「今宵、フィッツジェラルド劇場で」の喜び | 時は止まる君は美しい

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巡りあった美しい人達の記憶を重ねます・・・
B面ブログ「扉・鎧戸・宵の口」も始めました。

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素敵な置き土産

30年以上続いてる公開生放送のラジオ番組が、始ろうとしているのね。
劇場が買い取られて、壊されることになっちゃって、最終回の上演の夜のお話。
 



保安係をやってる男が、向かいのダイナーからやってくるよ。
これが保安係ったって、まるで支配人みたいなんだ。
口ひげ蓄えて、ぱしっとしてる。(このスーツ、重くて暑かったらしい)



Kevin Kline(ケヴィン・クライン)さんがやってますよ。
アシスタントの妊娠してる女の人とミニバーで乾杯する場面があるんだけど、
内側の酒瓶取ろうとして、カウンターをくるんっと前転で飛んじゃったりします。
壁側にはビールの瓶みたなのが積んであったり、ちっちゃいカウンターなのね。
「スターかくし芸大会」って感じ。




劇場に入った彼に話しかけてくるのが、出演者じゃない。
綺麗な、ブロンドの、トレンチコートを着た女、
この女は、Virginia Madsen(ヴァージニア・マドセン)さんが演ってる。
「サブウウェイ」(2004年)に出てた人。
ふわあっ、と歩くだけで、この人、何か違うって感じさせるの。
真っ白なトレンチコートのせいもあるんだけどね。


この世の人じゃないなって、保安係さんは彼女が見えて、お話しするけど、
殆どの人には見えないの。彼女が来た理由はあって、でもそれだけじゃない。
彼女は全体を見守る目、優しい優しい、でいて、どこか人間臭さもある天使。
交通事故で亡くなった女が、天使になってるんだ。
羽じゃなくて、トレンチコートの天使。



姉妹コンビの歌手にMeryl Streep(メリル・ストリープさん)と、
Lily Tomlin(リリー・トムリン)さん、メリルさんの娘さんに、
Lindsay Lohan(リンジー・ローハン)ちゃん。





この調子で「この人が出てるなら、間違いないだろう」って俳優さんばかりだ。
番組の司会者で、劇場の狂言回しがケビンさんなら、
舞台の狂言回しはこの人って、ギャリソン・キーラーさんがわかんないな?
と思ったら、この番組、1974年からアメリカで今でも放送されてる番組で、
そのまんま、本人さんなんだね。映画の原案・脚本もこの人だった。



で、原題が「A Prairie Home Companion(プレーリー・ホーム・コンパニオン)」、
アメリカの人なら、タイトル見て、あ、あの番組って番組名そのままなわけだ。
それを、邦題で劇場名の「今宵、フィッツジェラルド劇場で」とした。上手い!


最後を迎える番組、劇場、そして静かに最期を迎える人・・・
ステージ自体もとってもノスタルジック。
フィッツジェラルド劇場っていう場所であると同時に、時間に入り込む感じ。




アルトマン監督だからね。登場人物達が大勢、わいわいがやがやだよ。
Woody Harrelson(ウディ・ハレルソン)さんと、
John C Reilly(ジョン・C・ライリー)さん二人組という、
あらまあ、贅沢なカウボーイシンガー・ペアも。
あたし、ライリーさん、「シカゴ」(2002年)で「あ~、出た~」以来、
映画の「良品印」にたいなお方なの。この映画でも、やってくれてますよ。
美味しいところ、すちゃっと、決めてるね。嬉しくなる。


で、一人一人に人生があることを感じさせるんだけど、
大人や老人や天使さん以外に、若い娘さんリンジー・ローハンちゃんが、
全ての人たちに、そんな年頃もあったんだねって想わせてくれる。


亡くなった人への悼み方が、人生、歳を重ねた人たちとはまた違うのね。
真っ直ぐに表現する。哀しさ、悼む気持ちの深さや重さが違う訳じゃない。
質が違うだけ。





大人はそうはいかないし、逆に若い子にはない感慨もある。
番組の最後に、余った時間で彼女が歌を歌って番組終了なのも素敵。


劇場を買収した企業の重役さんで、取り壊し宣言に、
Tommy Lee Jones(トミー・リー・ジョーンズ)さん登場。
この人が「あ・・・あ~あ・・・」と去っていって、劇場が取り壊され、
「五線譜のラブレター」想い出すよ、ケビン・クラインさんが、
運び出される前のピアノで弾き語りするの。
ピアノの上に、フィッツジェラルドさんの胸像。
それ、抱いて去っていく。それで終わりかなっていうと、後日譚が続く。


始めに戻ってトレーラー、ツアーしようよ、とか、メリルさん達ががやがやとね。
ローハンちゃん、暗い詞を書いてたヤングちゃんから、
スーツのやる気満々社会人に成長して、現れる、片手に携帯電話。
え?携帯電話がある時代の話だったんだ!
この後「あ・・・」って・・・それは観てのお楽しみ。



「M★A★S★H マッシュ」(1970)、「ロング・グッドバイ」(1973年)、
「ザ・プレイヤー」(1992年)、「Dr.Tと女たち」(2000年)、
「ゴスフォード・パーク」(2001年)贅沢にマニアックな映画を撮って来た、
Robert Altman(ロバート・アルトマン)監督の、
粋な粋な置き土産、亡くなる年に発表されたご遺作です。
生きたこと、存在した全てへの賛歌のような映画。


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