よりも舟数が少なく、農業への依存度が高かったようだ。

 五井町は戸数704軒、人口3478人、牛3頭に馬9頭、荷車71台、人力車17台、荷舟漁船34隻である。さすがに江戸時代から市原郡における陸運(⇒荷車の多さ)、水運の要として繁栄してきただけに、人口は周囲と比べ突出して多い。

 青柳村は戸数220軒、人口1187人、馬3頭、荷車8台、荷舟漁船116隻。こちらは古くから漁業や水運で活躍してきただけあって舟数がかなり多い。今津もほぼ同様のデータであり、この二村は古くから海に生活の糧の多くを得てきたことが分かる。

 こうした近隣の村々と比べて岩崎村はこれといった特色が見られず、半農半漁の寒村といったところであろうか。

 

汐除け堤防大破の件の県令宛嘆願書(明治14年3月)下書:中村家所蔵

 水害は明治維新後も続いていた。

「大正の大津波」(大正6年=1917)

 大正6年10月1日未明、関東の西側を950hPaちかくの強力な台風(東京の最大風速43m)が時速100㎞近くの猛スピードで通過。おりしも満潮が迫っていたため、午前2時半から3時半にかけて記録的な高潮が東京湾沿岸を襲った。関宿では普段よりも5m近く水位が上がるなどして浦安、行徳、船橋、習志野にかけては被害甚大となり、特に浦安は壊滅状態となった。

 ちなみにこの災害で大打撃を受けた行徳の塩田は以後衰退の一途を辿ることになったという。千葉県全体の被害状況は死者行方不明者併せて313人、全壊した家屋7629、流失家屋は528棟に及んだ。「大正の大津波」と呼ぶこともある。

大正6年(1917)、岩崎稲荷神社内に祀られた水神宮の祠

 

§6市原の郷土史.128.岩崎開村300周年資料②

 

3.岩崎の開村とその後の開発

 1981年の「広報いちはら」に掲載された「農協組合の村々」(落合忠一氏執筆)シリーズの31~39に「岩崎村」の歴史が取り上げられている。岩崎村の歴史は八代将軍徳川吉宗の改革によって享保7年(1722)に町人請負新田が許可されるようになった時に下谷金杉の下村清兵衛が養老川河口に可耕地があることを知り、下見に来て開墾を決意したことから始まる。清兵衛は払下げ代金を添えて代官に新田開発の許可を申し出た。この開墾話を聞きつけた人々が岩崎に大勢集まり、清兵衛の指図のもとに開墾が進められたという。

 当時は寄洲の葭山を中心にまず屋敷を構え、周辺に田畑の開墾を行っていったようで2~3年かけて徐々に屋敷地と耕地が拡大し、享保13年(1728)2月、「清兵衛新田」としてほぼ完成した。幕府による検地後に清兵衛の私有地とされ、年貢は3年間、猶予された。3年後の享保15年(1730)、村名は「岩崎新田」に改められ、五井一万石の大名有馬氏倫(初代伊勢西条藩藩主で現在の五井駅に陣屋が置かれた)の領地とされた。

 歴史的農業環境システムより

 江戸時代、養老川は関東有数の「暴れ川」として恐れられていた。岩崎新田成立後も幾度か決壊して流路を変え、大きな被害を下流域(特に町田・廿五里周辺から下流域)の農村に及ぼしている。たとえば延享4年(1747)、養老川は出津辺りで大規模な川欠けを起こした。以後、天明8年(1788)までの40年余り、養老川は出津八雲神社のすぐ傍を流れ、松ヶ島村の端を抜けて北青柳との境あたり字塩場(メガドンキの裏手)で海に注いでいた。

 洪水が収まるとかつての川床や河川敷に対して周辺の村々は先を争って開墾を行うことになる。当然その所有権を巡って訴訟沙汰に発展することもあった。また天明年間に河口が元に戻った後も川筋のわずかな変化によって「寄洲」が生じたため、そこでも開墾が行われている。

 ご存知の通り、養老川下流部の土地支配は今も飛び地が多く、錯綜していて分かり辛い。その理由の一つとして、かつて養老川の度重なる氾濫とその都度繰り返された開発の歴史があったのである。

 岩崎の浜辺では潮除け堤防が整備されていき、葭(葦)の生い茂る海辺の土地も一部は農地として開墾されていった(葭場⇒小字名「葭田」・「亥ノ起」)。こうした苦労の積み重ねがあって村の石高と人口は徐々に増加していった。

赤枠が寄洲(卯の起)、草色の枠内が葭場(亥の起):中村家所蔵村絵図(寛政11年=1799)

 葭場の開墾が行われた後しばらくして享和元年(1801)、岩崎は領主有馬久保(ひさやす)の検地を受けている(この時の検地帳が中村家に残る→下の写真)。久保は初代の氏倫から七代目に当たるが、彼だけは五井の陣屋に住んでいたらしい(従来は家来だけが陣屋に遣わされていた。陣屋跡地は今の五井駅に相当)。検地の際には代官の伴宗蔵と早川佐太郎を検地役人とし、立会人に横目役の三神友之進と書記の坪才助とが岩崎に来たという。田畑半々で合計7反6畝27歩(76アール余り)の開墾地が確認されている。

 鎗田家に伝わる名寄せ帳(検地帳の写し:下の写真)は虫食いが酷く、欠損も多いが、その後の土地所有関係の変化が追える点で有意義な資料。「寄洲禹起」と「洲崎亥起」が享和元年(1801年)に有馬氏検地の対象となった開墾地と思われる。何れもやはり地味が悪かったようで耕地のランクはほとんどが「下畑」である。

 

 岩崎村は迅速測図(1881年)によると集落として三つのブロックに分かれている事が確認できる。村の中心部は会所の置かれた中村家のある地区。小字名で「中町」である。文字通り村の中心を意味する字地名となっている。弁天様を挟んで道沿いに細く連なる集落は小字名で「上洲崎」から「向山」にかけて。川の堤防に沿う道から岩崎地区に向かって坂道を下り、最初に入るブロックは「本山」、「元新山」。集落の字地名に「山」が多く付いていると言うことはそこが相対的に微高地であった証拠であろう。低湿地における居住地としては当然の選択であり、松ヶ島地区も同様の形で微高地中心に集落が展開している。

 三つのブロックの中央部は弁天様を除くと建物は無く、明治中頃までは専ら水田として利用されていたことが迅速測図で確認できる。村を分断するようにして集落の中央部を耕地が帯状に細長く横断しているのはやや不自然であろう。おそらくこのゾーンは相対的に低地であるため、川の洪水が起きると浸水しやすかったのではあるまいか。もしかするとかつてここを川が流れていた事があったのかもしれない。とすれば当初の集落は自然堤防上に細長く展開していたと考えられる。

戦後まもなく撮影された空中写真:水色の線がかつて川の流れていたと思しき箇所。岩崎と玉前の集落は赤線のようにかつての川跡にそって帯状に形成されている。かつての自然堤防は道となり、人家が建ち並んでいったが、川跡はもっぱら水田に利用されていたようだ。黄色のゾーンは松ヶ島と北青柳の境辺りで海に注いでいた養老川が元の河口に戻った際に形成された川沿いの寄洲でここはやがて村の共有地となったようだ。

§6.127.岩崎開村300周年資料①

 

1. 近世五井の歩みから

 徳川家康の関東移封が行われた1590年以降、房総の地は多くの要所を徳川一門、譜代の家臣たちが支配する所となり、五井は当初、松平家信が5000石の領主として五井を支配していた。慶長6年(1601)には松平氏が移封されて五井藩は廃藩とされ、天領(幕府直轄地)に組み込まれる。
 承応元年(1652)、五井の代官として旗本の神尾守永がやってくる。五井の街並みの土台が本格的に築かれたのはおそらくこの神尾氏の時からであろう。神尾氏は松平氏の菩提寺だった理安寺を、沼地を埋め立てて現在地に移し、万治元年(1658)、守永寺(浄土宗)と改めてここを町の中心とする街並みの整備に取り掛かったようだ。実際、房総往還は守永寺を迂回するようにして「枡型」が設けられている。また神尾氏は塩田開発をも進め、五井大市を開くなどして五井の経済的な発展を計画的に推進していったという。

 上の図中の赤い星印が守永寺で五井の街並みが守永寺を中心にして形成されているのが分かる。緑の線は房総往還で街並みの両端には五街道の宿場町などに時折見られる、「枡形」、「鍵形」などと呼ばれる、直角に道が折れ曲がるクランク地点が残っていた。五井は房総往還における継立て場(継場とも:五街道では宿場町に相当する町で「下宿」「上宿」といったような、旅籠の存在を示す地名が残っている)として近世に入ってから整備されていたのである。

 不自然に道が直角に折れている箇所、黄緑の四角はかつて陣屋がおかれていた場所で、現在はJR内房線の五井駅となっている。中世から繫栄していた八幡宿もやはり継立場であったが房総往還は五井ほどはっきりとした鍵形は見られず、町中の道も五井ほどは直線的に伸びていない。すなわち五井の町は八幡宿などとは違い、17世紀になって急遽、代官指導の下、極めて計画的に造られた人工的集落だったのだ。

 五井は暴れ川として知られていた養老川の氾濫原に位置しており、江戸時代以前は湿地帯が多かったため、人家がまばらに存在するのみの寒村であったという。だからこそ江戸時代に入って町は特定の目的に沿ってほぼゼロ状態から人工的に創り上げることが可能だったともいえるだろう。計画的な街づくりの結果、五井は急速な発展を遂げ、江戸時代後期には市原郡最大の町となる。中世には港町として既に繁栄を遂げていた八幡宿や姉崎、椎津を差し置いて、寒村に過ぎなかった五井の町が発展できた背景には代官となった神尾氏の優れた街づくり構想があったと思われる。

 五井町発展のカギはおそらく神尾氏が開発した川岸地区の水運の要としての役割にあった。まず黄色の線に注目したい。五井の町から不自然なほどに北に向かって直線的に伸びる道路。現在の五井病院から先は川岸の集落に至るまでほぼ直線である。この道、おそらく江戸時代からあったと考えられる。まずはこの道が果たした役割を考えてみたい。

 なお赤線は久留里街道の「殿様道」として18世紀中ごろに整備されたもの。こちらは既に五井の町並が形成された時期に街道とされたため、住宅地を避けるようにして道は曲がりくねっている。直線的な道路は一見すると新しく敷設された現代の自動車道に思えるが、実は五井の場合、直線道路が必ずしも新しい道とはいえないのだ。

 

2.川岸の開村と発展

 

 まず細長い集落の展開に注目。さらに不自然なほどに直線的な二本の道(黄色線)と二つの水路(紺色の線:左側が旧澪、右側が新澪)に注目。川と海の表玄関として川岸は五井の代官神尾氏によって17世紀後半、計画的に造成されていったと推測するが、いかがだろう。

 川岸の開村はおそらく17世紀後半のことであり、五井守永寺(神尾氏により創建)や八幡円頓寺の檀家が川岸の旧家に見られることから、草分け百姓の一部は五井及び中世からの港町、八幡出身であることも推察できる。

 ゼンリンの住宅地図内にある緑色の★印、八幡円頓寺の檀家である中西家にもたらされた法華曼荼羅(ご本尊)のうち、1680年のものが川岸開村の年代を考える上で大きなヒントになるだろう。

 養老川の上流からもたらされた薪炭、木材、年貢米などの物資は川岸で川船から五大力船に積み替えられ、江戸に輸送されていた。また海産物は押送り船でやはり江戸へ送られていたようだ。川岸の澪はそうした船の発着に利用されていたに違いない。やがて澪は19世紀初頭、新たに追加され、波渕(現在「オリーブの丘」近く)まで五大力船が入り込む。江戸との交易がさらに発展し、五井は市原郡随一の人口を誇る町へと成長を遂げていった。

 五大力船は江戸からの帰途、様々な商品を五井にもたらしてもいた。五井と川岸は17世紀後半にはあの直線的な道によって緊密に結びついたことでお互いに急成長を遂げていったようだ。中世にはおそらく鄙びた寒村に過ぎなかったはずの五井は房総往還の継立て場となったことに加えて、海と川の水上輸送路の結節点となった川岸と強く結びつくことで大きく発展していったものと思われる。五井の繁栄は川岸の存在無くしては語れないのである。

 享保の改革で大岡忠相と肩を並べる活躍を見せたのが有馬氏倫(ありまうじのり)であった。かれは五井の代官として五井の発展に尽くし、川岸の富貴稲荷神社を創建している。なお、大岡の領地も島野など市原郡内に存在している。つまり市原は享保の改革の影響を色濃く受けた土地であった。たとえば足高の制(1723年:大岡越前や有馬氏倫らはこの制度によって一万石を数える領地を持つことになり、旗本から大名へと出世を遂げている)や町人請負新田の許可(1722年:→岩崎新田の成立)といった政策は市原に大きな変化をもたらしていたのだ。

 なお有馬氏倫と同じく紀州藩以来、将軍吉宗に側近として重用された加納久通も上総一宮藩の初代藩主とされ、その子孫久朗は戦後三代目の千葉県知事となっている。

 

㊸困難校における大学受験指導の諸相

※この記事は常に新鮮なネタを提供すべく、随時、更新されています。

 

 教員生活の後半は進路指導部に所属することが多かったため、慣れない就職指導に悪戦苦闘してきた。いわゆる教育困難校ばかりを転々としていたので就職指導にはとりわけ力を入れなければならなかったのだ。父子家庭、母子家庭で生活保護受給者が多い、という厳しい家庭環境の生徒が過半を占めているので、家計を補うためにも高校卒業後にすぐ就職しなければならない生徒が半数近くを占めていた。当然、就職指導は通常の生徒指導を上回る厳しさとなり、手を抜くことは絶対に許されない状況にあった。地元企業の状況を把握するだけでも相当の時間を要してしまい、就職指導にそれなりの自信を持てるようになるには最低でも数年はかかるはずである。

 同時に警察のご厄介になる生徒への対応、家庭訪問を必須とする特別指導(喫煙とバイク乗車が多い)、成績や出席時数の問題で進級や卒業が危うい生徒への補習…授業や部活動、校務分掌の仕事、学校行事なども加わり、誰だってやらなければならない仕事が山ほどある。そうした中での、生徒の将来を左右しかねない、責任重大な進路指導は教師にとってかなりの肉体的、精神的重圧となってしまいがちであった。その実、多くの3学年教師たちの本音では生徒たちの進路先がたとえ決まらなくとも卒業さえしてくれればとりあえずは「御の字」だったのである。

 しかも私の場合、14年間は内陸部、それも交通不便な立地の教育困難校に勤めていたため、極めて悩ましいケースを就職指導以外でも抱えてきた。実はそうした立地の高校ではかなりの教育困難校であるにもかかわらず、自宅から駅やバス停が遠いことなどによって他の高校への通学が困難なゆえに、場違いなほどの成績優秀者が入学してくるケースが一つの学年で10人内外(学年8クラスで生徒数300人ほどの内)はいたのである。彼らの中には教師たちが少しテコ入れすれば日東駒専あたりにならば現役で軽く合格できる能力を持っている者も決して少なくなかった。中には頑張り次第で地方の国公立大学に合格することが夢ではない力の持ち主もいたはずである。

 しかし内陸部では受験指導を行う塾や予備校がほとんど存在しないためもあって業者模試の出来がイマイチ物足りない生徒がいる。そして困難校での授業は勉強嫌いや学習の苦手な大勢の生徒たちに合わせて大学入試とは無縁の授業が多く、もしも彼らが大学受験を希望するならば、受験勉強は通信教育か、独学によるしか学習手段は無い…これはかなりマイナーなケースではあるが、こうした場合、卒業を控えた学級担任として苦渋の決断を迫られることになる。

 等高線人事のおかげでかつては教育困難校を数多く経験してきたベテラン教師が少なからず困難校に勤務していたこともあり、すくなくとも生徒指導と就職指導には手を抜けない…との認識は教員間で広く共有されていた。そのことが残念ながら数の少ない大学進学希望者への指導を二の次とする雰囲気をも作り出していたことはほぼ間違いなかろう。多くの教師も、生徒も、保護者も少数派の進学希望者への対応はほとんど意識の上にすらのぼっていなかったのが現実であった。

 とはいえ、3年の学級担任となれば三者面談などの際、大学進学希望を口にする生徒や保護者を前にすることは決して稀ではなかった。当時は総合型選抜が無かった時代であったため、大学進学となれば困難校では一般推薦か指定校推薦と相場が決まっていたが、困難校としての伝統が長い高校ではまずほとんどの大学から指定校枠をもらえていない。また一般推薦で入学できそうな大学は地元のD~Fラン大学にほぼ限定されていた。つまりD~Fラン大学への受験を本人や保護者が渋る場合には一般受験を念頭に置いた受験指導が不可避となる。内陸部での困難校ではこうした悩ましいケースが各クラスに一人いても不思議ではなかったのだ。

 仮にその生徒が明らかに日東駒専レベルの力は持っているとしよう。家庭の経済力が無いわけではないし、奨学金の利用も考えられる。本人も保護者も心の底では日東駒専レベルの大学を狙いたいと思っている。ならば進路指導部の一員として、3学年の学級担任として本人の希望をかなえたい、と教師が考えるのは決して間違っていないはず。ところが大抵の場合、本人は塾や予備校に通えるような所に住んではおらず、通信教育も受けてはいない。はてさて、どうしたものか…

 通常、学力的に中位校以上の学校では進路指導部の働きかけで受験のための補習講座を一学期や夏休み中に設けているが、多くの困難校では面接指導を中心とした就職指導の補習しか行っていないし、実はそれだけでも手一杯である。ごく少数に過ぎない生徒相手の進学補習を組織的に実施するなぞ、そもそも現実的な話ではない。残るは一握りの教師によるボランティアとしての進学補習しかない…となればまずは率先垂範、進路指導部に属する自分が無理くり補習をやってみる他あるまい…

 困難校の教師なのに日本史のセンター試験の過去問を購入し、最近の入試動向を調べつつ、放課後や夏休み、補習を希望する生徒たちに暇を見つけては実戦的な課外授業を行う…かたや就職指導の担当者として求人票の整理、面接や履歴書の指導を行っているのだから、これはこれでかなりの難行苦行であった。

 実はこうした経験があったために、都市部の定時制高校に移った後も私は希望者がある限り、個人的な進学補習を続けていた。不登校が多く進学してくる午後部の定時制に属していたので生徒は多様さを極めていた。中には国立大やMARCHレベルに合格する生徒もおり、都市部であっても受験補習のやりがいはあったのである。

 

 以上、受験指導を巡る私の辿ってきた思考と実践の足跡をざっと整理してみた。私の場合、初任校と二校目の高校は中位の進学校であったため、初任時から毎年のように進学補習を行ってきていた。このため困難校への転勤後も受験補習自体にさほどの抵抗感が無かったのが幸いしたのだろう。

 しかし初任校が困難校であった場合、あるいは教師本人が推薦入試で大学に入学している場合にはたとえ自分のクラスの生徒が補習を希望していても快く補習を引き受ける教師は決して多くない。教師の中には受験指導は教師の仕事ではないと割り切って考えている人もかなりいる。確かに都市部の高校ならばそうして割り切ることも有り、なのかもしれないが、交通不便な内陸部の高校では心情的になかなか割り切れないものがあったのだ。

 とはいえ、素人の教師が付け焼刃で受験補習を無理くり行う必要性はもはやネット社会の進展によってかなり低下してきている。youtubeの動画でも受験に十分対応できるものが増えてきている。むしろ学校のこれ以上のブラック化を阻止するためには先々、高校教師に受験補習をさせない方向で管理職は考えていくべきだろう。

 ただし高校生への就職指導に関する有益な動画は管見ながら確認できていない。今更差し出がましいが、困難校の進路指導部としては今後、総合型選抜の指導と就職指導の充実を当面の課題として取り組んでいく方向で良いのではあるまいか。

 

§6.126.「房総の石仏百選」に見る市内の石造物

 

 今回は「房総の石仏百選」でとりあげられた市原市内の石造物をご紹介いたします。この本は房総石造文化財研究会編で執筆者はかの「日本の石仏」(青蛾書房)を発行してきた日本石仏協会の会員が中心となっています。

 すでに過去のブログで登場した石造物が多く含まれていますが、千葉県の中でも特に注目された石造物たちです。下表に紹介した順にそれぞれ注目ポイントについて簡単に解説いたしましょう。

 

「房総の石仏百選」(平成11年 たけしま出版)掲載の石造物一覧

飯沼供養塚

大日如来

寛文3年=1663

椎津路傍

馬乗り馬頭観音

安永5年=1776

不入斗医王寺門前

六地蔵(石幢)

寛永21年=1644

飯給真高寺

四国八十八所尊

寛政7年=1795

四天王

寛政7年=1795

菊間若宮八幡

大山権現

天明3年=1783

武士鹿島神社

愛宕権現

元禄7年=1694

八幡妙長寺

日蓮上人

寛文4年=1664

 

飯沼供養塚(三山塚)の大日如来

 京葉高校のすぐ近くの三山塚に祀られた大日如来(湯殿山の本地仏)です。光背などに多少の欠損が見られますが、大きさと古さもあり、県内の供養塚上の大日如来としては傑出した石仏と言えるでしょう。


椎津新田路傍の馬乗り馬頭観音

 西上総や東総地方に数多く祀られているのが馬にまたがる姿のローカル色豊かな馬頭観音。その中でもひときわ秀麗な姿で知られるのがこの石仏です。笠上観音などがある長浦方面に向かう巡礼路に祀られています。詳しくは「房総の馬乗り馬頭観音」(町田茂 たけしま出版 2004)をお読みください。

 

不入斗医王寺門前の六地蔵(石幢)

 六道を輪廻転生する衆生救済のためにそれぞれの世界に表れる地蔵を表現したものが六地蔵となります。こちらは一個の石材に六地蔵を浮き彫りにした一石六地蔵としては市内最古のものとなります。一石六地蔵には石幢型(石材を六角柱に整形し、各面に地蔵を浮き彫りにしたもの)や角柱塔の三面にそれぞれ二体ずつ地蔵を浮き彫りにしたものが市内では数多く見られます。概して石幢型は古い年代のものが多い傾向があり、こちらはその中でも非常に古い作例に属します。ちなみに六地蔵としては一体ずつ丸彫りにされたタイプも多く、その様式はかなりバラエティに富んでいます。

 

飯給真高寺四国八十八所尊の笠付き角柱塔と四天王像

 「波の伊八」の彫刻がある山門で知られる真高寺には他にも百八十八か所巡拝塔と三山供養塔を兼ねる笠付き角柱塔(安永7年=1778)があり、18世紀後半には飯給に熱心な巡礼者がいたことが分かります。市内には類例のない石造物であり、「お遍路」の地方における浸透ぶりが伝わる遺物です。

 石造物の四天王像も市内ではやはりここにしかない、貴重な作例となります。石造物の神仏像は圧倒的に浮き彫りが多く、地蔵を除くと丸彫りの像自体が希少です。

 

菊間若宮八幡の大山権現

 「大山権現」、「雨降神社」、「石尊大権現」はいずれも相模大山の神のこと。「大山詣で」は江戸時代に大流行し、大山登拝のついでに鎌倉や江の島弁天を詣でることもあって、江戸の男たちにとっては気晴らしを兼ねた小旅行でした。市内には数多くの祠が残っていますが、神像が刻まれているのはこれだけです。そもそも子安神を除きますと、市内では神像の石造物自体、きわめて希少となります。

 

武士鹿島神社の愛宕権現(勝軍地蔵)

 愛宕権現は秋葉権現とともに火伏の神として江戸時代、篤く信仰されました。しかし市内では極めて珍しく、特に本地仏の勝軍地蔵像は唯一ここだけに存在します。

 

八幡妙長寺の日蓮上人像

 日蓮宗寺院の多い市原ですが、日蓮像自体はかなり少なく、これは貴重な作例の一つです。一時期、地中に埋もれていたそうで、そのためか、保存状態はさほど悪くありません。近年、大きな題目塔などが二基、補修されました。塔の大きさから見て、かつてはかなり有力な寺院だったと思われます。

 

 

 なお2010年には続編となる「続房総の石仏百選」が刊行されており、市内の石造物が新に市原光善寺の石灯籠(15世紀前半)、下矢田・川間お塚の日記念仏塔(寛文6年=1666)、本郷西光寺の結界石(寛政7年=1795)の三点、掲載されております。

 以下、簡単にご紹介いたしましょう。

市原光善寺の石灯籠

 県内最古の石灯籠であり、古い石造物が少ない市原としてはきわめて貴重な石造物。お寺や神社などにも数多く存在する石造物でありながら、地震等で倒壊しやすく、意外にも江戸時代のものですら数は多いとは言えません。

 

下矢田・川間お塚の日記念仏塔

 基本的には女性たちの念仏講で造塔されたもの。日記念仏塔としては県内最古。毎月、特定の日(功徳日)に集まって年に十二回、念仏を唱えていたようです。この念仏塔は聖観音を主尊としていますが、このすぐ近くの墓地には阿弥陀如来を主尊とする日記念仏塔があります。市内にはこのほかに山倉共同墓地内の三山塚上と石塚墓地内に阿弥陀如来を主尊とする日記念仏塔があります。市内で合わせて5基の日記念仏塔を確認しており、希少な石造物です。

 川間お塚は基本的には三山塚(供養塚)ですが、人工的に築かれたとは思えないほどの高さと規模があり、自然の丘陵部を利用しているのかもしれません。テレビのロケ地に使われることがある小湊鉄道の川間駅のすぐ近くにあります。

 

 

本郷西光寺結界石「禁芸術͡賈買輩」

 結界石にはよく「不許葷酒入山門」などと刻まれていて、禅宗寺院に多く見られますが、他の宗派でも結界石は存在します。左手の結界石が上の写真のものですが、右側には「不許葷酒入山門」と刻まれた結界石が建てられています。

 「芸術͡賈買輩」とは旅芸人や物売りなどの俗人を指し、修行の妨げになるとされて彼らが山門内に入り込むことを禁じた石塔になりますので門前に置かれるのが普通。飯給の真高寺などにも同様の文言の結界石がありますが、市内では数が少なく、希少です。なお西光寺という寺は別に日蓮宗のお寺もありますのでお間違えなきよう。