物理ネコ教室104補すべるかころがるか | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 力のモーメントの概念をはじめて研究したのはガリレオ・ガリレイ。その『レ・メカニカ』で詳しく論じています。

 ニュートンが力の概念を運動の法則によって明快に定義したのはガリレオが死んで20年以上たってから。ニュートンがそれを『プリンキピア』で公表したのがさらに20年後。

 科学の歴史は簡単なものから難しいものへ、という単純な進み方をしないことがわかりますね。

 剛体のつりあいについては、今までの内容で一通り完了しているのですが、剛体にかかる抗力の作用点が状況に応じて移動することは、わりと重要なこと。これはプリントにはせず、講座で直接解説していたのですが、いつもかならず解説することなので、そろそろプリント化しておいてもよいかなと思い、新しくおこしました。内容的には、物理ネコ教室104の前後に当たる内容ですので、104補としました。

 では、見ていきましょう。

 まず、前半。

1.の例題、正しい図が描けますか?

 最初に力の釣り合いを習った頃には、右の図のように描いていたのではないでしょうか。

 物体を剛体でなく大きさのない質点という扱いをするときは、右図のように描いても問題はありません。

 しかし、大きさのある剛体として扱う場合は、右図ではダメなのです。理由は、あとの描き込みをご覧ください。

 

2.は、大きさのある物体に横から力を加えたとき、物体が滑るか転がるかを判断する内容です。

 横向きに押す力を大きくしていくと、剛体の力のつりあいの条件から、抗力Rの作用点が、だんだん右方へずれていくのがわかります。

 図2のときの摩擦力が最大摩擦力μNより小さければ、物体は滑り出しません。手の力を大きくすれば、物体はB点を視点にして傾くことになり、転がりだします。

 図2になる前のどこかで摩擦力が最大摩擦力μNに達すると、手で押す力をそれより大きくすると物体は滑り出すことになります。この場合は、物体が転がることはありません。

 これはプリントの図と文章を読んでみてください。

 

 後半は、すべるかころがるかを判断する例題を2つ紹介しています。原理は2.の通りなので、応用して解いてみましょう。

 

 では、描き込みを見ながら、解説します。

 

 

1.の左図の描き込みを見てください。赤字で描いた矢印が、大きさのある剛体のつりあいでわかる、抗力(垂直抗力と摩擦力)です。

 重力mgとつりあうためには、抗力Rは重力と同じ作用線上になくてはなりません。そうでないと、合力0になることができないからです。抗力の成分が摩擦力と垂直抗力ですから、これらの力の作用点は、物体の底面を重力がつらぬく点になります。

 斜面の角度を変えれば、この点の位置は変わっていきます。

 

 右図では、重力mgと抗力Rは偶力になってしまい、合力0になりません。

 物体を質点として扱う場合は正しくても、剛体として扱う場合には正しくない力の作図は、この例題に限りません。もう一度、剛体を扱う場合の鉄則<剛体にかかる力を平行移動してよいのは、その力の作用線上だけ>を思い出しましょう。

 

2.は先ほど述べたとおりです。

 摩擦力fと最大摩擦力μNの大小関係がカナメになっていることを覚えておきましょう。

 

 では、2つの例題を解いてみます。

 

 

3.は物体が滑らずに転がる(傾く)条件を求める問題なので、摩擦力fと最大摩擦力μNの間に、

 

f<=μN

 

の関係がなくてはなりません。「<=」は<と=をあわせた数学の記号ですが、通常の文章では表せないので、「<=」で代用しています。

 

(1)力がTを超えたとき、物体は滑らずに傾き始めたということですので、力がTのときは、まだつりあっています。

 力のモーメントのつりあいの式を、D点を支点にして立ててみてください。

 T=a/2b・mg

 と出ますね。

 

(2)物体がすべることなく転倒する条件ですから、さきほどの通り、f<=μNを用いればいい。

 (1)でTの値が出ているので、fとNは、水平方向と鉛直方向の力の釣り合いの式を立てて求めます。

 描き込みの通り、f=T=a/2b・mg、N=mgとなりますので、さきのf<=μNに代入すれば、すべることなく転倒するためのμの値の範囲がわかります。

 μ>=a/2b

 ですね。

 

4.は3.とは逆に、物体が転がる前に滑り出す条件を求める問題です。

ということは、

 

f>μN

 

ですね。

 

(1)角ΘがΘoのとき、物体は傾くか傾かないかぎりぎりの状態なので、重力が物体の底面の外へはみ出る直前であることがわかります。重力の矢印が物体の底面の外にはみ出ると、物体は転倒するのでしたね。

 この図から、tanΘoがa/bであることがすぐにわかります。

 

(2)Θoのときにf>μNであれば、ΘがΘoより小さいどこかの角度でf=μNに達することがわかります。これより角度を大きくすれば、重力の斜面方向成分mgsinΘo>f=μNとなって、重力の斜面方向成分の方が最大摩擦力より大きくなり、物体は滑り出します。(滑り出した後は摩擦力はより小さな動摩擦力f’=μ’Nになりますが、この問題には関係ありません)

 斜面に垂直な方向のつりあいから、N=mgcosΘoですので、これをさきほどの条件式に代入すると、

 

 mgsinΘo>μmgcosΘo

 

 これより、描き込みの通り、μ<tanΘoすなわちμ<a/bとなります。

 (描き込みではμ<a/bが書いてありませんが、単なる書き忘れです。失礼しました)

 

 

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