シネマの万華鏡

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松坂桃季主演松竹時代劇!

今年は『男はつらいよ』シリーズ復活!!という松竹。伝統を守る姿勢がくっきりと見える中で、こちらもまた手堅い新作です。

佐伯泰英の原作小説はベストセラー、NHKドラマとして成功した実績もある作品。監督の本木克英は長年松竹にいた人で、『超高速参勤交代』など時代劇の監督経験もあるベテラン。

敢えて言えば、時代劇初主演の松坂桃季の起用は冒険なのかもしれませんが、ちょっと往年の村上弘明を思わせる甘いマスク、最近の出演作での芸達者ぶりを見ると、危なげなんてゼロ。

ドラマで反響は確認済みだった去年の『空飛ぶタイヤ』以上に手堅い路線なんじゃないでしょうか。

でも、あんまり手堅すぎると正直ワクワクしない・・・なんて言いつつ時代劇大好き!松坂桃季も大好き!だもんで、公開3日目には観に行っちゃいましたニヤニヤ

豊後関前藩の坂崎磐音(松坂桃李)と小林琴平、河井慎之輔は、幼なじみだった。磐音が琴平の妹・奈緒との祝言を控えていたある日、事件が起こり、磐音は二人の幼なじみを失う。奈緒を置いて関前を去り、江戸で浪人として生活することになった磐音は、昼はうなぎ割き、夜は両替商の用心棒として働き始める。

(シネマトゥデイより引用)

私が最近観た時代劇の中では、一番まとまりのいい作品でした。さすがは松竹。

どちらかと言えば殺陣よりもストーリーで見せる作品、ラブロマンス要素もしっかりあるので、アクション好きじゃない人にも楽しめそうです。

 

すごく面白いけれど説明もほしい江戸の貨幣制度の話

序盤、磐音のバックグラウンドにあたる脱藩までの経緯は、かなり強烈な事件が起きる中での超高速巻き巻き進行(笑)

実はこの脱藩のいきさつに磐音が背負い続ける暗さ、哀愁の源泉があって、それが超高速進行のせいでだいぶ薄まってしまったうらみはありますが、今回のメインは磐音が用心棒として雇われた両替商・今津屋での事件のほう、どうしてもこうなるんでしょうね。

 

この作品の時代背景は老中田沼意次の時代です。かつては悪家老として時代劇にひんぱんに担ぎ出された人ですが、最近は再評価され以前とはイメージが随分変わってるみたいですね。

歴史認識や人物評価って、時代によってくるくると変わっていくもののようです。

今回はその田沼時代に行われた「文政南鐐二朱銀」の発行が事件の発端になっています。

 

文政南鐐二朱銀は、従来の南鐐二朱銀よりも銀の量目を減らした貨幣。幕府にしてみれば同じ量の銀でより多くの南鐐二朱銀が鋳造できるので利ザヤで財政は潤います。

本作の中で、幕府はこの南鐐二朱銀を、銀の重量で比較すればその価値がないにもかかわらず8枚で金1両と同じ価値のものとして扱うよう両替商=銀行に通達。これに従えば価値の低い南鐐二朱銀を金と交換することになり損失を蒙る両替商たちは、この通達に反発しますが、その中で今津屋(谷原章介)だけはこの交換レートを守ろうとし、反対派の筆頭阿波屋(柄本明)から命を狙われることになるんです。

 

ドラマの立て付け上は、阿波屋が悪役で、磐音は今津屋サイド。

でも、面白いことに、「南鐐二朱銀の銀の重量は減ったのだから価値が下がった、交換レートは下げるべき」という阿波屋の言い分のほうが一見理にかなっているんですよね。勿論、今津屋の命まで狙う強引なやり方は擁護のしようがないんですが。

本当はここで「貨幣の価値は貴金属の重量ではなくお上が定めるもの、たとえ石ころだろうとお上が貨幣だと言えば貨幣だ」というパラダイムシフトが起きていて、その説明がほしいところなんですが、全く説明なしで進行します。

話題としては面白いし、悪役方の言い分にも一理あるところも深い。この話題を持ってくるなら幕府に対する信頼が揺らいでいた当時の世情も入れて、時代を見渡す広がりを見せたら面白いと思うんですが、せっかく話が深くなる糸口があるのにスルーされてるのがもったいない気がしてしまいました。

 

テレビ時代劇を観過ぎたのかも(汗)

 

この映画を観ていて、昔父親に付き合わされてよくテレビで時代劇を観ていたことを思い出しました。

テレビで日常的に時代劇が観られる時代に育った私は、つい「昔だったらこのクオリティーの時代劇はテレビで観られたな」という発想になってしまうんですね(汗)

しっかりした歴史観を持った作品や、アクションのダイナミズムで見せる作品、もしくはカリスマ映画監督が作家性で突っ走る作品(当然単館系)は映画館で観たい、でもそれ以外は、家でのんびりテレビドラマとして観るので十分だと思っちゃう。

 

この作品、きちんと丁寧に作られていて、見応えもあるんです。でも、スケール感で言えば映画館のスクリーンじゃないと映えないというものじゃないし、かつての時代劇みたいに殺陣のテクニックに見せ場があるわけじゃないし、「綺麗にまとまっていてさらっと終わる」感じがまさに(連続しないけど)連続テレビドラマ。

若く甘いマスクの磐音と2人の女という恋愛要素のウエイトも高い作品ですが、簡単にどちらかを選べる話でもないだけに、磐音の気持ちが揺れていく過程を時間をかけて追いかけられるという意味ではテレビドラマのほうが向いているのかなという気もしてきます。

 

一匹狼の剣客ものには強烈な個性がほしい

 

磐音とおこん・奈緒の関係もまだ今後動いていきそうだし、関前藩の騒動もなんだかまだ続きがありそうな気配。多分、今回の反響次第で続編を、ということなんでしょうね。

ただ、続編の存在が確信できるほどはっきりとした次回作へのトリガーが作られているわけじゃなく、あくまでも半身に構えてる感じ。

もし続編があるのなら、今回のなんとなく物足りない部分も、「今作はイントロダクションだから」と納得できるんですが、その辺どう見ていいのか分からないんです。

 

松坂桃季は時代劇も文句なしにハマっていますね。剣客ヒーローって何故か色気が必須要素だと思うんですけど、色気も華も十分。彼に華があるから、女性陣はもっと個性派でも良かったのかも。

ただ、他の役の松坂桃季じゃなく居眠り磐音の彼が観たいと思うほど磐音のキャラは立ってないような気がします。「居眠り磐音」とあだ名されるほど普段の彼がおっとりぼんやりというわけでもなく、オンとオフのメリハリがないし、殺陣に目を瞠るようなユニークさがあるわけでもないし。

椿三十郎とか眠狂四郎とか中村主水くらいの個性がないと、シリーズを心待ちにするというところまで気持ちが入りません。中村主水のあの、テーマ曲をしょって寒そうに肩をすぼめて「仕事」に向かう哀愁、あの襟巻、ああいうゾクゾクさせるオーラがあってほしい。

『るろうに剣心』みたいに作品自体にダイナミックな味付けがあれば、話は別なんですけどね。

 

時代劇ブームが去ってしまった今、剣客ものって何を見せるのか?それも映画で? テレビドラマレベルのまとまり方では、もう満足できないなと思ってしまいます。

 

 

備考:上映館326館

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