K3 surfaces with involutions -2ページ目

K3 surfaces with involutions

Local and global Torelli theorems for complex K3 surfaces, periods of K3 surfaces, non-symplectic holomorphic involutions, anti-holomorphic involutions, Hilbert schemes of K3 surfaces, Nikulin's lattice theory, lattice-polarized K3 surfaces. . .

(前記事から続く)

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定理2.1の系たちについて述べる.

 

を,格子L_{-, h}から標準的に得られるLobachevskii space とする.L_{-, h}の元で,square -2 のものたちの直交hyperplanesに関するreflectionsで生成される群は, に作用する.

を,この群の基本領域であってa face orthogonal to δ' を持つpolytopeとする.

 

Coxeter graph (Itenbergの論文では"scheme"と呼ばれている) を,   とおく.

(Coxeter graph については,Vinberg の1972年の論文参照.)   e を,δ'に対応するの頂点とする.

からすべての thick and dotted edges を除いたものを C’とする.

(L. φ, h', δ') の自己同型たちで生成される C’のsymmetriesの群を考える.この群はC’に作用する.

C’’を,この作用に関するC’の 商グラフ とし,e' e の属するクラスとする.

を,e' を含むようなC’’の連結成分と定義する.

 

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Proposition 3.1

Ω_* に属するpolytopesで (L. φ, h', δ')の自己同型で互いに移り合わないものの数は,graph K のverticesの数に一致する.

 

Corollary 3.2

1つ非退化2重点を持つ実6次曲線で,それから決まる実K3曲面 (X, conj) のassociated involution (H_2(X, Z), conj_*, h, δ) が (L. φ, h', δ') と同型(isometric)であるもの(曲線)たちのrigid isotopy classes の数は,グラフ K のverticesの数に一致する.

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Ω_* とグラフK を結びつける面白い結果である.)

 

 

文献: Ilia Itenberg著,

Curves of degree 6 with one nondegenerate double point

and groups of monodromy of nonsingular curves,

Lecture Notes in Math., 1524, 267--288, 1992.

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この論文の前半は,記述が直観的な部分があって読みにくいので,後半の,K3曲面の周期領域を用いた議論 (2. The reduction to a problem on K3-surfaces)を先に読むほうがよい.この論文のアプローチは,V.V. Nikulinの real lattice polarized K3 surfacesのモジュライの研究(1983) rank=2 の1例 (S = <2>+<-2>)となっている.ただし,markingの際に<2>, <-2> の各生成元についても指定していることに注意.

Itenberg氏本人によれば,この研究の詳細は彼のthesis(ロシア語)に書かれてあり,同様の研究方法が,Degtyarev-Itenberg-Kharlamov書: Real Enriques surfaces (L.N. in Math) において解説されているので参照とのこと.

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p.280

LをK3格子とし,φはL上の格子の対合, h', δ' ∊ L,h'^2 = 2, δ'^2 = -2,  h'・δ' =0 とする.

isometry class (L, φ, h', δ') を先に与え、固定しておく.

L x C の元ω≠0で,

  ω・ω=0,ω・\overline{ω}>0,ω・h'=0,ω・δ'=0,φ(ω)=\overline{ω}

なるもの全体を考える.

この空間をR^xで割った商空間を Ω とおく.

ここで,R^xで割る前の空間を考えてみよう.

      ω = (ω_+, ω_-)

と表すと,(ω_+, ω_-) は,L_+ x R と L_{-, h, δ} x R の直和 に属する.

L_+ x R と L_{-, h, δ} x R の直和は,後半の条件:

   ω・h'=0,ω・δ'=0,φ(ω)=\overline{ω}

で定義される実ベクトル空間である.

L_+ と L_{-, h, δ} はともにLorenzian (hyperbolicともいう),つまり,form を対角化したときのpositive square の数が丁度1なので,前半の条件:

   ω・ω=0,ω・\overline{ω}>0

を満たす(ω_+, ω_-)の全体は,4個の連結成分からなる.なぜなら,ω_+, ω_- それぞれの第1成分の正負の組合せで,正正,正負,負正,負負,の4とおりとなるからである.これをR^xで割った商空間がΩなので,Ωは丁度2個の連結成分からなる.(正正 と 正負)

さらに,(-φ)の作用を考えると,(-φ)(ω_+) = - ω_+,  (-φ))(ω_-) = ω_-  なので,

(-φ)の作用により,上の2つの連結成分(正正 と 正負)は移り合う.

 

定義 (L, φ, h', δ') の自己同型で移り合うようなΩの元は,equivalentであると呼ぶ.

(-φ)(h') = h',(-φ)(δ') = δ'であることから,(-φ)は (L, φ, h', δ')の自己同型なので,(-φ)で移り合うΩの元はequivalent.そこで,(-φ)で移り合う元を同一視し,空間  Ω/{1, -φ}   を考える. この空間は, L_+ と L_{-, h, δ} それぞれから得られる Lobachevskii spaces ( と書く) の直積とみなせる.

 

p.281 

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● (one ) double point が「非退化」であることの判定法

ωがnondegenerate double pointを1つ持つ実6次曲線に対応するmarked実K3曲面(markingに注意)の周期である

⇔(必要十分)

ω・v=0,v・h'=0,v^2=-2 なる v (in L)が,δ',-δ'のほかには存在しない.

(論文には一方向の主張のみ書いてあるように見えるが,必要十分であることが言える!)

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L_+ と L_{-, h, δ} のどちらか一方は,δ'とmod 2Lで等しい元を持たないことが容易にわかるので,

collections { Ω_+^j }{ Ω_{-, h, δ}^i } のどちらか一方は唯1つのpolytopeからなることになる.

そこで,

       Ω_*

を,

  = { Ω_+^j }  (L_{-, h, δ} が δ'とmod 2Lで等しい元を持たないとき)

   { Ω_{-, h, δ}^i }

     L_+ が δ'とmod 2Lで等しい元を持たないとき)

と定める.しかるに,反正則対合conj を,後者が成り立つように選ぶことができるので,結局は,

         Ω_* = { Ω_{-, h, δ}^i }

とすることができる. ようやく定理2.1を述べる:

 

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定理2.1.  (Itenberg,  p.282)

同型類(L. φ, h', δ')をひとつ固定する.

nondegenerate double pointを1つ持つ実6次曲線から決まるmarked実K3曲面 (X, conj)で,そのassociated involution (H_2(X, Z), conj_*, h, δ) が与えられた(L. φ, h', δ') にisometricであるものの全体を考える.

そのような曲線たちの rigid isotopy types は,

Ω_* に属するpolytopes (→ただし up to the automorphisms of (L. φ, h', δ')で考える) と bijective に対応する.

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「小平の変形理論とその後の発展」 (数学セミナー1997)

(By 中村郁先生)



○小平-Spencer の複素構造の変形理論


○定理2

   K3曲面は変形で移り合う

   K3曲面で代数的でないものがある


○定理3 (倉西族の存在)


○定理3は,Grauertにより,特異点を持つコンパクトな解析空間にまで拡張された.

 コンパクトな解析空間が特異点を持たない多様体に変形できるための便利な十分条件

 (→Friedman,並河-川又)

 新しいCalabi-Yau多様体の例が,この十分条件を用いて構成されている.

○小平-Spencer-Grauert の変形理論のひとつの美しい応用例は,

 孤立特異点の変形理論

  特異点(ADE)の変形理論を通じて,古典的な不変式論,Lie環の表現論が,現代代数幾何学に出会った.

  (Brieskornらの理論)

  この理論は,Mordell-Weil格子の理論(塩田)の中で,より精密な形で再構成された.

  Mordell-Weil格子の理論の応用として,E_8 のWely群をガロワ群に持つ代数方程式がすべて決定された.


○剛性定理

   多様な複素構造が許されないような可微分多様体

   定理4 ケーラー多様体がP^nと位相同型ならば,複素多様体としても同型.


    この定理は,ケーラーの条件がない場合は,n=2の場合,

    Yau-宮岡(1978),または,Seiberg-Witten理論により解決された.

    (一般次元では未解決,と書いてあるが,その後,どうなったのでしょうか?)


  

○Donaldson理論

   小平は,ホモトピーK3曲面を分類.(1970)

   ホモトピーK3曲面がK3曲面に微分同型か,という問題は,後に,Freedmanらが解決.

   (位相同型である,1982)


   単連結実4次元可微分多様体Xに付随したある空間のASD接続(インスタントン)のモジュライ空間をM_Xとする.M_Xは,局所的には,複素構造の変形空間によく似た形の微分方程式で記述される.Atiyah-Singer-Hitchin は,倉西空間の方法で,M_Xを研究.その後,Donaldsonは,Taubes,Uhlenbeckらの結果を用いて,M_Xの構造を解明し,Donaldson多項式(可微分多様体の新しい不変量)を発見した.

Donaldson多項式が異なれば,向きを保って可微分同相にはならない.

この不変量を,ホモトピーK3曲面や,多くの複素曲面に適用して,多くの結果が証明された:

定理9(Friedman-Morgan 1988) ホモトピーK3曲面はK3曲面に可微分同相ではない.


Donaldson理論,Seiberg-Witten理論を応用して,

定理9(1994~1995)

 複素曲面に対し,

  (1)多重種数は,可微分同相不変量.

  (2)特に,小平次元は,可微分同相不変量.

  (3)有理曲面に可微分同相な複素曲面は,有理曲面に複素多様体として同型.(P^2の剛性定理を含む)



以下は,

Valery Alexeev and Viacheslav V. Nikulin,

Del Pezzo and K3 surfaces,MSJ Memoir (2006)

より,引用しました.



1849年,CayleyとSalmonは,ある非特異cubic surface Z上に,27本のlinesを発見した.今ではそれらは,nonsingular del Pezzo surface Z of degree 3上のすべての例外曲線であることがわかっている.

ここで,del Pezzo surface Z のdegree d とは,d=(K_Z)^2 のことである.


nonsingular del Pezzo surfaces の分類はよく知られており,有理曲面の古典的な例となっている.

     文献: Nagata, On rational surfaces I, II, (1960)

         Manin,

           Cubic forms: Algebra, geometry, arithmetic, Amsterdam 1986

         Manin and Tsfasman,

           Rational varieties: algebra, geometry, arithmetic,

           Russ. Math. Surv. 41 (1986), no.2, 51-116.


nonsingular del Pezzo surfacesとreflection groupsの関係は,かなり昔に見出されていた.

Schoutte(1910)は,非特異3次曲面上の27本のlinesと,R^6の中のあるpolytopeの頂点たちの間に,incidence-preserving bijection があることを注意した.現在用語で言えば,このpolytopeは,reflection group W(E_6) のan orbit のconvex hull である.

Coxeter (1928)と Du Val (1933)は,degree 2 and 1 のdel Pezzo surface 上の(-1)curvesと,W(E_7),W(E_8)のreflection polytopes の間に同様の対応があることを見つけた.


Du Val (1934a)は,reflection group と特異曲面の間の関係を最初に研究した人で,Du Val 特異点を導入した.

特異3次曲面の持ちうる特異点は,Schlaefli (1863) とCayley(1869)が分類した.

Du Val (1934b)は,surfaces of del Pezzo series of degree 2 and 1,すなわち,

2重被覆 Z_2 → P^2 ramified in a quartic,および,

2重被覆 Z_1 → Q (quadratic cone) ramified in an intersection with a cubic

上のDu Val 特異点のすべての可能なconfigulationsを見つけた.

かなり後で証明された(Demazure1980, Hidaka-Watanabe1981)ように,これらは,丁度,Gorenstein log del Pezzo surfaces of degree 2 and 1 であった.


Du Val は,次の面白い事実を観察した:

del Pezzo surfaces Z_d of degree d with Du Val singularities 上の特異点の配置は,type E_{9-d} のreflection groupの中のreflectionsで生成される部分群(すなわち,root subsystems)と,1対1に対応する.


特異点の配置が,あるreflection subgroupsに対応するという事実の現代的な解釈は,次の通りsimpleである:

「a Gorenstein del Pezzo surface Z のthe minimal resolution Y 上の(-2)curvesは,

the lattice (K_Y)^⊥(これは,type E_{9-d}のroot lattice)の中にある」


1970年代になり,Gorenstein del Pezzo surfaces と,単純楕円型特異点の変形との関わりが注目されるようになった.(Looijenga, Topology1977,Pinkham, AMS 1977, Bruce and Wall, LMS 1979)


Demazure (LN in Math 777, 1980) と Hidaka-Watanabe (Tokyo J. Math 1981) は,次の事実を確立した:

Gorenstein log del Pezzo surfaces Z_d (≠ P^1 x P^1) のthe minimal resolutions Y_d は,丁度,P^2上の"almost general position"にある(9-d)点のblowupたちであり,

Z_dは,このようなblowupたちからすべての(-2)curvesをcontractすることにより得られる.

(Du Valは,この事実に気づいていたが,現代的定義と道具がなかったので証明できなかった)




参考文献:

Valery Alexeev and Viacheslav V. Nikulin,

Del Pezzo and K3 surfaces,MSJ Memoir (2006).



定義

A complete algebraic surface Z with log terminal singularities is

a del Pezzo surface if its anticanonical divisor -K_Z is ample.


注意

2次元log terminal singularity over C は,

商特異点 C^2/G (ここで,GはGL(2,C)の有限部分群)に解析的に同値である.


定義

index i of z ∈ Z とは,the minimal positive integer for which

i K_Z is a Cartier divisor in a neighbourhood of z.


定義

log terminal singularities を持つdel Pezzo surface をlog del Pezzo surface という.


注意

log del Pezzo surfaces of index ≦2 は,次の古典的casesを含む:

●nonsingular del Pezzo surfaces

●log del Pezzo surfaces of index 1

 (これらは,Gorenstein log del Pezzo surfaces と呼ばれる)




参考文献:

[AlexeevNikulin2006] Del Pezzo and K3 surfaces,MSJ Memoir (2006).


p.19

log del Pezzo surfaces of index ≦2 の分類は,

right DPN surfaces of elliptic type の分類に帰着する.


p.20~22

一般に,right DPN surface Y 上にはnonsingular divisor C ∈ |-2K_Y|が存在する.

これに対し,double cover X → Y branched along C を考えると,

このXはK3曲面で,double cover の被覆変換θはnon-symplectic holomorphic involutionであることがわかる.(すなわち,(X,θ)は2-elementary K3 suface.)

逆に,K3 surface with non-symplectic involution (X,θ)に対して,

θの不動点集合(固定点曲線)をC,Xのθによる商空間をYとすると,

Yはright DPN surface で,C ∈ |-2K_Y| となる.

(従って,right DPN surfaces と K3 surfaces with non-symplectic involution は同一視できる)


特に, θの不動点集合が空の場合は,YはEnriques曲面であり,

right DPN surfacesはEnriques曲面の一般化ともいえる.



K3 surfaces with non-symplectic involution (X,θ)に対する不変量としては,


対合θ付きK3格子の不変量

   (r, a, δ)

(この不変量は,θの不動点集合(固定点曲線)の位相を決める)


だけでなく,


root invariant」 (p.39参照)


を要する.



特に,K3 surfaces with non-symplectic involution (X,θ) of elliptic type

の場合,

root invariant は,exceptional curves の交点数を表すDynkin diagram.

(正確なstatementは,p.58 Theorem 3.5 参照)



メモ:

[AlexeevNikulin2006] Chapt 2, 2.2節 Remainder of Basic facts about K3 surfaces は,K3曲面の基本の解説に当てられており,また,

K3 surfaces with condition M on Picard lattice (lattice M polarized K3 surfaces) のモジュライ空間についても解説されている.




その他基本文献:

V.V. Nikulin,

Factor groups of groups of automorphisms of hyperbolic forms with respect to subgroups

generated by 2-reflections, J. Soviet Math. 22 (1983), 1401--1476.


V.V. Nikulin,

ICM 86のProceedings



例えば,P^2上の1つdouble pointを持つ6次曲線をそのdouble pointでblow upすると,Hirzebruch曲面 F_1上の非特異曲線となり,その非特異曲線で分岐するF_1の2重被覆は,K3 surface with non-symplectic holomorphic involutionである.ここで,非自明被覆変換がnon-symplectic holomorphic involution.

このように,適当な有理曲面上のある「次数」の特異曲線は,特異点におけるその曲面の何回かのblow upで,曲線が非特異となり,かつ,その非特異曲線で分岐する2重被覆がK3 surface with non-symplectic holomorphic involution.

K3 surface with non-symplectic holomorphic involutionの固定点曲線は非特異であるが,

ある種の特異点を持つ曲線の分類と対応することになる.



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さて,これらを real で考えると,何を考えていることになるのか?

もっとも簡単な例は,RP^2上の非特異実6次曲線,

非特異real quadric上の非特異実(4,4)次曲線,

次に,RP^2上の1つdouble pointを持つ実6次曲線 (→Itenbergの研究あり),

RP^2上の6本の実直線配置,

実Hirzebruch曲面上の実曲線,

さらに,実Enriques曲面や実del Pezzo曲面上の実曲線.


一般に,実 right DPN surface上の実曲線の (rigid) isotopy types の分類.



実K3曲面が,hyperkaehler構造を持つとき,それにより複素構造を取替えることにより,

複素共役(反正則対合)反シンプレクティック正則対合とみなせることがある.

このようなときには,反正則対合の不動点集合(実曲面)を調べることは,

反シンプレクティック正則対合の不動点集合(固定曲線)を調べていることになる.




S-K3 surface (lattice polarized K3 surface)関連文献


(この記事 も参照)



ある指定されたlattice S (→"type"とも呼ぶ) を2次元コホモロジー(K3 lattice)のsublatticeとして持つK3曲面の分類:



V.V. Nikulin,

Factor groups of groups of automorphisms of hyperbolic forms with respect to subgroups

generated by 2-reflections, J. Soviet Math. 22 (1983), 1401--1476.


V.V. Nikulin,

ICM 86


I.V. Dolgachev,

Mirror symmetry for lattice polarized K3 surface,

J. Math. Sci. 81 (1996), 2599--2630.


Valery Alexeev and Viacheslav V. Nikulin,

Del Pezzo and K3 surfaces,MSJ Memoir (2006).




上のreal版,つまり,「anti-holomorphic involution 付き」の分類:

V.V. Nikulin,
Involutions of integral quadratic forms and their applications to real algebraic geometry,
Izv.-Akad.-Nauk-SSSR-Ser.-Mat. 47-1 (1983), 109--188,

= Math.USSR Izv. 22 (1984), 99--172.

 この論文では,ある指定された対合付き格子 (S,θ) を2次元コホモロジー(対合付きK3 lattice)のsublatticeとして持つような実K3曲面の分類を行っている.

この論文で,(S,θ) は「条件(condition)」と呼ばれているが,後には,単に「type」と呼ばれている.



下の論文も参照:

Nikulin and Saito LMS (2005).

Nikulin and Saito LMS (2007).


吉川謙一さんの論説:

「K3曲面とDEL PEZZO曲面の双対性はてなマーク

    京都大学数理解析研究所講究録 別冊 B7 (2008), 29--44.



これを読むことは,2-elementary K3曲面を研究する動機付けとしてとても良いと思う.著者に感謝いたします.


(X, τ) を2-elementary K3 surfaceとする.X の全コホモロジー格子(向井格子)をH(X,Z) := (H^0 + H^4) + H^2 (Z係数)  とする.

これは,U+U+U+U+E_8 + E_8 =:M に isometric.

τ^*の定めるM上の対合を I とする.I の±1固有空間をM_±(I) とすると,

M_+(I) は(H^0 + H^4) + H^2_+ に同型 (τはXの向きを保つので),

M_-(I) は H^2_- に同型.


marking H(X,Z)→M (isometry) を1つ定めることにより,

Xのτ不変複素シンプレクティク類は,M_+(I) の重さ2の偏極Hodge構造を定め,

(X, τ)の周期は,M_-(I) の重さ2の偏極Hodge構造を定める.

前者はシンプレクティク幾何学において重要らしく,後者は代数幾何学において重要である.

  (重さ2の偏極Hodge構造とは?)


BorceaとVoisinによる対合付きK3曲面の「ミラー対称性」[7]は,およそ次のとおり:


「対合付きK3曲面(X, τ) と対応するM上の対合 I が与えられると,

対合付きK3曲面(X', τ') と対応するM上の対合 I' が存在(?)して,

      M_+(I) = M_-(I'),    M_-(I) = M_+(I')

となる」


この主張は多くの I に対して正しいが,すべての I に対して正しいわけではない.

M_-(I) = M_+(I') ならば,M_-(I)がUを直交因子に持つはずだが,そうでない I が存在するからである.(→例(★))

したがって,対合付きK3曲面のミラーは必ずしも対合付きK3曲面でないと推測される.それでは,そのような対合付きK3曲面(X, τ)のミラーは何なのかはてなマーク


ここでは,対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionを手掛かりにこの問題を考える.

3次元Calabi-Yau多様体が,対合付きK3曲面と楕円曲線の直積から適当な構成(Borcea-Voisin構成)によって得られているような場合

その対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionは,

その3次元Calabi-Yau多様体のanalytic torsionのある種の簡約として得られる.

BCOV予想を仮定すれば,3次元Calabi-Yau多様体のanalytic torsionは,そのKaehlerモジュライ空間上で種数1のGWポテンシャルに等価ということになるので,

対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionは,

種数1のGWポテンシャルであることを反映した Ω_{M_-(I)} (≒複素多様体(X, τ)の複素構造のモジュライ空間)上の関数を与えるはずである.

実際,equivariant analytic torsionを用いて対合付きK3曲面のある(?)不変量を構成することが可能で,その不変量を Ω_{M_-(I)} 上の関数と見ると,それは,discriminant locusを特徴付ける保型形式のPeterssonノルムとなっている[19].

この保型形式は,多くの場合に,BCOVが予想するように,Borcherds型無限積展開を持つ.

例(★)の場合にその無限積の構造を見ると,以下のことが推測される:


M_-(I)が(★)型のとき,(X,τ)のミラー双対は,del Pezzo曲面に見える.


([17][20]) P^2上一般の位置にある6直線を考え,そのunionで分岐するP^2の2重被覆なる特異K3曲面の極小特異点解消をXとし,非自明被覆変換から誘導されるXの対合をτとすると,(X,τ)はtype

   U + E_8 + (A_1)^6

の2-elementary K3曲面である.この2-elementary K3曲面の周期写像や,モジュライ空間の射影モデルは,松本-佐々木-吉田により詳細に研究された.

   (U + E_8 + (A_1)^6)^⊥ = (A_1^+)^2 + (A_1)^4

なので,(★)型である!

また,6直線に内接するP^2の2次曲線が存在するとき,松本-佐々木-吉田のK3曲面は,Kummer曲面である.


2-elementary K3曲面 (X, τ)に対し,τの不動点集合を X^τ とすると,

(1) M=U(2)+E_8(2) ならば,X^τは空で,商空間 X/τはEnriques曲面,

(2) M=U+E_8(2) ならば,X^τは2つの楕円曲線のdisjoint union,

(3) それ以外の場合は,種数g(M)のコンパクトリーマン面とk(M)個のnonsingular rational curves のdisjoint unionである.


(1)または(2)の場合,Mは例外型であると呼び,

(3)の場合,Mは一般型(Alexeev and Nikulin 2006ではelliptic type)であると呼ぶ.



定理4.3(の一部)

(X,τ)をtype M の2-elementary K3曲面,(V,η)をdel Pezzo曲面と複素化Kaehler類の組とする.このとき,

degV = r(M) - 10,g(M)=0

ならば,M^⊥= H(V,Z)(2) である.isometry M^⊥ →H(V,Z)(2) のもとで,

(X,τ)の周期と(V,η) のKaehler周期が一致するならば,

以下の等式が成り立つ:

・・・・・(K3曲面とdel Pezzo曲面の双対性に関わる等式)・・・・・


ここで,等式の左辺はtypeM の2-elementary K3曲面の複素構造のモジュライ空間上でanalytic torsionを用いて構成された関数であり,一方,右辺はdel Pezzo曲面のKaehlerモジュライ空間上の関数(保型形式)であることに注意.


定義6.1

対合付きK3曲面(X,τ)が非常に一般とは,

H^2_+(X,Z) = Pic(X) (一致) であること.


定義6.2

対合付きK3曲面(X,τ)と,対合付きK3曲面とその上の対合不変複素Kaehler類の3つ組(X',τ',η')に対し,(X',τ',η') が (X,τ) のミラー双対であるとは,

以下の条件を満たすisometryα:H(X,Z)→H(X',Z)が存在すること:

(1) α(H_+(X,Z))=H_-(X',Z), α(H_-(X,Z))=H_+(X',Z)

(2) α(H^0(X,Ω^2_X))=C(-(η')^2/2[1]+η'+[X'])



Fact6.3(Nikulin[14]) (X,τ)のミラー双対が存在する ⇔ g(X^τ) > 0



定義6.5 (対合付きK3曲面(X,τ)に対し,KM(X,τ)上の,ある形式的無限積)


K3曲面に対し,このような無限積を最初に考えたのは,

[9] Gritsenko-Nikulin,

K3 surfaces, Lorentzian Kac-Moody Lie algebras and mirror symmetry,

Math Res Lett 3 (1996), 211-229.


先行研究として,

[2] Bershadsky-Cecotti-大栗 -Vafa,

Kodaira-Spencer theory of gravity and exat results for quantum string amplitudes,

C. M. Phys. 165 (1994), 311-427.

[5] Borchards,

Automorphic forms with singularities on Grassmanians,

Invent Math 132 (1998), 491-562.


その他の参考文献:

[7]Cox and Katz (1999)

[17]吉田正章「私説 超幾何関数」,共立出版 (1997)

[19]Ken-Ichi Yoshikawa, Invent Math 2004, 53--117.

[20]Ken-Ichi Yoshikawa, Discriminant of certain K3 surfaces, (2007).



(以上は,原稿の一部分. 記号を変えたところがあります)



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追記(2010年5月26日 京大大談話会のアブストラクト


吉川 謙一(Ken-Ichi Yoshikawa)
解析的捩率と保型形式
(Analytic torsion and automorphic forms)
要旨:
Bershadsky-Cecotti-大栗-Vafaは,楕円的Gromov-Witten不変量の複素幾何学における対応物として、解析的捩率を用いて構成されるBCOV不変量を導入した。 BCOV不変量が厳密に計算されている例はまだ少数であり、5次超曲面のミラーの他に幾つかのBorcea-Voisin多様体がある。

BorceaとVoisinは対合付きK3曲面と楕円曲線の直積から適当な方法で得られる3次元Calabi-Yau多様体のミラー構成法を与えたが、彼等の構成法が適用できない例外の場合がある。

今回の講演では、例外型Borcea-Voisin多様体のBCOV不変量が

Del Pezzo曲面のKaehlerモジュライ上の具体的な保型形式として表示できることを紹介する。

これらの保型形式は奇ユニモジュラー格子とある楕円モジュラー形式に付随するBorcherds積として表示される。


2-elmentary K3曲面のモジュライ空間

(注意: この記事は,下記論文からの引用です.著者に感謝致します.)


参考文献:

 Ken-Ichi.Yoshikawa:

 「解析的トーションとモジュライ空間上の保型型式」,

  数学 52-2,142--158,(2000年4月)



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X をK3曲面とする.L_{K3}を the K3格子とする.isometry

    φ: H^2(X, Z) → L_{K3}

markingといい, (X, φ)をmarked K3 surfaceという.

marked K3 surfaces のモジュライ空間とその上の普遍族が存在する.([BHPV]参照)

しかし,これは,保型型式を考える舞台としては適切ではない.

自然な離散群 O(L_{K3})がこれに真性不連続 (properly discontinuously) に作用しないことが理由の1つ.


そのため,(格子による)偏極を固定したモジュライ空間を考える.

Hodge指数定理から,偏極はhyperbolic (Lorenzian) lattice で与えられる.


K3曲面Xに対して,S_XをPicard格子,T_Xを超越格子とする.


定義2.1

S をL_{K3}のprimitive hyperbolic sublatticeとする.

K3曲面XがS-K3曲面であるとは,

markingφが存在して, S⊂φ(S_X)が成り立つこと.

このようなmarkingを,「S-K3曲面のmarking」という.

(markingφをひとつ選んだら,marked S-K3曲面 (X, φ) と呼ぶ.)


定義2.2

marked S-K3曲面 (X, φ) に対して,その周期 π(X, φ) と周期領域

              Ω_S

を次のように定める.・・・・原論文参照・・・・・




定義2.3

偶格子Sが2-elementaryであるとは・・・・原論文参照・・・・・



2-elementary格子による偏極の特殊事情として,

コホモロジー上の自然な対合が幾何学的な対合に拡張されることがあげられる.

詳しくいうと,

L_{K3}の部分格子S+T上には,自然な対合I_S(x,y)=(x,-y) (x∈S, y∈T)がある.I_SはL_{K3}上の対合に一意的に拡張され,これは,markingを通して,勝手なmarked S-K3曲面(X,φ)のコホモロジー格子上の対合を定める.

Tのルート(その2乗が-2の元)の全体をΔ_Tとする.

Tのルートdに対する鏡映面をH_dとし,そのすべての和集合をD_Sをおき,Ω_sのdiscriminant locus という.


       (Ω_s)^0 := Ω_s \ D_S


とおく.

K3曲面に対するTorelli定理([P-S-S])から,以下が結論される:

π(X, φ) ∈ (Ω_s)^0 ならば,X上に,

(1) ι^* = φ^{-1} o I_S o φ

(2) ι^*ω_X = ω_X (反シンプレクティック)

を満たす正則対合 ι が一意的に存在する.


定義2.6

反シンプレクティック対合を持つ(代数的)K3曲面を,2-elementary K3 曲面という.(X, ι)がS-2-elementary K3曲面であるとは,marking φが存在して,

ι^* = φ^{-1} o I_S o φ となることである.


定義2.7 (Yoshikawa)

O(T)の指数有限部分群Г_Sが存在して,S-2-elementary K3曲面のモジュライ空間は,(Ω_s)^0 / Г_S と同一視される.以降,

    M_S := Ω_s / Г_S,

    (M_S)^0 := (Ω_s)^0 / Г_S

と書く.


Ω_s の連結成分を(Ω_s)^± とし,(Ω_s)^+ (したがって ,(Ω_s)^- も)を保つГ_Sの部分群を(Г_S)^+ とすれば,

    M_S := (Ω_s)^+ / (Г_S)^+

である.以降,周期領域は,片方の連結成分 (Ω_s)^+ のみ考える.

M_S, (M_S)^0 は,準射影的代数多様体であることが知られている.


discriminannt locus D_S は,S-2-elementary K3曲面の対合が退化する軌跡である.H_d の一般の点には,nodeを1個持つK3曲面とその上の反シンプレクティック対合が対応する.


周期領域 (Ω_s)^+ はIV型Hermite領域である.


p.150

例1 S=A_1 とする.A_1 - 2-elementary K3曲面 (X, ι) は,P^2上の非特異6次曲線で分岐する2重被覆であり, ιは被覆変換として作用する.

(X, ι) に,非特異平面6次曲線 X^ι (固定曲線) を対応させることにより,

M_(A_1))^0 は(H_6 - D_6)/PGL(C^3) と同型.

ここで,H_6 = P(Sym^6 C^3).

(ここで,Sym^6 C^3 は複素3変数6次斉次多項式全体)


例2 S=U(2) とする.U(2)-2-elementary K3曲面 (X, ι) は,P^1 x P^1上の非特異(4,4)次曲線で分岐する2重被服であり, ιは被覆変換として作用する.

(X, ι) に,(4,4)次曲線 X^ι (固定曲線) を対応させることにより,

M_(U_2))^0 の適当なZariski開集合と,(4,4)次曲線のモジュライ空間は同型.



(2012-4-28修正)


2-elementary K3 surfaces


2-elementary K3 surfaces は,

K3 surfaces with non-symplectic involutions

とも呼ばれる.

詳しくは,non-symplectic holomorpihc involutions である.



(non-symplectic を, anti-symplectic と書いてある論文もあり)




参考文献:

V.V. Nikulin,

Factor groups of groups of automorphisms of hyperbolic forms with respect to subgroups

generated by 2-reflections, J. Soviet Math. 22 (1983), 1401--1476.


V.V. Nikulin,

ICM 86



Valery Alexeev and Viacheslav V. Nikulin,

Del Pezzo and K3 surfaces,MSJ Memoir (2006).

以下はこの本の紹介文より引用:

本書は,特異 Del Pezzo 曲面に関する基本文献と言われながら難解とされていたロシア語リサーチ・ペーパーを,初歩からわかりやすく書き直したもの.代数多様体の一般分類理論にける基本的クラスとして,Q-Fano 多様体(標準特異点のみをもち反標準因子が豊富な多様体)がある.その最も簡単な場合である2次元Q-Fano 多様体が,特異 Del Pezzo 曲面である.

本書では特異 Del Pezzo 曲面とその上のある種の有効因子の組に対してK3曲面を対応させ,この対応とK3曲面に対する Torelli の定理とを用いて,指数1または2をもつ Del Pezzo 曲面を完全に分類する.双有理幾何学の俊秀である Alexeev 氏と,K3曲面に対する格子理論の応用では第一人者とされる Nikulin 氏とが著わした本書は,一般次元Q-Fano 多様体理論へのよき入門書であるとともに,曲面上の例外因子の幾何学と双曲格子理論との美しい対応関係によって読者を魅了するであろう.



Yoshikawaさんの論文も参照.


小木曽さん:

Connecting certain rigid birational non-homeomorphic Calabi--Yau threefolds via Hilbert scheme


K3 surfaces with non-symplectic involution and compact irreducible G_2-manifolds