ブライアン・デ・パルマ1) 監督

 

禁酒法時代のシカゴを舞台にしたギャングのボス,アル・カポネと逮捕に向けて奮闘するチーム「アンタッチャブル」の物語

 

薔薇の名前」 とのつながりはショーン・コネリーです。

 

アル・カポネをモデルにした映画はたくさんあります。古くは犯罪王リコ(1931),民衆の敵(1931),暗黒街の顔役(1932)といった映画が1930年代ギャング映画の代表作で,いずれもアル・カポネをモデルにした映画といわれています。

 

この映画のアル・カポネを演じたロバート・デニーロがすごいですね。

これまで紹介したいろんな映画での演技もすごかったですが,この映画のカポネのキレ具合,たまらんです。

 

カポネのやらかした犯罪では聖バレンタインデーの虐殺が有名です。この事件をコメディにしたのが以前に紹介したお熱いのがお好き(1959)ですが,その事件からしばらくして別の事件も起こしています。

 

 

パーティで裏切り者をバットで殴り殺すというものです。実際には3人を血祭りにしていますが映画の中では1人でした。

この場面も鬼気としたカポネを演じるロバート・デニーロにはすごみがありました。

 

ロバート・デ・ニーロはアル・カポネの利用していたオリジナルの仕立て屋を探し出し映画のために同じ服を作らせたり,カポネが着用していたのと同じスタイルのシルクの下着をカメラに映ることはないにもかかわらず着用することにこだわりました。

デ・ニーロの アクターズ・スタジオ出身でメソッド・アクターとしての名声を知っていたプロデューサーたちは,それを受け入れています。

 

映画冒頭のシーン,カポネが理髪椅子に座り,記者たちに囲まれているのは,彼が "世界の王"であることを示すためでした。

セットに置かれたコロンのボトルや髭剃りブラシなどの小物類のは本物のカポネが所有していたものだそうです。

 

ロバート・デ・ニーロは、自分の演技が アル・カポネ (1959)のロッド・スタイガーの演技から影響を受けていたことを認めています。

 

 

一方,この映画の主人公,酒類取締局捜査官 エリオット・ネスも実在の人物で,この映画でのネス (ケビン・コスナー)は相当格好良く描かれています。

実生活のネスは銃が嫌いで,勤務中は空のホルスターを着用することが多く,生涯を通じて人を撃ったことはありませんでした。ましてやカポネの子分フランク・ニッティを追い詰めて殺害したり,カナダ国境での馬に乗って禁酒法違反の襲撃に参加したというのは,とんでもない話です。

 

またカポネは捜査官らを殺しても面倒が起こるだけだとわかっており,実際にはアンタッチャブルに対しては部下に非暴力の命令を出していました。何度も彼らを買収しようと試みたことは事実ですが,エリオット・ネスや彼の部下を殺そうとしたことは一度もなかったというのが正しいようです。

実際の買収話ではアル・カポネはネスに週あたり2000ドルの報酬で密造酒に目をつぶるように持ちかけました。現在では3万ドル以上にあたるようです。

「アンタッチャブル」という言葉の由来は,ネスが贈収賄に屈せず,カポネの組織と結託しなかったことから,「触れてはいけない」という意味で「アンタッチャブル」と呼ばれました。この称号は汚職や賄賂に屈せず,非情なまでに厳格で清廉な態度を貫いたことを表しています。

ネスは,後年,お金で苦労し,54歳で亡くなった時にはほとんど無一文でした。

 

エリオット・ネスがアル・カポネを逮捕した功績は彼が亡くなったときには完全に忘れ去られていて,シカゴの新聞に彼の訃報が載ることもありませんでした。彼の英雄的名声が高まったのは、テレビシリーズ アンタッチャブル (1959)が放映されてからです。

映画の最後で記者から" They're going to repeal Prohibition. What'll you do then? " 「禁酒法は廃止になりそうです。その時はどうします?」 と尋ねられると彼は" I think I'll have a drink. "「飲むと思うよ」と答えましたが,現実でも彼は大酒飲みになり,後にアルコールが原因の交通事故をおこしています。

 

 

 

 

ショーン・コネリーの老警官のマローンもイイですね。

ネスが最初の手入れで失敗し橋の上で落ち込んでいるところでの会話

You just fulfilled the first rule of law enforcement

Make sure when your shift is over you go home alive.

Here endeth the lesson.

 警察官の鉄則その一

 生きて家に帰るべし

 レッスン修了,  名言です。字幕の和訳も良かったです。

 

 

 

オスカー・ウォレス(チャールズ・マーティン・スミス2) )のキャラクターはカポネを脱税で起訴するために働いた国税庁の捜査官を大まかにモデルにしていますが,実生活ではネスやアンタッチャブルとはほとんど関係がなかったようです。

 

 

腐ったリンゴがいやなら樽の中を探すな。木から取れ

そう言ってスカウトしたストーン (アンディ・ガルシア3) )

シカゴ駅での銃撃戦,格好良かったですね。

 

 

 

オリジナルの脚本では最後の銃撃戦はネスとストーンが停車中の列車内でカポネの一味と戦うというものでした。

しかし1930年代の列車を探すには費用がかかりすぎると判断したためシカゴ,ユニオン駅の階段での銃撃戦になったそうです。

このシーンはロシアの無声映画 戦車ポチョムキン(1925)へのオマージュを持って作られたそうです。階段を転がり落ちる乳母車,赤ちゃん無事で良かったですね。

ブライアン・デ・パルマは,この映画のために企画した列車内での戦闘シークエンスを修正して カリートの道 (1993)で使用しました。

 

 

裁判で陪審員が買収されていましたが,これは実際にあった話のようです。1人1,000ドルで買収したらしいですが,密告により陪審員の入れ替えが行なわれました。

 

ネスとカポネの会話

カポネ   何だと

ネス     勝負は最後まで分からんって言ったんだよ

カポネ   何?

ネス     おまえは終わりだ

カポネ   大口をたたくな

ネス     レッスン修了。 マローンに言われたセリフをここで使います

 

溜飲が下がります

実際のカポネの最後は梅毒第3期,脳梅毒までいってみじめな最期を送っています。

因果応報

 

 

この映画ではショーン・コネリーがアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。そのほか美術賞,衣装デザイン賞,作曲賞がノミネートされました。

ショーン・コネリーは007シリーズで成功した俳優ですが,ジェームズ・ボンド役にはまるのを嫌がり,007を降りています。しかし「薔薇の名前」やこの映画のようにしぶい役どころでいい味を出してジェームズ・ボンド以外の映画でも成功していますね。もっともスコットランド訛りが抜けきらないのでアカデミー賞助演男優賞の受賞には異論もあったと言われています。僕にはスコットランド訛りとクィーンズイングリッシュの区別はよく分かりませんけど・・・

 

 

パラマウントのロゴのあと始まるオープニングクレジットで流れるエンニオ・モリコーネのメインテーマ曲

これから始まる男たちの活躍を暗示する力強いメロディですごく良かったです。ゾクゾクします。

個人的にはアカデミー賞作曲賞を受賞させたかったのですが,この年はラストエンペラー(1987)で坂本龍一がアカデミー賞作曲賞を受賞しているのでやむを得ないかなぁ。

 

 

1) ブライアン・デ・パルマ

アイビー・リーグのひとつコロンビア大学卒業のインテリです。

1968年に監督した 「ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN2・黄昏のニューヨーク(原題:Greetings)」という映画がベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞して注目されました。

ロバート・デ・ニーロとの関係では有名監督の中では一番古いんじゃないでしょうか。

その後,ハリウッドに移住して,南カリフォルニア大学に出入りすることで,友人の映画企画を手伝ったりしていました。その友人とはジョージ・ルーカスで,手伝った作品は スター・ウォーズ (1977) でした。スティーブン・スピルバーグ,フランシス・フォード・コッポラ,マーティン・スコセッシらと親交が深いのもこの頃からです。

ロバート・デ・ニーロの出世作とも言えるミーン・ストリート(1973)でマーティン・スコセッシに彼を紹介したことで映画のエンドクレジットにspecial thanks creditが登場しています。

当初はタクシードライバー(1976)の監督も行なう予定だったようですが,マーティン・スコセッシに脚本家のポール・シュレイダーを紹介しています。

ファントム・オブ・パラダイス(1974),キャリー(1976)を監督し,キャリーで,主人公キャリーをいじめる女子高生役だったナンシー・アレンと結婚しています(後に離婚)。その後に監督した殺しのドレス(1980),スカーフェイス(1983),ボディ・ダブル(1984)はかなりNegativeな評価をされ,3作ともラジー賞 (ゴールデンラズベリー賞) の最低監督賞に最多ノミネートされています。僕は個人的に全部おもしろかったと思いますけど。

 

2) チャールズ・マーティン・スミス

あまり有名な俳優ではないかもしれませんが,チャールズ・マーティン・スミスは僕にとって,ジョージ・ルーカス監督のアメリカン・グラフィティ(1973)のテリー(ザ・タイガー) そのものです。

 

3)  アンディ・ガルシア

「アンタッチャブル」 で注目されるようになった俳優です。

リドリー・スコット監督のブラック・レイン(1989)では高倉 健,松田優作と共演していますね。この映画の松田優作はすごかったです。

ゴッドファーザーPART Ⅲではヴィトー・コルレオーネの孫でマイケルのあとを嗣ぐドン・ヴィンセント・コルレオーネ役でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。オーシャンと十一人の仲間(1960)のリメイク作品,オーシャンズ11(2001)では仇役で出演しシリーズ化されていました。