【問題】Ⅲ-2
2019年10月1日に施行された改正水道法において、水道事業者等は水道施設を良好な状態に保つため、その維持・修繕を行わなければならないこととされた。また、改正法の施行に伴い、法に定める基準として、水道法施行規則が改正され、水道施設の点検方法や頻度と範囲、点検により異状を確認した際の維持・修繕の措置、コンクジート構造物における点検及び修繕の記録等の基準が定められた。
上記の状況を踏まえ、水道分野の技術者として以下の問いに答えよ。
(1)コンクリート構造物の水道施設を良好な状態に保つために、技術者として多面的な観点から検討すべき課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、その課題の内容を示せ。
(2)抽出した課題から最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の対応策を示せ。
(3)対応策によって新たに生じるリスクと解決策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
浄水場、配水池等のコンクリート構造物(これ以降「構造物」と言う)を良好な状態に保つため、以下の課題に取り組む必要がある。
(1)適切な点検
構造物は、中性化、塩害、凍害、アルカリシリカ反応等により、ひび割れや鉄筋の腐食等の劣化が進む。劣化の有無やその程度を把握し、速やかに対処するため、適切に点検を実施することが課題になっている。
(2)異常を確認した際の修繕
水道水の汚染を防止するため、構造物は高い水密性を有する必要がある。また、構造物の損傷は、広範囲の断水に直結し、高台に建設された構造物の漏水は、法面崩壊を招く可能性がある。このため、点検や診断において構造物の異常を確認した際、修繕を適切に実施することが課題になっている。
(3)点検・修繕に関する記録
構造物の点検・修繕を行った際、その結果を記録・保存し、その後の維持管理に活用する必要がある。このため、構造物の点検・修繕に関する各種データを電子化し、傾向分析や機能評価を行うシステムを構築することが課題になっている。
2 最重要課題とその解決策
適切な点検を実施しないことにより、水道施設において突発的な事故が発生している実態を踏まえ、これを最重要と位置付けて以下に解決策を示す。
(1)初期点検の実施
構造物の初期状態を把握するため、新設時等に実施する。構造物全体の目視点検やハンマーによるたたき点検、簡易な計測による現地調査等を行う。
(2)日常点検の実施
損傷・劣化の有無や程度を把握するため、数週間から数か月に1回程度の頻度で実施する。外観の変形や変状を確認するために目視点検を行うことを基本とし、必要に応じてたたき点検等を行う。
(3)定期点検の実施
日常点検では確認が困難な損傷・劣化の有無やその程度を詳細に把握するため、概ね5年に1回以上の頻度で実施する。目視点検やたたき点検を基本とし、コンクリートや鉄筋の状態を調査するため、必要に応じて非破壊試験やコアによる破壊試験等を行う。
当該点検は、構造物の内面も含めて全体について実施する必要がある。このため、通常の巡視では確認が困難な場所を含むケースが想定される。また、点検を行うことにより、水需要者に対して水量、水質等の影響を与えることは回避する必要がある。
このことから、1池しかない構造物の内面については、水位を下げた状態で点検を実施し、底盤部等分については、潜水士や水中ロボットを活用することが有効である。また、構造物の外面のうち高所部分や屋根については、ドローンを活用することが有効である。
(4)臨時点検の実施
地震等の偶発的な外力が作用した直後に、構造物の状態を把握するために実施する。目視点検やたたき点検を実施し、損傷が著しい場合は施設の休止について検討を行う。
(5)緊急点検の実施
構造物において事故が発生した場合に、同種の構造物や同じ条件下の構造物について同様の事象が発生していないか確認する。
3 解決策により新たに生じうるリスクとその対策
前述の解決策を実行し、適宜、修繕を行うことにより、構造物を良好な状態に維持することができる。
しかしながら、構造物の老朽化が進んだ場合、点検・修繕のみで機能維持を確保することは困難である。
このため、アセットマネジメントを実施し、構造物の更新を行う必要がある。具体的には、点検や修繕の際に得られた情報を基に、更新の必要性を判断し、構造物の重要性等を考慮して更新優先順位を見極める。更新費用を算定し、事業費の平準化を考慮した長期的な更新計画を策定した上で、これを実行する。
また、維持・修繕に関する取組みをPDCAサイクルにより継続的に改善し、実行性を高める。さらに、潜在的なリスクを予見した上で、適切に予防策を講じる必要がある。
【出題された背景や狙い・解答に繋がるポイント】
この選択科目Ⅲ-1のリード文に示されているとおり、改正水道法が令和元年10月1日に施行されました。法の第22条の2において、水道施設の維持・修繕を義務付け、施行規則の第17条の2において、構造物の点検の頻度やその記録に関する基準等を定めたものです。このように構造物の維持・修繕に関する法令が新設されたことが、当該テーマについて出題された背景になっています。
問い(1)は、構造物を良好な状態に保つために検討するべき課題を3つ抽出することを求めています。一方、リード文には、水道施設の①点検の方法・頻度・範囲、②維持・修繕の措置、③点検・修繕の記録に関する基準について法令化されたことが示されています。このことを踏まえると、点検、修繕、記録について言及することが、この問題の解答を作成する際のポイントになります。
また、厚生労働省は、令和元年9月、「水道施設の点検を含む維持・修繕のガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、施行規則の第17条の2の内容を踏まえて、水道施設の維持・修繕の考え方や具体的な実施方法をとりまとめたものです。このため、構造物の点検・修繕・記録について説明する際は、このガイドラインの内容を反映させることが重要になります。
【当該テーマについて上記以外で勉強するべき事柄】
構造物に関する問題は、平成24年度に出題されています。躯体の劣化調査を扱ったものでした。このため、構造物について勉強する場合、中性化等の劣化機構を理解し(図1参照)、その補修方法について内容を整理しておけば良いでしょう。
また、水道事業者等が有する構造物は、取水場の沈砂池、浄水場のろ過池、配水池等がありますが、これらのうち最も数が多いのは配水池です。配水池に関する問題は、平成25年度と令和元年度に出題されています。このため、今後の試験対策として、配水池の役割や設計時の留意点等について内容を整理しておけば良いでしょう。
また、本問で取り上げられた水道法施行規則の第17条の2は、令和5年3月22日に改正され、令和6年4月1日から施行される予定です。改正の内容は、令和3年10 月に和歌山市で発生した水管橋の破損事故を踏まえて、道路、河川、鉄道等を架空横断する管路等の点検を義務化したものです。さらに、この改正にあわせて「水道施設の点検を含む維持・修繕のガイドライン」も改訂しています。こうした国の動きを踏まえると、道路、河川、鉄道等を架空横断する管路の維持・修繕について勉強することをお勧めします。
【この問題に関する感想】
リード文に示されている通り、これは、水道法施行規則で法定された水道施設の維持・修繕に関する問題です。
ただし、水道法施行規則には、維持・修繕に関する技術的内容について詳しく書かれているわけではありません。
このため、この問題は、実質的に、「水道施設の点検を含む維持・修繕のガイドライン(令和元年9月 厚生労働省医薬・生活衛生局水道課)に関するものです。
悩ましいのは課題です。3つを計上することになっています。
コンクリート構造物の水道施設を良好な状態に維持するためには、更新、修繕、点検を行う必要があります。普通に考えれば、これらのうち最も重要なのは更新です。
しかしながら、リード文に書いてある通り、この問題の主題は維持・修繕です。更新ではありません。
そうなると、更新以外の課題を1つ計上する必要があります。
リード文を読み直してみます。すると、ここには、3つの課題が書き記されていることが分かります。
リード文の内容を整理するため、番号を付けてると、以下のようになります。
「水道法施行規則が改正され、①水道施設の点検方法や頻度と範囲、②点検により異状を確認した際の維持・修繕の措置、③コンクジート構造物における点検及び修繕の記録等の基準が定められた。」
というわけで、この選択科目Ⅲ-2では、①点検、②修繕、③記録を適切に実施することが課題になります。
コンクリート構造物に関する問題ですから、点検と修繕、それから補強をピックアップしても良いと思います。
もちろん、最重要課題は「点検」か「修繕」をチョイスして詳述する必要があります。
以前アップした解答例では、「修繕」をチョイスして、以下のような解答例を示していました。
しかしながら、ガイドラインを読んでみると、ほぼ点検について述べらています。
冷静になって問題文を読んで、以前の解答例を読んでみると、イマイチ題意に答えていない内容でした。まだまだ未熟です。
というわけで、「点検」をチョイスして、解答例を大幅修正しています。
【以前の解答例】
(1)中性化に係る修繕
二酸化炭素とセメント水和物が反応し、pHが低下することにより、コンクリートのひび割れ、剥離、鋼材の断面減少が発生する。この対策として、中性化したコンクリートの除去、二酸化炭素と水分の侵入抑制を図る必要があり、断面修復工法及び表面処理工法(これ以降これら2つを「共通工法」と言う)、再アルカリ化工法等により修繕を行う。
(2)アルカリシリカ反応に係る修繕
骨材中に含まるシリカ成分とセメント中のアルカリ成分が反応、拡張することにより、コンクリートの異常拡張、ひび割れが発生する。この対策として、ひび割れ補修、水分及びアルカリの供給抑制、内部水分の散逸促進、拡張抑制等を図る必要があり、共通工法、水処理、ひび割れ注入工法等により修繕を行う。
(3)塩害に係る修繕
コンクリート中の鋼材が塩化物イオンにより腐食し、コンクリートのひび割れ、剥離、鋼材の断面減少が発生する。この対策として、ひび割れ補修、塩化物イオンの除去、鋼材の電位制御等を行う必要があり、共通工法、脱塩工法、電気防食工法等により修繕を行う。
(4)凍害に係る修繕
コンクリート中の水分が凍結と融解を繰り返すことにより、表面にスケーリング、微細ひび割れ等が発生する。この対策として、劣化したコンクリートの除去、水分の侵入抑制等を図る必要があり、共通工法、水処理、ひび割れ注入工法等により修繕を行う。
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