北杜市立中学校再編整備地域説明会
度々伝えてきましたように、山梨県北杜市では中学校の統合が行政によって進められようとしています。2007年12月に北杜市立小中学校適正規模等審議会(第1次審議会)が設置され、2009年に答申が出されました。それに基づいて、2014年2月に市内中学校8校を4校に統合する「北杜市立中学校統合計画(案)」(「4校案」)が公表されましたが、最終的な合意を得ることができず、2017年1月に市議会にその旨が報告されました。
その後、2019年8月から2022年3月まで北杜市立小中学校適正規模等審議会(第2次審議会)が設けられ、その答申を受けて、2022年7月から2025年1月まで、北杜市中学校再編整備検討委員会が計9回開かれました。
今年2025年5月からは、市民に「これまでの経過について知っていただくとともに、中学校を2つに統合する案に関わる考え、意見を伺いたい」という趣旨で、中学校の再編整備(統合)に関わる説明会が、市内各地域で開かれています。

第2次審議会が設置されて以来、私は「統合の行方は地域の行方を左右する」という問題意識に立ち、その動向を追い続けてきました。昨年11月に北杜市議会議員になってからは、これを合併によって生じた地域づくりの課題と捉えて取り組んでいます。今日までに説明会が3回開催されましたが、2回の説明会に参加してきました。
ここでは、私の住む大泉町で開催された5月13日の説明会の模様を報告して、統合をめぐる今後の議論の参考にさせていただきたいと思います。
多かった参加人数
会場の大泉総合会館にはおよそ70人もの市民が入っていました。その前に参加した須玉町における説明会の参加者がおよそ30~40人だったことを考えると、多い人数であり、市民の高い関心を窺うことができました。
教育委員会の説明
市の再編(統合)案は2つあり、①明野、須玉、高根、泉の各中学区を1学区とし、残る長坂、小淵沢、白州、武川の中学区をもう1学区とする「A案」と、明野、須玉、高根、武川の中学区を1学区とし、残る長坂、泉、小淵沢、白州の中学区をもう1学区とする「B案」となっています。そして、いずれの案を採用した場合も統合後の校舎は新たに建設するとしています。
説明会はまず、北杜市立中学校再編整備のこれまでの経過について報告があり、続いて市教委の担当者が、少子化の進む中で全学校に専門教科の教員を配置できないこと、学年ごとに複数の学級を置くことで進級時のクラス替えが可能になり、人間関係の固定化を防げること、学校規模が大きくなることによって組織的な指導が実施できること、希望する部活動に所属しやすくなることなどを挙げ、理解を求めました。
市民の質問と教育委員会の回答
その後、市教委が示した検討案をめぐって、参加者と市教委の間で質疑応答が行われました。参加者は銘々まじめに疑問を伝えていました。貴重なやり取りですので、可能な範囲で紹介します。
①(大泉町)
Q1「スクールバスの集合場所までの送迎がとても負担になる。考慮してほしい。」
A1「中学校区と学級が決まってから集合場所を決める。ただし、何回もバスが停車すると所要時間がかかってしまう。」
Q2「統合について私は積極的に賛成できない。『仕方なし』という感覚。学校の統合ではなく、部活動の統合にしたらどうか。」
A2「すでに合同部活動も行っているし、土日の部活動は地域移行を進めている。しかし、平日の部活動を考えると、ある程度の規模の学校が必要。」
Q3「資料にある統合中学校の生徒数の中にアメージング・アカデミーの生徒は含まれているか。」
A3「小淵沢中学校の全校生徒数の3分の1を占めるアメージング・アカデミーの生徒は、資料に入れていない。しかし、彼らも統合中学校に通学することになる。」
②(大泉町)
Q1「現行のバス停はそのまま使われるのか。」
A1「現時点ではわからない。今後検討する。」
Q2「広大な北杜市の面積を考慮してほしい。300平方キロメートルを超える面積にたったの1校という例は、全国を見てもまれ。早朝からスクールバスを何台も運行させなければならなくなるが、バスの数と運転手の数は、将来にわたって確保し続けることはできるのか。」
A2「現在においても、運転手は人材不足。運転手を確保できる職場環境づくりをタクシー・バス会社にお願いしていく。今後しっかり検討していきたい。」
Q3「地元の学校に通わせたいので、統合に積極的に賛成することはできない。仕方なく話している。」
A3「文科省の基準に則れば、教員の配置数は学校の学級数によって決まってしまう。主要教科については(常勤)教員を配置することができるが、専門教科については県費負担の教員を配置することができない。したがって、大規模化は止むを得ない。」
Q4「なぜ、専門教科を非常勤教員で授業してはならないのか。」
A4「努力していくので、ご理解いただきたい。」
Q5「11年前の『4校案』が実現していたとしても、さらに生徒数が減っていたならば、『2校案』は検討されたか。」
A5「検討されただろう。」(教育部長)
③(大泉町)
Q1「一昨年の保護者説明会の席で、『大泉では垂直統合という選択肢もある。』と教育長が言われて、その言葉に期待していたので、その後説明なく2校案が示されたことにショックを受けている。私の子のように『障がい』を持っていてスクールバスに乗ることが難しい子供も、現在のように学校が徒歩圏内にあれば通学することができるが、遠距離になると、保護者が送迎できなかったら、通学することができない。(地域に学校を残してほしいという希望が多い)大泉に特色ある地域の学校があってもいい。」
A1「『再編してよかった。』と思っていただけるように努力するので、ご理解いただきたい。」(教育長)
④(大泉町)
Q1「私は養護教諭です。不登校生徒への対応は?」
A1「ステップルームを活用しながら、対策を取っていく。」
Q2「不登校生徒への対応等もあって、養護教諭は多忙です。市内8校に各1人配置されているが、現在でも手一杯。統合後、養護教諭が生徒にゆきとどいた対応を行なえるか、心配。それについて、検討委員会で議論はされたのか。」
A2「2つの再編案を示したので、『どちらの方が豊かな学びをできるのか』という観点からご意見をいただきたい。」
⑤(長坂町)
Q1「2校だけ設置するのではなく、分校的な『拠点』を作ってはどうか。」
A1「ご意見として承る。」
⑥(大泉町)
Q1「スクールバスによる時間的負担をどのように解決するのか。」
A1「清掃の時間が無い日を作るとか、日課の中で調整する。」
Q2「地域の子ども同士のつながりについてはどうするのか。例えば、大泉では泉小中学校運営協議会もあるように、小学生と中学生とのつながりが伝統的な特色となっている。」
A2「泉地区のつながりに加えて他地区とのつながりが増えるということでご理解いただきたい。」
Q3「資料の中に統合によるデメリットが記されていないが、デメリットも示された方が分かりやすい。」
A4「市教委のホームページに審議会の議論が載っているので、それを読んでほしい。統合によるデメリットとしては、『大きな集団の中に個が埋もれてしまう』『競争が激しくなって、ストレスが強くなる』といった指摘が出されている。しかし、多くのメリットがあるというところで、2校案とした。」
⑦(長坂町)
Q1「文科省の『学校の適正規模・適正配置のあり方に関する調査研究協力者会議』が今年の3月から始まっていて、文科省の説明も、地域によっては小中一貫校も選択肢に入れた再編成を認める方へと変化している。例えば、校舎の改修であっても、従来は3分の1の国の補助率だったのが、2分の1に変更された。適正配置についての国の説明が変わってきていることについて、教育長はどう考えるか。」
A1「全教科への教員配置が今回の統合の目的。もう一つの目的は、中学校再編が『いじめ・不登校』の解決策になるということ。学校規模を大きくすることによって、人間関係の固定化を防ぎ、母集団の飛躍的な増加と人間関係の固定化の解体により、『いじめ・不登校』は解消する。」「国の最新の方針に照らし合わせても、北杜市では今回の再編整備案が妥当だと考えている。」「通学については、市営バスや列車を利用してもいい。」(教育長)
Q2「甲陵中学校を再編整備から除外せず、市内8校と平等に扱ってほしい。除外するなら、その合理的な理由を教えてほしい。」
A2「甲陵中学校は中高一貫校なので、他の8校とは成り立ちが違うから。」「高校の教員が中学校に教えにきたりとか、スーパーサイエンス・スクールであったりとか、中高一貫校の教育的効果がある。」
Q3「『地域の特色ある小中学校を残してほしい』という住民の希望があるので、2校案以外について再検討してほしい。」
A3「過去の保護者説明会では、小中一貫校の希望もあった一方で、反対の希望もあったので、検討委員会ではさまざまな検討をした上で、この2校案に至っている。」
Q4「この説明会の内容を始め、統合に関する情報を市民と共有して欲しい。」
A4「市立小中学校適正規模等審議会・市立中学校再編整備検討委員会の議論については、市教委のホームページ上に開示されている。」
⑧(大泉町)
Q1「学校を減らすのは、登校にかかる時間と保護者の負担の面から心配。」
Q2「子供にとっては、専門教科の教員が複数校をかけ持ちしてくれた方が安心。」
A2「専門教科を非常勤教員がかけ持つと、週に1日しか教員が学校にいかないから、質問ができない。」
Q3「登校時間が長くなると、学業に影響が出るのではないか。」
Q4「私たちの世代は1クラス35~40人の規模で1学年に複数クラスあったが、子供の人数が増えたらいじめや不登校が無くなるとは思わない。規模が大きいと教師の目は行き届かなかった。2校案だと、都会からわざわざ移住してくる子育て世代の数が減ってしまう。大泉は新旧住民の間もしっくりいっている。せっかく今、良い状態なのに、それを崩す必要はない。」
A4「『私の思いだけが先走ってしまった』と反省している。しかし、母集団が変化(大規模化)しない中では、不登校・いじめ対策に限界がある。」(教育長)
「魅力的な大規模校を新設することによって、移住者が減らないようにしていきたい。」(教育部長)
今後に向けて
以上、5月13日の説明会の内容を紹介してきました。
終わりに、今回の市教委の回答について覚えた疑問をいくつか挙げておきたいと思います。
市教委は、将来的な人口減少を前提に今回「2校案」を示しました。しかし、適正規模の名のもとに再編整備して学校規模を大きくしても、少子高齢化と人口減少が進むなかでは、統合して誕生する2校もいずれ小規模化し、再度統合することになるのは容易に想像できます。事実、「11年前の『4校案』が実現していたとしても、さらに生徒数が減っていたならば、『2校案』は検討されたか。」という参加者の問いかけに対し、「検討されただろう。」と教育部長は答えていました。そうであれば、現在の再編整備の方式は、「消えゆく論理」であり、私たちが目指すべきものではありません。
今度の説明会では、学校が教育機関として重要な役割を果たすだけでなく、地域統合の象徴、また、地域振興、特に子育て世代を地域につなぎ止める有効な施設としての役割が指摘されていました。これらの役割を重視することは、市教委が現在進めようとしている中学校再編整備とは逆の考えです。
そこでは、現在の小規模校の持っている良質な文化を明確に残しながら、新しい学校を作っていくという途、すなわち地域に学校を残す形での統合が希望されていました。
次に、「今回の統合の目的の一つは、中学校再編が『いじめ・不登校』の解決策になるということ。学校規模を大きくすることによって、人間関係の固定化を防ぎ、母集団の飛躍的な増加と人間関係の固定化の解体により、『いじめ・不登校』は解消する。」という教育長の回答についてです。
正直に言って、この回答については驚きました。なぜなら、これまでの説明会では話されていなかった「目的」だったからです。いじめ・不登校に関する市教委の従来の回答は、「それらの背景は千差万別であり、事情がそれぞれ異なるので、個別に対応する。したがって、今度の再編整備からは切り離して考える。」というものでした。事実、5月11日の須玉町で開催された説明会でも同様の答えがされていました。
ちなみに、私は、この市教委の回答に同意できません。不登校児童生徒数が少数であるならいざ知らず、北杜市の小・中学校における不登校の児童生徒数は令和5年度が138人で、前年からさらに28人増加しています。不登校児童生徒数がこれだけ増えているというのには、個々の事情によるのではない、現在の教育のあり方そのものにかかわる要因があるとみるのが妥当です。もちろん、その要因は、「母集団の飛躍的な増加と人間関係の固定化の解体によって、解消」するものでもありません。
今回の説明会では参加者から内容の濃い質問が出されていました。それは、市立中学校再編整備に対する参加者の高い関心の現れであったと思われます。2019年から始まった今度の市立中学校統合をめぐる過程で見えてきたものは、この課題が学校を統合するかしないかということに限られず、むしろ私たちの地域の今後のあり方、あえて言えば地域づくりの課題と密接につながっているということ、そしてそれは住民の自治の課題でもあるということです。
北杜市立中学校再編整備地域説明会はあと5回開催されます。多くの市民が参加されることを希望しています。