前回、前々回の記事では、演技のキホンに立ち戻って大切な内容をお伝えしました👇

 

 

 

 

さて。

今回はそこから、実施すべきキホンのトレーニング・メニューについてもお話ししてみようと思います。

これは、僕の3ヶ月ワークショップのベーシック・クラスでもお伝えしている内容です。

 

 

 キホンは「人間の行動原理」

 

人間は、「五感」を持っています。

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。

この5つの感覚で情報をキャッチし、その情報から「反応」を起こします。

 

その情報が、自分にとって「満たされたこと」であれば、幸福感というポジティブな心と身体の反応が。

「満たされていない」という情報、自分にとってなんらかの「問題」を発生させる情報であれば、欠乏感や嫌悪感、焦りといったネガティブな心と身体のの反応が湧き起こる。

 

 

特に、「問題」が発生して満たされない状態にあるネガティブな感覚の場合。

自分にとって「不快感」として知覚されるので、それを「快適」な方向に向けようとして、問題を解決して「満たされた状態」に持っていこうと努力します。

 

これが、人間の「行動」です。

 

 

わかりやすい例として……

 

赤ちゃんが、お腹が空いたから泣いてお母さんに知らせようとする時。

ここには「空腹」という欠乏感、不快感が発生していて。

赤ちゃんは、それを解決するために「泣いてお母さんに知らせる」という行動を起こします。


ちなみに、「泣いてお母さんに知らせる」という行動の「目的」は、「ミルクを飲ませてもらって、空腹という問題を解決する」ことですね。

 

 

このように。

問題を抱えると、それを解決するという目的(欲求、願望)を持ち、それに向かって行動をする。

これが、人間の行動原理の大原則です。

 

演技とは、こうした人間の行動原理に則って行われます。

この行動原理が守られていて、はじめて、演技は共感できるリアルなものになるのです。

 

 

 

 

 演技の失敗は、行動原理の破綻が原因?

 

さて。

演技が上手くいっていないケースにおいて、頻繁に見られるのが、この行動原理の破綻です。

 

役が、今、どんな問題を抱えているのか?

それによって、どんな目的を抱いているのか?

これが明確でないまま、演技をしてしまっている状態です。

 

つまり。

行動を起こすためには、まず「問題」を手に入れなくてはいけないわけなんですけれど。

その問題、すなわち「行動を起こす理由、動機」がきちんと手に入っていないまま、行動だけをしようとしてしまっているんですね。

 

 

実人生においては、基本的にはこうした行動原理が破綻することはありません。

それが人間の「しくみ」であり、「法則」ですから。

 

ところが、演技になるとそれが崩壊してしまうことがよくあるのです。

 

こうした失敗は、なぜ起こってしまうのでしょう??

 

 

 

 

 なぜ失敗するのか?

 

まず、その理由の1つとして挙げられるのは、台本の読解不足です。

 

台本は、作品を作るための設計図であり、指示書です。

その指示書には、ト書きやセリフという形で、役が置かれた状況と役の行動が書かれています。

 

本来なら、その指示書から、役が行動を起こすに至る理由や動機、問題となる事件をしっかり読み解かなくてはいけません。

しかし、それを明確にせぬまま、「台本にそう書いてあるから」という理由だけでそれをやってしまっているんですね。

 

この場合。

俳優側の問題点は、「台本の読解不足」ということになります。

 

 

 

 

そして。

「行動原理の破綻」によって、演技が上手くいかなくなる、もう1つの原因があります。

 

台本から、役が抱える問題、行動の理由・動機をきちんと読解できていても。

それが、俳優自身の「実感」として感じられていないケースです。

 

 

いくら、アタマで行動原理を理解していても。

俳優は、それを「五感」でキャッチし、自分自身の感覚=実感として感じられていなければ、その先の「反応」は呼び起こされることはありません。

 

本来なら、「五感でキャッチした感覚に対して反応が起き、感情が湧いて、行動を起こす」という、人間としての自然な流れが出来上がるのに。

五感による「実感」を手に入れられていないために自然な「反応」が起きず、その結果、行動にも結びつかない。

 

 

……でも、台本には「このセリフを言い、この行動をする」と指示が書かれているから、俳優はそれを演じざるを得ない。

 

そうすると、結局、ウソの演技をすることになる。

人間として、非常に不自然な状態がそこに現れてしまうわけです。

 

 

そんな演技をしている時、俳優は、とっても空虚な感覚を味わうことになります。

自然な反応が起こっていませんから、感情も湧き上がらない。

行動も、セリフも、自発的に実行することができない。

 

でも、その役を演じ切らなければいけませんから、中身が空っぽのまま、必死で演技を続けようとします。

中身は空っぽ、何も反応が起きていないけれど、要求されている感情を無理に作り出そうとして、その空っぽな心をなんとか埋め合わせしようとする。

そうやって、一生懸命に感情の「捏造」をしようとしてしまうわけです。

 

こうなったら、俳優にとってはもはや地獄です……。

だって、俳優の仕事は「虚構(ウソ)を真実にすること」なのに、それがまったくできておらず、自らウソを演じてしまっているのですから。

 

 

……コレ。

演技経験を積んだ方なら、誰だって、この地獄を味わったことは一度ならずあるはず。

実に苦しいですよね……。

 

「虚構を真実にする」というのは、決して、そんな簡単なワザではありません。

もはや魔術師のような高い技術力が、そこには不可欠なんです。

 

そして、それができる俳優を「プロ」「一流」と言うのだと思います。

誰でもできるような簡単なことなら、プロも一流も必要なくなっちゃいますよね。

 

その技は、トレーニングなくして手に入れることは非常に困難なものなのです。

 

 

 

 

 必要な基礎トレーニング・メニュー

 

まず。

トレーニングの第一段階として、俳優自身が「五感」を使う訓練があります。

普段、実人生では無意識で使っている「五感」を、意識的に、なおかつ想像(虚構)の中でも使えるようにするトレーニングです。

 

 

この代表的なものとして、「コーヒーカップ(マイカップ)」が挙げられます。

 

熱いコーヒーが注がれた「架空のコーヒーカップ」を手に取り、そのコーヒーを飲んでみる。

実際には、そこには何もありませんが。

俳優はパントマイムのように、想像のカップを扱うのです。

 

その架空のカップを手に取って、重さや質感、温度などを想像で感じてみましょう。

それを口に近づけた時、コーヒーの熱は感じますか?

立ち昇る湯気が唇に当たる湿度や、コーヒーの香りは?

コーヒーを口に入れたとき、想像でそれを味わうことはできますか?

 

こうしたことを、実際に身体を動かしながら、実際に感じてみるのです。

 

 

スタニスラフスキー・システムでは、これを「五感の記憶」の訓練といいます。

これにより、「五感を使って、虚構を真実にする」という俳優の基礎を手に入れます。

 

なお。

この「五感の記憶」のトレーニングは、ちょうど現在、4月からスタートした3ヶ月ワークショップのベーシック・クラスで実施中ですね。

全12回のうち、今週で2回目。

この訓練メニューを行なっています。

 

 

▲これを、無対象(想像)でやってみます。

バリエーションとして、「カップだけは本物を使い、中身はカラッポ」で、熱いコーヒーだけを想像で感じてみる、などもあります。

また、コーヒー以外にも、想像でシャワーを浴びてみたり、針に糸を通してみたりするなど、いろいろ試してみましょう。

 

 

 トレーニング、次なる段階へ

 

さてさて。

ここからトレーニングは、次なる段階へ進みます。

 

今度は、五感でキャッチした情報から「反応」をする訓練です。

もう少し詳しく言うと、「心と身体に『反応』を現れやすくする」ためのトレーニング。

 

 

実は、こうした「反応」は、大人になればなるほど「表出しづらく」なっています。

それは、子供と比較するとよくわかります。

 

子供は、感じたことがそのまんま反応として表出しているでしょう?

むしろ、反応がオモテに出づらい子供は、ちょっと心配になりますよね。

 

しかし、大人の社会では、子供のようになんでもかんでも反応として現れてしまっていたら、困るわけです。

 

イヤな上司と会った時に、「イヤだなぁ」という反応が顔に現れていたら?

片想いの人が近くにいる時に、その嬉しさが表情や態度に出ていたら?

 

僕らは大人になるにつれ、そうした反応はなるべく「オモテに出さない」ように押さえつけてしまうものです。

なぜなら、大人の世界においては、その方が円滑で安全に社会生活を送れるからです。

 

しかし、そんな風に日々を過ごしていると。

やがて「反応をオモテに出さない」ことが当たり前になってしまうんです。

心の反応も、身体の反応も、常に自分の中に押し込めている。

そうしているうちに、本当に心が何かを感じづらくなったり、身体が反応しづらくなったりしてしまいます。

 

 

そうしたオトナになってしまった自分を、子供の時のような「反応の良い自分」に戻してあげること。

つまり、反応を押し込めてしまっている窮屈な自分ではなく、本来の自由な自分にしてあげる。

これが、次なるトレーニング・メニューになります。

 

五感で感じ取ったことが、そのまんま反応として心で感じられて、身体行動として表出する。

その自然な状態ができあがって、初めて、台本での演技に取り組めるようになります。

 

 

ちなみに。

僕の3ヶ月ワークショップでは、こうした「反応する自分」を、サンフォード・マイズナーによるレペテーションという手法をもとに訓練します。

(なお、一般的なレペテーションの方法は使用せず、それをアレンジした独自の方法で実施しています。これは、非常に安全で、俳優の精神に負担がかからない方法です。)

 

 

 

 

 まとめ

 

いかがでしょうか。

こうして演技のしくみを整理してみると、やるべきトレーニング・メニューやその順序もクリアになってくると思います。

 

今回の記事で触れたのは、僕が演技の "基礎" としてクラスで実施している、主軸のメニュー。

「五感の記憶」「レペテーション」、そして「台本読解」です。

 

もちろん、学ぶべきこと、僕がクラスでお伝えしていることはこれ以外にもいろいろありますし、講師によってその手順も手法もさまざまです。

 

ぜひ、この記事を参考にしていただきながら、ご自身の好きなもの、良いと思う方法を学んでみてくださいね!!

 

 

 

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