映画「すばらしき世界」 | ほくとの気ままなブログ

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映画「すばらしき世界」

 

2021年 126分

 

<監督>

西川美和

<原案>

佐々木隆三:身分帳

<キャスト>

役所広司、

仲野太賀、

橋爪功、

梶芽衣子、

六角精児、

白竜、

キムラ緑子、

長澤まさみ、

安田成美、

 

<内容>

「ゆれる」「永い言い訳」の西川美和監督が役所広司と初タッグを組んだ人間ドラマ。これまですべてオリジナル脚本の映画を手がけたきた西川監督にとって初めて小説原案の作品となり、直木賞作家・佐木隆三が実在の人物をモデルにつづった小説「身分帳を原案に、舞台を原作から約35年後の現代に置き換え、人生の大半を裏社会と刑務所で過ごした男の再出発の日々を描く。

 

殺人を犯し13年の刑期を終えた三上(役所広司)は、目まぐるしく変化する社会からすっかり取り残され、身元引受人の弁護士・庄司(橋爪功)らの助けを借りながら自立を目指していた。

そんなある日、生き別れた母を探す三上に、若手テレビディレクターの津乃田(仲野太賀)とやり手のプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)が近づいてくる。

彼らは、社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を捜す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようとしていたが……。

(映画.COM)

 

 

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当初観る予定がなかった作品。

ちまたで評判がいい様なので、ではと思った時にはいつもの劇場では上映終了。

少し足を延ばして川崎の映画館で鑑賞してきました。

 

役所広司いやぁ~~いい演技でしたね。

考えさせられまた感動する作品でした。

 

 

まだ上映中のところもあるでしょうし、この作品をこれから観る方もいると思うので、ネタバレにならないよう軽く記事アップします。

 

この原案になった佐々木隆三さんの「身分帳」は1990年に発行された小説です。

佐々木隆三さんは小説「復讐するは我にあり」でも有名な作家さんです。

その佐々木さんに、映画で主人公三上のモデルになった実在の人物田村義明さんは、自分の身分帳を送っているのです。

 

身分帳とは、刑務所収容者の家族構成や入所した本人の経歴、過去の行い、犯罪歴、入所後の行動なども記録されている自分の経歴書のようなもの。

何度も刑務所への入所を繰り返していた田村さんの身分帳は、重ねると1m以上の高さ位になっていたようです。

 

田村さんは、福岡県で芸者をしていた母親と海軍大佐の間に生まれた私生児。

父親が認知せずに、戸籍がないままに育っています

孤児院で生活したりまたその後引き取られる家でも、なかなか人間関係が上手くいかなかったりして非行に走ってしまいました。

12歳で少年院に入ってからも出入りを繰り返し、18歳で暴力団に入ります。

 

 

33歳で殺人事件を犯し、44歳まで獄中で暮らします。

そして刑期を終えてからの生活が、この映画の物語の中心になっています。

また彼は東京の生活にはなじめずに、ルーツである福岡に移りその生涯を閉じたようです(この辺は少し映画の内容と異なりますが)。

 

 

何事にも真っすぐな三上の性格は、時としてトラブルを起こします。

街で中年の男性が不良に絡まれていれば、一目散に助けその不良をボコボコにしてしまったりと、見て見ぬ振りができない性格。

 

 

ある時、トラブルをおこす彼に身元引受人の弁護士が話します。

今の世の中、生活を穏便に送るためにはなんでもかんでも首をツッコミのではなく、時には見て見ぬふりをすることも大切だと諭されます。

いざこざを起こすことなく生きていく為とはいえ、果たしてそれは本当に良い事なのか、考えさせられる場面でもありました。

 

 

そして紹介で働くことができた介護施設。

その介護施設に少々知的障害があるスタッフがいるのですが、三上と組んで色々と教えてくれます。その彼がある時、他のスタッフからいじめをうけているのを見てしまいました。

普段でしたらそこで彼の正義感?が出て注意し、いじめていた相手を殴る蹴るで痛めつけるのでしょうが、また問題を起こしてしまったらその施設では働くこともできなくなってしまう。

自分を応援してくれている人達との約束を思い出し、ぐっと我慢し見て見ぬふりをします。

スタッフルームに戻って、そのいじめていたスタッフも戻ってくる。

彼らの会話を聞きながら、三上も話に参加します。

その場面で三上の心の中で葛藤するさまがよく出ていました。

 

彼の真っすぐで素直な性格が、時として犯罪を犯してしまうことにもなるのです。

気の荒い性格ではあるが、真っすぐで誠実な性格の三上正夫を役所広司は本当に見事に演じていました。

ただ、やはり本物の悪ではないのでどこか優しい感じが残っていましたね。

 

教習所の両手を前後に大きく振って教官と移動するシーンは笑えましたね(観た方はわかると思いますが)。

 

三上の実在のモデル(田村義明さん)が、起こした事件は世間では大きな話題になった事件などではなく、知らない人のほうが多いであろうような殺人事件。

その罪を犯してしまった男が13年の刑期を終えて社会で苦労しながら生活する様を描いた作品。

 

 

西川監督はこの原作から次の様なコメントをしています。

この小説には、一人の元犯罪者の社会復帰の物語とは別に、私たちがもうすぐ完全に証人を失うはずの日本の戦後史のアウトサイドが綴(つづ)られている。戦災や引き揚げで、親と離れて社会から隔絶された子供たちがどのような場所で育ち、急速に復興していく社会の裏側でどうしぶとく生きぬいたのか。駅で育った子供や、ときに彼らを取り込んで盛り場から膨れ上がったヤクザの世界など、今やもの言わぬ人たちの希少な記録でもあると思う。モラルとは距離を置いた特殊な共同体の中で、幼い頃から盗みを働き、薬物を教えられ、性を荒らされ、劣悪と言えばそれまでだけれど、そういう言葉で誹(そし)るのもためらうほどの、止むに止まれぬ「生」の迫力がある。私たちは今こうまでして生にかじりつくだろうか。

時間と制作予算に限りある映画の中で、残念ながら私はそれらの時代性を再現して伝えることができない。だからこそこの小説をもう一度手に取ってもらうきっかけを作りたいと、意地になった。もう、前を向いて脚本を書くよりほかない。

 

なるほど・・・・

 

 

実在のモデルは田村明義、小説では山川一、映画では三上正夫それを演じているのが役所広司。

 

前述した知的障害のあるスタッフがいじめられた後に、三上は見ぬふりをしてその場を離れます。

そのあと帰宅しようとする三上に、その彼が

「三上さん、コスモスもっていく?」

とコスモスの花束を差し出しました。

台風が来る前に園に植えてあるコスモスを、掘り起こしていたのです。彼なりに台風から花の寿命を生かすことを考えたのでしょうね。

「うん」

といって三上は、高ぶる感情をぐっと我慢してその花を受けとります。

この場面は心洗われるシーンでした。

当然ウルウルしてしまったのはいうまでもありません。

 

そして三上は台風が接近して大雨降る中、帰宅しラストシーンへ向かっていきます。

 

またラストシーンが涙を誘うのです。

まわりの観客からも涙している様子を感じました。

ただ個人的には、驚愕のラストシーンその時ではなく、エンドロールが流れてくる中で、時間をおいてジワ~っと何とも言えぬ悲しさ虚しさがこみ上げて目頭が熱くなってしまったのです。

 

 

この作品には彼のような犯罪をおかした男、あまりにも自分の気持ちに正直に生きる男が社会に復帰して生活していく大変さ、そしてまさにその社会で生活している我々にとっても、メッセージを投げかけられた作品でもありました。

役所広司さんんお演技は本当に見ものでした。

 

 

それと久しぶりに梶芽衣子さん見た・・・年取ったなぁw

でも素敵でしたよ! 

 

5点満点中3.9