2025年1月16日 午後

 

ソウル・ノンヒョンドン 観察ログ

対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳

経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年

 


 

「4〜5時間」

 

‡指紋採取後 7日目

 

鉛筆削りが空回りするまで回す。

尖っている。指先に触れると、滑らかではない。

尖った先端は、ざらついている。

 

ざらついた鉛筆で書く。

「別れよう」と書いたつもりでも、

紙に残ったのは

「子どものアレルギー検査。」

「二次病院で時間がかかる。終わったらご飯を食べさせて帰るね。」

 

メッセージは送らない。

夫から返事をもらうのが嫌だ。

 

自分の車で子どもを連れて病院へ向かう。

夫が家にいるため、指紋の照合は

先送りになっている。

精密作業だ。

神経がさらに研ぎ澄まされる。

 

問題も積み重なっている。

ここで押し出されるものは、計算の領域を超えている。

 

この子が安定した場所で育つ、

その先の姿を失うことになる。

私の人生にとって、計り知れない損失だ。

数字で解決できる問題ではない。

 

だが、耐えるほどに鋭くなる。

ざらついていく。

 

それでも、積み上げなければならない。

計算しても解消されない。

子どもがいるから大胆にはなれなくても、

積み上げてこそ、自分の取り分が増える。

 

積み上げて、上に置くと、

不安は少し減る。理由を積むということ。

 

「お母さん、10分ほどかかります。」

「お待ちいただいてから、会計してください。」

 

相変わらず寒い。

公立病院の待合室の椅子は、安らぎを与えない。

背もたれもなく、低い。

落ち着かない。

 

ポケットに手を入れ、

コートを寄せ、背を預けて

ようやく温もりを閉じ込める。

低い温度に身を任せ、少し目を閉じる。

鉛筆の先が人差し指に触れる感触が、ざらついている。

 

夫が足を引きずりながらリビングに出てくる。

メモを見る。

電話を手に取り、また置く。

 

人差し指に触れていた鉛筆の感触が消える。

手に残ったのは、書かれなかった一文だけだ。

 

私がいない、4〜5時間。

誰かが来て、去るには十分な時間だ。

 


 

【観察メモ】

書かれなかった文は、

すでに次の段階を準備している。

 


 

Ennd
by N≠N

 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 13|「4〜5時間」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)


2025年1月9日 朝


ソウル・論峴洞 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。

 


 

「不一致 ≠ 一致」

 
 

にんじんを切る。
水で洗う。
塩を振り、卵を割る。
いま、順序が入れ替わった。

 

助手席ダッシュボードから採取した指紋の束。
助手席ドアのガラス面、シート。
そして、夫に向かって手をついた
コンソールボックス上の指紋。
この順序が正しい。

 

ところが、扉が閉まった。
夫が動いた。

 

昼間は、やはり対照が難しい。
夜だ。
「ねえ」
はっとした。
後ろに立っている。

 

「ど、どうしたの?」
「水を飲みに来ただけだよ」
「疲れてるみたい」
「……」
夫は部屋に入る。
怪我人にしては、歩き方が自然だ。
そして、あまりに静かに歩いた。
私のほうへ。

 

閉じつつあるという確証だ。
これは、数学だ。

 

足の指に、力が入りすぎる。
太ももが、また締まる。
シンクに、重心が正確に密着する。

 

感覚と身体は、
一致している。

 


 
[観察メモ]

順序の変更=葛藤。
再整列=解消。
整理すると、
身体が反応する。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 12|「不一致 ≠ 一致」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)


 

2025年1月9日 未明

 

ソウル、ノンヒョンドン観察ログ。

対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。

経歴:中堅企業マーケティング部・代理まで勤務。退職後3年。

 


 

閉じる

 

今、外は氷点下10度。風が吹いている。

なのに、暑い。

いや、寒い。

クラッチバッグに、冷えが残っている。

番号を押して、扉を開けるのが怖い。

確率は、ほとんど閉じている。

 

幸い、夫は眠っている。

午前4時20分。

入った途端、脚に力が抜ける。

どこでもいい、横になりたい。

幸い、明日の子どもの塾はすべてキャンセルした。

 

どこでも倒れたい。

まぶたが、自然と閉じる。

扉が、すべて

閉まっている。

 

「ピ──ピ──」

午前5時30分。

携帯のアラームで目が覚める。

閉まっていた。

なぜ。

 

昨夜、確かに20cm開けておいた寝室の扉が閉まっていた。

ソファから飛び起き、走って確認する。

確かに、閉まっている。

 

夫は普段、扉を閉めて寝ない。

それなのに、私が外に出ていた二時間半の間に、扉が閉まった。

支えがなければ動くのも辛い状態で、

わざわざ、扉を閉めた?

 

私が出たことを知っているのだろうか。

それとも、無理をして起き、水でも飲んで戻ったのだろうか。

 

なぜ、閉めた。

クラッチバッグを隠さなければ。

早く。

 

洗わなければ。すべてを、元どおりに整えなければ。

 

シャワーを浴びながら考える。

塾の向かい、午後。とても見覚えのある車が停まっていた。

その車から、キャメル色のコートを着た若い女が降り、

コーヒーを二杯買って、また乗り込んだ。

その時間に、そこにあってはいけない車だ。

 

夫は何の連絡もなく、ギプスをして現れた。

ギプスには、小さな数字が、印のように書かれている。

病院が書いたはずがない。

夫の車のドライブレコーダーのメモリーカードが消えた。

20cm開けておいた扉が、閉まっている。

 

家の中には

風が

吹かない。

誰かが閉めた。

 

氷点下10度。風の強い冬だ。

 

私には指紋がある。

確定するには、家の中はまだ安全地帯とは言えないかもしれない。

 


 

[観察ノート]

 

記録するということは、官能に近い。

記録された瞬間、感覚は固定される。

その場面が、官能だ。

官能になる瞬間たち。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 11「閉じる」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

 

2025年1月9日 未明


ソウル・ノンヒョンドン 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業マーケティングチーム代理職まで勤務。退職3年。

 

「消えたカード、残ったカード」

 

 

ブラックボックスは、消した可能性がある。
そもそも、取り外したのかもしれない。
残っているものを確認すればいい。
カードが、もう一枚ある。

 

午前2時。
アラームをセットし、1時間だけ眠った。
集中のあとのテキストのおかげだ。
自覚していなかった緊張と、リラックス。
もう十分だ。

 

20cmの隙間を確かめる。眠っている。灯りはついたままだ。
平然としている。
けれど、つま先を上げた瞬間、呼吸が荒くなる。
一瞬、息を止める……
そして、夫のジャケットから鍵を抜き取る。
もう一度、少し止まる。
わざと、夫の額に手を置く。
起きるだろうか。
起きていないなら、安心してほしいという気持ちで。

 

ソファで、たった10分だけ待とう。
もし起きていたら、出ていく音が聞こえるかもしれない。
長い時間だ。
押し出されないためには、確認し、準備しておく必要がある。

 

エンジンをかけ、バッグを開く。
テープで、指紋が残っていそうな二か所を採取する。
ギアも採取する。
けれど、
ここは適切な場所ではない。

 

出発する。
塾の前のコーヒーショップが見える場所へ向かう。

 

私が見ていた、あのアングルが出る位置に
正確に車を停める。
息が詰まる。ハンドルより、心臓のほうが震えている。
わざと触れていた興奮も、
睡眠も、十分ではなかった。
震えが収まらない。

 

あってほしい。
いや、ないでほしい。

 

ブラックボックスに、手が伸びない。

 

少し、コーヒーショップの方を見る。灯りは消えている。
でも、この角度なら
正確に思い出せる。あの日の昼、見ていた場面。
現時点で、99.9999%の確率だ。
あの日、あそこに停まっていた車は
この車だ。

 

抑えきれないほど震え、全身に力が入る。
手が先に入る。目を閉じる。深く入れる。
動きを大きく取る。意図的に。
5分でいい……
……
少し、落ち着いた。

 

ブラックボックスに、メモリーカードはない。


当然だ。
この時点で、確定だ。

ベルトを外し、持参した自分の指紋を見る。
五本の指の形を、すべて目に刻む。
全部、違う。

 

本格的に、可能な限りすべての場所の指紋を採取する。
知らず知らず、彼女の動きが予測される。めまいがする。
助手席から、夫へ向かう動きも浮かぶ。
それでも、最後まで続ける。終えた。
早く、戻りたい。

 

こんなにも、また濡れることがあるのか。
太ももと足先がつるほどだ。
シートに染みるほど、下着が濡れている。
こんなはずがあるのか。

 

でも、
この角度は、あの日
この車がいちばんよく見えていた
その場所だ。

 

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。
 

 

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

 

 

 

 

2025年1月8日 夜


ソウル・論峴洞 観察ログ。
対象:専業主婦 43歳、結婚7年目。男児5歳。
経歴:中堅企業 マーケティングチーム代理まで勤務。退職3年。
 



「最後のカード」

 

知りたくない。
知ってしまうことは、別の問題だ。
雰囲気で知ってしまったら、耐えられない。

 

動けずにいる。
あの夜とは違う。
突然、車のドアを叩くような状況は、
起きない。

 

心臓が張り裂けそうで、
あの夜、結局確認しなかったものが一つある。
今夜、開く。夫の車のドライブレコーダーのメモリーカード。

 

夫は動けない。今は。
少し物音がしても、部屋から出てこられない。

 

ダイニングテーブルに座り、素早い手つきで準備する。
3インチのスコッチテープ、鉛筆削り用の小さなナイフ、ノートパソコン。
クラッチバッグに入れる。

 

ジッパーバッグを二枚、折らずにノートの間に挟む。
紙と大きな朱肉をテーブルに置く。
一度立ち上がり、夫の動きを見る。
わざと、ドアを20センチほど開けておく。
今、夜の10時30分。

 

わざと音を立て、通り過ぎるように、
開いた隙間から動きを確認する。
スマートフォンを見ている。
昼から休んでいた。
簡単には眠らない。
今夜は、長い夜だ。
脈は強くない。
緊張を、少し下げればいい。
テキストが必要だ。

 

夫は、リビングには出てこられない。
そう。冷蔵庫の扉、テーブルの角、そして官能的なテキスト。
今は、映像ではない。
密度のある叙述が、もっと必要だ。

 

最後に、もう一度、大きな足音でドアの前を通る。
20センチの開き。夫にとっては、助けの通路。
私にとっては、動きを把握するための、最小限の開放。
相変わらず、スマートフォン。

 

テーブルに座る。A4用紙を広げる。
親指から、左から右へ転がすように、朱肉を十分につける。
人差し指、中指、薬指まで。
白い余白に、正確に、ゆっくりと押す。1分、待つ。

 

夫の動きは、感じられない。

スコッチテープを切り、滑らかに貼る。
指紋が滲まないよう、正確に。
指先に力が入る。
無意識に、親指の足先が、テーブルの脚を両側から強く押している。張りつめている。
太ももが、大きく開いている。……。

 

感覚とテンションは、限界に触れている。
下着が、ヒップに貼りついている。

 

11時30分。バッグを閉じておく。

 


 

Ennd
by N≠N

 


 

 連する察ログ
この記録は、連続した観察ログの一部です。

 

・観察ログ 1|何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 2「重なり」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 3「目撃」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ
・観察ログ 4「計算」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 5「確認 #1」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

観察ログ 6「確認 #2」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 7「感覚」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 8「有能感」も起きていない、ただ観察が始まっただけ

・観察ログ 9「最後のカード」何も起きていない、ただ観察が始まっただけ(この記事)

・観察ログ 10「消えたカード、残ったカード。」も起きていない、ただ観察が始まっただけ