マーティン・スコセッシ監督

 

「グッドフェローズ」とのつながりはもちろんマーティン・スコセッシ,ロバート・デ・ニーロ1)です

「いとしのレイラ」との関連はありません

 

 

ベトナム戦争帰還兵のタクシードライバー,トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)が主人公です。

大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィ(シビル・シェパード)に惹かれますが,ポルノ映画館に連れて行き絶交されます。孤独感が募り,汚れた社会への怒りやいら立ちに駆り立てられたトラヴィスは銃を手に取ります。

大統領候補の暗殺を試みましたがSPに気づかれ,その足で12歳のアイリス(ジョディー・フォスター)に売春させていた輩を一掃するという話。

 

 

排気ガス(マンホールからの蒸気?)の中を走る車から映画が始まります。

サックスのメロディが流れ,トラヴィスがタクシー会社を訪れます

海兵隊を栄誉除隊したと一言だけでベトナム戦争従事者だとわかります

 

トラヴィスのモノローグがいい感じです

Thank God for the rain to wash the trash off the sidewalk.

           歩道のゴミを洗い流してくれる雨に感謝します

All the animals come out at night - whores, skunk pussies, buggers, queens, fairies, dopers, junkies, sick, venal.

           娼婦,くさいプッシー,ホモ,おかま,麻薬中毒者,ジャンキー,病人,腐敗,すべての動物が夜になると出てくる。

Someday a real rain will come and wash all this scum off the streets.

           いつか本当の雨が降って,このクズどもを街から洗い流してくれるだろう

 

 

 

ここでベツィ(シビル・シェパード)登場

白いワンピースを着たベツィが大統領候補の選挙事務所に入っていきます。傍らに座っているのはスコセッシ監督です。その後も妻が黒人の部屋にいて44マグナムで殺すと言ったタクシーの乗客もスコセッシが演じています。

 

 

ベツィを映画に誘いますが,こともあろうに連れて行った映画がポルノ。

この時点でトラヴィスの精神構造は常人とはかけ離れたものだと気づきます。

そのあと謝罪の電話をかけますが冷たくあしらわれます。当然と言えば当然。無視されます。

 

 

トラヴィスは落ち込んでタクシー仲間の先輩(ピーター・ボイド)にここを飛び出して何かやりたいと相談しますが「人間なんてなるようにしかならない,好きなことをやれ,俺達は負け犬だ,どうにもならん」としか言われませんでした

トラヴィスは今の自分でいいとは思っていませんし,何かやりたいと思っていましたが,何をやったらいいかわかりません。

 

寂しさ,孤独で漠然とした毎日が長い鎖のように続いていきますが,人生の転機が来て突然変わったと独白を言います。そして銃を手に入れ,なまった体を鍛えなおします

 

 

有名なセリフ "You talkin' to me?"

 

2005年AFIが選ぶアメリカ映画の名セリフベスト100の第10位にランクされています。

この鏡に向かい独り言を言うシーンは,ロバート・デ・ニーロがアドリブで演じています。脚本には「トラヴィスが鏡を見る」とだけ書かれてあったと言うことです。

 

世の中のクズどもにがまんができなくなったとつぶやき,狂気がさらに進行していきます

 

コンビニで強盗を銃殺したあと,Jackson Brown の" Late for the Sky" が流れるテレビをじっと見ています。

この曲は孤独感と別れを歌った曲なのでトラヴィスの気持ちに寄り添っているのでしょうか

 

 

 

すこし前にアイリス(ジョディ・フォスター2))がタクシーに乗ろうとして,ひもの男スポーツ(ハーヴェイ・カイテル)に連れ戻されたことがありました。

アイリスは12歳の娼婦です。

 

何度かアイリスを見かけ,こんな生活から抜け出して親の元に帰るようトラヴィスが諭します。

 

トラヴィスは「スポーツを寄生虫であり,悪党だ」と言いますが,アイリスは結局,スポーツの甘い言葉に丸め込まれます。ジョディ・フォスターの演技が見事です。

 

朝食ではトーストにたっぷりジャムを塗りました。最初にこの映画を見た時,これ食べるのかよと思いましたが,さらに砂糖をまぶして食べていました。

ヘロイン中毒者を鎮める方法のひとつが食事に砂糖を追加することとされ,これを取り入れた演技だと言うことです。

 

 

 

 

一方,大統領候補パランタインの選挙演説会場にモヒカンのトラヴィス登場

 

 

SPに見つかり退場

襲撃目標を変更し,アイリスのもとに向かいます。

スポーツに絡み,腹に一発,追いかけて来たスポーツから首を打たれ,手で押さえながら,あと2人を殺害。自殺を試みますが,弾切れ,指で作った鉄砲で頭を撃つポーズ。

 

 

 

この場面は迫力満点

 

その後,少女を売春のアジトから救い出したとヒーローとして新聞に載りますが,アイリスの両親役で新聞に載っていたのはスコセッシの両親でした

 

 

 

この映画の公開前年の1975年春にベトナムサイゴン陥落がありベトナム戦争は終結しました。まだベトナム戦争の影響を色濃く残している時代です。

この映画を最後のアメリカンニューシネマと言うように位置づける人もいるようです。

 

ベトナム戦争帰還兵のトラヴィスはおそらくPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥ったと思われます。腕立て伏せをして体を鍛えている場面では背中に大きな瘢痕(傷跡)がありました。

多くのベトナム帰還兵に対して政府の支援は十分ではなく,また戦争で勝利したわけでもないので社会の反応も冷たいといった環境から不眠症に悩まされていたに違いありません。

社会の腐敗に悪態をつくのはそのせいでしょう

 

大統領候補のパランタインにこの街の腐敗を綺麗にしてくれと訴えましたが,テレビ討論や演説では,ありきたりの大衆に受ける公約しか表明しないパランタインを見て攻撃の対象になったのでしょうか。しかし優秀なSPにより阻止されました。安倍元首相の時とは違いますね。

そのかわりにアイリスを救い出したことが,街の腐敗に直接手を下したとメディアに報道され,アイリスの両親からも感謝されるという結果になりました。

 

この映画は1976年 第49回 アカデミー賞作品賞にノミネートされていますが,受賞したのはロッキー(1976)でした。主演男優賞もロバート・デ・ニーロがノミネートされましたが,受賞はネットワーク(1976)のピーター・フィンチでした。男優賞にはちょっと納得いかないかな。作曲賞も     バーナード・ハーマン3)がノミネートされていますが,オーメン(1976)のジェリー・ゴールドスミスが受賞しています。助演女優賞のジョディ・フォスターもノミネート止まりで,結局アカデミー賞には無縁でした。

ただしカンヌ国際映画祭ではパルム・ドールを受賞しています。

 

1)   ロバート・デ・ニーロ

この人も,リー・ストラスバーグのアクターズ・スタジオで演技を学んでいます。ミーン・ストリート(1973)でスコセッシ監督とタッグを組んで以来,「タクシードライバー」以外に,ニューヨーク・ニューヨーク(1977),レイジング・ブル(1980),キング・オブ・コメディ(1982),グッドフェローズ(1990),ケープ・フィアー(1991),カジノ(1995),アイリッシュマン(2019)でスコセッシと共同して作品を作っています。「レイジング・ブル」ではアカデミー賞主演男優賞を受賞しています。

そのほか,フランシス・フォード・コッポラ監督のゴッドファーザー PART II(1974)でもアカデミー賞助演男優賞を受賞しています。

そのほか,主だった映画はディア・ハンター(1978),ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984),恋に落ちて(1984),アンタッチャブル(1987),俺たちは天使じゃない(1989),レナードの朝(1990),ケープ・フィアー(1991),カジノ(1995),ザ・ファン(1996),アナライズ・ミー(1999)と多数あります。みな,それぞれコメントつけたい映画ばかりです。今世紀に入ってからも多くの映画に出演しており,アン・ハサウェイと共演したマイ・インターン(2015)なんかは定年後の老人の役なのですが,「タクシードライバー」と同じ人物かと思わせるホノボノした人物を演じていました。この映画も良かった。

 

2)  ジョディ・フォスター

子役としてTVドラマで活躍していましたが,「タクシードライバー」でアカデミー賞助演女優賞をノミネートされ高い評価を得ました。

ただ,1981/03,レーガン大統領の暗殺未遂事件は,この映画の影響を受けたとされたと言われています。

犯人は本作で演じたアイリスに執着し,イェール大学時代のジョディ・フォスターにつきまとっていたようです。彼女に宛てた手紙には感動を与えるために大統領を暗殺するつもりであるとかかれていました。

ホテル・ニューハンプシャー(1984)で本格的に映画出演し,告発の行方(1988),羊たちの沈黙(1991)では2度,アカデミー賞主演女優賞を受賞しました。

その後もマーヴェリック(1994),コンタクト(1997),パニック・ルーム(2002),フライトプラン(2005)などに出演しています

 

 

3)  バーナード・ハーマン

名門ジュリアード音楽院卒業です。悪魔の金(1941)でアカデミー作曲賞を受賞しています。市民ケーン(1941)やヒッチコック監督の映画,ハリーの災難(1955),間違えられた男(1956),知りすぎていた男(1956),めまい(1958),北北西に進路を取れ(1959),サイコ(1960),鳥(1963),マーニー(1964)の音楽を担当しました。「知りすぎていた男」の主題歌「ケセラセラ」はアカデミー歌曲賞を受賞していますが歌の作曲はハーマンではなくジェイ・リビングストンです。

「タクシードライバー」のサウンドトラック録音は2日間で行われました。

ハーマンは心臓病のため指揮することはできず,実際の指揮は他の人が行ない,ハーマンはコントロールブースから見ていました。

セッションが終わって数時間後の朝,息を引き取りました。なんか劇的ですね。