ピーター・ウィアー監督
 

文明社会から距離を置く「アーミッシュ」の少年が,殺人を目撃します。事件の担当に当たった刑事は犯人を突き止めましたが,命を狙われ負傷します。証人である少年とその母親を守るために彼らの村へ逃げ込みました。厳格で静かな生活のなかで刑事は傷を癒やし母親と心を通わせていきました。犯人たちが居場所を突き止め襲ってきますが,迎え撃つというお話

 

アラビアのロレンス(1962)とはモーリス・ジャール つながりです。

 

 

ペンシルベニア州,アーミッシュの葬式から始まります。

鮮やかな新緑の小麦畑が映し出されました。美しい風景です。

 

若い男性が亡くなり(何でなくなったのかは不明)残された妻レイチェル(ケリー・マクギリス)と息子のサミュエルは列車でボルチモアの姉の元に向かいました。乗り換えの駅(たぶんフィラデルフィア)でサミュエルがトイレに入りました。

 

男が洗面台で男が顔を洗っています。

アメリカ映画では結構,洗面台で顔を洗っている場面を見かけますが,そういう習慣でもあるんでしょうか。

余りきれいな洗面台ではないんですが・・・

そして,そのあと彼は刺殺されます。

 

 

サミュエルがその現場を偶然目撃しました。これがこの映画の原題の"Witness",目撃者あるいは証人のことです。

 

 

犯人の男は物音を聞いて調べますが,うまく切り抜けました。

この辺の展開はちょっとドキドキします。

 

しかし,トイレが完全に個室になっていないところがアメリカですね。

密室での薬物取引,性犯罪などを未然に防ぐため,外から複数人の足が見えないかを確認できるようにするためだということです。また個室内で薬物過剰摂取(オーバードーズ)などで意識を失った際,外からすぐに異変に気づくことができ,下から引っ張り出すことができます。

 

警官殺しの担当刑事はジョン・ブック(ハリソン・フォード)です。

 

 

サミュエルを警察署に連れて行き,面とおしをします。

偶然掲示されていた新聞に犯人,麻薬科マクフィー刑事(ダニー・グローヴァー)を見つけました。

 

警察内の犯罪にブックは上司である本部長に相談しました。

このことはふたりだけしか知らないはずでしたが,ブックが帰宅すると襲撃されました。

本部長も絡んでいると考え,アーミッシュの親子を連れだし,彼らの村に送りました。

 

しかし,脇腹を撃たれており意識消失。

病院を受診すると居場所がわかってしまいます。

 

牛乳と亜麻仁油の湿布で感染を防げるといってアーミッシュの民間療法で治療されました。

 

銃創の治療は損傷の程度,部位,内臓損傷の有無,患者の全身状態によって大きく違ってきます。

ブックの銃創が脇腹を貫通して内臓損傷がないものとすると,まず行うべき治療は創部のデブリードマン (壊死組織の除去),洗浄と感染予防でしょう。

銃創周囲の損傷や汚染がなさそうなので行うのは洗浄でしょう。

本来は抗菌剤などで感染予防すべきですが,それができない場合はひたすら洗浄でしょうね。

牛乳と亜麻仁油の湿布は効果がないどころか感染症を悪化させる原因になります。

 

死にかけたブックですが,レイチェルの夜通しの看病で生きながらえました。

着ているものがめだつといってレイチェルの亡くなった夫の服を着ますがつんつるてん

そして穏やかなアーミッシュの生活が描かれます

 

 

車の修理がうまくいってラジオからサム・クックの"Wonderful World"が流れます。

ブックとレイチェルは踊りはじめます。彼女は人生で初めて味わったハイテンションな時間ではないでしょうか。

途中ふたりが見つめ合う瞬間がありました。この演出もイイですね。

アーミッシュの戒律では音楽を聴くことやダンスを踊ることは厳しく禁じられています。

だからこそ直後に義父イライが現れて現実(厳しい戒律)に引き戻される展開がより切なく感じられます。

 

この曲はハリソン・フォードが選曲しました。

歌って,踊らなくてはならないので監督から自分で選曲するように指示されたようです。

 

 

アーミッシュの仲間の納屋をみんなで造りますがブックも加わりました。

モーリス・ジャールの音楽イイですねぇ。

 

「いい腕(大工仕事)しているんだって?」「昔やっていたんだ」という会話がありましたが,ハリソン・フォードは俳優になる前は本職の大工でした

 

Mas que nada(1966,Billboard Hot 100 47位),ビートルズのカバー曲,The Fool On The Hill (1968,Billboard Hot 100 6位)などのヒットがあるセルジオ・メンデス の録音スタジオ建設を行った大工の一人です。

 

 

納屋造りに参加したアーミッシュの男子です。

①ヴィゴ・モーテンセン: この映画がデビュー作です。後にロード・オブ・ザ・リング(2001)のアルゴラン役を演じます。

②アレクサンドル・ゴドゥノフ: この映画では無礼な観光客にアイスクリームで顔をなでられてもがまんする穏和なダニエル役でしたが,ダイ・ハード(1988)では敵意をむき出しにする武闘派カールという全く異なる役柄を演じていました。

 

アルゴラン,カール,ハン・ソロ役の勢揃い。

感慨深いものがありますね。

 

 

"It's not our way.","But, it's my way."

"You're making a mistake",イイね。

 

アーミッシュは暴力には全く否定的です。

ボクも暴力には反対ですが,でもね,この場面はやっぱり溜飲が下がりますよね。

 

 

ブックの行動が警察に通報され分ったのでしょうか。

ブックを殺りに男たちがやってきました。

 

 

誰も闘ってくれる味方もいない中で紛争するところは真昼の決闘(1952)を思わせますね。

サイロからトウモロコシを落とすところは考えましたね。

 

上から大量の穀物を浴びたりして埋まってしまう事故は,穀物生き埋め(Grain Entrapment)と呼ばれ,アメリカの農場では現在でも恐れられている重大事故のようです。

流砂のように自力で脱出することは不可能であり,細かい破片を吸い込むことで一瞬で気道閉塞,窒息が起きるようです。

 

そしてマクフィー刑事を返り討ち。

サミュエルが鐘を鳴らしてアーミッシュのみんなが駆けつけました。

本部長にみんなを殺すのかと迫り,本部長は降参。

そしてお別れの時が来ます。ブックとレイチェルが見つめ合いました。

 

 

レイチェルの義父には"You be careful out among them English!"と声をかけられました。

この言葉はレイチェルとサミュエルが列車に乗る時はかけた言葉です。

"English"とはアーミッシュ以外の人々すべてを指す言葉です。

平和なアーミッシュの世界と外部の暴力的で現代的な社会との間の文化的な隔たりを浮き彫りにする言葉ですね。

 

車で村を出て行くブックが,歩いてくるダニエルとすれ違います。

無言のアイコンタクトだけでした。レイチェルに思いを寄せ,ブックにジェラシーを感じていたダニエルですが,命懸けでアーミッシュの平和を取り戻してくれたことに敬意を込めて見送ります。

一方,この平和な村には留まれない人間であることを自覚しているブックはレイチェルとサミュエルを守っていけるのはダニエルだと感じていたのでしょう。

 

 

ブックは暴力が渦巻く都会の刑事であり,レイチェルは平和な聖域に生きる女性です。

ふたりが一時的に心を通わせることはできても一緒の社会では生きられないという現実をお互いに理解していました。

安易なベッドシーンを描いてしまえば,この物語はよくあるハリウッドのメロドラマに成り下がっったんじゃないですかね。

お互いへの深いリスペクトがあるからこそ,抱き合うだけの「寸止め」の美学と表現されました。

 

 

 

アカデミー賞は脚本賞,編集賞の2部門で受賞しています。

この映画の脚本は,脚本が明確に構成されているために新人の脚本家によく参考にされているそうです。

そのほか,作品賞,主演男優賞(ハリソン・フォード),監督賞(ピーター・ウィアー),作曲賞(モーリス・ジャール),撮影賞美術賞がノミネート部門されています。

ハリソン・フォードがノミネートされた唯一の映画です。

 

AFI(アメリカ映画協会)の選ぶ情熱的な映画ベスト100 で82位に選ばれていました。

 

近代映画社SCREEN誌,執筆者が選ぶその年のベストテンで第3位,読者の選ぶベストテンでは第2位でした。

 

 

 

① アーミッシュ

キリスト教の一派でヨーロッパ社会での宗教的弾圧・迫害のため18世紀以降に北米に移住してきた集団です。

この映画の中でもドイツ語らしい発音で話していましたね。

移住当時の質素な共同体生活を営んでいます。

電化製品や自動車などの現代技術を原則として拒絶し,馬車を使い,昔ながらの自給自足に近い質素な共同体生活を営んでいます。映画の中でも馬車で移動して交通渋滞の元を作ったり,電話もないことが示されました。

ボタンも贅沢だといっていましたが,映画の中ではみなボタンのシャツを着ていましたね。

全ての宗教に言えることですが,生れながらにアーミッシュとして生きていくのはその子の将来を最初から決めてしまい,可能性を否定するのではないかと思いました。

でも16歳になると一時アーミッシュの掟から完全に解放される期間があるようです。

その後,アーミッシュの村に戻るか,いわゆる一般社会で暮らすかを選択するようですが,多くはアーミッシュの村を選択するようです。

煩悩にまみれて俗世で生きているボクには理解しがたいですね。

 

 

➁ ケリー・マクギリス

レイチェル役を得たときグリニッジ・ヴィレッジのコーヒーハウスで働いていました。

ハリソン・フォードとピーター・ウィアー監督が彼女に会いに行き,この役をオファーしました。

ブレードランナー(1982)でもヒロインは「レイチェル」でしたね。偶然でしょうけど。

役作りのために撮影開始前にアーミッシュの未亡人とその子供らとしばらく暮らしました。

この映画で認められトップガン(1986),告発の行方(1988)に出演しました。