さて、先月見通したとおりか分かりませんが、ひとまずアライグマの捕獲は落ち着いてまいりました。これもしっかりと自治体の捕獲データを踏まえているから予測できることだと思うように、捕獲する事以上に捕獲したことを踏まえることが重要です。そのためにも11月に専門家の方々に集まってもらいセミナーを開いたわけですけれども、今一度11月の内容を振り返っていくとしましょう。
おおまかな内容は当時述べたとおりですが(https://ameblo.jp/ids-gaichu-h/entry-12547790941.html?frm=theme)、満員の会議室でまずはおなじみの加藤先生に講演をして頂きました。
加藤先生の発表の重要点はとにかく アライグマがなぜ法律で特定外来種扱いされ、駆除されなければならないほど危険かについてです。単純に「外来種」とされる生物は動植物入れても日本国内で2000種を越えています。
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
(環境省 「特定外来生物等一覧」)
環境省のページにあるように、現在日本で「特定外来生物」は哺乳類から植物まで含めて148種とされています。かといってこのすべてがアライグマのように行政総出で駆除されているわけではなく、「特定外来生物」の中から「被害を及ぼしていたり、及ぼすおそれがある特定外来生物については、必要に応じて防除を実施」されることになっています。
また、環境省も他人事のように引用形式で述べてますが「この際、「計画的かつ順応的」に、「関係者との連携」のもと、「科学的知見に基づき」行うこと、「費用対効果や実現可能性の観点からの優先順位を考慮して、効率的かつ効果的に実施すること」等とされています」という形で防除すべきかの見極め、防除方法を定めるのが本来の方針だそうです。
ただ、ここにはもちろん法律によくある理想と現実の乖離が現れております。アライグマを防除する際に果たしてこのような形で「効率的かつ効果的に実施」がされているのであれば、もう20年近くも経ってから民間業者の人間がわざわざ専門家の方々を集めてこの問題について対応することもなかったでしょうね・・・
この点について加藤先生も問題視されていました。本来、アライグマを危険だと見なして防除する上では基本的な情報を集めるところから始めなければならなかったわけですし、環境省もおおまかな生息地、生息数の調査はやっていますが全て後手に回っており、そこからアライグマを減らすための方法や、彼らが増殖したり生息するのに向いている場所の割り出しなど重要なことができているようには見えません。
捕獲数と捕獲データは年々積もっていく一方ですが、膨大なデータを扱いきれずに持て余している。これが行政の防除における大きな問題でしょう。何てったって、彼らは生物関係の専門家でも現場での防除経験もありませんから・・・それにどこぞの環境大臣が外来種のことをどれほど知っていることか怪しいものです・・・
データの扱いや効果的な対策については僕らが模索していく他ありませんが、なぜアライグマが危険かについてはいくつかの指標から出されました。
特に重要なのはこの通りの3点ですが、見ての通り全て該当します。
生態系への影響
・元々両生類の捕食に優れているのでアライグマほどの天敵もおらず
動きも遅い日本の在来両生類、甲殻類などを急激に減少させる危険
性がある。
・かといってマングースのように絶滅危惧種や固有種を狭い島で食い
荒らして絶滅に追い込む ような目に見えた「危機」を演出しているわ
けでもないので一般的な観点からは危険性が認識されにくい(見た目カワイイし)。
・近縁種は他にいないので在来種の遺伝系を攪乱する危険はない。
これに加えて彼らは「繁殖力がすごい」と言われてますし、僕もこれまでにその繁殖能力について述べてきましたが、あくまで加藤先生はアライグマであっても度を越した繁殖力を持っているわけではなく、着実に増えることができるだけの個体数がおり、何十年も対応されないまま放置されてきたからこそここまで増えた、という指摘をされています。
そりゃそうですよね、当初は誰も原産地のアメリカから遠く離れた列島中に何万何十万頭まで増えるとは思わないからこそ輸入して可愛がっていたわけですから・・・。
農作物等への被害
・食性が広いために今後より広い範囲の農作物が被害対象になる恐
れがあり、現在でも野菜から果樹まで幅広い被害を受ける。
・被害の形がイノシシとシカとは別なので、彼らとは別の角度から農作
物被害の上昇に”貢献”してしまう。
まあこれも日頃から色々と彼らが食い荒らしてる様子を見ていれば当然分かりますね。僕の見る感じでは皮が分厚いからか、近年まで一部しか手を付けていなかった柑橘類まで食べるようになってきたので、そのうちキウイなどが食べられるようなってもおかしくはないでしょうね(今のところキウイの食害は見たことありません)。
生活環境への被害
・住居侵入、糞尿による汚染、感染症被害
・ペット、家畜類への被害
この点を加藤先生は過小評価されていると強調しており、「ヒトの生活圏でも生活できる」点はかなりの危険をもたらす可能性があると言われていました。これはハクビシンにしても言えることですが、「でも」ということ、つまりは自然環境とヒトの生活環境両方で生活ができるということは両方を行き来して、両方の環境のウィルス、病気を媒介してしまう可能性があるということです。
最近は都内や富士見市あたりまでイノシシが出てきて騒ぎになっていましたが、基本的にあれくらい大きな動物はそれなりに広い自然環境がなければ暮らせないので一時的に迷い込んだ結果ああなっているだけです。それがアライグマになれば住み着けるわ、行き来もできわでイノシシやシカ、その他野生動物の持つ病原菌をヒトやペット、またはネズミなどに持ち込んでくる、またはその逆がありうることになる。これは今までになかった感染ルートを作ってしまうことであり、それによってかつてなかった感染を発生させてしまうかもしれない。
感染といえば豚コレラ、色々と呼び方を直して豚熱とかCSFとか呼ばれているものが浮かぶかもしれませんが、今のところアライグマがそれを媒介した例は確認されていないそうです。しかし鳥インフルエンザは媒介するし、単に媒介するだけでしたら皮膚や毛に付着するだけでもいいと思うので、可能性が無いとは言い切れません。
つまり、アライグマはかなり危険であり、彼らが増加して生息範囲を拡大するほど危険性は増すということです。
特定外来種の中でもその度合いが強い為にここまで駆除されるわけですよ。まあ、環境省の対応からすると今後も駆除しなければならない対象は増えるとは思いますがね・・・。