サルヒツのぐるめ探訪♪【第192回】
鯛よし百番
℡)06‐6632‐0050
カテゴリ:鍋料理
往訪日:2023年5月14日
所在地:大阪市西成区山王3‐5‐25
営業時間:(月曜定休)
(L)13時~16時
(D)17時~22時
アクセス:阪堺線・今船駅より徒歩約5分
■100席(座敷個室が基本)
■予算:3,500円~7,000円(税込)
■予約:要
■支払い:カード可
■駐車場:なし
■登録有形文化財
※完全禁煙制
※店内撮影可能ですがひと言断りましょう
ひつぞうです。飛田新地の外れにある鯛ちり鍋の名店、鯛よし百番に行ってきました。食事そのものは当然として、装飾の豪華さでも有名ですね。かつては妓楼だった建物が、懐石料理店に姿を変えて、今日に至っているそうです。以下、往訪記です。
★ ★ ★
鯛よし百番の存在はトンデモ系のWEBサイトで知った。最近、健全な名所旧跡歩きばかりで、ちと食傷気味。大阪らしい珍スポットに行きたくなった。健康的にはアウトでも、ジャンキーな食べ物をたまに食いたくなる。あれと同じだ。見れば悪趣味ギリギリの装飾。面白そうだ。電話すると意外に簡単に予約が取れた。
「鯛めし食う!」~♪
鯛めしじゃないよ。鯛ちり。
「そうきゃ」 旨ければいいよ
さて当日。生憎ひどい雨降りになった。場所は阪堺線・今船駅から僅か5分。乗り換えが面倒なので動物園前駅からスマホのナビ片手に歩くことにした。地上に出ると幸いにもアーケード街がどこまでも伸びている。
「傘差さなくていいにゃ」 Good
昔ながらの商店街だが、雑貨店よりも、居ぬきで改装したカラオケスナックが幅を利かせていた。しかも歩みを進めるに従って、その勢力は圧倒的になり、酔眼で歌いまくるナニワのおっちゃんと、姐さんたちの嬌声があちこちから漏れてくる。
「日没前なのに盛りあがってゆー」
アウェイ感は激しさを増す。肩を怒らすおっちゃん、そして、よろけるチャリのおっちゃんを避けて、ナイトスクープでしか見たことのないカオスな空間に、実は怯えていた。動物園前商店街とはよく言ったものだ。
これ以上西成のコアに深入りしてはいけないと、少し大きな新開筋商店街に折れた。阪高の高架橋を潜り、明るい路地と交差した所で南下。もう、突き当りが鯛よし百番だ。しかし、界隈の様子はガラリと変わり、よく言えば小奇麗、別の表現をすれば淫靡。青や桃色のネオンで縁取られた小箱のような店が、どれも同じように嫣然と並んでいる。なんだろう。チラ見すると、しどけない姿の姐さんが「いらっしゃい」と声をかけてくる。みれば通りには飛田新地料理組合の文字。そうなのだ。知らずして僕らは飛田新地のど真ん中に足を踏みいれてしまっていた。
「なんか問題でも?」
並ぶ店はチョンの間と呼ばれる大人の小部屋。複雑な歴史的背景もあって公権力黙認らしい。しかし、それは後で知ったことだ。なにしろ大阪のことは10のうち1も知らない。間もなく目指す店が見えてきたので、それを撮ろうとスマホを出したその時…
「写真アカンよ!ここは撮影禁止なんやから!」
店の姐さんからひどく叱られてしまった。いや、あなた方を撮ろうとしたのではなくてですね、といいたいところだが、そんな言い訳できる雰囲気ではない。サルですら怖いのにプロの女性はもっと怖い。
ということで、この一件ですっかりしょげてしまった。可哀そうな僕。
「怒られたにゃー」 冤罪だけどにゃ
ついでに記しておくと、女性が入って来るのもひどく嫌がられるそうだ。たまたまおサルは何も言われなかったが。
「まだ店が開くまで10分ある」
ここで鯛よし百番の歴史をおさらいしよう。(記録は残っていないが)大正末期から昭和3年頃までに建てられた遊郭と言われている。「百番」の屋号から高級娼館だったとも。戦後の売春禁止法の施行により、旅館業に鞍替え。屋号も《百番 桃山閣》に。昭和20~30年代に(当時の所有者である)菊池三郎氏の趣味に合わせて絢爛豪華な桃山風に改修されて今に至るそうだ。
「経営者もどんどん代わったのにゃ」
その後1969年には現在の木下家が経営継承。2000年に登録有形文化財に認定。問題は老朽化だった。そこでクラウド基金を募り、2021年に専門家も加わる修復プロジェクトを実施。以前の煌びやかさを取り戻したそうだ。そういう意味ではベストタイミングだった。
時間になった。一番のり。
案内を乞うとスタッフが現れ、自分で靴箱に入れるように指示される。
玄関脇にあるのは顔見世の間。遊郭時代には娼妓の顔写真が張られていた。今回の修復で《松に白鷹》の襖絵から、北野吉彦氏によるモダンな白地に朱の松鷹図《安土城Red》に生まれ変わった。残念ながらクラウド出資者しか見る事ができない。
その隣りに陽明門が並ぶ。
宮大工が腕を振るった。
続く待合室は日光の間。東照宮を髣髴させる贅沢な造りだ。蟇股には甚五郎の眠り猫を模した鏝絵(こてえ)が施されている。
天井の彫刻も見事。「天地有情」の揮毫は中曽根康弘元首相から先代・木下勝義氏に贈られたものだろう。
太鼓橋を渡ると一階の大広間《桃山殿》に至る。「牡丹」「鳳凰」「紫苑」の三つの間からなり、彫刻や襖絵など見所満載なのだが、残念ながら大人数でないので利用できず…。廊下や休憩所は撮影可能なのだが、当然のこととして、室内はNGなのである。
吹き抜けの中庭には見事な庭石。よく見れば金精様を象っている。さすがは元遊郭。
二階に続く階段の壁には天神祭が描かれる。
普請そのものは然程ではないらしい。表具や飾り柱に贅を尽くしている。こういうキッチュな処が、むしろ飛田新地らしさを感じさせる。
休憩所
二階は13室からなり、東海道五十三次を模した造りになっている。
「回遊式だにゃ」 グルっとにゃ
「喜多八の間」「由良の間」「淀の間」など魅力的な部屋があるけど見られん。
「諦めろ」 うちは勝手に覗かれたけど
「あ、人がおる」はないよね。
ということで何の変哲もない個室へ。
五畳半の和室ひと間。
鯛ちりコース(5,500円・税込)を予約した。
刺身でも食べられる新鮮な真鯛がウリだ。これをしゃぶしゃぶする。
「喰おうぜ」
野菜も豆腐もたっぷり。これ食べきれるか
「頑張れ!」
一緒に食うべきでしょ。
お造り(鮪、サーモン)と小鉢(蛍烏賊ヌタ和え)から。
お酒もごく普通の価格。そんなに高くない。
ということで大関生貯蔵酒(アル添)にした。こういう時しか飲まないからね。
そこそこ凝った内装。
鍋は煮立ってきたら、昆布を入れて出汁をとる。
数分でOK。取り出して…
次にアラでダシをとる。
「ちょっとグロいね」
ある程度煮立ったら野菜を並べる。しゃぶしゃぶして頂戴しよう。
ぷりっぷり。程よく脂ものっている。これは旨い!
次は角ハイで。
「一番安心かも」
焼き物 鶏むね肉のチーズグラタン風
最後は雑炊か饂飩すきを選べるよ。
「喰ったー」
食べ過ぎかも(かなりのボリュームだった)。
デザート(ネーブル、メロン)
御馳走さまでした。料理としてはごく普通の鍋料理だった。家族での会食や接待にいいかも。
いい感じに陽も落ちてきた。濡れ縁がめっちゃ狭い(笑)。
お腹もいっぱいになったので少し見学。
全部外からね。
中庭を上から見た処。
嵌め窓の意匠① 和風
その② 中国風
その③ オリエント風
島田宿の部屋。
こっそり覗くってのは…
「ダメやろ!」
木彫の蝶と牡丹
最後にお手洗いへ。
ここも凝っているんだよ。
雨漏りの跡が痛々しいけれど、見事な鳥の群舞が描かれていた。
今回の修復には多くの専門家が参加している。遊郭文化を伝える大阪の名所として残ってほしい。
お世話になりました。
ということで、またお姐さんたちと眼を合わすのが怖いので、外回りでチョンの間ストリートを避けて帰ったのだった。
「臆病者」
(おわり)
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