里親決定!part2
里親決定!part3
里親決定!part4
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里親決定!part8
里親決定!part9
「どうぞ、どうぞ。中にあがって下さい。」
ブロンドに染まった眉毛の下の目を
遠慮がちに伏せながら、
「いえ。俺、裸足なんで...」
こうおっしゃる。
お若いのに、しっかりしてるな....
どうやら、うちの中へ促されることを
想定していらっしゃらなかったらしい。
いいのよ。おにいさん。
靴下履いてなくても。
チェリーなんて、毎日外から
裸足で上がってくるんだから。
いつも肉球から道路の匂いするわよ?
アスファルトの匂いっていうの...?
「いえいえ。大丈夫ですよ。上がって下さい。」
居間へお通しすると、チェリーが居合わせた。
「かわいい...」
チェリーをご覧になって、しみじみとおっしゃる。
この年頃のおにいさんなら、アイドルを見た時に
しみじみと、こう言いそうなものだけどね。
このおにいさん。猫が好きなんだな...
里親に応募なさるくらいだから、
もちろん猫がお好きなんだろうけど。
でも、チェリーのすぐ近くに、ぽんちゃんもいたのだ。
里親さんとしては、普通、まず子猫の方に
一番関心と興味がいくものじゃないだろうか。
いいな。この人。
ただ。いくつかお伺いしておかねば。
「今日は月曜日ですけど、お仕事、大丈夫だったんですか...?」
月曜日の朝一番のメールに返信して、
その日の午後には、こちらに来られる方だ。
一体、どんなお仕事してるんだろう...
正直。いや、絶対。
堅気の方に、ぽんちゃんをお譲りしたい。
組の抗争に巻き込まれた里親さんのそばにいた
ぽんちゃんが、流れ弾にでも当たってケガしたらどうしよう...
こんなこと、絶対に考えたくはないけれど、
そのケガのせいで死んじゃったらどうしよう...
もしそんなことにでもなったら、私は申し訳なくて
もうとてもチェリーの顔を見ては暮らせない。
「はい。今日は、じいちゃんがやってくれるんで。」
しのぎを...?
だとしたら。頼む。もう帰ってくれ。
子猫なんて飼わずに、トラでも飼ったらどうなんだ。
「おじい様が...?」
地元の商店街でも回ってんの?
みかじめ料の徴収に...?
「はい。うち、○○屋なんです。」
○○組じゃなくて...?
「ああ! ○○屋さんなんですか。」
このおにいさん。
おじい様と一緒に、食べ物のお店を
やっていらっしゃるとのこと。
誰でも知っていて、子供も大人も大好きな食べ物だ。
お店のお名前をお聞きしたので、お帰りになった後
ネットで検索してみたら、口コミでの評価も高く、
地元でも評判の良いお店らしい。
「今日も、うちで作ったものを
持ってこようと思ったんですけど...」
いかにも若い男性らしい感じで、
伏し目がちにこうおっしゃる。
そのお気持ちが、とても嬉しかった。
残念ながら、この方のお店で出しているのは
作りたてが美味しいという食べ物だ。
お住まいの市からうちまでは、車で1時間半くらいかかる。
代わりにと、おにいさんは、とても立派でお洒落な
お菓子の詰め合わせをお持ち下さったのだ。
お若いのに。
ほんとにしっかりしてるな。この人。
ほんの数十秒前まで、流れ弾の心配してたくせに。あんた。
「とてもお若いんですね。失礼ですけど、おいくつですか...?」
正直なところ。
このお若さが気にかかる。
このくらいの年頃の男性なら、
一般的に考えればですよ。
あくまで一般的に言えばですけど、
普通、子猫より彼女を探すんじゃ...?
いや。別に彼氏でもいいんですけどね。
「○○歳です。」
まさに、人生これからね。
「あら。やっぱりお若いんですねー。彼女、いないんですか...?」
私もね。
別に、このおにいさんの年齢や、
私生活に興味はないんだけれど。
でもね。例えばよ...?
もしこのおにいさんが、恋人と別れたばかりだったとして。
その寂しさを、ぽんちゃんで紛らわそうとしているとしたら...
それでもって。
新しい恋人ができてラブラブになった途端、
ぽんちゃんはもう用済みなんてことになったら...
許さん。
ぽんちゃんは、おもちゃじゃない。
「いません。」
おにいさん。
あなたの目の前のおばちゃんはね。
いい年してるの。
今までの人生経験上、時には人を疑うことも
必要だということを、残念ながら痛いほど知ってるわけ。
だから。ごめんなさいね。
もう少し食い下がらせてもらいます。
「あら。そうなんですか? お若いのにー。
彼女、欲しくないんですか...?」
なんて失礼な女だろう。
でもね。ぽんちゃんの将来がかかっている以上、
どうしても、納得するまでお訊きするしかない。
「俺、見た目こんななんで...」
は...?
「こんなって。金髪だってことですか...?」
別にいいんじゃない? きれいよ?
電気がついたシャンデリアみたいで。
眉毛もお揃いだし。
「はい。」
何やら。どうも。もしかすると。
ご自分のカラーに、引け目でも感じてるのかしら。
でも。
かと言って、世の中の大まかな傾向に
迎合するわけじゃあないのね。
飽くまで、ご自分のスタイルを
貫き通していらっしゃるわけで。
いいねー。あんちゃん。
アウトローだなー。
「あら! そんなこと気にしなくても大丈夫ですよ!」
世の中。
ブランドのスーツ着て
痴漢する奴だっているじゃないの。
髪と眉毛の色が、ちょっとばかり人様より
明るいからといって、それが一体何だろう。
ちゃんと、社会人としてご自分の生活を
賄ってるんだから、十分ご立派だと思う。
たとえ髪が虹色だろうが。モヒカンだろうが。
頭のてっぺんからスイカが生えていようが。
好きになっちゃえば、どうでもいいことだから。
最後に、もうひとつだけ。
「おじい様と二人暮らしなんですね?」
こんなお若い方が、おじいちゃんと二人で
暮らしているというのは珍しい。
この家族構成が気になる。
もしかしたら。
何か、のっぴきならない事情でも
あるんじゃないだろうか...?
つい勘ぐってしまう。
「はい。うち、両親が離婚して母親が出て行ったんです。
その後、父親が死んだので、じいちゃんと俺が二人残って...」
そうなのか...
記憶が曖昧なのだが、もしかしたら、
おうちを出たのがお父様の方で、
亡くなったのはお母様だったかもしれない。
「俺、美容師だったんですけど、じいちゃんが
やってる店を手伝おうと思って辞めたんです。」
ちょっと。
最近、涙腺ゆるいんだから...
このおにいさんのキラキラしたブロンドは、
美容師さんだった時の名残りなんだろうか。
おにいさん。
心もキラキラしてるのね?

子猫たちに母乳をあげていたチェリーには、
たくさん栄養が必要だろうと思って、
パウチに入ったお魚をお皿に入れてあげたら、
それを発見したぽんちゃんが大興奮。
「ムッキー!ウッキー!」
こんな雄たけびを上げながら、
小さな体をブンブン。フリフリ。
猿なのか。この子は。
始めは隣で一緒に食べようとしていたチェリーも、
さすがに、このぽんちゃんのパウチ・ハイには
敵わないと思ったらしい。
少し離れたところで、きちんとお座りして、
子猫たちがご飯を食べる様子を静かに見ていた。
パウチを食べ損ねていることに、
怒っている様子は微塵もなかった。
大好物だから、食べたかっただろうに。
チェリーさん。あの時は本当に頭が下がったわ。
私なら独り占めして食べてるもん。絶対。
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