こんにちは
平成も最後の年となりました。 次はどんな元号になるんでしょう。 それもまた、楽しみでもありますが、「平成」という元号、けっこう気に入っていたので、ちょっぴり残念な気もします。 元号は、一世一元と元号法に定められているそうですが、この元号法、制定されたのは1979年(昭和54年)と意外と新しい。 第二次大戦後、残す残さないの議論が続いていたからなんでしょうね。
さて、臓腑兼証(1)肝鬱気滞系4病証、 (2)気虚血虚系5病証に続いて、今回は陰虚系4病証と陽虚系2病証です。 すべて合わせて15病証。 これは、東洋療法学校協会編『東洋医学概論』に記載のある13病証に、肝気犯胃証(肝胃不和証)と心肺気虚証を加えたものとなっています。
陰虚系と陽虚系の病証は↓下記のとおりですが、証名を見て気づくのは、どれも腎がかかわっていることでしょうか。 それはなぜか?というと、腎の生理と病理にあるように、腎が「陰陽の根本」だから~。 その証拠というワケでもないけれど、『中医弁証学』(東洋学術出版社)では、これらの6病証は腎の証候として分類されています。
まずはここで、陰虚と陽虚をざっくりおさらいしておきましょう。
・ 陰虚は、陰液不足の状態なので、相対的に陽が強くなるため、虚熱が生じる。
・ 陽虚は、陽気不足の状態なので、相対的に陰が強くなるため、虚寒が生じる。
虚熱証=陰虚証で、虚寒証=陽虚証。 このポイント、しっかり押さえておいてくださいね。 案外ごっちゃになりやすいから。 「虚」という文字が先にくるのは、「何かが虚した(不足した)からそうなった」という状態。 後にくるのは、「何かが虚した」という状態。 「陰が虚したから熱が出た」「陽が虚したから冷えた」ってこと。 ??という方は、陰陽の生理と病理でご確認を。
陰虚系の臓腑兼証
(10) 心腎陰虚証 = 心陰虚証 + 腎陰虚証
(11) 肝腎陰虚証 = 肝陰虚証 + 腎陰虚証
(12) 肺腎陰虚証 = 肺陰虚証 + 腎陰虚証
(13) 心腎不交証 = 心腎陰虚証 + 心火亢盛証
(10)~(12)を見て気づくのは、心腎も肝腎も肺腎もあるのに、脾腎陰虚証がないことでしょう。 それは、脾陰虚が腎陰虚へと進行することも、腎陰虚が脾陰虚を引き起こすことも、ほとんどないからなの。
ちょっと待った、腎陰って、すべての陰の根本なんだから、脾陰虚にだってつながるんじゃないの? 「ほとんどない」ってことは、可能性ゼロってことじゃないわよね? 誰だってそう思いますよねぇ…。 私も初めはそう思った。 では、脾の生理と病理、脾の病証を復習しておきましょう。
脾は、「昇清」という生理特性、「運化」という生理作用を持ち、上昇と変化をもたらす。 また、水液を運化する役割があって、水湿は十分に存在するため、「喜燥悪湿」でもある。 ということは、陰陽どちらかというと、陽の働きが強めなのが通常と言えます。 そう、脾はもともと陰虚になりにくい。
では、どんなときに脾陰虚が起こるかというと、脾気虚が長引いて運化がうまくできず、鬱熱を生じた状態が慢性化したときで、必ず脾気虚が先行する。 なので、脾陰虚証と表記する場合も、その実態は脾気脾陰両虚なのです。 気陰両虚は、気虚が陽虚に進行して、陰陽両虚となる危険性を含んでいます。
心陰虚や肝陰虚、肺陰虚は、腎陰虚から波及することがあり、その逆もあります。 そして、心腎、肝腎、肺腎の陰虚が同時にみられる場合に、心腎陰虚、肝腎陰虚、肺腎陰虚となるのです。
(10) 心腎陰虚証
心腎陰虚の症状は、心陰虚+腎陰虚で、↓以下のようになります。
・ 心陰虚症状: 心悸、不眠
・ 腎陰虚症状: 腰膝酸軟、耳鳴り、遺精、帯下
・ 陰虚共通症状: 手足心熱または五心煩熱、潮熱、盗汗
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数
心陰虚と腎陰虚を併発すると、心陰虚による虚熱がより強くなって、心火亢盛を引き起こしやすくなります。 そうなると、心腎陰虚+心火亢盛となって、心腎不交証になります。
(11) 肝腎陰虚証
肝腎陰虚の症状は、肝陰虚+腎陰虚で、↓以下のようになります。
・ 肝陰虚症状: 目の乾き、転筋、胸部の隠痛
・ 腎陰虚症状: 腰膝酸軟、耳鳴り、遺精、帯下
・ 陰虚共通症状: 手足心熱または五心煩熱、潮熱、盗汗
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数
(12) 肺腎陰虚証
肺腎陰虚の症状は、肺陰虚+腎陰虚で、↓以下のようになります。
・ 肺陰虚症状: 乾いた咳、粘稠性で少量の痰、咽頭の乾き
・ 腎陰虚症状: 腰膝酸軟、耳鳴り、遺精、帯下
・ 陰虚共通症状: 手足心熱または五心煩熱、潮熱、盗汗
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数
(13) 心腎不交証
心腎不交の症状は、心腎陰虚+心火亢盛で、↓以下のようになります。
・ 心陰虚症状: 心悸、不眠
・ 心火亢盛症状: 心煩、口渇、口舌の潰瘍、衄血・吐血
・ 腎陰虚症状: 腰膝酸軟、耳鳴り、遺精、帯下
・ 陰虚共通症状: 手足心熱または五心煩熱、潮熱、盗汗
・ 舌脈所見: 舌質紅、舌苔少、脈細数
心腎不交は、心と腎とがうまく交通していない状態、つまり、両者の関係が失調した状態です。 身体の陰陽は、五臓それぞれでも保たれていますが、全体としてのバランスには、心と腎が深くかかわっています。
心の生理と病理にあるとおり、心は「全身の陽気を主る」生理特性を持っています。 心は身体上部にあって、心陽は強くなりやすい。 そんな心陽を滋養しながら制御するのは心陰で、心陰を強力にバックアップするのは腎陰です。
一方、腎の生理と病理にあるように、腎は「陰陽の根本」ですが、蔵精・主水という生理作用を持ち、身体下部にあって、どちらかというと陰の働きが主となります。 とはいえ、腎陰を上昇させ、その恩恵を全身に行きわたらせるには、腎陽の推動力は不可欠。 その腎陽をバックアップするのが心陽です。
こうした心腎の交通によって、全身の陰陽バランスが調整されています。 なので、腎陰虚の併発は、単なる心陰虚や火邪による心火亢盛より、症状は激しい。 腎陰のバックアップが十分に得られないため、心陰はますます消耗して、心火の勢いが増していってしまうからです。
勢いを増した心火は上昇するばかりで、心陽の正常な働きは失なわれます。 腎陰虚によって、ただでさえ滋養を十分に得られていない腎陽は、心陽のバックアップも得られないってことですね。 そうなると、腎陽もやがて消耗してしまいます。
つまり、心腎不交の状態が続くと、陰陽両虚となる危険性が高い。 それは、全身の陰陽バランス、全身の機能失調へと直結しますから、脾気脾陰両虚から進行した陰陽両虚よりも、事態は深刻です。
陽虚系の臓腑兼証
(14) 心腎陽虚証 = 心陽虚証 + 腎陽虚証
(15) 脾腎陽虚証 = 脾陽虚証 + 腎陽虚証
ここで気づくのは、肝腎陽虚と肺腎陽虚がないこと。 気虚血虚系のところにも書いたように、肝気虚はないので、肝陽虚もなく、肝腎陽虚はない。 じゃあ、肺気虚はあるんだから、肺陽虚もあって、肺腎陽虚はあるんじゃないの? そう思ったので、調べてみました。
肺の病証に、肺陽虚は載せていません。 それは、東洋療法学校協会編『東洋医学概論』に記載がなかったからなんですが、『全訳中医弁証学』(たにぐち書店)には「肺陽虚証(肺気虚+内寒)」があり、『中医弁証学』(東洋学術出版社)には「虚寒肺痿証」として書かれています。 つまり、肺陽虚はある。
それなのに、なぜ教科書には載せていないのか? 症例が少ないから…かも? 肺の生理と病理にあるように、肺は「気を主る」ので、気虚のほうが目立つというか、病態として重要というか、そんなところでしょうか。 また、肺は身体上部にあるので、陽虚へ進行しにくいとも考えられます。
で、肺腎陽虚はどうか?というと、『全訳中医診断学』と『中医弁証学』のいずれにも記載がありません。 ということは、肺腎陽虚は、理論的にはありそうでも、臨床的には起こりにくいのかも。 あるいは、腎陽虚や心腎陽虚などとの鑑別が難しい事例が多いということかもしれません。
(14) 心腎陽虚証
心腎陽虚の症状は、心陽虚+腎陽虚で、↓以下のようになります。
・ 心陽虚症状: 心悸、胸悶、顔面蒼白
・ 腎陽虚症状: 腰膝酸軟、精神疲労、浮腫、陽萎、不妊
・ 陽虚共通症状: 畏寒、四肢の冷え、自汗、息切れ、易疲労、倦怠感
・ 舌脈所見: 舌質淡紫、舌苔白滑、脈沈微
「陽気を主る」心と「陰陽の根本」である腎。 これらの陽気がともに不足した状態ですから、身体の上部も下部も冷えるし機能も一段と低下して、心陽虚あるいは腎陽虚が単発しているときよりも、症状は悪化します。
(15) 脾腎陽虚証
脾腎陽虚の症状は、脾陽虚+腎陽虚で、↓以下のようになります。
・ 脾陽虚症状: 食欲不振、大便溏薄、腹脹
・ 腎陽虚症状: 腰膝酸軟、精神疲労、浮腫、陽萎、不妊
・ 陽虚共通症状: 畏寒、四肢の冷え、自汗、息切れ、易疲労、倦怠感
・ 舌脈所見: 舌質淡胖、舌苔白滑、脈沈微
脾陽虚では大便溏薄、すなわち便が緩くなる程度ですが、腎陽虚が加わると、水穀の運化はさらに悪化して、未消化のまま下痢するようになります。 特に、陰が強い夜間により冷えるため、明け方にひどい下痢を起こす。 これを五更泄瀉(ごこうせっしゃ)あるいは鶏鳴下痢といいます。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
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