K3曲面とdel Pezzo曲面の双対性? | K3 surfaces with involutions

K3 surfaces with involutions

Local and global Torelli theorems for complex K3 surfaces, periods of K3 surfaces, non-symplectic holomorphic involutions, anti-holomorphic involutions, Hilbert schemes of K3 surfaces, Nikulin's lattice theory, lattice-polarized K3 surfaces. . .

吉川謙一さんの論説:

「K3曲面とDEL PEZZO曲面の双対性はてなマーク

    京都大学数理解析研究所講究録 別冊 B7 (2008), 29--44.



これを読むことは,2-elementary K3曲面を研究する動機付けとしてとても良いと思う.著者に感謝いたします.


(X, τ) を2-elementary K3 surfaceとする.X の全コホモロジー格子(向井格子)をH(X,Z) := (H^0 + H^4) + H^2 (Z係数)  とする.

これは,U+U+U+U+E_8 + E_8 =:M に isometric.

τ^*の定めるM上の対合を I とする.I の±1固有空間をM_±(I) とすると,

M_+(I) は(H^0 + H^4) + H^2_+ に同型 (τはXの向きを保つので),

M_-(I) は H^2_- に同型.


marking H(X,Z)→M (isometry) を1つ定めることにより,

Xのτ不変複素シンプレクティク類は,M_+(I) の重さ2の偏極Hodge構造を定め,

(X, τ)の周期は,M_-(I) の重さ2の偏極Hodge構造を定める.

前者はシンプレクティク幾何学において重要らしく,後者は代数幾何学において重要である.

  (重さ2の偏極Hodge構造とは?)


BorceaとVoisinによる対合付きK3曲面の「ミラー対称性」[7]は,およそ次のとおり:


「対合付きK3曲面(X, τ) と対応するM上の対合 I が与えられると,

対合付きK3曲面(X', τ') と対応するM上の対合 I' が存在(?)して,

      M_+(I) = M_-(I'),    M_-(I) = M_+(I')

となる」


この主張は多くの I に対して正しいが,すべての I に対して正しいわけではない.

M_-(I) = M_+(I') ならば,M_-(I)がUを直交因子に持つはずだが,そうでない I が存在するからである.(→例(★))

したがって,対合付きK3曲面のミラーは必ずしも対合付きK3曲面でないと推測される.それでは,そのような対合付きK3曲面(X, τ)のミラーは何なのかはてなマーク


ここでは,対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionを手掛かりにこの問題を考える.

3次元Calabi-Yau多様体が,対合付きK3曲面と楕円曲線の直積から適当な構成(Borcea-Voisin構成)によって得られているような場合

その対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionは,

その3次元Calabi-Yau多様体のanalytic torsionのある種の簡約として得られる.

BCOV予想を仮定すれば,3次元Calabi-Yau多様体のanalytic torsionは,そのKaehlerモジュライ空間上で種数1のGWポテンシャルに等価ということになるので,

対合付きK3曲面のequivariant analytic torsionは,

種数1のGWポテンシャルであることを反映した Ω_{M_-(I)} (≒複素多様体(X, τ)の複素構造のモジュライ空間)上の関数を与えるはずである.

実際,equivariant analytic torsionを用いて対合付きK3曲面のある(?)不変量を構成することが可能で,その不変量を Ω_{M_-(I)} 上の関数と見ると,それは,discriminant locusを特徴付ける保型形式のPeterssonノルムとなっている[19].

この保型形式は,多くの場合に,BCOVが予想するように,Borcherds型無限積展開を持つ.

例(★)の場合にその無限積の構造を見ると,以下のことが推測される:


M_-(I)が(★)型のとき,(X,τ)のミラー双対は,del Pezzo曲面に見える.


([17][20]) P^2上一般の位置にある6直線を考え,そのunionで分岐するP^2の2重被覆なる特異K3曲面の極小特異点解消をXとし,非自明被覆変換から誘導されるXの対合をτとすると,(X,τ)はtype

   U + E_8 + (A_1)^6

の2-elementary K3曲面である.この2-elementary K3曲面の周期写像や,モジュライ空間の射影モデルは,松本-佐々木-吉田により詳細に研究された.

   (U + E_8 + (A_1)^6)^⊥ = (A_1^+)^2 + (A_1)^4

なので,(★)型である!

また,6直線に内接するP^2の2次曲線が存在するとき,松本-佐々木-吉田のK3曲面は,Kummer曲面である.


2-elementary K3曲面 (X, τ)に対し,τの不動点集合を X^τ とすると,

(1) M=U(2)+E_8(2) ならば,X^τは空で,商空間 X/τはEnriques曲面,

(2) M=U+E_8(2) ならば,X^τは2つの楕円曲線のdisjoint union,

(3) それ以外の場合は,種数g(M)のコンパクトリーマン面とk(M)個のnonsingular rational curves のdisjoint unionである.


(1)または(2)の場合,Mは例外型であると呼び,

(3)の場合,Mは一般型(Alexeev and Nikulin 2006ではelliptic type)であると呼ぶ.



定理4.3(の一部)

(X,τ)をtype M の2-elementary K3曲面,(V,η)をdel Pezzo曲面と複素化Kaehler類の組とする.このとき,

degV = r(M) - 10,g(M)=0

ならば,M^⊥= H(V,Z)(2) である.isometry M^⊥ →H(V,Z)(2) のもとで,

(X,τ)の周期と(V,η) のKaehler周期が一致するならば,

以下の等式が成り立つ:

・・・・・(K3曲面とdel Pezzo曲面の双対性に関わる等式)・・・・・


ここで,等式の左辺はtypeM の2-elementary K3曲面の複素構造のモジュライ空間上でanalytic torsionを用いて構成された関数であり,一方,右辺はdel Pezzo曲面のKaehlerモジュライ空間上の関数(保型形式)であることに注意.


定義6.1

対合付きK3曲面(X,τ)が非常に一般とは,

H^2_+(X,Z) = Pic(X) (一致) であること.


定義6.2

対合付きK3曲面(X,τ)と,対合付きK3曲面とその上の対合不変複素Kaehler類の3つ組(X',τ',η')に対し,(X',τ',η') が (X,τ) のミラー双対であるとは,

以下の条件を満たすisometryα:H(X,Z)→H(X',Z)が存在すること:

(1) α(H_+(X,Z))=H_-(X',Z), α(H_-(X,Z))=H_+(X',Z)

(2) α(H^0(X,Ω^2_X))=C(-(η')^2/2[1]+η'+[X'])



Fact6.3(Nikulin[14]) (X,τ)のミラー双対が存在する ⇔ g(X^τ) > 0



定義6.5 (対合付きK3曲面(X,τ)に対し,KM(X,τ)上の,ある形式的無限積)


K3曲面に対し,このような無限積を最初に考えたのは,

[9] Gritsenko-Nikulin,

K3 surfaces, Lorentzian Kac-Moody Lie algebras and mirror symmetry,

Math Res Lett 3 (1996), 211-229.


先行研究として,

[2] Bershadsky-Cecotti-大栗 -Vafa,

Kodaira-Spencer theory of gravity and exat results for quantum string amplitudes,

C. M. Phys. 165 (1994), 311-427.

[5] Borchards,

Automorphic forms with singularities on Grassmanians,

Invent Math 132 (1998), 491-562.


その他の参考文献:

[7]Cox and Katz (1999)

[17]吉田正章「私説 超幾何関数」,共立出版 (1997)

[19]Ken-Ichi Yoshikawa, Invent Math 2004, 53--117.

[20]Ken-Ichi Yoshikawa, Discriminant of certain K3 surfaces, (2007).



(以上は,原稿の一部分. 記号を変えたところがあります)



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追記(2010年5月26日 京大大談話会のアブストラクト


吉川 謙一(Ken-Ichi Yoshikawa)
解析的捩率と保型形式
(Analytic torsion and automorphic forms)
要旨:
Bershadsky-Cecotti-大栗-Vafaは,楕円的Gromov-Witten不変量の複素幾何学における対応物として、解析的捩率を用いて構成されるBCOV不変量を導入した。 BCOV不変量が厳密に計算されている例はまだ少数であり、5次超曲面のミラーの他に幾つかのBorcea-Voisin多様体がある。

BorceaとVoisinは対合付きK3曲面と楕円曲線の直積から適当な方法で得られる3次元Calabi-Yau多様体のミラー構成法を与えたが、彼等の構成法が適用できない例外の場合がある。

今回の講演では、例外型Borcea-Voisin多様体のBCOV不変量が

Del Pezzo曲面のKaehlerモジュライ上の具体的な保型形式として表示できることを紹介する。

これらの保型形式は奇ユニモジュラー格子とある楕円モジュラー形式に付随するBorcherds積として表示される。